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90話 王都へ〜

第4章最終話です。

『え〜ん!あしゅいーさまぁ〜』


 あれ…これはちっこいクラリッサ?

 何故泣いている?


『あしゅいーさま、いたいいたい』


 痛くはないぞ?


『おじょうさま。もうだいじょうぶです』


 これはちっこいヘクターだ。

 私をおんぶしている?


『すぐにかあさんにくすりをぬってもらいましょう』


 そうか、私が庭で転んで怪我をしたから・・・

 ヘクターがおんぶしてくれた時の記憶だ。

 ちっこいのがちっこいのをおんぶしている微笑ましいシチュエーションである。


 しかし・・・


 おい、ヘクター!

 フラフラしてるぞ!

 大丈夫なのか?


 これはもっと・・・



『もっと鍛えなければ!』



「まだ鍛えるんですか?今日はもう無理ですよ」


 えっ?


 ハッとして周りを見れば、馬車の中だった。

 ちっこいクラリッサもちっこいヘクターもいない。

 いるのは大きいクラリッサだけだった。

 私に膝枕をしてくれている。



 えーと・・・。



 そうか、ヘクターの背中で寝てしまったのだ。


 なんと、外は暗いではないか!

 夜なのだ!


「私はどれくらい眠っていましたか?」


「まだ一刻ほどですよ。また3日も眠ってしまわれたらどうしようかと思いましたが・・・。気分はいかがですか?」


 起き上がって、首をコキコキ鳴らしながら自分の体調を確認してみるが、どこもおかしくない。とってもスッキリしている!


「スッキリしています!身体も元気なようです。クラリッサ、ありがとう!」

「そうですか、良かったです」


「皆はどうしましたか?」


 馬車は止まったままだし、クラリッサの他の同乗者達はいない。賊の後始末とかかな?


「野営の準備をしています」

「野営!!」


 外を見ると、火の準備は終わっているようで、暗闇に炎が見える。


「私も行っても良いでしょうか」

「はい、お元気なようですので行きましょうか」


 わーい!野営だー!


 浮かれた気分で皆の所に行くと、何故か誰もが神妙な顔をしている。

 どうしたのだ?

 あれからまた何か事件があったのだろうか。


「どうしたのですか?賊がまた何か!?それとも誰か大けがでもした人がいたのですか!」


「いや、賊の引き渡しは明日の朝には終わるだろう」

「誰も大した怪我はしていませんよ」


「では、何故皆様神妙なお顔をされているのですか?」


 奇襲への反撃も成功して祝杯でもあげているのかと思ったのに。


「それは・・・」


 皆が私の手を見ている?


 あっ!そうか!

 この魔法封じの魔道具のことを気にしているのか!


「外そうと試みたのだが、誰にも外せなかったのだ」

「魔術師団長様ならあるいは・・・」



「私は身体強化さえ使えるのでしたら、ずっとこのままでも構いませんが?」


 気にすることはないぞ!


「何となくアシュリーはそう言うような気はしたよ・・・うん」

「やっぱりか。ジェイムスの言う通りだったな」

「アシュリー様・・・」


 何か、皆が可哀想な子を見るような目で見てくるんだが…。


「しかし、お嬢様の魔法が使えないとなると、王都への到着も遅れますね」


 ハッ!

 それがあったか!


 身体強化が使えればいいなどと勝手なこと言って・・・



 ん?

 もしかして身体強化すれば壊せるのでは?




 確か、3倍でロバート先生の錬金術で造った障壁も壊せた。

 今度はもっと多めに全身に身体強化をしてみる。



「アシュリー様?」

「アシュリーの身体が・・・」

「すごい・・・綺麗だ・・・」


 私がいつもより濃い金色に光っているから驚いているのか。

 まぁ、夜だから余計に光って見えるだろう。


 腕の魔道具を握って確かめる。

 いけそうだ。


 魔道具の嵌った方の腕と反対の手で思い切り輪を引っ張った。


「フン!」


 バキっ!!


 よし!外れたぞ。


 ドヤ顔で皆の方を見ると、誰もがポカーンと口を開けていた。



「こういう結末を予想しなかったわけじゃないが・・・」

「そうですね。考えられましたね」

「これまでの我々の努力は・・・」

「あの腕輪、アダマント製でしたよね」

「ああ、それに膨大な魔力も使われていたと…」

「普通は身体強化しても無理ですよね…」



 何か微妙な雰囲気である。

 外れたんだから良いではないか。

 皆の努力には感謝しよう!


「皆様、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。いろいろ対処もしていただいたようで、ありがとうございます!」


「役に立ってないけどな」


 王子ふてくされてるのか?


