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駄作  作者: 明月 心
4/6

 隣の席の男の子が自殺をして一か月経ったら、クラスでその子の話は聞こえなくなった。

 横が6列で縦が5列に机が並んでいて、私の席は一番左の一番後ろ。

 朝の出席確認の時間だというのに、隣の席の机の上に乗っている花を眺めていた。

 唐突に「水音 乱子」と私の名前が呼ばれて、けだるそうに返事をする。

 もう秋が来ているはずなのに、こんな蒸し暑いとは、思いもしなかった。

 返事が終わると、すぐに花を眺める。

 授業で何回か話しただけで、別に彼との思い出があるわけでもない。

 死んだのは、実家に帰った後だと聞いた。

 夏休み前の彼は、友達と明るく話したり、どんどん手を挙げる人だったので、死ぬような雰囲気は一切なかった。

 たぶん、死んだ理由は学校関係ではないだろう。

 これ以上詮索するのは野暮だと思ったので、彼が死んだ理由は分からない。

 唐突すぎて現実味がなく、悲しいという感情が出てこなかった。

 だけど今、花を見ると何とも嫌な気持ちになるけど、もうどうしようもない。

 このまま、大人になるまでこの出来事は忘れないだろう。

 

 そんなこんなで、一週間が経過する。


 統率の取れていない声がクラスで響いていたが、先生が入ってきた途端に少し減る。

 何やら先生は重々しい表情をしている。

 あんな表情は彼が自殺をしたことを告げに来た時以来だ。

 表情を察したのか、教室は静寂に包まれる。

 先生が言葉を発す前に、私は教室の違和感を感じる。

 彼が座っていた席の右の席の子が来ていない。

 休むことは日常茶飯事にあることだが、彼のこともあって気にせざるをえなかった。

 先生がクラスにまた人が死んだことを告げる。

 クラスに戸惑いや恐怖心が混ざった声が響く。

 先生は空気を感じ取って、落ち着くように生徒に言うが、聞く耳を持たない。

 困惑がクラスに蔓延して、授業などやれるはずがなかった。

 先生が教室を出る。

 今日どうするか相談しに行ったのだろう。

 30分後先生は戻ってきて、全員帰宅と言った。

 帰宅の理由があれなので、普通だったら喜ぶクラスのみんなは喜ばなかった。

 先生は警察が来るからとみんなを急かす。

 教室の異様な雰囲気が私の胸を突き刺して、恐怖が体を乗っ取っていく。

 私は、立ったまま足が震えて動けなくなってしまう。

 周りの音は消えて、現実味のなさが孤独感を煽る。

 帰りの準備をするみんなの足を羨ましく思う。

 先生が慌てた大声を出したとき、恐怖心が先生への恐怖へと代わる。

 そのおかげで、足が動くようになり帰りの準備を始められた。

 帰りの準備が終わって静かになった教室に、警察が入ってくる。

 それと入れ替わりで、クラスの子は一斉に教室から出ていく。

 うるさくなった廊下に、他のクラスの授業が聞こえる。

 他のクラスの子は、恐怖心で心が耐えきれそうにない私達を羨ましそうに見る。


 そんなこんなで、一週間が経過する。

 

 取り戻したと思っていた日常は、重い空気になった教室のせいで一変する。

 教室に響く一言一言が躊躇いを持ちながら進んでいく。

 静かになった教室に、二つ目の花が到着した。

 前と同じ白色の花は、この空気とは逆に輝いている。

 クラスのみんなの目線が下を向いていたのに、今は花に釘付けになっている。

 西日が私の影を作り、花に覆いかぶさることによって、花は憂いを知って、急速に萎む。

 空は瞬く間に雨が降り始め、その音で先生が入ってくる音がかき消された。

 戸惑いや焦りが絶え間なく出ている先生の顔は、見るに堪えない。

 クラスのみんながゆっくりと吐き出した息が、先生の顔をまた曇らせる。

 先生の声は擦れ、消え入りそうになって、前の声とは別人のように変貌する。

 新しく死んだ人は、自殺という話を聞かされる。

 「もう、死なないでくれ」という先生の声がまた雨の音でかき消される。

 雨の音を切り裂くように、電話が鳴る。

 先生は電話を取って、すぐに落とす。

 なんとなく分かっていたが、この連鎖がすぐに終わるはずがない。

 先生が次に発する言葉を耳を塞いで聞かないようにしたら、あっという間に一日が過ぎる。

 

