94話 魔法の試験
『ロバート先生!お久しぶりです!』
『ああ、久しぶりだ。デュランから色々聞いたからな…無事で何よりだ。その件で後で話がある!』
ええっ?
何かお怒りでありますかっ!?
『そうではない。確かめたいことがあるだけだ。それより何があった』
え?
『今、せんせ〜たすけて〜って言ってきただろ?』
『そうです!大変なのです!私、この魔法の試験受けなきゃならないんですよ!』
『いや、アシュリーは試験無しって話だったはずだが?』
え?
『ヘンリー先生に一応受けてくれって言われましたけど?』
『おかしいな・・・』
『先生方も楽しみにしてるって』
『・・・そうか。誰かの入れ知恵か』
『どうしましょう。私、詠唱などひとつも覚えてないんですよ!?』
『・・・ああ、分かってる』
先生はまた「考える人」の様になっている。
私はこういう時はひたすら待つのみである!
『なんだ、その「考える人」ってのは』
『前世に「考える人」という有名な像があって、今の先生のように座って足に肘を付いて顎に手を当てているのです』
『そういう事か。アシュリー、近くにある椅子にヘクター君と座ってろ。今からしばらく話をするから、ボーっと立ってると怪しまれる』
『御意!』
「ヘクター、そこに座って待ちましょう」
「魔術師団長様の所に行かなくて良いのですか?」
「大丈夫よ」
『よし、いいな。アシュリーに試験を受けさせるのは、多分だが、アシュリーの攻撃魔法の威力を知りたい奴がいるってことだ。もちろん、その程度を知って「魔物討伐演習」の組分けの基準にするのだが、アシュリーは今更査定しなくても学園トップだ』
確かに、組分けするだけなら、試験はする必要はない。
『だろう?ということは、魔物討伐演習で何か企む為だと思わないか?』
なんと!
『実は、別口からの情報でも魔物討伐演習で何か起こると言われました』
『そうか・・・』
『その時は、そこでは出るはずのない魔物が出るのではないかという予想を聞きました』
『ありえるな。そういったことが今まで無かったわけじゃない。今回、たまたま予期せぬ大物が出たとしても、それが誰かの仕業であるとは言いきれないからな』
大物・・・どんなのだ?
サーペントとか出てくんのかなぁ〜
『いや、サーペントとかを隠せる奴はいないだろう』
隠す?
『そうだ。狙いがギルフォード殿下なのか、アシュリーお前なのか分からんが、効果的に出没させる為には、それまで隠しておかなくてはならないだろう?』
そうか!
でも、私が勝てない様な魔物をどうやって隠すのか・・・。
『そこだよな。隠蔽魔法で隠せるが、凶暴な魔物を隠蔽しても暴れてしまえばどうしようもない』
うーん・・・
普段は大人しくて、何かすると暴れるとか。
眠り薬で眠らせておいて、刺激して起こすとか。
『お前、冴えてるな!それだよ!』
なんだ?
『普段は大人しくて、何かすると暴れる奴がいる』
ほぉ!
そんな魔物もいるのか。
『だがなぁ、王都の森には生息してないはずなんだ。しかも、お前なら簡単に倒せる。魔法無しで』
そうなのか?
拳で倒せるかな?
『それは無理だ。皮が結構硬い。剣が通らないわけじゃないし、動きが鈍いから勝てる』
じゃあ、違うのではないか?
それとも、魔法で魔物を強くするとか、大きくするとか。
『それは出来ないこともない。やる馬鹿はいないがな』
やる馬鹿はいないが、阿呆はいるかもしれない。
『それで、その魔物は何をすれば暴れるのでしょうか?』
『お前、いきなり変わるな・・・』
『はい、それが通常使用ですので』
『しっぽだ。特にしっぽの角に触れるとものすごく暴れる』
まぁ、まだ憶測でしかない。
だが、注意するに越したことはない。
『では、その私の魔法の威力を知りたいという輩の為に、私はどのような魔法を見せれば良いでしょう』
『まあ、お前の魔法はその時に必要なものを作り出してぶっぱなすんだからな、見せても何の支障もないと思うぞ?』
そういえばそうか、同じ魔法なんてそんなに使わないっ・・・てか、その度に威力も変わるから、使えないと言った方が正しいかもしれない。
『どーんと使って、ビビらせておいてもいいかもな』
それは願ったり!