「いいんだよ!外れて良かったぁ~!さぁ、問題も解決したことだし、そろそろ食事にしようよ!」

「そうだな。セオドア殿、先ほどのソースをお願いできるかな」

「ああ、準備に行きましょう」


 騎士とヘクターとクラリッサが食事の準備をしている間、私が寝こけていた間のことを聞いた。


 捕らえた賊の人数は30人。

 あの殺された逃亡者を足せば、最初に私が索敵した人数と一致する。

 今は全員縛ったあと、顔だけ出して土に埋めてあるようだ。

 以前、私が使った方法である。


 あの執事は魔力が多いようなので気になったが、奴が他にもう一つ持っていた魔法封じの魔道具をはめてやったらしい。

 奴が目を覚ました時に、腕輪が嵌っていることに気が付いて酷く騒いだので聞いてみれば、あの魔道具は騎士や警備隊などが使う物より頑丈なアダマントで作られていて、尚且つ魔力が大量に込められているらしく、誰にも外せないのだとか・・・。


 結構簡単に外せたけどな。



 捕らえた者たちは、デヴォン領の警備隊に連行してもらうことになるので、今、警備隊と領主に連絡をする為に、近くの村の村長が走り回っているのだとか・・・お疲れ様である。

 早く戻って焼き肉が食えるといいな。


 明日、引き渡しが済んだら出発できるとのこと。




「アシュリーが眠っていたから、そなたが追って行った者の事はヘクターから聞いたが・・・」

「はい、あの者を殺害した者がいるということです」


「死体を見る限り、かなりの手練れですね」

「それだけではありません」

「アシュリー、どういうことだ」


「・・・その者の気配を探ることは全くできませんでした」

「身体強化をしていても?」

「はい・・・」


「気配を消せるほどの手練れ…ということか」

「じゃぁ、今もその辺にいても分からないんだよね」


「・・・・!!」


「おわっ!アシュリーがまた光った!!」



 デヴィッド君に言われてすぐに身体強化を強めたが、人の気配はかなり先の集落と思われる辺りまでなかった。私がどれだけ強化しても読めない相手であれば分からんが・・・。


 本当に不気味過ぎる。



「皆様、食事の用意ができました」


 クラリッサ達が配ってくれた焼き肉は「ボニファス特製の焼き肉のたれ」で味付けされていたのである!


「美味しいですね!」

「なんだ!この甘辛い味は!」

「初めてだ!食欲をそそります!」

「うまぁ~い!」


 やはり大絶賛であった。

 グレンヴィルの料理長(チャックという名だった)もライバルとしてショックを受けるほどの出来なのだから当然である。今後はグレンヴィルでもボニファスのレシピを元にチャックが作ってくれる。


 でも、これを食べると無性にご飯が食べたくなるのだ。


 あぁ・・・米が欲しい。







 夜が明けるかどうかの早朝。

 目を覚ますと、ウォルポールの警備隊が持って来たのと同じような檻の馬車が2台停めてあり、その中には既に賊が全員入れられていた。


 いつの間に・・・私達が寝ている間に来て、ひと仕事終えたわけだ。デヴォンの警備隊の人達も騎士達もお疲れ様である。

 番をしていたデュラン団長とセオドアに早速朝のあいさつをした。


「アシュリー様、まだ早いですよ」

「いえ、訓練の時間ですから」

「は?訓練?」


「アシュリー様は、毎朝早くにお独りで訓練されていらっしゃいますので」

「そうでしたか」


 クラリッサもいつもの時間に起きている。


「では、行ってきます」


 さわやかというほどではないが、夏でも朝は気持ちがいい。

 私は朝のメニューを黙々とこなしていく。

 知らない土地を走るのも気分が変わって楽しい。



 どうやら、走っていたら近くの村まで来てしまったようだ。


「まぁまぁ!かわいいお嬢さん!早起きだねぇ~。早起きのお駄賃に持っていきなはれ」


 そう言って美味しそうなトマトっぽい野菜をくれた。

 気前のいいおばあちゃんだ。


 お礼に畑仕事を手伝ってあげたら、持って行けと言われた野菜の種類が増え、籠いっぱいになった。


「重くないかえ?」

「大丈夫です!籠までありがとうございます!」


 私は満足感いっぱいで野営地に帰って行ったのだが・・・


「お嬢様!どこほっつき歩いてたのです!」


 ちょっとデジャブである。

 どうやら、畑仕事に専念しすぎて時間を忘れていたようだ。

 ヘクターは後を追ったのに、途中で分からなくなったのだとか。


「その背中の籠は?」

「畑仕事を手伝ったお礼だそうよ。いっぱいあります!」

「どれだけ手伝ったのか想像できますね。アシュリー様の行方が途中で分からなくなった理由が分かりました。まさか畑の中にいたとは思いませんでした」


 とうもろこし畑もあったしな。

 でも、ヘクターが私を追って来れる定義が良く分からんな…今度聞いてみよう。


「おばあさんは『二日分の仕事が終わっちまったよ』って言ってたわ」

「そうですか・・・良いことをしましたね」

「はい!」


 ヘクターに褒められた!

 頭も突き出したら撫でてもらえた!


