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56話 久しぶりの我が家

「ただいま戻りました!」

「「アシュリー、おかえり!」」


 お兄様達とは、馬車を降りて直ぐに抱擁(ハグ)である!

 出迎えてくれた人達には自然と笑顔になる。そして、その中で唯一緊張もしてしまう人物にご挨拶しなければいけない。


「ロッティ先生、お久しぶりです。ようこそお越しくださいました。お待たせしてしまった様で申し訳ございません・・・」


 しまった!

 きちんとしたカーテシーは、ズボンだから出来なかったのだ!


「ふふっ、アシュリー久しぶりね。よろしいのですよ。楽しく過ごさせてもらってるわ。グレンヴィル辺境伯。またしばらくよろしくお願いするわ」

「こちらこそ。ごゆるりと過ごされます様。それでアシュリーは、その⋯まあ⋯」

「分かっているわ、アシュリーの噂については色々と聞かせてもらっているわ。勇敢な貴方の娘はそのままでいいのよ。私はただ必要な淑女教育をするだけ」


 何と!

 これまで私がやらかした事にお咎めなしという事だろうか。イザベラ先生にど叱られた件は伝わっていないのだろうか?


「まあ、少々目に余ることも耳にしましたけれど・・・。貴方方も帰ったばかり、まずはゆっくりしましょうよ」


 ギクリ!



「旦那様。皆様のお湯のご用意は整っております」

「そうか、では騎士の皆、ご苦労であった。今日はゆっくり身を清めて休むが良い。アシュリー達もゆっくりして、話は夕食の時にしようか」

「はい!」



 久しぶりにお風呂に入れる〜♪

 野営は好きだが、風呂に入れないのはこの夏場には少々キツイな。浄化魔法というものがあっても、ゴシゴシ洗わないと綺麗になった気がしないではないか!

 スーッとするデオドラントシートとかあれば良いのになぁ⋯誰か考案してくれないかな。



「父上!魔道具は何処ですか?」

「ハロルドよ⋯父親より魔道具の帰りを待っていたようだな」

「いえ、まあ・・・ははっ!」


 ああ、あの魔術大会を映した魔道具か。

 最後の「ぐーーー」を消してもらえなかったのが悲しいっ!



 久しぶりの領地邸の風呂に入り、火照った身体を『全身アイス●ン』で少し冷ましてから着替えをした。

 私が詠唱した時に、クラリッサは可笑しかったのか「プッ!」と吹き出していたようだが、私の詠唱が変なのはクラリッサも知っているから今更だ。


「アシュリー様、その身体を冷やす魔法はとても便利ですね」


 うん、この魔法は本当に便利だ!


「そうでしょう!ロバート先生が魔術の専属教師になってから最初に教えてくださった魔法なのですよ。今までは使わなくても過ごせましたが、この時期にはとても助かります!良ければクラリッサにもかけてあげましょうか?」


「いえいえ!大丈夫です!」

「あら、遠慮しなくていいのに・・・」


 クラリッサは遠慮深いようだ。

 まあ、他人にかけたことはないので、どうなるのかは少し不安だが・・・。



 夕食まで少し時間もある。クラリッサが身を清めて来るまで独りなので、お父様から受け取った騎士見習いの研修者名簿を見る事にした。



 名簿にはご丁寧に長男とか次男とか書かれているし、この順番は爵位順だと思われる。最後に申し込んだはずの王子が一番上に書かれているからだ。

 あ、剣術大会での順位も書かれている!

 優勝したあのデカい先輩も参加しているのか・・・なになに?


 ツェザール・ダドリー

 ダドリー伯爵家長男・サイモンの長男。


 なんと!

 あの第四騎士団長の長男かっ!

 そういえば似てたかも⋯うん特に大きさが。

 今3学年か、先が楽しみだな。



 準優勝はヨナ・ビュート

 ビュート伯爵の次男。最高学年。

 ビュート伯爵といえば、グレンヴィル領の1区を護る伯爵の一人ではないか?

