87話 見習い研修〜複数戦
「アシュリーは、まず自分のやるべき事をやり遂げるのだよ。公爵のことはこの父に任せるのだ」
お父様の言いたいことは分かった。
その通りである。
「はい!」
まずは今日を合わせてあと3日の研修をやり遂げる。
そして、王子を無事に王都に連れて行く。
そして、コーク領に行って真珠を量産する。
まずは、この3つをやり遂げよう。
しかし・・・。
その前に、お父様に聞きたいことがある。
「お父様」
「ん、なんだね」
「先程、ナルシッサ様が私はそれほど大きくならないと仰った時、何故私から目を逸らしたのですか?」
「あー・・・別に逸らしたわけでは・・・」
「お父様も私はそれほど大きくならないと思っているのですか?」
「えー・・・まあ、その・・・」
「アシュリーは私に似たのよ」
え?
ロッティ先生?
「私も12歳の頃はアシュリーくらいの大きさだったと思うわ。それから今くらいになるまで5年くらいかかったかしら・・・その後は全くよ!」
そういえば、ロッティ先生はクラリッサより僅かに小さいくらいだ。150cmくらいだろうか⋯。
そして、ロッティ先生は私の祖母であり、似ていても全く不思議ではない。
不思議ではないが・・・
ちょっとショックかもしれない。
落胆が顔に出ていたのだろう
「似ていても、きっとアシュリーの方が大きくなるわよ!」
ロッティ先生が慌てたように付け足してくる。
「そうだ、まだ分からないぞ!」
「うん、きっともっと大きくなるよ!」
トーマスお兄様もハロルドお兄様も。
「アシュリーは小さい方が腕に乗せやすくていいと思うよ!」
ジェイムズお兄様は的外れな慰めをしてくる。
私は手のりブンチョウか!
そうだ、今ウダウダと落ち込んでも仕方ない。諦めるのは5年後…10年後だ。それまでは身長が伸びそうな事をすれば良い。
頑張った結果がチビっ子なのだというのなら諦めもつくだろう。
「はい!5年後を楽しみに頑張ります!」
笑顔になった私を見て、皆がホッとしたのが分かる。
気を使わせて悪かったな…すまん。
「頑張るって⋯背を伸ばす訓練でもするのかな」
「ええ、多分そうよ」
「本当に訓練好きだな」
「見習うと良いですわよ」
「・・・・・・」
王子とロッティ先生がボソボソ話しているがよく聞こえない。
食事が終わりしばらくして、ウェリントン家とルイーズ家の人達を見送った。
騎士の宿舎からこちらに来たリロイ君は、ライオネル様とオデット様が仲良さそうにしているのを見てとても嬉しそうだった。
ドナルド様が、ナルシッサ様に抱っこされて欲しいと必死で頼んでくるので驚いたが、抱っこなどよくされているので軽く了承した。
ナルシッサ様は私を軽々と抱き上げ、可愛い可愛いと抱っこを堪能し、満足気に帰って行った。
お役に立てたようで何よりだ。
立った姿を見て改めて気付いたが、ナルシッサ様も大きかった!まぁ、あの大きな王様の妹だし?夫婦揃ってそれだけ大きけりゃ、そりゃあ子供達も大きくなるだろう。
武闘派な一家ではない事が残念な程に、良き肉体を持つ一家であった。
さあ、午後の訓練だ。
メンバーはぐっと減って、王子、エドゥアルド様、デヴィッド君、ツェザール様、ゴードン様、そして私とヘクターと子供達。
この人数での100mダッシュはかなりキツイだろうと思い、クインティン達以外のちびっ子も研修生達と一緒に走らせた。
「時々訓練しているのを見ていたから予想はしていたが、やはりこの子達も速いのだな」
「はい。人数的に多くなりすぎるので、12歳未満の子は別にしただけです」
「そうか、今まで場所を取ってしまって申し訳なかった」
王子に謝られて驚いた子供達は、ブンブン首を横に振りながら恐縮しまくっている。
「今日はあなた達のお手伝いも必要ですからね、頑張ってください」
「「「はい!」」」
少し前から、剣の型の時間を減らし、模擬戦を増やしている。それも一人対一人ではなく、大勢の敵に対する模擬戦である。
これがなかなかハードらしい。
楽しいのに。
弓矢の得意な子供達には吸盤付きアローを使って攻撃してもらい、短剣の出来る子には短剣もどきを投げてもらう結構な攻撃態勢だ。
「今日はどのような組み合わせで、誰から始めますか?」
「僕とエドゥアルド様は組んだことがないからやってみたい!」
「そういえばそうですね。エドゥアルド様よろしいですか?」
「もちろんです」
「エドゥアルド様はまだ腕力と体力がついてないから、ツェザール様とゴードン様は僕に任せて!」
「ああ、頼むよ」
何やら作戦会議もしているようだ。
お互いが背中合わせになり、広がった敵に向かった所で攻撃が始まった。
子供達が一斉に攻撃するが、飛び道具に対してはほぼ完璧な二人、飛んで来る矢も短剣も避けたり薙ぎ払ったりと、全てを回避しながら向かって来る子供達を打ち負かして行くが・・・そこに、王子達も参戦していくと、二人だけではかなり苦しい闘いとなる。
攻める方も考えなければならない。
二人同時に攻め込むだけではなく、剣の向きや攻める方向も、対応仕切れないような状況に追い込む必要がある。
その点、ツェザール様とゴードン様は息が合ってるな〜。デヴィッド君、かなりの苦戦!
