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48話 剣術大会

 ロバート先生が我が家に来た翌日から、私は『詠唱してますポーズ』を練習した。

 これはなかなか難しかった!


 口元が見えない様にしたり、それらしく口を動かしたり、魔力を集中させながらポーズを取らねばならないのだ!一度や二度練習したからと言って、直ぐにスムーズに出来るものではなかった。


 先生も、もっと早く言ってくれればいいのに…と何度心の中で愚痴ったことか。


 いや、実際に文句言ったな・・・。



 何とか違和感なくスムーズにポーズも取り入れる事ができたのは3日目。明日は剣術大会というギリギリだった。

 生徒が全員学園から帰ったと思われる夕刻、ヘクターとクラリッサが見守る中、通しで演じてみる事にした。


 本当は、ヘクターとクラリッサにも当日まで見せるつもりはなかったのだが、学園に私が居残りする上で2人が私を放置しておく筈がないのである。



 まあ、2人の様子から仕上がりは上々のようで安心だ。明日はゆっくり落ち着いて剣術大会を見物しようと思う。




 お父様も剣術大会を観ると言うので、観覧席には並んで座る事ができる。この辺りは前世の学校とは違い自由だなあ。

 貴族は優先的に良い席を準備してもらえるという常識を私は知らなかったが・・・お父様の場合、かなり良い席であると思われる。王族の席が近いのはあちら側の意図があるのだろう。



 毎年、剣術大会の出場者は32人と決まっているらしい。それ以上の希望者があった場合は予選があり、それ以下の場合は先生が推薦するなどして調整する。

 今年は予選が行なわれて絞られた32人だと、司会(?)の教師が今説明してくれている。

 いつの間に予選が行われたのかは知らないが、王子は残っているらしい。


 どっちでも良かったが・・・オースティン殿下に期待されている以上、ドヤ顔の王子がこの学園でどれ程の腕前なのか知っておくのは必要かと。

 王子には、大会の間口にするもの触れる物に注意するように釘を刺してある。まだ暗殺計画が終わったとは誰も思っていないのだろう、護衛に騎士団長が付いている事でよく分かる。

 こんなに多くの人の出入りがあり、その上王子自身が護衛から離れ闘技場のど真ん中、誰からも狙われやすい場所に立つのだ。今日という日を警戒しないわけが無い。



 大会はトーナメント方式で、1回戦は闘技場を4つに区切って 4試合が一度に行われ、2回戦は一度に2試合、3回戦以降は1試合ずつ進む。


 出場者の為に途中の休憩もしっかりあり、決勝戦の前の休憩は少し長めで半刻取る。

 魔術師団からは医師が派遣され、明日の大会に出場しない光魔法が使える生徒も待機しているようで、出場者の体調や怪我の管理は万全だ。


 長い説明も終わり、やっと出場者の入場だ。

 一人ずつ名前を呼ばれ、闘技場に入って来る。


 お?王子の他にもクラスメイトがいる。名前は覚えてなかったが、デヴィッド・カーライルというらしい。何となく強そうと思っていた奴だ。


 選手入場が終わり、学園長の激励と開始の言葉と共に大会は始まった。



 いいな〜

 私も剣術大会に出たかったな〜

 こういう大会の緊張感は大好きなのだ!


 私の優勝が決まっていると言うならば、皆がもっとレベルアップすれば私が出場できるのでは?

 淑女科の私は騎士科の授業には出られないし、学年が違えば交流も全くない。騎士を目指す者は皆、グレンヴィルに連れて行けるといいのだが・・・


 1回戦の試合を見ているお父様に質問する。


「お父様、この人達をもっと強くするにはどうしたら良いと思いますか?」

「アシュリー・・・何を考えおる」


 お父様が怪訝そうな顔で私を見る。

 やっぱり変なこと言ったか?


