63話 アトール公爵の謀略
またまたまた誤字報告ありがとうございますm(*_ _)m
不明な文章は言葉を付け足してみました。
跳び箱の後は縄跳びを教えた。
私が色々な技を見せると、これまた王子が食い付いて来たが、個人個人に縄跳びを準備するのには時間がかかるので、今日は大縄跳びで楽しんでもらおうと思う。
楽しんで⋯と言っても、これは人数が増えれば増える程に集中力と団結力も必要で、回す人には結構体力が必要という、舐めたらあかんスポーツなのである。
28人なので、2人が回し手になると26人が跳ぶ人だ。3列に並び前方の回し手にはまず私がなった。
「いいですか。左手の人と右手の人が同時に跳んでは縄に引っ掛かります!縄のスピードに合わせて、自分の所に縄が回って来る少し前に跳ぶのです!
とにかく集中力です!ではいきますよー!」
もう一人の回し手であるクインティンと合図をして縄を回し始める
「いーち!にー!さーん!・・・」
皆が真剣にタイミングを読んで跳んでいるので、結構続いている。
数も皆が数え出した。
「「「・・・58!59!60!61!あーー!!」」」
引っ掛かった。
こういう時には誰がと責めてはいけない。
「では、回し手を代わりましょう。体力のある人が良いですね」
「我々がやりましょう」
もう、二人で一組なのだな・・・。
ダドリー長男とゴードン様だ。
「ではお願いします」
2回目の挑戦では88回。
100回の壁はまだ抜けない。
3回目は、何と王子が回し手に立候補し、ヘクターが相手役となった。
そして100回をゆうに超えて264回。
4回目は、既に皆必死でもっと続けたいらしく、コレは私が回した方がいいかなと思ったら、デヴィッド君とヨナ・ビュートが立候補だ。
そして何と回数は502回!
これはなかなか優秀ではないか?
実はもっと引っ掛かると思っていたのだ。
特にチームワークがあるような集団ではないのだから。
それに、私はデコポンやブービー君を舐めていたかもしれない・・・反省しなければ!
502回回した二人も頑張ったと思う。これはかなり腰にくるんだ。
今、そこで二人共ぶっ倒れているが・・・。
「皆様とても良く頑張りましたね!素晴らしいです。回し手のお二人の腰や手は大丈夫ですか?癒し魔法は必要ですか?」
「いや・・・これしき・・・」
「だい、じょう・・・ぶ」
腰を押さえながら死にそうな様子で言われてもなぁ。今日は初日でもあるし、訓練はこれくらいにして休んでもらおう。
終わりに二人一組になってもらい、ストレッチを念入りにする。明日の為に必要なのだ。
「それでは皆様、また明日頑張りましょう!今日はゆっくり休んでください」
「「「ありがとうございました!」」」
研修生達と別れ本館へ戻る途中、ヘクターと打ち合わせる。
「先程の件は夕食までに知っておきたいですね。夕食の時にお父様にご報告できたらと思いますが、どうですか?」
「大丈夫です」
「では、お互い身を清めて半刻後に。私の部屋で話しましょう」
「分かりました」
部屋に戻った私は、まずクラリッサに事情を説明する必要がある。
でもお風呂も入りたいので、同時進行だ。
「クラリッサにお願いがあるの」
「何でしょうか」
「学園にいる生徒の中で、コーク辺境伯領から来た人を知りたいの。分かるかしら」
「はい、初等部に関してでしたら大丈夫です」
やっぱり、クラリッサも出来る使用人だった!
「すごいのね!ヘクターもクラリッサも学園の生徒が全員分かるなんて!」
「いえ、私は初等部だけですので・・・」
「初等部だけでもすごいわ!」
「人の名を覚えるのも彼是見付けるのも得意なのです。他に取り得はありませんよ」
「美容へのこだわりも、私の衣装についても、支度の手際も全て完璧でしょう!」
「褒めていただけて嬉しいです♪アシュリー様ももう少しこだわりましょうね!」
ちっ!
墓穴掘ったか。
「それで、どうしてコーク領なのです?」
私は、訓練の時にローレンティア様とゴードン様から聞いた話を全て話した。
「それでしたら私にも思い当たる事が幾つかあります」
なんと!関係ないクラリッサですら知っている様な事があると。
その後ヘクターも来たので、2人の話を聞いたのだが、これは何らかの謀略であるとしか考えられなかった。
「ヘクターはゴードン様とローレンティア様のお話を聞いた時に既に分かっていて、それでローレンティア様にあのような助言をしたのですね!さすがです!