 優勝も準優勝もグレンヴィルに縁が深いというのは嬉しいなぁ。


 3位決定戦はしていないから、3位は2人。

 クラスメイトのデヴィッド・カーライルと、

 メイビル・ハンティントン。


 ハンティントン?何処かで聞いたな。

 次期ハンティントン伯爵の次男・・・ハンティントン、ハンティントン・・・。


 あっ!

 第一騎士団長がハンティントンだ。

 そうか、第一騎士団長の実家かぁ、お兄さんの息子だよな。

 最高学年だが、これも先が楽しみだ。


 デヴィッド君も参加してくれたんだな!

 来て欲しいって思ってたから嬉しいよ!



 剣術大会にも出場していない高位貴族が王族の王子と合わせて3人。伯爵以下に2人。

 宰相の息子のエドゥアルド様・・・

 エドゥアルドって「エドワード」に似てないか?綴り違うけど⋯惜しいっ!



 ん?

 ちょっと待て!


 こ、これは!?


 ゴードン!

 (まさ)しくゴードンだ!


 ゴードン・コーク

 コーク辺境伯の長男の次男。3学年。

 デュラン第二騎士団長の甥という事だな。

 剣術大会では2回戦敗退。もしかして優勝者と当たったとかかも知れんな。


 それで・・・えっ!?


 コーク辺境伯の所からもう一人、それも初等部のローレンティアって女性の名前?やっぱり「長女」って書いてある!

 初等部の少女が参加とは、流石の私も驚いたよ。(自分の事は棚に上げる)

 確か、入学した時に同じクラスだったよな?

 自己紹介のお手本にした、綺麗な紫の髪の少女・・・そんな剣術を嗜む風には見えなかったけどな。(自分の事は棚に上げる)


 彼女には、初めに話をする必要があるかも。


 えーと何処まで見たっけ。

 つい、目に付いた名前を先に見てしまった。


 そうそう、宰相の息子までで・・・その次がライオネル・ウェリントン。

 ウェリントン侯爵・長男の長男で最高学年。

 次男リロイ、3学年も同時参加と。

 弟は剣術大会出てるけど、兄貴の方は出てないよな。予選負けとか?


 まあいいや。兄弟参加とは、ウェリントン家はなかなかやる気が漲っている!



 次は伯爵家か。


 ダニエル・デヴォン

 伯爵家長男。2学年。

 何処かで聞いたな?

 剣術大会は出場なしと。


 ジョン・モーランド

 伯爵家長男。初等部1学年。

 これも何処かで聞いたな?


 まあいいか。


 次は子爵家


 スコット・マコーリフ

 子爵家三男、3学年。2回戦敗退か。

 マコーリフ子爵はグレンヴィル領の5区を一手に護る強者の一家だ!頑張るのだ!



 ルシアン・ホルス

 ホルス子爵は、確かグレンヴィル2区を護るゴドリッチ伯爵の寄子のはず。

 その子爵家五男・・・五男!?

 子沢山だな・・・。

 これも2回戦敗退か、残念だ。

 まだ2学年だ、頑張ってくれ!



 デヴィッド・カーライル

 子爵家三男。1学年。大会3位。

 デヴィッド君は三男だったのか。

 君なら騎士団でも上の方に行けるぞ!



 ノルベル・テニスン

 子爵家長男。初等部。

 確か、テニスン子爵ってアレだよな?

 あの使用人は解雇ということで、テニスン子爵とは無縁になったらしいけど、その後はどうなったのか聞いてないな。

 この子は同い年らしいが全く記憶にない!だが、初等部から参加しようというのだ、きっとやる気に漲っているに違いない。



 次は男爵家。


 ナイジェル・バーデット

 男爵家三男、2学年。3回戦敗退。


 ムスタファ・コベット

 男爵家次男、3学年。3回戦敗退。


 後は平民が9人。

 おっ!平民は皆剣術大会に出場しているではないか。全員2回戦敗退以下だが・・・。剣術を学べる機会が貴族に比べて極端に少ないからな⋯仕方ない。この研修中にみっちり鍛えるといいよ!



 全員の名簿に一通り目を通した頃に、クラリッサが戻って来た。


「アシュリー様、お待たせいたしました」

「いいえ、研修者の名簿を見ていたから大丈夫よ」

「名簿ですか、私も拝見しても?」

「ええ、どうぞ」


 クラリッサも研修者に興味があるのか?


