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55話 クラリッサの憂鬱〜専属侍女視点

第4章始まりです。

 アシュリー様はやっぱり悪役令嬢なんかじゃないよ!絶対違う!

 悪役どころかヒーローじゃない?

 高等部に編入したら、絶対何か起こすに決まってるって思ってたけど、ここまですごいなんて思っていなかった。


 何がすごいって・・・あの魔法!

 何あれ!


 いつの間にあんなすごい魔法が使える様になっていたの!普段全く魔法なんて使わないから知らなかった。

 練習でひと通り見せてもらった時も感動したけど、本番では、魔物の数も倍くらいに増えてたし、アシュリー様まで戦ってるし、炎の龍の勢いも花の量も半端なかった!

 練習通りじゃないことがいっぱいあって、またまた感動したよ〜!



 私は詳しくはあまり聞かせてもらってないけど、あの魔法演技は、アシュリー様とグレンヴィルとこのモントローズの力を、第一王子暗殺に関わっている者達に知らしめる為だと言っていた。

 国王に言われたのは、高等部編入に文句言って来た人達に魔法が使えると見せるだけだったらしいけどね。


 まあ、アシュリー様がその程度で終わる訳がない。



 あの土人形の魔物達は、その愚かな人達を表したのかな?

 途中、炎の龍が何度も威嚇してた観客席が幾つかあったけど、あそこに居たんだろうね・・・アシュリー様、なかなか容赦ない。


 すっごいビビってるおっさん居たよ⋯うん。



 魔法演技を始める前、アシュリー様が『誰も殺させない』と呟いていたのがすごく印象的に耳に残っている。あの時のアシュリー様には、何て言っていいか分からない気迫を感じたんだ。

 うん、怖いくらいだった。


 その後、『殺させない』のは、第一王子のことかと思ったら、罪を犯した方の一族のことなのだと知った時の感動は言い表せないわっ!

 もう!アシュリー様ってば!!


 アシュリー様は、編入初日から凄かった。

 第一王子暗殺を⋯幾つもの暗殺計画を、全てアシュリー様が阻止したなんて、信じられなかった。


 ゲームでは、第一王子暗殺を阻止するのはヒロインのリアーナだ。悪役令嬢・アシュリーは暗殺に加担する方だった。

 阻止できなければゲーム終了。

 でも、ヒロインは光の魔法で王子の命を助けるだけで、今回の様に幾つもの計画を未然にぶち壊したりはしなかった。

 これはゲームとは全く違う。

 もしかして、まだ暗殺は何処かで起きるのかも知れないの?ゲームでは魔物討伐演習の授業だったと思う。

 でも、それを誰かに教える事も出来ないから困ったなぁ〜!


 高等部に編入したから、次々と攻略対象と接触してるアシュリー様は、また無自覚に色々やらかしているみたいだし・・・。


 第一王子も、宰相の息子も同じSクラスだから仕方ないと思ってたけど、兄さんの話では宰相とはまだ何もないみたいでちょっと安心。


 第一王子とは、もうどうにでもなれって気がしてきた。

 私は初等部だから、現場は一度も見れなかったけど、噂は初等部まで広まってきたよ・・・。


「第一王子のギルフォード様とグレンヴィルのご令嬢のアシュリー様は、毎日毎日楽しそうにじゃれ合っている」


 って!なにー?

 じゃれてるって!


 兄さんに聞いたから詳細は分かったけど、普通じゃありえない展開だから!

 何処の世界に王子に蹴り入れたり、木の実を投げたりする貴族令嬢がいるのよ!

 何か、王子に肩車されて走り回ってたら、淑女科の先生にめっちゃくちゃ怒られたっていうのも聞いたわ!


 ありえない・・・。ヒーローの様だとも思うけど、あのイノシシ娘のやる事はホントに理解不能ねっ!



 アシュリー様は第一王子の事は何とも思って無さそうだけど、どうやら王子の方がアシュリー様をかなり気にしているらしいって兄さんは言う。そりゃ、それだけの不敬を許してるってだけで分かるってもんよね!


 それはどうしょうもない。

 アシュリー様可愛いから!



 とりあえず、アシュリー様の目には映ってない王子問題は先送りにしておこうかな♪これから増える問題は⋯カーライル様だと思う。

 多分、帝国の皇子はアシュリー様と同じSクラスのカーライル様で、名前を変えているんだと思うから。デヴィッド・カーライルって聞いたけど、確か名前は「ディーデリヒ」のはず⋯まぁ、確認しようがないけどね。

 カーライル様は剣術大会でアシュリー様が認めた3人の中に入ってたから、絶対これから接触すること増えると思うんだ〜!

 アシュリー様、強い人には無条件で興味持つからなあ〜。


 帝国とは、まだ絶対何か起こるはずだから、兄さんにも気を付けてもらわなきゃって思うんだけど、まずはどうやって説明するのか考えないと・・・。



 後は、魔術師団長の息子・・・いつの間に接触したの?魔術大会の時に注目してたのは、絶対接触したからだと思うんだけど、余計な事を聞いて、墓穴掘ってもダメだから聞けなかった。


 魔術師団長の息子・マシューは、魔術が父親ほど優れていないことで、父親に相手にされず(ゆが)んでいく・・・それを救うのがヒロインだったはず。


 でも、魔術大会のマシュー様は何処も歪んだ感じしなかったよね?しかも4位だったっけ5位だったっけ?