『しかし、詠唱の問題がまだ解決しておりません!』
『それは任せておけ。お前ならではの理由で、詠唱がバレないようにしてやる。でもなぁ、ひとつふたつは、聞こえるように詠唱しておいた方が良いだろう。その時には、私が詠唱してやるから続けて言えば出来るだろう』
この手があったか!!
『よろしくお願いします!』
『あ、魔法は全力出すなよ。闘技場が壊れると困るからな!』
『・・・はい』
調子に乗ってはいけないということか。
『半分程で?』
『10分の1で十分だ。それでもお前が一番だろう』
『承知しました』
問題解決である!
思考電話を切り、ヘクターも安心させてやろうと話しかけた。
「ヘクター、話はついたわ」
「は?」
そういえば・・・神獣と話ができることは話してあるけど、他の人とも頭の中で話せるって言ってなかったっけ。
ヘクターは知っておくべきだよな。
よし!
『思考電話発信!』
『ヘクター!』
「何ですか?お嬢様」
私は黙って頭を指さす。
『ヘクター!頭で考えて』
「何です・・・えっ?」
『口に出してはダメよ』
「・・・・・・」
『お嬢様、新しい遊びを次から次へと、よくまあ考えつくものです』
遊びじゃないよっ!
こうやって、先生とも内緒で話が出来たんだ。
『役に立つでしょう?』
『お嬢様。地が出まくってますよ』
頭の中くらいいいじゃないか!
どうせヘクターにはバレていると分かっている。
『分かりました。話す時は気をつけてくださいね』
『はい!』
『しかし、確かに便利ですね。これから必要な時もありそうです』
『そう思って、ヘクターには知っておいてもらおうと思ったのよ』
『分かりました』
よし!
切るね。
「本当にお嬢様は何でも規格外ですね」
まぁ、少しは自覚がある。
五の鐘がなる頃には、闘技場には50人を超える生徒が集まっていた。高等部の1学年の半分だけか。他は時間が違うとかかもしれない。
闘技場をぐるっと見渡すと、それぞれの属性の試験場が設置されているようだが、パッと見ただけでは区別はつかない。
あんなに近くで、人がいっぱいいて、魔法使ったら危なくないのかなぁ〜。
私が試験する時は、全員離れてもらわないとな!
「では、これより魔法実技試験を行います。実技教師の指示に従って並んでください」
魔法実技の授業を受けている先生ってことか。複数の授業を受けている生徒はどうするんだろうな。
「では、私は試験を受けて来ます。お嬢様は魔術師団長様の所へ行けば良いと思いますよ」
「そうですね。では、終わった後で」
ロバート先生の所へ行くと、
「おう!解決したぞ」
「ありがとうございます!どのような方法ですか?」
「ああ、アシュリーの魔法は、近くにいると危険だから、全員観覧席に上がる事にした。障壁も張るから気にすることなく魔法が使えるぞ」
それはいい!
「あと、的は次々用意するようにも言ってある。魔法が消えないと困るからな」
「何から何まで至れり尽くせりです!」
「そうだ。今のうちにどんな魔法にするか考えておけ。他の生徒の試験を見てれば、状況に応じた魔法で何が要求されているか分かるだろう」
「分かりました」
ふむふむ
あの魔道具から指示が出るのか。
魔物の画像が出て、特徴の説明が聞こえてくる。
ふむふむ
ふむ・・・・・・。
何だろう。皆の攻撃が変だと思うのは私だけか?
そうか、先生が言ったことが分かったぞ。まだ1学年の多くの生徒は判断を間違えているということか。
まぁ、魔物討伐など経験のない生徒がほとんどだろうから、咄嗟に最適な判断が出来るとすれば、少しでも経験のある高学年か、自分の領地で魔物討伐をしている者なのだろう。
私やヘクターのように。
半刻を過ぎた頃、全員の試験が終わり私の番になったということで、闘技場にいた人全員が観覧席へと上がって行った。もちろん教師も全員である。
「アシュリー、準備はいいか?」
「はい!」
まずは先生と思考を繋げる。
『思考電話発信!』
『先生、よろしくお願いします!』
『ああ、使うのは以前使った錬金術の地魔法にしよう。一度見ているから分かるだろう?』
あ、あのドリルマシンか!
『どりるましん?』
『はい、グルグル回って突進して来ましたので』
『そうだ、合ってるな。使いたい時に合図しろ』
『分かりました!』
私の場合、一つの属性でどんな魔法を使うかを考えるより、5属性のうちの何を使うかを考えれば良いと思うので、だいたいそれぞれで使う魔法は決めた。
小さいモノ、大きいモノ、数が多いモノ、硬いモノ、素早いモノ・・・大まかなイメージでしかないけれど、とっさに何にしようとか考えていられないからな。
そして、もう一つ。
私は詠唱をごまかす方法をあみ出したのだ!
