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こんな良い女、現実にいるわけがない  ―詰んだ中年男が「取りに行かない恋」で人生をやり直すまで  作者: 早乙女リク


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第10話 評価されていると、分かっていた (恒一視点)

 最初の数分で、

 評価されていると分かっていた。


 店に入って、

 席に着いて、

 メニューを見る。


 その間の里緒の視線が、

 少しだけ硬い。


 探っているというより、

 整理している。


 ――ああ、これはもう、

 始まっている。



 俺は、

 こういう空気に覚えがある。


 面接。

 商談。

 条件の確認。


 相手の中で、

 すでに基準があって、

 それに当てはめられていく時間。



 「最近、お仕事はどうですか?」


 聞き方で分かる。


 興味じゃない。

 確認だ。



 「正直、

  あまり良くないです」


 それ以上は、

 言わなかった。


 言えば言うほど、

 説明になる。


 説明は、

 評価を促進する。



 盛ることもできた。

 誤魔化すことも。


 でも、

 それをやると、

 自分が楽になるだけだ。


 後で、

 もっと苦しくなる。



 俺は、

 評価されること自体が

 嫌なわけじゃない。


 評価に合わせて

 自分を作るのが、

 もう無理なだけだ。



 だから、

 防御もしない。


 攻撃もしない。


 そのままで、

 当てはめられるなら、

 それでいい。



 里緒の中で、

 何かが固まりかけているのが

 分かった。


 視線が、

 少しだけ遠くなる。


 ――終わるな。


 そう思った。


 思ったけれど、

 止める言葉は出てこなかった。



 ここで

 引き留めることはできる。


 前向きな話をする。

 将来の展望を語る。

 可能性を匂わせる。


 やり方は、

 いくらでも知っている。


 でも、

 それは俺じゃない。



 俺は、

 この人に

 “誤解されたまま”

 続く関係を

 作りたくなかった。


 それなら、

 切られた方がいい。



 だから、

 口を開いた。


 「今日は、

  評価をしに来たわけじゃないですよね」


 自分でも、

 不思議な言葉だと思う。


 確認でも、

 牽制でもない。


 ただ、

 今起きていることを

 言葉にしただけだ。



 里緒が、

 一瞬、止まる。


 ああ、

 当たっていた。



 俺は、

 その先を続けなかった。


 責めない。

 問い詰めない。


 評価してもいいし、

 終わらせてもいい。


 その選択を、

 彼女に返した。



 取りに行かない、

 というのは、

 潔さじゃない。


 諦めでもない。


 俺にとっては、

 これ以上

 自分を偽らない

 唯一のやり方だ。



 結果は、

 どうでもいいわけじゃない。


 でも、

 誤魔化して続くなら、

 続かなくていい。



 彼女が、

 判断を止めたのが

 分かった。


 それで、

 少しだけ息が楽になる。


 終わらなかったから、

 じゃない。


 逃げなかったからだ。



 俺は、

 今日のこの時間を、

 成功とも失敗とも

 思っていない。


 ただ、

 自分のやり方で

 向き合った。


 それだけだ。


 それ以上は、

 望まない。


 望めない。


 だから、

 静かに待つ。


 彼女が、

 どう判断するかを。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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