私の従者もメイドもなんてすごい人達なのでしょう!今夜の夕食の時にお父様に自慢しなくてはいけませんね!」
「お嬢様、お話するのはローレンティア様についてですよ!本題を間違えてはいけませんよ!」
はーい。
今日の夕食はロッティ先生も一緒だ。
私が来た時には、既にエドゥアルド様がロッティ先生と楽しそうに話していた。王子はお父様とだ。ハロルドお兄様はライオネル様と話してて・・・席がいつもと違う。
すごいな、さすが王族に高位貴族。誰も緊張していない!話している内容も、私にはちんぷんかんぷんだ。
「アシュリー。コーク辺境伯の姫さんを魔術師団見習い訓練にしたそうだな。ハロルドから大体の話は聞いた」
「はい。お父様に断りもなく申し訳ありません」
「いや、それは良い」
「お父様にその件でご報告があります。王子殿下にも是非お知らせしたい内容です」
「その件というと?」
「はい、そのローレンティア様についてよからぬ話をしていたというコーク領の生徒についてです。
ヘクターとクラリッサからの情報によりますと、初等部に2人、高等部に1人、コーク領の生徒がおります」
「案外少ないのだな、ローレンティア嬢は何度も聞いたと言っていたが、そんなに何度も自分の領地のご令嬢の悪口を言っていたということか」
「そこです!」
「どこだ?」
王子、突っ込むところじゃないよ。
「そのコーク領民の生徒がいつも一緒にいる女生徒がおりまして、その悪口は必ずその女生徒と話している時にします。
そして、それは意図的にローレンティア様に聞こえると思われる時と場所が選ばれております。
しかし、領民がわざわざ自分の領地のご令嬢の悪口を聞かせる利点はありません。領民の生徒のうちの一人はローレンティア様が聞いている事を知らずに喋っている様です」
「読めてきたぞ」
「はい、王子殿下が予想されている通りだと思われます。その一緒にいる女生徒はアトール公爵家の侍女長の娘だそうです。そして悪口には必ず『良い嫁ぎ先』『アトール公爵のご長男』が入ります。
クラリッサが2度同じ状況に遭遇した事を不審に思い、3人の行動を気を付けておりました所、意図的である事が判明しました。
これは、高等部でも同じ事があったと思われます。ただ、ローレンティア様よりゴードン様にはその謀略が露顕する確率も高い為、魔術大会の1回に効果的に実行したのではないでしょうか」
「ほぉ・・・」
「ただ、初等部のコークの領民の2人のうち1人は、アトールの者と結託していると思われます。これに関しては、後からクラリッサが説明します」
「ほぉ」
「そして、次の情報がございます。
そのアトール公爵関連の女生徒が、もう1人頻繁に接触している生徒がおりまして、それがアトール公爵領とコーク辺境伯領に挟まれたマーリル伯爵領随一の商家の長男です。
この商家では手広く商売をしておりますが、コーク辺境伯領の海辺に土地を借用し、税も納めているそうです」
「ほぉ・・・?」
「よって、これらの調査結果より、私の推論を申し上げます。
アトール公爵はコーク辺境伯領を、特に『海』または『海岸』を何らかの理由により自由に利用したいのではないかと思われます。
その為にローレンティア様と縁を結び、コーク辺境伯の後援を手に入れたい。
それは、ここ数年で動くものではなく、2年後3年後またはもっと長い期間をかけ、何かを起こすのではと憂慮いたします。
学園だけではこれだけしか分かりませんが、調べていけば他にもきっと何かしら出てくると思います」
「ほぉ・・・!」
王子は「ほぉ」ばかりだが、全て気持ちが伝わって来るのは音の違いか。
面白い。
「続きまして、クラリッサから」
「先程アシュリー様が話されたコーク領民のうちの1人について、私の憶測となりますがお話いたします。
彼女は多分、コーク領の人間ではないと思われます。コーク領の人間ではなく、もっと北部で生まれ育った人間が、途中でコーク領の娘と入れ替わった・・・そう考えます」
「ふむ、その理由は?」
「髪と肌です。
コーク辺境伯領は南の端です。領民は特長的な肌になりますが、彼女は北部で育ったアシュリー様より青白いのです。
まあ、アシュリー様は外にばかりおりましたので少しは日焼けしているとは思いますが・・・。
ローレンティア様の様に裕福な家で、肌が焼けない様に過ごせる訳でもないコークの平民の娘ではありえないと思われます」
「アシュリーより青白いということは、もっと北ということか」
「私の憶測ですが・・・」
「ふむ・・・」
ふむに変わった。
「憶測でもよろしければ私からも」
「ふむ、聞かせてくれ」
やっぱり、ふむ!
「その娘の出身地は帝国ではないかと。そして、帝国が欲している物は『塩』ではないかという憶測です」
「ほう・・・」
「これは私の師匠からの情報ですが、帝国は大陸の中心で、岩塩の採掘場が少ないと聞いています。広大な帝国を賄えるものでは無いはずです。
アシュリー様によると、海の水から塩が作れるらしいのですが、帝国には海に面した土地もありません」
「ほう・・・?」
海の水から塩を作るって、この世界じゃ普通じゃないって知らなかったから、つい言ってしまったのだ・・・。王子に言おうかどうか迷ってたら、ヘクターが言っちゃったよ!