しかし、まだ殺られてないからやはり彼は強い!
こういう混戦になると、飛び道具は飛んで来ない事が多いのだが・・・上手い奴なら狙える。
私は、吸盤付きアローを2本持って投げるタイミングを狙う。
今だ!
私が投げた矢は、それぞれの肩を狙ったのだが、エドゥアルド様はデヴィッド君に当たるはずだった矢を剣で落とし、自分に当たるはずだった矢を王子を盾にして回避した。
素晴らしい!
思わず拍手した!
同時にツェザール様とゴードン様も打たれたらしく、負けを認めたようだ。
「終了!」
満面の笑みで戻って来る守備隊に反して、攻撃隊は悔しそうに戻って来る。王子は背中に吸盤付きアローをくっ付けて戻って来た。
「よく回避出来ました。これまでで最強の組み合わせでしたね!」
「クソッ!エドゥアルドに殺られた・・・」
「誤解を招く様な言い方はやめてくださいよ。ギルフォード様は味方の矢に当たったのですよ」
コラッ!私の方を見るな!
「私はしっかりエドゥアルド様の肩を狙いましたからね!それだけ避け方が上手かったということです」
「でも、既に息が切れています。自分でも情けないですが、もう少し長引けば・・・」
「そうですね、体力強化はエドゥアルド様の最重要課題です」
「はい・・・」
「次は誰が行きますか?」
「私はギルフォード殿下ともう一度組みたいです。前回護りきれなかったので、今度こそ!」
ツェザール様が王子と組みたいらしい。
「王子殿下もよろしいですか」
「ああ、もちろんだ。ツェザール、行こう!」
「はい!」
気合いが入っている。
頑張れ!
子供達の猛攻には何とか耐えている王子だが、さすがにデヴィッド君には歯が立たない。
しかし、ツェザール様がゴードン様とエドゥアルド様を振り切って護りに行った!
今日は気合いが違う!
王子とツェザール様相手でも怯むことなく攻め続けるデヴィッド君に、ツェザール様が足技を仕掛けた!
「おぉっと!やるね〜!」
そんなアクシデントにも、サッと体勢を立て直すデヴィッド君は、私との模擬戦で足技にもかなり慣れたようだ。
そこで今回もまた攻撃隊の援護の為に矢を持った。
投げる前、デヴィッド君と目が合ったので、きっと私の思惑を理解したと思う。
期待通り、デヴィッド君は自分の影に矢を放つ私を隠し、当たる寸前で自分は避けたのだ。
「「うわっ!!」」
そして、矢は王子とツェザール様のおでこにピタッとくっ付いた。
「終了!」
「ああーーー!またか!」
「ギルフォード様、申し訳ありません!」
「いや、ツェザールだけのせいではない」
そりゃそうだ。
「敵は複数いることを忘れてはなりません」
「「はい・・・」」
おでこに矢を付けたまま並んで俯く大きな男達。
笑ってはいけないが・・・
いけないが・・・
わはははは!
心の中で笑っておこう♪
「アシュリー。何故私を狙う時はいつも頭なのだ」
「偶然です」
「・・・・・・」
クッ!なかなか鋭くなったものだ。
王子の胡乱な眼差しから逃れ、とっとと次の組み合わせに移る。
「では、ゴードン様行きましょうか」
「はい!」
次はゴードン様と私が組むので、ヘクターも攻撃隊に加わる。
「あちらはまずゴードン様を狙うはずですから、なるべく私から離れないように」
「分かりました!」
子供達からは、先程よりも多くの矢と短剣が飛んで来るが、私のフォローもあり、ゴードン様も全て回避出来た。
間髪入れず子供達の攻撃が続き、研修生達が向かって来る。
これは・・・
彼らは一斉に私に攻め込んで来るつもりのようだ。
その手で来たか!
