第10話 評価されていると、分かっていた (恒一視点)
最初の数分で、
評価されていると分かっていた。
店に入って、
席に着いて、
メニューを見る。
その間の里緒の視線が、
少しだけ硬い。
探っているというより、
整理している。
――ああ、これはもう、
始まっている。
*
俺は、
こういう空気に覚えがある。
面接。
商談。
条件の確認。
相手の中で、
すでに基準があって、
それに当てはめられていく時間。
*
「最近、お仕事はどうですか?」
聞き方で分かる。
興味じゃない。
確認だ。
*
「正直、
あまり良くないです」
それ以上は、
言わなかった。
言えば言うほど、
説明になる。
説明は、
評価を促進する。
*
盛ることもできた。
誤魔化すことも。
でも、
それをやると、
自分が楽になるだけだ。
後で、
もっと苦しくなる。
*
俺は、
評価されること自体が
嫌なわけじゃない。
評価に合わせて
自分を作るのが、
もう無理なだけだ。
*
だから、
防御もしない。
攻撃もしない。
そのままで、
当てはめられるなら、
それでいい。
*
里緒の中で、
何かが固まりかけているのが
分かった。
視線が、
少しだけ遠くなる。
――終わるな。
そう思った。
思ったけれど、
止める言葉は出てこなかった。
*
ここで
引き留めることはできる。
前向きな話をする。
将来の展望を語る。
可能性を匂わせる。
やり方は、
いくらでも知っている。
でも、
それは俺じゃない。
*
俺は、
この人に
“誤解されたまま”
続く関係を
作りたくなかった。
それなら、
切られた方がいい。
*
だから、
口を開いた。
「今日は、
評価をしに来たわけじゃないですよね」
自分でも、
不思議な言葉だと思う。
確認でも、
牽制でもない。
ただ、
今起きていることを
言葉にしただけだ。
*
里緒が、
一瞬、止まる。
ああ、
当たっていた。
*
俺は、
その先を続けなかった。
責めない。
問い詰めない。
評価してもいいし、
終わらせてもいい。
その選択を、
彼女に返した。
*
取りに行かない、
というのは、
潔さじゃない。
諦めでもない。
俺にとっては、
これ以上
自分を偽らない
唯一のやり方だ。
*
結果は、
どうでもいいわけじゃない。
でも、
誤魔化して続くなら、
続かなくていい。
*
彼女が、
判断を止めたのが
分かった。
それで、
少しだけ息が楽になる。
終わらなかったから、
じゃない。
逃げなかったからだ。
*
俺は、
今日のこの時間を、
成功とも失敗とも
思っていない。
ただ、
自分のやり方で
向き合った。
それだけだ。
それ以上は、
望まない。
望めない。
だから、
静かに待つ。
彼女が、
どう判断するかを。
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