第11話 この人は、私を必要としていない (里緒視点)
会話が一段落したところで、
私ははっきりと気づいた。
この人は、
私を必要としていない。
*
それは、
冷たさでも、
無関心でもない。
むしろ、
とても丁寧だ。
でも、
距離の取り方が
一貫している。
*
必要とされていない、という感覚は、
久しぶりだった。
完全に無視されることはない。
軽く扱われてもいない。
ただ、
私がいなくても成立する。
その前提が、
最初から崩れない。
*
これまで出会ってきた人たちは、
どこかで
私を必要としていた。
仕事のつながり。
肩書き。
将来への不安。
理由はそれぞれ違っても、
「関係を持つ動機」が
相手側にあった。
*
神崎には、
それがない。
少なくとも、
私には見えない。
*
私は、
少しだけ苛立つ。
必要とされたいわけじゃない。
でも、
完全に無関係でいられるほど、
割り切れてもいない。
*
会話の中で、
私は意図的に踏み込んだ。
「私と会うメリットって、
あまりないと思いませんか」
挑発に近い言い方だ。
普通なら、
否定が返ってくる。
*
神崎は、
少し考えてから答えた。
「そうかもしれません」
即答ではなかった。
でも、
否定もしなかった。
*
胸の奥が、
少しだけざわつく。
この返しは、
想定していない。
*
「でも、
だから会わない、
という理由にも
ならなかったです」
声の調子は変わらない。
説得でも、
弁明でもない。
*
私は、
言葉を失う。
この人は、
価値交換で
人と会っていない。
それは、
誠実とも言えるし、
無防備とも言える。
*
私は、
少しだけ居心地が悪くなる。
評価する側で来たはずなのに、
主導権を握っていない。
上下の関係が、
成立していない。
*
必要とされない立場は、
楽なはずだ。
期待されない。
役割を背負わない。
でも、
ここまで徹底されると、
自分の立ち位置が分からない。
*
私は、
初めて自覚する。
私は、
選ばれたいわけじゃない。
でも、
「最初から選択肢にない」
という扱いには、
慣れていない。
*
神崎は、
私に何も求めない。
助けも、
判断も、
未来も。
それは、
安全で、
同時に、とても不安だ。
*
店を出たあと、
私は自分に問いかける。
この人と関わる理由は、
何だろう。
答えは、
まだ出ない。
ただ一つ、
はっきりしたことがある。
この人は、
私を必要としていない。
それなのに、
なぜか私は、
そこから離れられずにいる。
それが、
一番、厄介だった。
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