5話 魔法では強くなれない
今回、水魔法も使えたがまた要研究という結果となった。
なんだろう、私は魔力過多なのか?それとも魔力の流し方がコントロール出来てないからなのか?ちょっと先行きが不安になる。
次は被害が少なそうな魔法にしようと思うが、火も土も風もすごーく物騒な想像しか浮かばない。
これはもっと勉強してから使うべきか…いや、もう図書室にある魔法に関する本は上級魔法について書かれたもの以外は全て読み漁ったから、これ以上に有益な情報は自分では得られないのでは?
うーん・・・
これは、アレだ
「最悪の状態になる前に、最善の選択をする。」豹兄や私が何かやらかす度にいつも母さんが言っていたことだ。それは最も適任と思われる大人に相談するのが子どもとして一番の最善なのだと。
「黙って自分達だけで解決しようとするな!事が大きくなる!」ってよく叱られた。
やっぱり誰か魔法に詳しい人に相談するべきだ。誰が適任だろうか、やっぱりお父様か?でも、お父様は人にものを教えるのが得意そうに見えない。何でも勢いで解決しそうなイメージしかない。
ここはやっぱり、私と同じ光の属性を持っていると思われるハロルドお兄様が適任ではないだろうか。うん、ハロルドお兄様なら筋肉も少なそうだし(いや、筋肉は関係ないか)、私に優しそうだし、きっと最善だ!
とは言ってもハロルドお兄様は王都だ・・・やっぱりお父様か。
前世の記憶を取り戻した時から、喋り方とか、ボロが出そうなので会話という会話はしていないからなあ・・・。
ヨアブ爺さんは話し方など気にしそうもないから結構喋るのだが、そのヨアブ相手でも考えて言葉を使っている。他の人達には短い文章をちょこちょこと言うくらいにしているのだ。
お父様に魔力解放から順に上手く説明できる気が全くしない・・・。
どうやって魔法の知識を得たのか?と聞かれて
「図書室の魔法書を読みました」などと言えば、そこからもう異常だといのは私にでも分かる。
本を読むまではまだ良いとしても、危険だと分かっていて魔法解放を実践したのは何故か。
ダメだ・・・詰んだ・・・。
というより、最初から詰んでいたのだ。
前世の記憶がある事を打ち明けずに説明することが出来ない!
魔力解放がいかに危険でも、こっそり練習してお父様達に魔法を披露したら褒めてもらえると思った自分を崖から突き落としてやりたい。
ちょっと前に思慮深いなどと自画自賛していた自分は穴に入るべきだ。
このままこっそり練習して、大火事になったり、竜巻が発生したり、地盤沈下が起こるとか山が出来るとか・・・対処できない事象を引き起こしてドン引きされて迷惑を掛けるか。
素直に相談して5歳児アシュリーの異常さにドン引きされるか。
どちらにせよドン引きされる訳だが、選択肢は二つ以外にあるだろうか?
いや、ない。
・・・ああ、そういえば。
魔法を使わないという選択肢があるな。
もう魔法を覚えるのはやめようかな~
最初は面白かったけど色々と面倒になってきた。
私はかなりの努力家だと思う。でもそれは何に対してもというわけではない。「好きなこと」だけだ。
(自慢にならない)
「好きなこと」以外は結構どうでもいいと思う性格だ。
(全く自慢にならない)
別に魔法が使えたからといって私自身が強くなるわけじゃない。今だって5歳児の弱っちいままだし・・・。
やっぱり自己鍛錬する方が私に合っていると思う。身体づくりする方が絶対楽しいに決まっている。
そういえば、身体づくりに良いような魔法があったはず。属性が分かったら試そうと思っていた魔法だ。中級の魔法書の最後の方に・・・お、あった。
「身体強化魔法」
無属性。
属性関係なく、魔力により持ちうる能力を何倍にも上げる事ができる。
ふむふむ
でも、それ以上の説明は書かれていない。
どうすれば強化できるのか、何を強化できるのかがはっきりと分からない。
「持ちうる能力」が倍増されるなら「持たない能力」は追加されないというのは当たり前か。
身体能力を上げておくと、その分強くなるということだろう。
お父様の強さを100としたら、私は1ぐらいだろうから、5倍になってもまだ5%ってことだな。
強化方法はまだ謎だが、先に体力づくりはしておくべきだろう。
筋力は慌てずに少しずつ、体力は毎日走り込みでもしてつけていこう。
善は急げだ。ちょっと走ってみようかな。
お嬢様の自分は本気で走ったことなどないから、まずは自分の体力を分析する必要がある。
ちょっとね・・・
ちょっと・・・
(ハァ、ハァ、ハァ・・・)
本当にちょっとだな!