 新しく届いた花が黒色だったことに驚くと同時に、色が無限にあることを思い浮かべる。

 教室は空白に満ちていた。

 右の席から順番に、白色、白色、黒色が並んでいるのが、何故だか美しく感じてしまう。

 現実感が薄く、あの日から曇りが続いている空を眺める。

 黒板に大きく書かれている自習の文字が、所々掠れているところにもどかしさを感じていた。

 驚いたことに、私しかいない教室に人が入ってきた。

 彼女は教室の真ん中の席に腰掛け、本を読み始める。

 読み始めなのか、しおりが前の方に挟まっていた。

 自習の文字を直そうと前に出るときに、彼女の読んでいる本を目の端で少し読む。

 「恥の多い生涯を送って来ました」という文を目にした。

 あゝ、人間失格かと思う。

 

 彼女はその小説を読み終わったのだろうか、新しく届いた青い花に尋ねる。

 


 或るクラスで集団自殺というニュース記事を読んだが、何も分からなかった。

 何か法則性がありそうだと思ったが、死んだ人の遺族が何で相談してくれなかったんだと言ったしか書いていない。

 気取ってスマホでニュースを読んだのが間違いだったんだ。

 捨て台詞のような文字の羅列に嫌気がさす。

 ただ、一方的な正義が戒めとも言わんばかりに悪意をまき散らしている。

 残っていた一滴のコーヒーを飲んで、バッグ片手に家を出る。

 日光浴がしたいわけでもないのに、鋭い日差しが頭の上をうざったらしく泳いでいる。

 空は晴天のこの世界に自殺は相応しくないと思ってしまう。

 風を操るように自転車を目一杯漕いでいる同級生の姿が遠くにいることで、学校が近くなったことを知った。

 正門前は死を知らぬ人が考えなしに学校の中に入っていく。

 朝見たニュースの影響で、偏見が僕の中に渦巻いている。

 騒音と怒号が飛び交う中、静かに学校に入る。

 僕には似合わないような学校の木の臭いが生徒のせいでもっと嫌な臭いに代わる。

 可笑しい正義を掲げた生徒が、校庭で抗議運動をやっているのが廊下から見え、笑いをこらえるのが大変だった。

 感情もなくスマホを見ている人が集まる教室に着いて、一番右の一番後ろの席に座る。

 ニュースに書いてあった教室と全く同じなので親近感がわく。

 廊下の騒音と教室の騒音が混じりあったこの席はとてつもなく居心地が悪くて、それをごまかすほどの刺激的な出来事が起こることをずっと願っている。

 その願いが叶ったのか、先生が重苦しい表情で教室に入ってくる。

 その表情は何かが起こるときしかしないと知っていたので、これから言う言葉を予測した。

 新聞に書いてったことを思い出して、自殺という可能性に行きつく。

 だが、その話をする前に出欠確認をし始める。

 わくわくが止まらなかったから、「打強 素麺」と呼ばれて返事をするときに笑みがこぼれた。

 先生はその返事に不快そうな顔をして、そのまま点呼は続いていく。

 誰か休んでいる奴がいないか周りを見渡すと、半分以上が休んでいて、まったく予想がつかない。

 だが、ニュースで読んだ内容を考えれば自ずと予想がつく。

 左の席の人だろう。

 男の人か女の人か忘れてしまうくらい会ってはいないが、僕の人生に刺激を与えてくれるならどうでもいい。

 こういう時の予想は大抵当たるものだ。

 先生は泣いたふりをしながら、自殺したことを告げる。

 不登校の隣の席の人なんて先生にとっては厄介に決まっているのに、悲しいと記者にいうために、悲しいふりをしているのだ。

 所詮死んだのは他人である。

 同情という心を持ち合わせるほど純粋でもないし、人が死ぬことなんか物語で死ぬほど見た光景だ。

 そんなことよりも、次に誰が死ぬか予測し始める。

 集団自殺に沿ったやり方なら、その横の席が死ぬだろうが、それほど単純な問題じゃない気がする。

 もしかしたら、僕かもしれない。

 それなら、衝撃的な自殺ゲームの開幕として相応しい。

 でも、どうやったら僕は死ぬだろうか。