「正直に申します。私も大会に出場したかったのですが、騎士になる訳でもない私が優勝するのは出場者の士気が下がるという理由で断念しました。

 それなら、彼らがもっと強くなれば、私が優勝するかどうか決まっていなければ、出場できるのではないかと・・・」


 お父様がどんどん呆れた様な表情になっていくので、語尾も弱まってしまう。自分勝手な思考だという自覚はあるのだ。


「はあ…そうだな。1回戦とはいえ、確かに彼らは少し訓練が足りないとは思う。しかし、学園の教育方針に我々が口を挟むのは権利から逸脱したものであろう」

「そうですよね・・・」


「まだ1回戦も途中で、半数も終わっておらん。見所のある強い奴も居るかもしれんよ。アシュリーもじっくり見るが良い」

「はい!」


 そうだな、クラスメイトのデヴィッド君の試合も見たかったのだ。


「アシュリー。次はギルフォード殿下の試合だ。気を付けろ」

「はい、承知しております」


 私はこの時の為にある策を練っていた。

 身体強化をし、索敵をする様に殺気の気配をいち早く察知できる様に準備し、何時でも障壁魔法が出せる状態に構える。


 この作戦には欠点があり、私が淡く光ってしまうのが悩みの種なのである。そんなに目立たない程度だが、よく見ると分かってしまうのだ。


「ははっ!本当に淡く光っておるな」


 お父様に笑われた!しかし、落ち込んでいる暇はなく、気配察知に集中する・・・。


「お父様。それほど強くありませんが、三方向から殺気を感じます。そのうちひとつはこちらに向けられております」

「そうか。強くなるようなら迷わず障壁を」

「はい」


 本気で狙うとすれば試合中だが、対戦相手にそれ程の技量はなさそうなので、奴は違うだろう。試合が終わった瞬間が一番可能性が高いが、それよりも、殺気を辿った方が早い!


 王子に向けられているだろう殺気は・・・ひとつは観覧席だが、そちらは後回し。あれは医療部隊か?緩い殺気に焦りの様な緊張感?


「お父様!医療部隊にひとりおります。本命はアレかと。薄い茶の長髪、緑の瞳、背は低く腹の出た40歳位の男。多分、暗器の類を使う者ではありません、毒物でしょう。

 この試合では王子殿下は怪我をしそうにありませんが、念の為急ぎで」

「分かった」


 お父様は、直ぐに連れてきた自分の騎士に伝言していたので、彼が宰相に伝えてくれるだろう。


 観覧席のもうひとつ・・・思った通り、オンブロー伯爵である。今日、ロバート先生が宰相に席の確認をして私に教えてくれた。

 奴が自ら手を汚すような事はしないと思われるので、一応の警戒程度に留めるが殺気は強い。

 さて、こちらに向かっている殺気の相手が誰なのか知りたい。かなり高位の貴族だと思うんだが・・・。


「お父様。こちらに向いている殺気は、あちらの金髪の高位貴族なのですが、どなたでしょうか?」


 お父様と話をする様にさり気なく目線をその貴族に向けると、お父様は私の目線を追うことなく答える。


「ははっ!多分、アトール公爵であろう。見なくても分かるわ」

「そうなのですか?」

「ああ、アシュリーには教えておこう。彼が反国王派の大元だと思われる。彼にとって儂は目の上の瘤なのだよ」

「分かりました」


 ()()か。

 覚えておくよ、アトール公爵。


 そうこうするうちに、王子の試合は王子が勝って終わったようだ。その程度の相手にこれほど時間がかかるようではまだまだである!



 1回戦の最後の組が入場し、クラスメイトのデヴィッド君を見つけた。年上に君付けは変だが、頭の中でくらい良いだろう。


 予想通り、デヴィッド君は強かった。これまで観た中でベスト3に入ると思われる。1学年でこの実力なら、最高学年になる頃にはもっと強くなるだろう。


「彼はこの国の者か?」

「彼とは、デヴィッド君ですか?」


 おっと!つい君付けで言ってしまった!


「アシュリーのクラスメイトか?」

「はい、今日初めて名前を覚えた程度しか知りませんが」

「・・・そうか。アシュリー、クラスメイトの名前くらい全員覚えなさい」

「・・・はい」


 余計な事を言ったら叱られてしまった。よし!頑張ってクラスメイトの名前を覚えよう!・・・長期休暇が終わった後でな。


「彼の剣術が・・・いや、憶測では・・・」

「デヴィッド君は何か怪しいのですか?」

「彼の家は何処だ?」

「先程はデヴィッド・カーライルと紹介されていました」

「カーライル子爵か。カーライル家にこの年齢の子供が居るとは聞いたことがなかったが、初等部から学園に・・・と、アシュリーが知るわけがないな」

「はい!存じません!」

「・・・分かっておる」


 1回戦が全て終了し、しばらく出場者の為の休憩に入る。

 宰相がこちらにやって来て、先程の医療部隊に居た中年男性を取り押さえたと教えてくれ、むちゃくちゃ感謝された!

