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50話 魔術大会 その後

 目を覚ますと、自分のベッドだった。

 よく寝た後の様に、パチっと目が開いて目覚めスッキリである。


 記憶は魔術大会の演技が終わった所なんだが・・・寝ていたという事はどういう事だろう。


「お目覚めになられましたか?」


 この声はソレルだ。


「ソレル、おはよう!」

「ふふっ、お元気そうで良かったです。お医者様が心配ないと何度仰ってもやっぱり心配でしたから」

「お医者様が?」

「アシュリー様は学園で倒れられたのでお屋敷に運ばれたのですよ」

「倒れた!?私がですか!?」

「ええ・・・倒れたと言うか・・・眠ってらっしゃったというか・・・」


 これはただ寝てたのだな!

 あの時、酷く眠くなった覚えがある。

 急に怠くて眠くて・・・何でだ?



「お嬢様!!」

「アシュリー様!」


 すごい勢いでヘクターとクラリッサが駆け込んできた。


「これ、二人とも!騒がしいですよ!」

「申し訳ありません・・・」

「お嬢様は大丈夫ですよ。お元気そうです」

「本当ですか?何処も痛いところなどありませんか?」

「心配をかけてしまったのですね」

「アシュリー様は3日も目を覚まされませんでしたから」

「3日!?」


 そんなに寝てたのか。

 そりゃ心配するわな。

 3日という事は、学園も既に夏季休暇に入ったという事だ。


「ヘクター、クラリッサ、心配かけてごめんなさい。でも、私、どこも何ともないわ。頭もスッキリ元気すぎるくらいです」

「そうですか・・・良かった・・・」

「では、私は旦那様をお呼びして来ます。皆さん心配されていましたからね」


 しばらくすると、お父様もすごい勢いで駆け込んで来た。


「アシュリー!」


 デジャブ・・・。

 今回お兄様達はいないが。


「お父様、心配かけてしまったようで申し訳ありません。もう、とても元気です!」

「そうかそうか、良かった!」

「それで、私は何故倒れたのでしょうか」

「あー多分と言うか、確実に魔力切れだ」

「魔力切れ?」

「ああ、アシュリーは初めてなんだな」

「はい。意識を失う前、とても怠くて眠くなりました」

「そういうものなのだよ」


「それより、あの後何かありましたか?私は意識がありませんでしたので、状況を知りたい…と」

「そうか・・・少し待つが良い」


 そう言って私の部屋を退出したお父様は、しばらくして何かの魔道具を持ってきた。


「これはハロルドに頼まれたもので、アシュリーの魔術大会の様子が入っている魔道具だ。これなら説明するより分かりやすいだろう」


 なんと!

 ハンディムービーかっ!?

 そういう事なら早速見てみよう。




 ・・・・・・・・・。


 これ、私、全てを台無しにしてないか?


 演技は良かった!

 我ながら完璧だ!


 しかし、その後。



「アシュリー!!」


 ロバート先生が駆け寄って、倒れそうな私を抱きとめてくれたまではまだギリギリセーフ。


 その後・・・。


「アシュリー・グレンヴィルに何があったのでしょうか?」


 司会の声が、画面に映ってはないが聞こえてくる。


「アシュリー!

 カーネギー伯爵、アシュリーに何があった!」


 そしてお父様の慌てた声が、観客席でこの画像を入れてくれている騎士の横で聞こえる。

 画面に映ってないので、観覧席と闘技場の地面とで話しているのだろう。


 大声で。


「えーと・・・」


「ぐーーーーー・・・」


「・・・・・・・・」


「寝てます」


「ぐーーーーー・・・」


「そ、そうか・・・」



 それらは闘技場にいる全ての人達の知る所となったのであった・・・。


 完。




 なんだこれー!


 恥ずかし過ぎる!



 ・・・・・・しかし、終わってしまった事を悔やんでも遅い。ただ、この結果、オンブロー伯爵達への脅しが全く意味のないものになってしまっては困る!


「お父様。こんな恥ずかしい結果になってしまいましたが、私は仕事を果たせたのでしょうか!」

「ああ、それは大丈夫だ!安心しなさい」


 ひとまず安心。


「その魔道具には入っておらぬが、その後が大変だった・・・

 お前がグーグー寝てる様子が可愛すぎてなぁ、それまでの高い技術と豊富な魔力に加えてのあの戦闘力だろう?その差異の激しさが余計に会場の人達の母性本能を擽ったのか・・・女生徒や、生徒の家族の女性達からの見舞いが凄かったのだ」


 な、なんだそれは・・・。

 思わぬ副産物である。


 確かに無防備に寝るちびっ子は可愛い。トーマスお兄様の息子のクリフォード君は、思いっきり遊んでいたと思ったら、いきなり寝落ちていることがある。あれは面白くて可愛い!

 私はそのちびっ子と同じという事だろうか。

 そこまで小さくはないはずなのだが・・・。


 恥ずかし過ぎるっ!