 例えば、人間失格を読むとかがいいかもしれない。

 うつ病を作り出すには小説はいい種だと思う。

 物語に心酔して、「この世界はごみみたいだ」という思想になれば自殺することなんて容易い。

 だけど僕は、小説を読むという時間の無駄になることはやりたくないので、その選択肢はないだろう。

 映画のように2時間で簡単に終わる物語でいい。

 死ぬ勇気を一切持っていないのに、くだらないことを考えてしまう。

 先生は躊躇いなく、次の自殺者を告げる。

 なるほど、意表を突く展開は一気に二人の自殺者を告げることだったのかと納得した。

 先生が2人の自殺者を告げた後、淡々と授業を始めた。

 自殺者は、あの事件と同じように自殺した人の左の席だった。

 ならば、次に死ぬのはその左の席だろう。

 あの事件の模倣ならば、この集団自殺の最後は新聞に載って終わりだということに気付いて、どうでもよくなってしまった。

 机にうつ伏せになって、惰眠を貪る。

 

 感情はとうに沈み込んで、水が襲ってくるのを他愛のない現実感に当てはめた夢を見た。

 

 朦朧とした意識の中家に帰るが、暗い部屋の中スマホを見るくらいしかやることがなく、ぼうと見ているとあっという間に次の日になっていた。

 

 曖昧な現実が光を呼んだころに、学校に行くか行かないかの選択肢が迫ってくる。

 家にずっといたとしても、スマホで思ってもいない「死にたい」を話す人を見ているのも飽きてしまったので、現実で自殺が起きり続ける教室を見ていた方が面白い。

 自堕落が露呈した服を身にまとい、音に導かれるように、学校に向かう。

 眠気が絶え間なく襲ってくるのを受け入れようにも、目を閉ざすと、陽光がしつこく目を突き刺す。

 ほのかに香る木の匂いが、学校への道順を教えてくれる。

 体が動くのを止めようとしても、風が勝手に押してくるので、足はいつのまにか学校に着く。

 昨日とは正反対に、校庭では先生たちが学校の校歌を大声で歌っているのが見え、抗議運動は警察によって解体させられたのだろうと推察する。

 見せしめに学校のテストの順位が貼られているのを、差別が無くならない理由を提示されているみたいで嫌になる。

 クラスに着いて人数を数えると、昨日より少なくなっているので、自殺者がどれくらいの数なのか楽しみになった。

 席に座って数分ほど待つと、無駄に口角が上がっている先生が入ってきて、いい先生を取り繕うのはやめたのかと、残念に思う。

 いつも通り点呼が始まり、お楽しみの自殺者紹介の時間になった。

 「まず、今日は4人自殺者が出ました」と一言目に面白い文言を言って、淡々と誰が死んだのかを告げていく。

 昨日のことを合わせると3人目になるこの自殺は、先の集団自殺の件を考えると、左右の3席の間で左右対称になっているのではないかと予想して、また2人目の左の席が死ぬのではないかと思ったのだが、予想していた席の左の席が自殺した。

 この自殺のせいで、法則性が先の事件とはまったく違うのではないかと考察する。

 

 4人目は前の席の人が死んだらしい。

 ここまでくると、人の死の価値がとてつもなく少なくなってきて、死んだことについて何も思わなくなってくる。

 物語で出てくる、1秒にもみたない描写で、救急車の担架に運ばれる人みたく、まったく感情移入ができない。

 感情移入したとしても、事件の方に目が行ってしまって、すぐに忘れてしまうだろう。

 ただでさえ、先の事件の1人目の自殺者のことなんて、忘れてしまっているのに。

 

 5人目は前の席を含めて、5席左に数えた席。

 

 6人目は前の前の席。


 多分、自殺は次の日も続くんだろうな。

 

 これが、ただの自殺ではなくて、呪いの類だとするならば、次に死ぬのは僕なんだろうな。


 死にたくない欲求が心に残って、恐怖心が出てきてしまう。

 だけど、死なないだろうという無駄な自信があり、変わらずに机の上で惰眠を貪る。

 

 