 と、思ったら・・・

 何やら驚いた様子。

 ちょっと顔色が悪くなった様な?


「クラリッサ、どうかしましたか?」

「いえ、あの、何でもありません・・・」


 変だな〜絶対何か隠していると思うんだが⋯。クラリッサはこういう時が偶にあるが、私には何も言わない。信用されていないのかもしれない。ちょっと凹む。


 そうだ!クラリッサに聞いてみよう。


「クラリッサは、私の元クラスメイトのローレンティア様の事は何か知っていますか?」

「ローレンティア様とは、コーク辺境伯のご長女でいらっしゃいますね」

「そうです。どんな方?」

「今年の入学生では一番人気が高い誰もが憧れるご令嬢です。可愛く優しく気が利く。三拍子揃っており、人の機微にも聡いので、争いを静めたり人を纏める事にも長けていると思われます」


「剣術が得意とか?」

「それはありません」


「騎士に憧れているとか?」

「その様な情報はありません」


「走るのが速いとか?」

「淑女は走りません!」


「えーと・・・」


「何がお聞きになりたいかは何となく分かりますが、とにかくローレンティア様は、アシュリー様とは違って、裏表なく立派な淑女でいらっしゃいます!」


 どういう意味だろう?



 夕食の準備が出来たと知らせが入ったので、話はここまでとなった。




 久しぶりにトーマスお兄様やハロルドお兄様との食事だ。嬉しいな〜♪




 テーブルには、既に皆揃っていた。

 そして、セバスチャンとハロルドお兄様が何かの魔道具を設置している。

 まるで前世のテレビ画面の様な・・・もしかして、あの魔道具の映像を大きくするのか?


「お待たせいたしました。

 お父様、あれはもしかして⋯」

「ハロルドがこの日の為に作った魔道具だ。魔術大会の様子がもっと大きく観られるらしい。ハロルドの力作だよ!ただ、魔力も大量に使うらしいがな」

「それでしたら、私が魔力を・・・」


「アシュリー!是非そうしてくれ!

 本当にたくさん魔力が要るんだよ」

「ええ構いませんが、属性は?」

「無属性だけど、出来る?」

「はい、大丈夫です」

「そうか!じゃあこの部分に魔力を流して欲しいんだけど⋯そう、そこに触れたまま少しずつ魔力を流してみて。いっぱいになったらこの一番上が光るから」

「分かりました」


 教えてもらった通り、無属性のフィルターにかけた魔力を流していく。


 おお〜!

 充電中の家電みたいだ。

 青いメモリが徐々に上がっていくぞ!


「早いな・・・」


 ハロルドお兄様が何か呟いている。


「いっぱいだ!アシュリー、もういいよ」


 見ると、一番上まで青い光がいっぱいになっていたので手を離す。


「流石アシュリーだね!すごく早い!魔力は大丈夫?」

「はい、何ともありません」

「そうか・・・これだけ使っても大丈夫なんだ。本当に規格外だね」

「・・・・・・」


 最近⋯あの魔力切れからまた増えたみたいなのだ・・・。



「では、食事をしながらアシュリーの勇姿を観ようじゃないか!」

「ええ、私は本当に初めてアシュリーの魔法を見るのよ。楽しみだわ!」


 そうして、私の魔法演技の映像が流れ始めた。前世のテレビ程ではないにしても、なかなか美しい画像である。

 私達の周りには、使用人も皆集まっている。多分、お父様が呼んだのだろう。何か恥ずかしいな・・・。ヨアブはいつもの作業着じゃなくて、ちょっとおめかししてるんじゃないかな?


 せっかく料理長が美味しそうな夕食を作ってくれたのに、誰も食べ始めていない。テレビもどきの画面から誰も目を離さないからだ。

 そうすると、私だけ食べていって次の料理を運んでもらうというのも気が引ける。しょうがないので、終わるのを待つことにした。




 えーと・・・

 映像終わったよね?


 お父様とヘクターとクラリッサ以外、皆がボーっと画面見たままなんだけど。

 お父様、何とかしてくれっ!

