第一話
今、僕は重大な選択を迫られていた。それは我が家のお風呂に入っている、異世界で兄さんとともに戦った仲間の女性たちの服だ。服というか、下着だ。
あの人たちは誰一人として、替えの下着というものを持っていなかったはずだ。さっきまで着ていた服の中にはあるのだが、綺麗な身体になったのにそんなことをするのは嫌だろう。というかそもそも、洗濯機に入れて洗浄中なのだが。
「どうすればいいんだ?今から買いに行くのは現実的じゃないし、だからといって下着なしはさすがにキツイだろうし…仕方ない、せつ兄に丸投げしよう。」
心苦しい。ほんとに心苦しいが、これは仕方のないことなのだ。せつ兄の犠牲が、僕の命をほんの少しだけ延ばしてくれる。
それはさすがに冗談だが、知らない人である僕よりも仲間であったせつ兄のほうが、覗いてしまった時のダメージが少ないだろう。というか僕は痛い思いをしたくない。なのでせつ兄を生贄として捧げよう。うん、それがいい。
僕はいったん、リビングにいるせつ兄のもとへ戻る。せつ兄はソファに優雅に座り、のんきにテレビを観ている。こっちはメンタルが現在進行形で削がれているのに、よくのんびりとテレビを観れたね。
この借りはバッチリ返させていただきます。まぁ僕が直接手を下すわけじゃないけれども。確実なことは言えないけれど、たぶんせつ兄はやらかす。
ラッキースケベ的な展開になって、ツンデレ属性であろう赤髪の少女にビンタされるだろう。うん…すごく簡単に想像できてしまうね。
「せつ兄。あの人たちに聞いてきてほしいことがあるんだけど、お願いできる?テレビ見てるとこで悪いんだけどさ。」
「おう、なんでもやってやるぞ。万理の頼みごとならな。」
言質は取れたね。それじゃあお願いしちゃおうか。せつ兄は勇者…勇気ある者なんだから、きっとできるはずだ。
「それはよかった。それじゃあ早速だけど、あの人たちに下着は必要か聞いてきてほしいんだ。」
ピシリとせつ兄の表情が固まった。ギギギと効果音を立てそうな雰囲気で、顔をこちらに向けるせつ兄。
「う、嘘だろ?さすがに冗談だよな?じゃないと笑えないぜ。だから今すぐにジョークだって言ってくれ、万理。そんなことしたら、絶対に殺されちまう。」
「いやいやいや、大丈夫だよ。お風呂の中に入ったり、覗いたりするわけじゃないんだからさ。」
まぁせつ兄が行ったら、確実に見てしまうことになるだろうけど。それは主人公補正だと思って我慢してほしい。
「それじゃあよろしくね、せつ兄。」
僕は満面の笑みで、せつ兄にとっての死刑宣告を告げた。一般人の感性だったら絶対に行かないと思うが、そこはさすがに主人公。お人好しの性格であるため、しぶしぶながらも向かってくれた。
なんか酷いことしてる気分になったけど、実際せつ兄以外にできる人がいないからしょうがない。もしこの場に女性がいたとしたら、なんとかなったかもしれないが男二人だからねぇ。
僕はお客さんが来た時ようのお菓子を探し出す。話によると勝手にせつ兄についてきたらしいが、異世界とやらで確実にせつ兄がお世話になっているだろう。だから恩返しの意味合いも含めて、できる限りのおもてなしをしないとね。
そんなことを考えながら、僕は棚からいろいろなお菓子を取り出し、どれがいいか厳選する。あっ。完全に忘れてたけど、お祖父様への説明はどうしようか。
たぶん異世界のことを言ったとしても、あんまり理解できないと思うんだよね。まぁその時はその時で考えよう。今考えるべきことは別にあるからね。
そんなことを考えていると、お風呂場のほうから大きな音がする。その直後、女性の悲鳴が鳴り響いた。
びっくりしたなぁ。いきなりの爆音は、心臓に悪いよ。ほんとに、お祖父様が帰ってきてなくてよかった。おそらくなんらかのハプニングが発生したのだろう。僕には分かる。
「っと、そんなこと考えてる場合じゃないな。さっさと状況を確認しなければ。」
早歩きでお風呂場に向かう。すると更衣室の前で左頬にもみじを張り付けたせつ兄が、体育座りをしていた。そして僕は悟った。もう事件は終わっていたらしい…と。
「せつ兄、一体何をやらかしたのさ?」
予想通りすぎる展開に、僕は呆れてしまう。一応言っておくが、せつ兄たちに呆れているわけではない。
「いや、な?万理に言われた通り、下着のことを聞こうとしたんだよ。そんで更衣室のドアを開けたら、アルシャたちが出てきたところでさ…メリアにビンタされたんだ。」
あぁ、やっぱりそうなったか。アルシャとメリアが誰かは分からないが、今日もせつ兄の主人公補正は絶好調らしい。つまるところ、いつも通りということが分かったので良しとしよう。