 数学に囚われた心は、スマホのニュースに書いてある2件の集団自殺から数を探し出して、数学の法則に当てはめてしまう。

 だが、そんなことはとうに警察がやっていて、解はもう出てしまっていた。

 解があるのならば、その問題はないのと同じなので、意味ないことをしたなと思った。

 数学の問題集の方が、こんな事件よりも面白い問題がたくさんあるのに、勝手に事件の内容が脳を占領していく。

 時計を見て、長針と短針の間の角度を計算することで、事件の記憶は脳の奥にしまった。

 机にある、砂糖と水を9:1で混ぜた砂糖水をがぶ飲みすることで、頭の動きが2倍くらいになった気がする。

 いつも遅刻するので、今日は早めに家に出るのを昨日決めた記憶が蘇る。

 バッグの中身を見て、学校の準備が出来ているか確認する。

 バッグを持って、数字が散りばめられている外に、学校で習った数学の知識を携えて向かう。

 

 車が絶え間なく行きかう中、ナンバーを見て加法、減法、乗法、除法をやっている。

 時々、下一桁が0になる瞬間がとてつもなく楽しい。

 計算をやりたいがために、大通りをよく通るようにしているので、いつも遅刻をしてしまう。

 学校には勉強をしに行っているというよりは、数学をするために行っているといっても過言ではない。

 特にテストの時間の、みんなが黙って一心に数学をやる空気はとても心地がいい。

 みんな数学のことを考えていることを思うと、とても嬉しくなる。

 数学によって頭がいっぱいになったところで、学校に着いた。

 学校は沢山の四角形で出来ていて、魅了される。

 廊下から見える校庭で、言論統制が行われているのを、文学ではなく数学を信仰していればいいのに、なんて思ってしまう。

 数字が書いていない時計に、日付が書かれていない黒板がある教室にため息が出て、仕方なく黒板に日付を書く。

 クラスを見渡すと、先の事件と同じ席の並びで恐怖心が募る。

 一番左の一番前の椅子に座り、数学問題集をバッグから出して、周りの音を遮断する程の集中力で問題を解いていく。

 その集中力が切れたのは、先生が名前を呼んだ時だった。

 真面目に手を挙げて、はきはきとした声で「偶鱈 使陽」と返事をする。

 その声に周りはざわついて、ひそひそ声がクラスのあちこちから聞こえるのに違和感を覚えて、先生の顔を見る。

 妙にやつれた顔で、すぐさま先生に何かあったんだろうなと察した。

 先生は一切泣くこともなく点呼を続けているが、俺は目の下に腫れた痕が残っているのがはっきりと見えた。

 その涙の原因を、今日は何故か一言も発することもなく、終わってしまった。

 尊敬している先生だったので、生徒に隠し事なんてらしくないなと思いつつ、クラスの雰囲気がいつもと違うことには気づいていた。

 クラスで休む人が、多少いつもよりも多いところだろうか。

 帰り道に絶え間なく響くカラスの声や、秋になって枯れてしまった草木に嫌な予感がした。

 

 明日になって、変わらずに学校に向かったはいいものの、同じ学校の人達の急ぐ姿が目に入る。

 昨日の先生の様子から、何かあったことは多少察しが付いた。

 人々に続いて学校に向かうと、救急車や警察車両が数え切れないほど、駆けつけていた。

 人だかりの中に混ざるようにして、何が起きたのか見ていると、学校の屋上から飛び降りる生徒の姿が目に入る。

 それを予測していたのか、警察の人達は地面に大きなマットのようなものを置いて、死なないようにする。

 だが、飛び降りは終わらずに屋上からどんどん人がマットに落ちてくる。

 マットは人でいっぱいになって、やっと警察が屋上に着いたのか、自殺の連鎖は途切れる。

 野次馬をしていた俺を含む人々は、警察によって解散させられた。

 唐突にスマホからメールが届いて、今日は学校が休みになったことを告げられる。

 このようなことが起こって不安な人達は、無理矢理学校に入って、先生から話を聞き出そうとしたり、逃げるようにして家に帰る人もいた。

 俺は、この事件の法則性を警察よりも早く見つけてやると意気込む。

 だが、誰が死んだか分からなければ、そもそも考察しようがないので、今日は大人しく家に帰る。

 