 多分、アシュリー様が何かしたと思うけど、聞けないのがもどかしいっ!

 学園にいる間の事はなかなか情報が掴めないから困ったなぁ。カーネギー魔術師団長から情報を得ることも考えておかなきゃダメかも。


 今は専属侍女らしく傍に付いて居られるから、色々見られていいけど・・・。



 アシュリー様が、この前から練習してる魔法も見逃さなくて良かった!

 騎士見習い研修の為に一生懸命練習してる土魔法なんだけど、この世界に転生してから()()が見られるなんて感動したわ〜!


 ふふふっ♪

 ホント、アシュリー様最高!






 グレンヴィルに帰る時になって、オンブロー伯爵の護衛をするのだと聞いた時は驚いた!

 側妃の父親が第一王子暗殺に関わっていた事はゲームでも同じだ。でもゲームでは側妃も関わっていたし、最後に全員捕まり罰せられた・・・。


 アシュリー様の話では、側妃と王妃は友達の様に仲が良く、第二王子はとても可愛く、第一王子をアシュリー様に護って欲しいとお願いして来たらしい。

 この辺もよく分からないんだけど。そろそろ私も色々深く考えるのはやめたくなって来た。


 ゲームと違いすぎ!


 オンブロー伯爵は、結局アシュリー様の何かに惹かれたみたい?アシュリー様がオンブロー家の連坐を阻止する為に魔術大会に出た事知ってるのかな?知ったら悪人でも絆されるよね♪

 私も現代日本で育った記憶があるから、連坐というのは納得出来ない。アシュリー様は納得出来ないなら本当にやってのけちゃうからすごいよ。



 オンブロー伯爵の馬車と合流し、廻り道をしてグレンヴィルへ帰るらしいけど・・・私、ちょっと甘かったわ!オンブロー伯爵の護衛というのが、どんなに危険なものか、その時が来るまで全く考えてなかったの!



 同じ馬車に乗っていた私は、アシュリー様が旦那様に追手の存在を知らせた所から聞いていたんだけど・・・アシュリー様とヘクターが騎士を連れて走って行った辺りはまだ良かった。

 私はオンブロー伯爵の馬車に移るように言われたので移動した。この場に残った騎士に馬車の周囲を護られているので、緊張はしているが怖くはなかった。



 騎士が馬に乗って縛られた男を連れて来たと思ったら、男を放り投げて直ぐにまた戻って行って、ちょっと驚いたな。


 それからしばらくした時だった。


 旦那様が何か指示をしたと思ったら、騎士達が一斉に森に向かって動き出して・・・そしたら「戦闘の音」が聞こえた!

 私、実際に本当の戦いの場を経験するの初めてだって気が付いて、急に怖くなった!


 アシュリー様は!?

 アシュリー様は戦ってるの!?


 私は声に出していたのかな?

 オンブロー伯爵が言った。


「アシュリーは負けはせんよ。あの娘は神に選ばれた娘だ。安心して待つが良い」


「あ、ありがとうございます?」


 神に選ばれた娘?

 オンブロー伯爵は、アシュリー様を神に選ばれた人間だと思ってるの?

 アシュリー様、オンブロー伯爵に何をしたの?


 そんな事を考えていたら、外から悲鳴が聞こえて来た。


「助けてくれーー!!」


 ビクビクしながらも、馬車の窓から見える部分だけ見ると・・・


 叫んでいる人達は、何mも上の高い場所に居た。旦那様の3倍以上の高さだから7〜8mくらいはあるかな?多分、土魔法で押し上げられたんだと思う。少しでも動いたら落ちそうな土の杭が、てっぺんに縛られた人を乗せて何本もそそり立っている。



 アレは、怖い・・・。

 あの土魔法は旦那様かな?



「助けてくれーー!!」

「俺たちは金で雇われただけなんだー!」

「あんたらに恨みなんかないーー!」


 人を襲って(襲ったのはこっちが先かな?)おいて、そんな話が通用すると思ってるの?


「誰に雇われた」

「仕事の仲介屋だ!」

「いつも何処かのギルドにいる!」

「赤髪の奴だ!」

「名は知らん!」


「こいつらじゃ、話にならんな。アシュリーが捕らえた方はどうかな。そっちも期待は出来そうもないが⋯」


「降ろしてくれーー!」

「悪かったー!」

「金が欲しかっただけなんだー!」


「ああ!うるさい!」

「奴らには猿轡を噛ませますので1人ずつ降ろしていただけますか」

「そうしてくれ」

「その仲介屋も押さえておいた方が良いかと」

「そうだな、ウォルポールの警備隊に伝言を飛ばす」


 そう言って、旦那様は風魔法を使って伝言を飛ばしたみたい。詠唱はよく聞こえなかったけど、ササッとやっちゃうのがかっこいいね。アシュリー様もすごいけど、旦那様も色んな魔法が使えるのよね!