「そして、仕事の結果はもう出た」

「・・・結果?」

「ああ、オンブロー伯爵は、爵位を長男のザカライアに譲り、自分は貴族院も引退すると昨日議長の所に連絡が入った。今後は領地でゆっくり過ごすのだそうだ」


 ・・・そうか。

 ロバート先生、上手くやってくれたのか。

 それにしても決断が思った以上に早い。余程オースティン殿下の言葉が刺さったか?


「それと、アシュリーの高等部編入に文句を言って来た貴族は全て撤回すると、当日に謝罪して来たらしい」


 おお!

 これは大収穫である。

 学園長にもうドヤ顔はさせない!


「それと」


 まだあるのか!?


「既に、この夏季休暇にグレンヴィルへ研修に来たい騎士志望の生徒が24人も集まったらしいのでな、受け入れを始めたよ」


 え?

 24人も?


「私が学園長に提案してなくても、『グレンヴィルの訓練期間を設けて欲しい』そういった問い合わせが次々来ていたそうだよ。学園長には、研修をしてくれて助かると礼を言われた」


「何故、でしょうか」


「アシュリーが、ギルフォード殿下を救ったからだろう」

「王子を?あれはまだ編入したばかりでした」

「騎士は王族や国を護るものだ。生徒でありながら王族を救ったグレンヴィルの長女は憧れなのだよ」

「そうなの、ですか?」

「それだけではない。訓練したのだろう?サルボボの実を投げて・・・ブフッ!」

「お父様・・・」


 笑ってるよ!

 しかし、そうか・・・

 あの訓練は皆もやりたかったのか!



 その後、何処も悪くない私は直ぐに起き上がり、お腹がすごい減っていることに気が付いた。3日も寝腐っていたので当たり前である。

 しかし、空腹な所にいきなり消化の悪い物を詰め込むことはできず、スープだけの食事となった・・・哀しい。


「アシュリー様。少しずつ増やしていきましょうね。ボニファスも張り切っておりますよ!」

「はい!」


 食べられる様になるまで我慢だ!


 それから、医師には3日かけて普通の食事に戻していく様にと言われたのである。

 それはいい、食事はそれほど苦にはならぬ。だが・・・訓練などの激しい運動もダメだと言われ、私は目の前が真っ暗になった!


「そこまで落ち込む事ですか?」


 ・・・・・・。


「そうですね、アシュリー様にとっては食事より大事なんですよね」


 クラリッサに呆れた様に言われたが、ショックが大き過ぎる。ベッドの中でイジイジしていると、ヘクターもやって来た。


「やる事なら沢山ありますから、いじけている暇はありませんよ!

 前期の終業の日に出られなかったお嬢様の分の課題もちゃんともらって来ましたからね!刺繍とレース編みの課題もありますよ〜♪ 領地に帰るのが遅れた分、今のうちにやりますよ!」


 学園とは、恐ろしい課題を寄こすようだ。

 とりあえず、皆で一緒に勉強する事にした。



 勉強しながらふと思い出した。

 そういえば・・・



「お父様。ロバート先生にお会いしたいのですが、どうしたら良いでしょうか」

「カーネギー伯爵には、先程、アシュリーの目が覚めた事を手紙で知らせた。近いうちに来るのではないか?」


 そうかなあ?

 お父様に緊張しまくりだったロバート先生の様子を思うと疑問だ。



 などと思っていたら、その日のうちに来た。



「アシュリー。魔力切れの後で身体の調子は変わってないか?」

「えーと・・・多分変わってないと思います。前より元気なくらいです!魔力切れを起こすと何か変わるのですか?」

「いや、魔力が戻れば大丈夫のはずだ。ただお前には『普通』が通用しない事が多いから・・・何か異常が起こるかもしれないと思ってな」


 うん、確かに。

 人の常識を無視し続けた自分を信用してはいけない。


「どうやって確かめましょうか」

「そうだな…身体を温めるか冷やす魔法を使ってみるか?」

「御意!」


 何が起こるか分からないので、一応外に出る。

 もう中夏(多分、前世の7月くらいだと思う)なので、冷やす魔法を使おう。


 魔力を全身に・・・あれ?


『全身ア●スノン!』


 自分の周囲が少しひんやりしてくるのが分かる。分かるが・・・。


「先生」

「ああ、普通にできるようだな。異常は無さそうで良かった」

「先生・・・異常があるようです」

「何?どうした!」

「異常という訳ではないかもしれませんが⋯いえ、やっぱり・・・」

「だから、どうした!?」

「早いです!魔力の流れが異常に早いのです!いつもなら、じわじわっと魔力が集まって来るのが分かるのですが、今は一瞬にして全身に魔力が広がった気がします!」


「なん、だと…?」


 どういう事なんだろう。

 1回魔力は無くなって、寝ている間に補充されたと思うのだが、それで何が変わるのだろう…。


 ロバート先生も、顎に手をやって「考える人」の様になっている。


「前例が無いから何とも言えんが⋯先程、お前は前より元気と言っていたな」

「はい。いつもより体調が良いくらいです。いっぱい寝たからでしょうか?」

「・・・まだ分からん。調べてみることにする。早い以外に変化は感じられるか?」


「そうですね・・・魔力を使うのが楽?に感じます。普通にと言うか、自然にと言うか、とにかく『楽』です!」

「そうか。悪くないのなら心配はないだろう。これから夏季休暇は領地に帰るのだそうだな。グレンヴィル領にはハロルドもいるだろうから大丈夫かと思うが、もし何か困った事があれば、連絡して来い」