 やはり一日一善は心がけよう。



「畑仕事を手伝う貴族令嬢・・・(まれ)だな」

「あの汚れた籠を背負う貴族令嬢も貴重ですよ」



 私が畑仕事をしている間に賊の引き渡しは終わっていて、既に警備隊は出発していた。

 朝食を食べたら我々も出発である。


 朝食には、今さっき採れたてのトマトっぽいのに、とうもろこしも茹でてもらって食べたが、何にも味付けしていないのに本当に美味しかった!

 採れたての美味さだろうか?

 王都に行ったら、庭に畑作ろうかな・・・。




『ウインドランナー!』


 再び高速馬車の発動である。

 このデヴォン領からエッセル領の街道辺り一帯は見渡せるような平地が多いので『ウインドランナー』は使い放題だ。


 朝のおばあちゃんが気前良かったのも、農作物が豊富に採れる地域なのだろう。




 半刻もすると、前に警備隊の馬車が見えた。檻の馬車なのですぐ分かる。

 ギリギリ抜いて行ける道幅はありそうだ。少し速度を落としてもらって抜いて行く。


 警備隊の馬車がこちらに気付いた頃には、あっという間のことだったに違いない。


「「「ええーーーー!!」」」


 驚く声が聞こえるが、警備隊の人達だろう。

 賊達はもう知ってるからな。




「実は、昨日の襲撃の時に気付いたのですが・・・もしかして、馬は走らなくても馬車は進むのではないでしょうか」


 確かに!

 今までその案はなかった!


 何となく馬が走ってないと馬車は進まないような気がしていたが・・・昨日は馬が止まっても進んでいたかもしれない!実はよく覚えていない。


 だが、進む方向を指示する為には、やはり馬が必要だ。うーん・・・自分で作っておきながら、よく分からんな。


「一度馬を止めてみますか?」


 馬車の中の話を聞いていたワイルダーが提案してきたので、後ろの馬車にも指示を出して馬を止めてみた。


 馬は止まっているのに進んでいる!


「進んでますね」

「はい・・・」


 我ながらよく分からん魔法だが、空港にある動く歩道は誰も乗ってなくても動いてるしな。私が物理的なことを理解してないから要研鑽である!


 止まったついでにお馬さんの休憩にした。





 そうして、ウインドランナーで走ったり、普通の風魔法にしたりと、その時々の状況に合わせて爆走した結果、2日目にして、ハミルトン家に到着したのである。


 そう、宰相の実家。

 つまりはエドゥアルド様の実家である。



 わーい!

 またハミルトン家ご訪問だー!



 再びハミルトン家ご長男:ウィズダム様(今日はちゃんと名前覚えた!)に案内をしてもらって、古き良きハミルトン家を堪能した。



「アシュリー様は古いものがお好きなのですか?」


 エドゥアルド様が聞いてくる。


「古いもの⋯と言うより、長く大切にされてきたその姿に愛着を感じるのです」

「そうですか・・・素敵なお考えですね」



「アシュリー様って、おじいちゃんみたい」


 なにっ!?


「おいっ!」

「剣術に厳しいおじいちゃんって感じしない?昔、僕に剣術を教えてくれた先生がそんな感じでさぁ〜。でもいざという時には・・・」

「それ以上はやめておけ」

「え?」


 ガーーーーーン!

 お、おじいちゃん・・・


「あ、アシュリー様?」


 中味は確かに13歳ではないが

 お、おじいちゃん・・・


「僕は誉め言葉のつもりなんだけどなぁ〜」

「いや、もう少し言い方というものが⋯」



 確かに前世ではじいちゃんっ子だったかもしれない。よく一緒に将棋したりカラオケしたりテレビ観たり・・・


 でも、私は父さん子でも兄さん子でもあったのだ!

 私だって若者らしい趣味があったはずだ!


 家の道場にも、虎兄のジムにも若者しかやって来ない。パルクールだってサバイバルだって若者しかやらないんじゃないか?よく知らんけど。

 うん、趣味は若者だ・・・多分。



 ハッ!そういえば、友達とカラオケいった時に「選曲がジジ臭い」と言われたことがある。『津軽海峡冬景色』は誰もが知っている名曲なのに・・・。そういえばその時、友達の一人が「鷹虎はそこがいいのよ」って言ったら皆が納得していた。あれはどういう意味だったんだろう。


 ハッ!そういえば、『水戸黄門』は東野英治郎さんの代が一番好きだと言った時には「誰?それ」と言われた・・・。『水戸黄門』自体誰も観ていなかった!

 あの時、『水戸黄門』より『遠山の金さん』が好きだと言わなくて良かったと思った自分がいたはずだ。



 私は、前世から自分がジジ臭いことを自覚していたのかもしれない。

 今こうしてショックを受けているのは、図星なのだからだろうか・・・。





 ちょっと乙女心が傷付いた旅路最後の夜だった。






次からは第5章、魔法学園の1学年後期のお話です。

引き続きお読みいただけると嬉しいです。

どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
>『水戸黄門』は東野英治郎さんの代が一番好き わかりみしかないが、それで傷付くのは乙女ではなくおトメさん。
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