53話 オンブロー伯爵の訪問
たくさんの誤字報告ありがとうございます!
見境なくて本当に申し訳ありませんm(*_ _)m
見捨てず指摘いただき感謝感激です!
私の食事も普通食に戻り、起きた時から元気な身体はより元気になり、領地へ戻る為の準備が始まった。
まあ、私は何もしてないが・・・。
私の従者となったヘクターも、これからは毎回一緒に領地に戻る事になったので、準備が大変そうだ。
ヘクターには体術の師匠がいるらしく、長期休暇の間の訓練が出来ないと困っていたので、お父様が領地屋敷に師匠の部屋を用意すれば良いと言った所為でもある。
ヘクターの移動の為ではなく、普段は鍛冶師である師匠の移動の為の準備が大変そうなのだが、どうやら最初は説得に失敗したようで、師匠殿は一緒に帰らないと言ったらしい。何度も移動するのは面倒だとか。
その気持ち、よく分かるよ。
しつこく頼んで、やっと了解をもらいったのだが「自分の好きなように帰る」と言われたらしく、いつグレンヴィルへ着くのはは不明だということだ。
落ち込むヘクターを他所に、明日にはグレンヴィルへ戻るという時、オンブロー伯爵から私への面会依頼があった。
お父様は断ると言ったが、私は会っておきたいと思い、直ぐに連絡をしてもらった。
明日には王都を出るので急がねばならない。
お昼を過ぎた5の鐘の頃、オンブロー伯爵はやって来た。
「グレンヴィル辺境伯殿。領地に帰られるお忙しい時に申し訳ありません。
この度、私は領地に戻る事になりました。その前にどうしてもご令嬢と話をさせてもらいたく参りましたが、こうして受け入れて貰えて心より感謝いたします」
「いや、アシュリー自身が伯爵に会いたいと申すのでな。まあ、畏まらずとも良い」
「初めてお目にかかります…でよろしいでしょうか。アシュリーです」
「ははっ、こうして面と向かって挨拶するのは初めてと言えましょう」
「オンブロー伯爵様は、私に何かお聞きになりたい事があるのではないですか?」
「ああ、聞きたいこと…と言うより頼みです」
「頼み…ですか?
私にできることでしたら・・・」
「多分、アシュリー様にしか出来ぬと存じます。
もう一度、神獣と話をさせてもらえませんか?」
「何だと!?」
あれま、お父様がびっくりしてるよ。そういえば、思考電話の事はロバート先生しか知らないか。
「お父様、これは私への頼みですから。
オンブロー伯爵、少々お待ちを」
何か言いたげなお父様はとりあえず放置して、神獣に話しかける
『神獣様〜神獣様〜神獣様〜!』
『一度呼べば分かるわ!』
デジャブ・・・。
『オンブロー伯爵が神獣様ともう一度話したいって言ってるけどどうしようか?』
『ああ、我は構わん』
『いいのですか?もう一度って言ってるけど、前の時はロバート先生だから話が食い違ったりしないかな?』
『いや、この前話したのも我だ』
『・・・えーーー!?』
『我がそこの人間に話した』
そ、そうだったのか・・・
そういえば、ロバート先生の記憶の会話を聞かせてもらっていた時、神獣にそっくりだな〜って思ってたのだ!
そうか、そういう事だったのか!
それならそうと言ってくれれば良かったのに。
『じゃあ、問題ないですね?頼みまーす!』
『分かった。繋ぐが良い』
「オンブロー伯爵。神獣様はお話になられるそうなのでそのままお待ちください」
『思考電話発信!』
『我に話したいこととは何だ?』
『ハッ!もう話せるのか!?』
『ははっ、我とこの娘とは繋がっていると言ったであろう』
『そうだったな・・・
神獣…と呼べば良いか?』
『なんとでも好きなように呼べば良い』
じゃあ、ケンシロ・・・
『却下だ!』
『何?なんの事だ?』
『すまん。この娘がうるさくてな』
『グレンヴィルの令嬢も話せるのか?』
『ああ、しかし、あの娘がいると話が進まん!放っておくがいい』
ひどい!
『・・・本当に繋がっているのだな。
儂は神獣にもグレンヴィルのご令嬢にも』
アシュリーでいいよ
『・・・では、アシュリーと呼ばせてもらおう。あなた達に礼を言いたいのだ』
『礼とはまた殊勝なことだ。
何を手にして何を捨てるのか決めたようだの』
『ああ、それを選べと教えてくれた神獣に感謝している。そして、それを選ぶ事が出来たのは全てアシュリーのおかげであると儂は知ったのだ』
・・・?