「ありがとうございます!」


「今日は、その為だけに来たのではない。オンブロー伯爵との思考電話のやり取りをお前も知りたいだろうと思ってな・・・教えに来てやったのさ」

「もちろん知りたいです!」

「それで、良い方法を思いついたんだ」


 そう言ってロバート先生は自分の頭を指さしたので、私は直ぐに分かった!思考電話で、ロバート先生が思い出す内容を聞き取ればいいのだ!


 私はすぐに黒の魔力で先生に思考電話を掛ける。

 あれま、これも楽に早くできてしまうよ・・・。


『思考電話発信!』


『せんせ〜せんせ〜せんせ〜せんせ〜』


『一度呼べば分かるわ!』

『すみません・・・』

『では、今から思い出すからな。

 中断させるなよ?面倒だから!』

『承知しました!』





『そこの人間』

『は!?誰だ!?』

『お前だ!』

『なんだ?誰だ?』


『オンブロー伯爵といったな・・・お前のことだ』


『誰が、私を呼んで、いる? この声は・・・もしかして儂だけに聞こえているのか!!』


『そうだ、我がお前だけに問うておる』

『神獣?そんな馬鹿な!何故だ。何故儂なのだ!』


『それはお前が一番良く分かっておろう』

『・・・何の、こと、だ』

『我は全て知っておる』

『・・・』


『我は、この娘の為に話す』

『この娘?』

『ああ、我はアシュリー・グレンヴィルと繋がっておるのだ』

『なっ!・・・』


『この娘が何故この様な魔法演技をしておると思う!この娘はお前の罪を無いものとし、連座で処刑されるお前の一族を守ろうとしておるのだ!』


『はっ!そんな馬鹿なことが⋯』


『その為に国王にまで食ってかかりおったぞ、この娘は・・・その時の娘の言葉をそのまま我の記憶のまま伝えてやろう。聞いておれ!


ーーーーー「遺恨などそこら中に残っておりましょう!それを判断する努力もなく、疑わしき者だからと、前途ある子ども達まで全て処刑することで国の安寧を求めるなど、それほどモントローズ王国は弱い国なのですか!?

 我がグレンヴィルが命をかけて護って来たモントローズはそれほどやわな国なのですか!?

 しかも今回の暗殺計画はオンブロー伯爵は嵌められた模様!本当の黒幕を捕らえることも出来ぬというのに、無関係の子どもを処刑する事に何の意味があるのですか!!」ーーーーーー


 涙を流し、握った拳に血を滲ませる程に憤りながら、国王を怒鳴りちらした剣幕は迫力があったぞ』


『そんな、嘘だ・・・』


『我が嘘をつく必要などなかろう。この魔法演技で自分の力を知らしめ、二度と王族に手出し出来ぬよう、お前に心を入れ替えさせるのだと、出たくもないこの大会に出たのだ』


『そんな・・・』


『国王と約束をした後にはお前の孫にも頼まれておった。お兄様を護ってくれ⋯と』

『・・・!』


『お爺様は優しい人だと言っておったぞ。娘も孫も気付いておるのだ』

『そんな!』


『誰もがお前の罪を知っていて何も言えなかった。

 だが、この娘ははっきり言いおった。「殿下の優しいお爺様はその様なことは致しません!」とな。お前の孫の心を護る為の嘘だ』


『そん、な・・・馬鹿、な・・・』

『馬鹿なのはお前だ!』

『・・・!!』

『腹黒い公爵などに良いように騙されおって!』

『・・・!!』


『考えるのだ

 己が何をすべきか

 子孫を護る為に何をすべきか

 その命を守ろうとする者に報いる為に』


『・・・』


『我は見ておる

 お前が何を手に入れ、何を捨てるのか見ておる』





 あれ〜?

 シナリオ違うよ〜?


『シナリオってなんだった?』


『台本⋯も通じないのか・・・芝居や演技の内容を話す言葉まで詳しく書いたもの…かな?』

『ははっ!分かったか。全部変えたからな!』


 何でだ?


『そりゃ、より効果的にする為さ!』


 一応、お涙ちょうだい路線ではある気がするが、主人公が私になってるような?


『その方が効果的だからだ』


 うーん、まあオンブロー伯爵には効果あった様なのでいいか。


『ロバート先生、ありがとう!これで、誰も死なないよな!』

『ああ、大成功だ!』



 えへへ♪

 良かった!





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