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プロローグ

この世界にはファンタジー成分など欠片も存在しないと思っていた。漫画やライトノベルの主人公のように特殊な生い立ちだったり、魔法や超能力が存在するわけでもない。


いや…僕が知らないだけで、実際は存在するのかもしれない。だが僕の感知できる範囲にないのだったら、結局のところは存在しないと言っていいだろう。


ゆえに僕、宇賀神万理(うかがみばんり)はこれからもファンタジーなどとは縁のない生涯を過ごすのだと思っていた…今日、この日までは。


僕の向かい側に座っているせつ兄こと宇賀神刹那(うかがみせつな)はごく真面目な顔つきで再び告げる。残酷なまでの真実を。


「もう一回言うけどさ、実は俺……異世界で勇者になってたんだ。」


うーん、理解不能(白目)。ここで状況について、説明しておこう。せつ兄はここ2週間ほど行方不明になっていたわけだ。そんでついさっき、僕と祖父が生活している家のインターホンが鳴ったと思ったら、せつ兄が画面に映っていたというわけだ。


いやー、お祖父様がいなくてよかったよ。もしお祖父様がいたとしたら、驚きで腰をやってたと思うからさ。しかし…異世界か。


いや、ね?家族の言うことを疑ってるわけじゃないけどさ…自分のことを勇者って言っちゃいますかぁ。


「もしかしなくても、召喚された理由ってアレ?異世界の人たちを恐怖のどん底に叩き落としている魔王みたいなのを討伐してほしいとかそんな感じのヤツ?」


ほんの少しだけ異世界ジャンルを齧っているくらいだが、この展開には聞き覚えがあった。まぁその後の展開にはさまざまなモノがあるのだが、異世界に召喚される場合はだいたい魔王みたいなのが原因なのである。


「おっ、よくわかったなぁ。さすがは俺の弟だ。俺があの世界に召喚されたのは、人類の敵である悪魔族の王を倒すためだ。」


悪魔族とやらを全員人類の敵と見なして、鏖殺していたりしないよね?


「あっ。もちろん悪魔族だからって、問答無用で殺してたわけじゃないぞ?最終的には穏健派だった悪魔王の娘と人間国家の王たちが和平交渉をしたからな。平和の仇となるであろうヤツしか俺は殺してない。平和を脅かすと判断したら、人間であろうと悪魔であろうと殺したよ。」


おぉ、よかったよかった。いや…良くはないか。たとえどんな世界であろうとも、人を殺すのは良くないことだ。まぁ聞いてる限りだと、生き残るために必要な感じだったんだろうから、責めたりはしないけど。


「異世界の話はいったん終わりにしよう。他に聞きたいことがあるしね。」


ピシリと擬音が鳴りそうな勢いで、せつ兄の表情が固まった。うん、何が言いたいのか理解してくれたようで何よりだ。


「えーと、万理。この話はじいちゃんが帰ってきてからにしないか?」


「お祖父様はたぶん理解できないと思うから、最終決定だけ任せようと思うんだ。だから安心して、何があったのか話していいよ。」


残念だけど、逃がす気はない。僕からしたら、全く残念ではないのだが。この件は絶対に問い詰める。


「それで?なんで異世界の仲間を連れ帰ってきたの?向こうが勝手についてきたってわけじゃあないんでしょ?」


今この家には、僕とせつ兄の他に四人の女性がいる。その女性たちはこの家で暮らしている人たちじゃない。そう!!彼女たちは異世界で勇者として活躍していた兄さんの仲間なのだ。


インターホン越しに彼女たちを見た時はほんとに驚いたよね。金髪碧眼のお姫様のような娘に、赤髪赤眼の炎の魔法を使いそうな娘、銀髪紫眼の気だるそうな雰囲気の娘、さらには青髪金眼の女騎士がいた。最後だけ比喩じゃないのは、実際に帯剣していたからだ。警察に見つかってたら、かなり危なかったんじゃないか?


「たしかに俺はアイツラがついてくるのを、最終的には許可したさ。だけど無理やり連れてきたわけじゃない。むしろ俺はアイツラがこっちの世界に来るのに反対してた!!だけど召喚主の女神様が『別に良いんじゃない?』って言ったから、渋々ながら俺はついてくるのを許可したんだ。」


流れに乗るかのように、まくし立てるせつ兄。ふむ…勢いで乗り切ろうとしてるね。せつ兄の目をジッと見つめて、判決を決める。


「うん、ギルティ。言ってることに嘘はないみたいだけど、まだ言ってないこともあるよね?たぶんだけど、楽しそうだからついてきても別にいいかな?とか心の隅では思ってたんでしょ?」


どうやら僕の推測は図星だったらしく、せつ兄は目線を宙へと逸らした。毎度思うんだけど、反応がものすごく分かりやすいね。


「こっちに来ちゃったものはしょうがないけど、戸籍とかはどうするの?偽装とかはツールがないからできないよ。」


ほんとは偽装もやろうと思えばできるのだ。だけどそれは僕たち個人できる範疇を超えており、少しでもボロを出したら偽装をしてくれた人たちにまで迷惑をかけることになってしまう。だからその手段は選ばない。


「いや、その心配はないぞ。俺たちをこっちの世界に送ったのは女神様…つまり神様の一柱だ。彼女がその力で、こちらの戸籍を作ってくれている。もちろん他に必要な書類とかも作ってくれたんだ。だからアイツラも普通にこっちの世界で暮らせるぞ!!」


どうやら杞憂だったようめある。まぁたしかに神様と呼ばれる存在が、そんなヘマをするわけないか。兄のわがままを聞いて下さり、ありがとうございます…女神様。



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