「ゴードン様、離れてください!」
すぐさま落ちている短剣と矢をを掴み投擲!
人数を減らす。
またもやおでこに矢を刺された王子は唖然。
手をやられ剣を弾かれたツェザール様も脱落。
エドゥアルド様は二段回し蹴りで剣を弾き、
デヴィッド君は首を打たれ脱落。
一瞬のことに動じることもなく、ヘクターの攻撃が続く。剣術大会の時と同じように短剣の二刀流である。
その間に応戦したゴードン様と子供達が戦っているが、ゴードン様優勢のようなので、自分の闘いに専念出来る!
来い!
全て受けてやる!
短い分様々な動きを見せる短剣を見逃すことなく払い、攻撃に転じるがヘクターも負けていない。
「やはり簡単には勝たせてもらえませんね」
「当たり前です!」
しばらく拮抗した闘いが続いたが、ゴードン様が子供達に勝利しこちらに参戦したことで、一瞬にして勝機が来た。
よっしゃー!
胴切り一本!
「まいりました・・・」
「ゴードン様、ありがとうございました!」
「いえ、最初にアシュリー様が4人も減らしてくれたから出来たことです!」
「すごいよ・・・まだまだ追いつけそうにない」
「ああ、足下にも及ばない」
「え?殿下と一緒にしないでよ」
「酷いな!ちょっとは同情しろよ!」
「額に矢を刺した人には同情出来ませんね」
「エドゥアルドもアシュリーの回し蹴り避けられなかっただろ!」
「アシュリー様はすごいです。あの一瞬で投擲が通用する相手とそうでない者を見分けて攻撃し、そして一番強いデヴィッド君には確実な攻撃で再起不能にした・・・」
「そうです。ツェザール様、よく気付きましたね」
「そうなのか・・・やられたのは皆一瞬だったけど、そういう訓練も戦闘には必要なんだ」
「皆様にはまだ経験が足りません。もっと強い人達と多くの経験をすることが一番の近道でしょう」
「もっと強い人達・・・」
「ということで、騎士団へ行きましょう!」
「「「「え!?」」」」
「皆さん、今日はお手伝いありがとう!私達は騎士団へ行って来ます」
「「「はーい!頑張ってください!」」」
「「「「え・・・」」」」
そして、騎士団で大勢に囲まれての防御戦は、全て完敗であった・・・。
オンブロー伯爵の護衛でついて行った騎士達が帰って来たので、今は1区の騎士団のNo.1からNo.6まで揃っている。(No.1は出産した奥方の体調が戻ったから)
オンブロー伯爵の護衛でついて行った騎士の話によると、道中襲って来た奴らは雑魚ばかりだったようだが、オンブロー伯爵が屋敷に到着してから本物(?)の刺客が来たらしい。
まぁ、うちの騎士達に捕まったけど。
『お前の主が誰かは知らぬが、伯爵は知っていることを全て文書に残し、自分が殺されることでそれを証明すると仰った。宰相殿は伯爵が殺されるのを手ぐすね引いて待っておられる。
我々グレンヴィルの騎士は、アシュリーお嬢様がそれを許さない故護衛しているだけだが、どうする?我々グレンヴィルと戦ってここで死ぬか、主に泣きついてオンブロー伯爵の殺害を諦めるか、今お前が選べるのは二つに一つだ!』
刺客は逃げて行った。
その後、念のためと言って、伯爵は庭師のふりをして生活しているらしい。
結構楽しそうだったとNo.3のレイトンは笑っていた。
これで収まればいいな。
ソーントン君の未来のためにも。
「僕、アシュリー様が負けたの初めて見たかも⋯」
「私もだ」
「何を今更。私はこの6人の騎士に勝てたことなど一度もありませんよ?」
「そうなんだけど・・・」
「トーマスお兄様やお父様になど、瞬殺されます!」
「アシュリーを瞬殺・・・」
「どれだけ強いのだ!」
「ははっ!あなた達もこれからではありませんか」
「さあ!もう一度行きますよ」
「「「「え?」」」」
さすがに私は矢に当たる事はないが、これまでに何度も腕を失っているだろうし、片足は無いだろう。
ヘクターも何度も王子や私を庇おうとして死んでるな!
相変わらず王子は頭に矢が何本も刺さっている。
せめて頭は庇え!
自分だけではなく護るべき人達がいて闘うというのは本当に難しい・・・。
難しいことがまた私を奮起させる!
次は、次は、とやれることを増やしていくのは楽しい!
結局一勝も出来ないまま何度も全滅を繰り返したのだが・・・
あまりに集中しすぎて、クラリッサが呼びに来るまで淑女教育のことをすっかり忘れてしまい、しこたま怒られた。