 一週間も経過すると、ようやく、学校に登校していいというメールが届く。

 あの先生の表情の秘密が分かるとなると、学校に行くしかないだろう。

 若干の恐怖心はありつつも、あれが何だったのか分かる好奇心の方が勝る。

 いつも登校しているときに見えるはずの、同じ学校の生徒は見当たらず、どことなく不穏な空気が漂っている。

 ほぼ誰も来ていない学校には、校庭を突き抜ける風の音だけが、絶え間なく響いている。

 永遠に続きそうな廊下を渡りながら、ちょうど日陰になっている教室のドアを開けると、空席だけで寂しくなる。

 自殺が起こった学校に来たくない気持ちは分かるし、あの異質な自殺を見てしまうと、奇妙で怖いと思う。

 この教室に俺の息しか音がないことに気づくと、異質な雰囲気が纏わりついて、さらに窓を眺めると落ちていく人が見えるような気がする。

 長きの沈黙が唐突に途切れ、誰かが教室に入ってくる。

 多分、誰かの保護者だろう。

 その人は、沢山の花を抱えていた。

 花を花瓶に移すと、死んだ人の机に一つずつ置いていた。

 10個ほど机の上に置くと、その人は次の教室に行ってしまった。

 強烈な花の匂いがクラス内に充満して、非現実に囚われていた俺の意識は、ぼんやりとしている教室内に残される。

 死んだのか生きているのか分からない現実の中に、唯一残されている数学の好奇心がこの教室を照らす。

 花瓶を目で追って、死んだ人の法則性を考え出す。

 そのために、死んだ人をメモしておこう。


 1人目、先生の机、つまり死んだ人は先生。


 2人目、俺の隣の席。分かりやすく表すと、壁から順番に俺の席を入れると2番目の1番前。(2、1)


 3人目、4番目の1番前。(4、1)


 4人目、6番目の1番前。(6、1)


 5人目、2番目、目の前から2番目。(2、2)


 6人目、4番目の2番目。(4、2)


 7人目、6番目の2番目。(6、2)


 8人目、2番目、目の前から3番目。(2、3)

 

 9人目、4番目の3番目。(4、3)


 10人目、6番目の3番目。(6、3)


 こういうふうにまとめてみると法則性が分かって、俺はすっきりとした。そして、先生の表情の理由がこの集団自殺を起こした犯人だということを物語っていると考察した。


 


 或る小説を地面に置いて、首吊りロープを目の前に、思い残すことがないかと考えるが、暗い部屋にいるせいか何も思いつかない。

 5人の友達と約束した集団自殺を迎えるために、今日まで生きてきたのだ。

 ニュースに書いてあった、3件の集団自殺の模倣になることは、少々癪に障る部分もあるが、死ぬチャンスはこのタイミングしかないことは、自分がよく分かっていた。

 今から死ぬというメールがスマホに映ると同時に、前へ飛び出す。

 首に耐えられない痛みが走り、意識は遠のいていく。

 水に溺れているような感覚が脳に残ったまま、心臓の軋む音に気付くと、目を開けて空に飛んで行く。

 下には、ロープにぶら下がっている自分が嬉しそうに笑っている。

 青い空に吸い取られるようにして、屋根を越えたところで、黒い物体が「奇木 気喜」と自分に話しかけてくる。

 そいつは、死神だと自己紹介をして、最後の願いを自分に聞いてくる。

 死ぬのに願いなんて要らないと言おうとしたが、せっかくなので、自分が死んだと言われたときのクラスの反応が気になって、明日の朝まで教室の自分の席に座らせてと願った。

 死神は回り出すと、空間が歪んでいって教室に着く。

 一番右で一番前の席に座ると、自殺すると言っていた友達が屋上から飛び降りた姿が窓に映る。

 電気が消えた教室で、死んだならもう寝なくていいはずなのに、暗闇のせいで眠ってしまう。

 教室の騒がしい声が、耳の中で響いてようやく、眠気がなくなった。

 人が沢山いるおかげで、死んだ人が分かるようになった。

 残念なことに、約束していた人全員が死んだわけではなかった。

 誰が死ななかったのか、先生が来る前に整理する。

 整理する方法は、ニュースに書いてあったやり方を参考にした。


 1人目、一番右の一番前の席。(1、1)


 2人目、(3、1)


 3人目、(5、1)


 4人目、(1、2)

 

 5人目、(3、2)


 1人死ななかったのが惜しいけど、納得できる結果ではあった。

 

 すると、先生がやってきて死んだ人を発表する。

 

 先生が最後の人を発表し終わったら、クラスの中では歓喜の声が響いて、想定通りのこの結果につまらなかったなと思いつつ、死神を呼んで死の門を叩いた。

 この間にも止まることはなく、ニュースでやっている集団自殺の模倣犯が自殺を計画していることだろう。やがて、集団自殺のニュースが日常になって、誰も気にしなくなっていく。

 だが、その間にも数字は増えていく。


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