『ははっ!この娘はなんの事か分かっとらんようだぞ』
なんの事?
『良いのだ、お前は無自覚でやらかしているだけだからの…』
分かった!
オースティン殿下のお願い聞いたことだ!
『・・・それもある』
他に感謝されることあったかな?
『良いのだ、お前には当たり前の事だったのだろう』
『そうか、アシュリーには当たり前の事なのだな。連坐を許さない正義感に、私と私の家族が救われたのだよ。
私の罪は、そそのかされたとは言え、本来許されるものでは無い。アシュリーが阻止してくれなければ、今頃取り返しのつかない事になっていた。
私は本当に悪しき人間なのだ!
しかし、儂が捕えられれば一族諸共連坐だ。罪を償うことは出来ぬが、二度と罪は犯さぬ。救われた分は領地と国に返していこうと思っている』
そうか、分かった!救われたなら、やっぱり良かったって事だよな!
『・・・お前、敬語は何処へいった?』
ハッ!
『大変申し訳ございません!』
『アシュリーは、豪胆な娘だと思っていたが、本当に全てがそうなのだな』
『ああ、忘れてやってくれ』
『そうしよう』
『・・・そうしてくださいませ』
『今更遅いわ!だから黙っていろ』
だって、考えたら聞こえてしまうのだ…です。
考えている時まで丁寧な言葉を使うのは難しいのだ…だす。
『ふふっ…楽しい娘だ。本当に感謝する。
これで心置きなく領地に戻る事ができる。
アシュリー、もし機会があれば、ソーントンにあの見事な土魔法を教えてやってほしい。機会があればで良い』
『はい、承知しました!』
『儂は領地に戻るが、まだ反国王派の貴族は多い。気を付けるのだよ』
『・・・はい』
『特にハーヴェイ・アトール公爵と次男のブレイディには要注意だ。今回のギルフォード殿下暗殺の首謀者は彼らだ』
『私にそれを話しても良いのですか?』
『ああ、私はアシュリーに対しては至誠であると決めたのだ』
『しせい?』
『難しかったか?簡単に言えば「正直者でいる」という事だよ』
『そうですか!ありがとうございます!』
『アトール公爵の長男様は?』
『長男のパクストンは穏やかな性質の真面目な人間だ。他人を妬み悪事を画策する様な人間ではないと思う。今回の計画には加担していないだろう』
そうか・・・魔術大会の時にもっとよく見ておけば良かった。
『アシュリーやグレンヴィルを敵に回す様な事はしないが、きっと何らかの搦手を使って来るだろう』
『この娘は単純だからな、すぐ騙されるかも知れん』
そんな!
私は案外思慮深いのです!
『・・・・・・そうか』
『我は、お前が自画自賛している事は知っておるが、いつもお前の考えた事は裏目に出ていなかったか?』
・・・そうだったか?
記憶にございません。
『お前の記憶力は都合次第で変わるのか…』
『はははっ!アシュリーならば大丈夫か?だが、油断は禁物だ、相手は蛇の様な奴だと思うといい』
ヘビ?
ヘビは嫌いじゃないよ!
なかなか美味しかった!
『・・・』
『・・・』
あれ?
無言?
『やはりお前が入ると話が逸れる!黙っておれ!』
はーい・・・
『今回の計画では、私は学園のホールに女神像を用意するだけの役割しか与えられていないが、私以外にも何人かの貴族が関わっているはずだ。
アトール公爵は用心深く、文書などは絶対使わない。私もそれを真似た。公爵から声を掛けられてから3年間、一度もだ。
そして、公爵は平民を使う。子飼いの平民が何人もいるはずだ。
そして、一番用心しなければならないのは、帝国と繋がりがあるかも知れないという事だ』
帝国?
『ああ、あの毒薬は全てアトール公爵が1年以上もかけてこの時の為に準備したものらしいが、それを作ったのが帝国の薬師らしい。
私は薬が手に入ったから実行に移すと連絡をもらっただけなので、詳しいことは分からんが・・・』
『帝国か・・・帝国の奴らは何度も森に入ろうとしておるが、グレンヴィルの者達と違って、いつも魔物達に追われておるわ!』
あれ?帝国側の魔の森って、全部グレンヴィルの領地じゃなかったか?