 目線でお父様に訴えると、


「ああ、どうやら放心状態のようだな。腹も減ったことだし、儂らは先に食べようか」


 そのまま放置する様である。


 お父様と私が料理を食べ始めると、そこはプロ意識なのか、一番初めに料理長とセバスチャンが我に返り、クラリッサと共に配膳を始めた。


 今日は絶対私の好物を用意してくれた!メインのチキンは私の大好きな料理だ!

 皮もパリパリに香ばしく焼かれたチキンに、クリームソースがかかっているんだけど、このソースが絶品なのだ!

 私がチキンを食べ始めた頃、


「アシュリー!何これ!すごいよ!すごい!」


 ハロルドお兄様が突然話し出し、それに続いて皆が我に返った様だ。


「素晴らしいわ!私が今まで生きてきて初めて観た程に素晴らしい魔法です!」

「あれほど多くの土人形を同時に生み出すとは!それも全てが生きている様に動いていた!この魔法演技には素晴らしい物語がある!」

「ああ、アシュリー!こんなに素晴らしい魔術師が僕の妹だなんて!グレンヴィルの誇りだよ!」


 皆、大絶賛である。

 ワイワイと、使用人も混じっての感想発表会の様になっている・・・。


「アシュリーお嬢様がこれほど素晴らしいご成長をされていたなんて・・・私は、私は嬉しゅうございます!」


 エリー感無量かっ!


 後ろの方でヨアブも涙ぐんで見えるのは見間違いではないだろう。

 ヨアブにはいっぱい迷惑かけたからな⋯今の私があるのはヨアブのお陰と言っても過言ではない!



 そうだ!



「ヨアブ」


 食事の途中で行儀が悪いが、私は椅子から降りてヨアブの所へ行く。


「私がこうして魔法を使えるようになったのも、身体を鍛えることができたのも、全て最初にヨアブが協力してくれたお陰なの。心から感謝しているわ。ありがとう!」


 ヨアブの手を握り、心からお礼を言った。

 皆にも分かって欲しかったのだ!


「お嬢様!そんな・・・」


 既に涙ぐんでいたヨアブはおんおん泣き始めてしまった。

 あらら⋯困った。周りを見ると皆がニマニマ笑っているだけであるが、ヘクターだけは助けてくれた。

 流石ヘクター!


「ヨアブ爺さん、ほら泣きすぎだ。アシュリーも困ってるだろう?」

「ああ、申し訳ございません!」

「いいのよ!」


 クラリッサもハンカチをヨアブに渡してくれる。

 ヨアブの大泣きにより、使用人はお開きの様で、それぞれの持ち場に戻るらしい。



「そうだな、アシュリーは本当に小さい頃からヨアブが大好きだったからなぁ」

「そうそう!皆に秘密にして鍛錬始めたのもヨアブの所だったよね!」


 なんと!?


「まあ、そうでしたの?秘密で鍛錬を?」

「5歳からだったよね?」

「そうそう!」


 な、なんと!

 そんな最初からバレていたとは!


「お嬢様がお屋敷を歩き始めた時は可愛いらしかったですわ!」

「そうそう!トーマス様が歩くのを邪魔をされて、すぐに抱っこしようとなさるので怒っていましたわ!」

「わ、私は邪魔など・・・。ティファニーこそ邪魔していたではないか」

「あら、私はすぐに抱っこなどしませんよ」


「お嬢様が何やら回して飛んでいるお姿は、いつまでも見ていたいと思いましたわ」

「あれね!最初は何してるのか全然分からなかったよ!」

「アシュリーがどんどん鍛えていくから、ヘクターまで感化されて、ヘクターが初めて訓練所に来た時はびっくりしたな!」

「ええ、アシュリーお嬢様のお陰です」


 なんと!

 エリーやセバスチャンまで!


「皆、それくらいにしてやるが良い。アシュリーの顔が真っ赤ではないか」


「ああ⋯」

「あら」

「おや」

「まあ♪」



 皆驚きの魔法演技の映像公開から始まった夕食は、私の恥ずかしい昔話で和やかに終わった・・・。



 恥ずか死ぬ・・・。






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