 何か、さっきまでの怖さはどこかへ飛んでったみたい。



「警備隊を何人か送ってくれる様だ。しばらく待つとしよう。アシュリーの方もそろそろカタがつく頃だろう」



「やはり、グレンヴィル辺境伯はアシュリーの父親だな・・・(たぐい)まれな父娘だ」


 この状況を一緒に観ていたオンブロー伯爵が、ボソッっ呟いた言葉に私は大きく頷いた。

 それを証明するかのように、お嬢様は無傷で戻り、18人を土に埋めてきたと言った。私もオンブロー伯爵も苦笑するしかなかったよ。




 オンブロー伯爵と別れてグレンヴィルへ向かう事になったら、アシュリー様が馬車に魔法をかけた。しかも2台とも!

 そうしたら早いのなんのって!この世界に慣れた私は、こんな早い乗り物なんて乗った事がなくてすっごい怖かった!!

 2日目には慣れたけど・・・1日目はアシュリー様を恨んだわ。



 私が落ち着くのを待っていたのか、旦那様が話を始めた。


「学園の長期休暇が始まってもうすぐ10日だ。そろそろ領邸には、研修に参加する騎士志望の生徒達が集まって来る頃だろう」

「24人いらっしゃるのでしたね」

「いいや、2人増えて26人になった」

「まあ!」


「その増えた2人とは、お前達のクラスメイトだ」

「旦那様。もしかして・・・」

「ああ、ヘクターの予想通りだろう。ギルフォード殿下とエドゥアルド・ハミルトンだ」

「ハミルトン?」


 アシュリー様は、エドゥアルド様が誰か分からないみたい・・・。クラスメイトの名前くらい半年も経ってんだから覚えなさいよっ!


「次期ハミルトン公爵様のご子息ですか?」

「違う。ハミルトン公爵家次男・リチャード様の長男だ。お前も会ったのだろう?宰相だよ」

「・・・!!」


「私は何故お嬢様が知らないのかが分かりません!理学の授業でも先生が言っていたではありませんか」

「・・・?」

「その顔は聞いていませんでしたね。天気を当てる授業で、私とエドゥアルド様だけが『雨』を選んだのですよ」

「あっ!あの方がエドゥアルド様ですか!」

「そうです。天気は結局曇り、そして夕方から雨になった⋯その答え合わせの授業でエドゥアルド様が『天気の読み方は父親から教えられた』と仰ったのに対して、先生は『できる宰相は違うな』と言いました!」


「そういえば、聞いたような気が・・・」


「本当に興味がない事は右から左に抜けてしまうのですね⋯。それに、ギルフォード様とご一緒にいらっしゃることが多いので、目に入る事も多かったのでは?」

「・・・・・・」

「目に入っていませんでしたか⋯はぁ」


「ははっ!エドゥアルドが殺気でも放っていれば、アシュリーでもすぐに覚えたであろう。あの出来た息子は気配を消すからな。敵にならぬ者はアシュリーに意識されなかったという事だ」

「気配を消す?」

「そんな所には反応するんですね!」

「えぇ⋯私も気配を消せる様になりたいな⋯と」


 アシュリー様の所為で話が逸れてってるよ、皆さん。


「クックック⋯。ヘクターまぁそう怒ってやるな」

「あ、申し訳ありません!」

「いや、謝ることはない。アシュリーがこの様に学園で過ごせるのは、ヘクターやクラリッサあっての事だ。そのままで良い」

「ありがとうございます」



「話は逸れたが、その大物2人以外にも、先日ヘクターやクラリッサに聞いた子供達、つまり騎士志望とは思えぬ貴族の長男が参加しておる」

「先日聞かれたとは、初等部の・・・」

「ああ、ジョン・モーランドもだ」


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 読めた♪

 その人達はアシュリー様狙いで家から送られて来たんだ!

 ギルフォード殿下もかぁ〜!


「長男が騎士志望ではおかしいのですか?」


 アシュリー様には状況が飲み込めていないみたい。こういう事には鈍そうだから当たり前か・・・。

 ウォルポール元公爵夫人の教えのお陰で、少しは自分の立場を理解したと思ったんだけどなぁ。面と向かって紹介されなきゃ分かんないのかも。

 今回はアシュリー様の大好きな『訓練』絡みだし・・・訓練に自ら参加する様な奴に悪い者はいないとか思ってそうね!


「貴族家の長男は、普通は爵位を継いで領地に入るだろう?」

「でも、トーマスお兄様は跡継ぎでも騎士でもありますわ!」

「あぁ、まぁ、そうだな・・・」

「きっと領地を守る為にご自身も鍛えようという立派なお考えなのです!」

「・・・そうきたか」


 旦那様は何か企んでいるような?ちょっと悪巧みしてるようなお顔に見えるよ?



「そうだな!アシュリー、彼らを立派な領主になれるよう力を貸してやってくれ」

「はい!誠心誠意努めます!」


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 兄さんと顔を見合わせる。

 何となく旦那様の魂胆が見えた気がする。


 騎士志望ではなさそうな彼らには『ご愁傷さま』と心の中で呟いておいた。




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