『そうだろうよ。大きな川を国境にしておるはずだが、帝国の奴らは何度も川を超えて来ておるぞ。
まあ、川を超えるのがやっとだがな・・・』
そうなんだ。じゃあ、やっぱりモントローズ王国侵略を画策していると?
『私は、これまで陛下に反発していたから気付かなかったが・・・落ち着いて考えてみれば、ギルフォード殿下を暗殺したとして、私が罪に問われれば一族は連坐、マグダレーンとオースティンも幽閉される事は必至 必定。
モントローズ王国の王位継承権は男子のみに与えられる・・・という事は、次の王位継承者は王弟であるアトール公爵だ!』
なんと!
そういう事だったのか!
『ははっ…私はまんまといいように使われたのだよ・・・』
慰める言葉もない・・・
『いいのだよアシュリー、自業自得というものだ。それを君が救ってくれたのだ、感謝する気持ちが分かるだろう?』
何となく・・・
『帝国の我が国への侵略は、今のところグレンヴィルのお陰で不可能のようだが、国の中から崩すという事も考えているのかも知れん。
アトール公爵と帝国には思惑に齟齬がありそうだが、繋がっているのは確かだ』
『もしかして、オンブロー伯爵は反国王派からすると裏切った事になりませんか?』
『そうかもしれぬな』
・・・・・・。
『オンブロー伯爵の方こそお気を付けください』
『承知した』
私は思考電話を解き、放心状態のお父様に話しかける。
「お父様、オンブロー伯爵が領地に戻る際、グレンヴィルで護衛をする事は可能でしょうか」
「・・・ハッ!何と?」
「ですから、オンブロー伯爵が領地に戻る際に、グレンヴィルから護衛を出すことは出来ますかとお聞きしました」
「オンブロー伯爵の護衛・・・そうか。考えられるな。アシュリー、よく気が付いた」
「私の護衛などでグレンヴィルの騎士をお借りする事など出来ません!」
「いや、今だからこそ、グレンヴィルの騎士が必要であろう」
「騎士ではなく、私が付いて行けばよろしいかと」
「・・・それは止めた方が良い。アシュリーの行く所行く所に騒ぎが起きそうで怖いわ!」
どういう意味だろう?
「オンブロー伯爵。出立はいつの予定だ?」
「明日の予定です」
「そうか、一緒だな。明日は我々が伯爵家に行くまで待っていてくれ」
「はぁ…よろしいのですか?」
「ああ、構わん」
「それでは明日、お待ちしております」
そうして、オンブロー伯爵はグレンヴィルの騎士に送られて帰って行った。
「さて、アシュリー。神獣と話をするというのはどういうことだ?」
あ、そうか、話するの忘れてた。
「はい。私はいつでも神獣様とお話が出来るのであります!頭の中で!」
「何と・・・いつでも?」
「はい!まだ神獣様のお名前を決めておりませんので、お父様も是非考えてください!」
『要らんわ!』
『も〜わがままだなぁ〜』
『どっちがだ!』
「何か、神獣様が文句を言っておりますので、格好良いお名前をお願いします!」
『・・・・・・』
「そ、そうか?嫌がっておるのではないか?」
「そんな事はありません!」
『・・・・・・』
翌日、朝の食事を済ませた後、直ぐに出立の準備がなされた。
さあ!グレンヴィルへ帰ろう!
まず、オンブロー伯爵を迎えに行き、途中まで同行する。オンブロー伯爵家の馬車2台とグレンヴィルの馬車2台で、結構な行列である。
道行く人よすまん!
王都の街を過ぎ、農地や平原が広がる辺りまで来た所で、私は身体強化をかけた。
もちろん索敵の為である。
しばらく様子を窺いながら、馬車の旅を楽しんだ。途中、何度か休憩を入れながら進んでいるが、王都に来た時より早めに進んでいる様に思う。
真っ直ぐグレンヴィルへ帰っても10日くらいかかるのなら、オンブロー伯爵の領地の方へ廻り道をするのだから、プラス何日かかかる訳だ。
私も随分魔法が上手く使える様になったので、帰りは早くグレンヴィルへ着ける様な魔法を考案せねば!
馬が若返る以外に!
もうすぐ夕暮れになる。
もうそろそろ良いだろうと、索敵で得た情報をお父様に伝えた。