 執拗な身体検査の結果、髪の中に毒薬の小瓶を隠していたそうだ。今日は誰もが身体検査を受けていたはずなのに、見つからなかったらしく、私が教えなければ危なかったと。


 あの似合わない長髪はそういう役目があったのか?



 さて。

 2回戦が始まったが王子は後半の組なので、しばらくは純粋に観戦する事にする。

 前半にひとり強そうな生徒がいたので、2回戦も前半に出てくるはずだ。2回戦2試合目に出てきたので、お父様に聞いてみる。


「私はあの黒い髪の生徒が良い所まで勝ち進むと思うのですが、お父様はどう思われます?」

「ああ、儂も彼はなかなか良いと思っている。後は次に出てくる大柄な子と、お前のクラスメイトのデヴィッド君だな」

「お父様!私もそう思います!」

「ははっ!楽しそうだな」

「はい!本当は、騎士志望の生徒は皆グレンヴィルへ連れて行きたいくらいですが、見所のある生徒は、グレンヴィルで鍛錬すればもっと強くなると思ったのです!」

「グレンヴィルへ?」

「そうです・・・先程、お父様に逸脱した権利だと叱られましたが・・・彼らはこのままでは勿体ないと思って・・・」

「そうか、グレンヴィルへか」


 夏の長期休暇を利用して来てくれれば、ひと月近く鍛錬できると思うのだが、彼らは領地に帰る事が出来なくなる。やっぱり無理か…。



「一応、学園長に伝えておこう。長期休暇にグレンヴィルへ来たい生徒がいれば受け入れると」

「本当ですか!?」

「ああ、無理に連れて行くわけにはいかぬからな、望む者を受け入れるという形なら良いだろう。騎士見習いの研修期間としてグレンヴィルは受け入れると学園長に申請しておこう」

「ありがとうございます!」

「いや、この様な策はアシュリーに言われなければ気付かなかった。本当にお前は鍛錬の事となると頭も口も回る」

「いえ、まあ…申し訳ありません・・・」

「ははっ!良いのだ、礼を言っておるのだよ」




 お父様と私の予想通りの生徒が勝ち進み、王子は3回戦で大柄な先輩に負けて悔しそうだった。デヴィッド君ももちろん準決勝進出だ。


 あれから、警戒していたものの、他に王子を狙う者は出てこない。

 んー、前回の暗殺計画の事を思えば、これだけではないと思うのだが…他に怪しい所や人が見当たらない。やっぱり、明日の魔術大会に計画しているのだろう。


 しかし!

 明日は王子は出場しないのだよ!


 一応、噂では出場する事にしてあるが、王子には出場は断念させた。

 あの王子は魔法にも自信があるらしく…(確かに、授業では奴が一番上手かった)…魔術大会にも出場するつもりでいたようが、「今年は私が出場しますが良いのですか?」と聞いたら、直ぐに断念した。

それを周囲の人達は知らないから、皆王子は出場すると思っているはずだ。明日になって王子が出ないとなったらどうするかな?王族の警護に囲まれた王子にどう暗殺者を差し向けるのか見ものだ。


 王子は勘違いしているが、私は出場しても順位争いには参加しない、エキシビションの様なものだ。最後だがな。順位の発表があった後での特別出演となる。

 まあ、敢えて勘違いさせた訳である!



 さて、準決勝も開始され、1試合目は予想通りの結果だった。準決勝はこれまでの試合に比べ見応えがあって良い!

 そしてデヴィッド君も、あの王子が負けた大柄な先輩と良い戦いをしている。まだまだ余裕があるデヴィッド君に比べ先輩の方が焦っている様だ。



 だが、デヴィッド君が負けた。

 何でだ?

 デヴィッド君はわざと負けた?



 お父様の方を向くと、お父様も同じ事を考えたのだと分かる。まだ1学年だから先輩に花を持たせたのだろうか・・・謎だ。


 結局、その大柄な先輩が優勝して剣術大会は幕を閉じた。



 王族の皆が退出した所を見送った後、


「私は学園長の所へ先程の研修の話を通してくる。アシュリーはどうするかね?」


 その辺うろついてると王族とかに捕まりそうなので、早々に馬車に乗ることにした。


「私はヘクター達と馬車でお待ちしております」

「そうか、では行ってくる」




 さあ、明日は私の本番だ!






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