名付けて「小声作戦!」
『大した名付けではないな・・・』
先生ひどい!
そうこうしているうちに一体の土人形が出てきたのだが、これは今まで他の生徒達が受けてきた試験とちょっと違うようだ。私だけ特別仕様か?
まぁ、やりやすいので感謝しよう。
魔道具の画面にはジャイアントベアとあるので、この土人形をジャイアントベアだと思えば良いということだろう。でも、もうちょっとそれらしく作ってくれても良いと思う。
ジャイアントベアは毛が長いので火魔法を選択し、前世の我が家で使っていた庭の草焼き用のバーナーをイメージする。
前後左右から攻撃すれば逃げられまい!
『我が身に宿りし火の力よ、来たれ我が手に!(草焼きバーナーProとなって)諸悪の根源を焼き尽くせ!』
ごまかしたい部分をかな~り小声で詠唱したが、しっかり魔法は発動し、前後左右から勢いよく火炎で攻撃された大きな土人形は、本当に跡形もなく焼き尽くされた。
土を焼いたら土器みたいに硬くなるのかと思ったけど、そうではないようだ。
『お前の火炎魔法の威力が強すぎるんだ』
『そうなのですか?普通は消えて無くならないと?』
『そうだ』
そうなのか・・・
陶器を焼く時は気を付けよう。
そんな予定はないが。
すぐにまた土人形が出てきた。
先程と同じ位の大きさはありそうだ。
画面には「ワイルドボア」と出た。
ワイルドボアなら選択肢はひとつ!
『先生!ドリルマシンお願いします!』
『よし来た!』
『我が身に宿りし地の力、来たれ我が手に』
「我が身に宿りし地の力、来たれ我が手に」
『鉱石の知性よ、地下深くに潜む魔力を解き放ち』
「鉱石の知性よ、地下深くに潜む魔力を解き放ち」
『我が望むものを示せ』
「我が望むものを示せ!」
巨大なドリルの先っぽが、土人形目掛けて勢い良く飛んで行き、あっという間に霧散した。
『やはり、アシュリーのは大きいな・・・』
確かに。
魔力が増えてから、また魔力制御を間違える時があるので要注意である。
『やっぱり増えていたのか・・・』
『ええ、まあ・・・』
次の土人形を待っていると、先程の何倍もある大きさになったかと思うと、先端が幾つもに分かれた。
これはヒュドラーだ!
ほぉ〜! これは倒しがいのある奴を出して来たものだ。観覧席からはどよめきが聞こえる。
『試験に出すような魔物じゃない。やはり何か思惑がありそうだな』
『そうなのですか?』
まぁ、いいか。
今回使いたかった魔法が使える。
某人気忍者アクション漫画の主人公の技からイメージした!
私は手に風属性の魔力の塊を作っていく。
『我が身に宿りし風の力よ、来たれ我が手に!(風遁螺●手裏剣となり)諸悪の根源を切り刻め!』
大きな十字の手裏剣が高速で回転し、土人形の首を落としていき、最後は手裏剣に覆われて跡形もなく霧散した。
よし!
この魔法は実践でも使えそうだ。
来年の魔物討伐には学園にいるから参加できないのだが・・・こっそり帰って参加させてもらおうかな。2日で帰れるしな。
『おい!授業をサボる計画か』
おっと!先生に聞かれてしまった!
『はぁ〜もういい。止めても行きそうだしな。それより、もうこの辺りで試験を終わらせるぞ』
『分かりました』
先生が、これ以上の私の試験は必要性を感じないと、学園の教師達に言っている。時間の無駄だとも言ってるな。
「し、しかし、まだ全ての属性の魔法は⋯」
「彼女の魔法を見たい気持ちも分かりますが、次の生徒達の試験もまだあるのでしょう?先生方の興味を満足させる為に時間を無駄にするのですか?」
「そ、そうですね・・・」
「ははっ…そんなつもりでは。まぁ、実力は十分というのは確認出来ましたな」
「で、では、終了にしましょうか」
先生方はタジタジである。
そういえばもう見慣れたが、初めて先生に会った時はダースベ●ダーかと思って驚いたくらいなので、あの強面で詰め寄られたら圧倒されるかも。
試験は終了となり、このまま帰れるかと思いきや、先生に捕まった。