100mどころか50mも走れないんじゃないか?
なんという弱い身体なんだ!
(ハァ、ハァ、ハァ・・・)
折角の広い敷地が勿体ない。
トレーニングし放題だというのに、これは私の理想とする基本的な体力になるまで長期戦になりそうだ。まだ5歳だから焦ることはないかもしれないが。
前世の私が5歳の頃はどうだっただろうか・・・
確か、父さんによく山へ連れて行かれる様になったのはこの頃だったと思う。小学校入学前だったからな。普段から走り回って遊んでいたから、山登りもちゃんと父さんに付いて行けたと思う。
まあ、帰りにおんぶしてもらった事も多々あったが・・・。
(ハァ、ハァ、ハァ・・・)
しかし弱っちい・・・
まだ息が整わない。
あまり急に走り込みをすれば命に関わるかもしれないので気を付けねば。
ランニングで死ぬ人もいるのだ!
体力はまだないが、走りはそんなに遅いわけではなかった様に思う。こんなに体力ないならもっとポテポテした走りしか出来なくてもおかしくないが、私のこの身体は走ることを知っている様に感じる。
最初は焦らずウォーキングからが良いだろうか。この屋敷は広いから、1日1万5千歩も実現出来そうである。天井が高いから階段の段数も多いというのも魅力的だ。
お兄様の抱っこ攻撃は断固拒否だな!
屋敷の外へ連れて行ってもらって、街を散策しながら歩くというのも楽しそうだ。いや・・・馬車移動ばかりになりそうなので却下しよう。
まずは屋敷内からだ。
ウォーキングをするのにも「お嬢様」という肩書が邪魔だ。屋敷内を呼吸を意識しながらウォーキングしていると、使用人によく声をかけられる。
「アシュリー様、何かご用がおありですか?」
「お嬢様、お菓子をお持ちしましょうか?」
「お嬢様、そちらは危ないですよ」
「・・・だい、じょう、ぶ」
呼吸と合わせての返事なので、皆に不審に思われただろうか?
インナーマッスルを鍛えるためにも効果的なウォーキングがしたいのである。
しかし、そんな事もしばらくすると無くなって、テケテケ歩いている私を見ても、皆声はかけず温かく見守ってくれる様になった。
もしかしたら生温い目だったかもしれないが・・・。
万歩計がないので自分で数えるしかないのだが、
始めは千歩からにした。
毎日少しずつ増やしていくのだ。
お父様が面白がって後を付いてきたのには困った。
「アシュリー、なにをしておるのだ?」
「ある、いて、いま、す」
「そうか・・・」
納得したのか、その後は話しかけることもなく一緒に歩いていただけなのだが、少々気まずいので早目に切り上げてしまった。
その後はお父様の話を楽しく聞いた。
しかし、お父様に何か聞いたのか、トーマスお兄様が付いて来た時は本当に邪魔だった!
「アシュリー危ないよ!」
「アシュリー私が連れて行ってあげるよ!」
「アシュリー抱っこしようか?」
何かとすぐに抱っこしようとする!
断固拒否し続けたら離れて行った。
トーマスお兄様の哀愁漂う後ろ姿に罪悪感を感じないわけではないが、私は心を鬼にする!
千歩から2千歩にするまでは10日かけた。
3千歩にするまでは5日かけた。
何日もかけてやっと5千歩となったが・・・
いや、これ、屋敷内でこれ以上歩き回るの不審過ぎるよ!
皆、ニコニコして見てるだけだが、心の中では疑問符ばかりだろう。
これ以上は庭に出て、そろそろランニングも始めても良いかも知れない。
早速、またちょっと走ってみた。
ちょっと・・・
うん、ちょっとだな・・・
(ハア、ハア、ハア・・・)
でも、今回は50mくらいはちゃんと走れたかと思う。
(ハア、ハア、ハア・・・)
これはお父様の5%にも満たないだろう。ゼロと言っても過言ではない。
ゼロは何倍してもゼロなんだ!
せめて10にはなりたい!
当面の目標はお父様の戦闘力の10%だな。
頑張ろう!
既に魔法のことは忘れているし、体力から戦闘力に意識が変わっているのには気付いていないアシュリーだった。