「アシュリー。海の水から塩が出来るのか?」
「はい、多分・・・」
「どのようにして出来る」
「海の水を熱するか干すかして、水を飛ばせば塩が残るかと」
「・・・そうなのか」
「はぁ、まぁ・・・」
確か昔は塩田ってので干して水分飛ばすんだよな。コークなら温かいし、湿気が特に多いとも聞いてないし、出来ると思う。
でも、それを帝国の人間やアトール公爵が知っているというのも変だ。
何かもっと他に裏があると思うんだよな・・・。
「塩の件は全くの憶測ではありますが、アトール公爵が帝国と繋がっているのは事実だと思います」
「なぜ分かる」
「・・・お父様、言って良いですか?」
「そう聞いている時点で言っているのと同じだ」
しまった!そうかも!
王子のジト目が痛い・・・。
「オンブロー伯爵がそう言っておりました」
「「「・・・!!」」」
あれま、皆が一斉に驚いてるよ。
何に驚いてるのか?
「オンブロー伯爵は、『アシュリー様には至誠であることを誓う』と言っていたと父から聞きました。それほどアシュリー様を信頼したのだと」
あらま。
宰相も知っていたとは・・・
「オンブロー伯爵から何を聞いた」
王子が怖い・・・。今日は何故か隣に座っているから、声も良く響く!
しょうがないので、指折り考えながら思い出しただけ話していった。
「王子殿下暗殺の首謀者はアトール公爵とその次男で、長男は関わっていない。
そして、計画に使われた毒薬は1年以上かけて帝国の薬師が作ったと」
「「「・・・!!」」」
「アトール公爵は用心深く、文書などの証拠は残さない。
アトール公爵は平民を使う。
オンブロー伯爵も女神像の納入以外介入させてもらっていない。
毒薬が手に入ったと連絡が入ったから、今回の実行になった」
それから・・・
「王子殿下を暗殺したオンブロー伯爵が罪に問われれば一族は連坐で、側妃と第二王子も幽閉され、モントローズ王国の王位継承権は男子のみに与えられるから、次の王位継承者は王弟であるアトール公爵になる。
オンブロー伯爵はいいように使われた」
「「「・・・!!!」」」
「アトール公爵は蛇の様奴だ。
グレンヴィルを敵に回す様な事はしないが何らかの搦手を使ってくる。
私は単純で乗せられやすいから気を付けろ」
何か、皆が頷いてる?
あと何だっけ・・・?
そうそう、神獣が言っていたことも教えておこう。
「帝国は、何度も何度も魔の森に侵入しようとして失敗している。川を渡るのがやっとで、いつも魔物に追われておる」
「オンブロー伯爵がそんな事を!?」
「あ、これは神獣からの情報です」
「「「・・・!!」」」
「アシュリー!!それは儂も聞いておらんぞ!」
あれ?
お父様に言ってなかったか?
「オンブロー伯爵は、今のところグレンヴィルのおかげで帝国からの侵略は防げているが、国の中から崩すという事も考えられると。
帝国とアトール公爵の思惑には齟齬があると思われるとも言っていました」
「だめだ・・・情報が纏まらん」
そりゃすまん!
色々言いすぎたか?
「しかし・・・ほんの数刻でこの情報量か。
アシュリーと専属達は本当に優秀だな」
キターーー!
専属自慢タイムだ!!
「そうなのです!お父様!ヘクターもクラリッサも有能過ぎるくらいに優秀なのです!!
すごいのですよ、学園中の生徒の情報が一瞬にして出てくる記憶力。その情報内容も奥が深いのです!商家の長男というだけじゃなく、その商家についてまで調べてあるのですよ!
王子殿下も聞きましたよね!?
肌の色で出身地が分かるのですよ!
色恋沙汰まで網羅してるのですよ!
私の従者達は素晴らしいでしょう!」
「お、おぅ...」
「お嬢様、ギルフォード殿下が困っていらっしゃいます。すぐさま殿下の上から降りてください!」
ハッ!
しまった!
勢い付いて、王子の膝の上に乗っていた!
だって、王子の向こう側にお父様がいるから、つい何というか、跳び箱を跳び超える様な・・・。
「も、申し訳ございません・・・」
「あ、ああ、まあ・・・良い」
ロッティ先生の目が怖い・・・。
これは絶対怒られる!
「アシュリー。明日から訓練ばかりでなく、淑女教育の授業も頑張りましょうね」
やっぱりか!!
「はい・・・」




