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42話 魔術大会へ向けて② 〜神獣とリモート会議

 ロバート先生が探して来てくれたドラゴンの絵は、とても強そうだった。

 でも、その本に書かれた内容を読むと、やはりドラゴンを魔物扱いは出来なかった。

 天罰を降す神のように語り継がれているのがよく分かる。


「先生。ドラゴンは魔物ではありませんね」

「そうだな・・・」


 今回、ドラゴンの出演は取り止めだ。

 その代わり・・・


「先生!ドラゴンは出しませんが、神獣を出そうと思います!」

「神獣だと・・・」

「はい、少し内容を変えなければならないですが・・・それと、試したい魔法があるのです」

「どんな魔法だ?」

「神獣と同じように、特定の人間だけに話かける魔法です!」


「なに!?」


「出来ませんか・・・?」


「分からんな・・・お前ならできるかも知れんが・・・」

「まだ、何をどうしたらいいのか分からないので試すも何もないのですが、それが出来たら効果が100倍上がると思われます!」

「何となく、お前の考えが読めるぞ・・・」

「さすが、ロバート先生!私とはツーカーの仲ですね!」

「何だそれは・・・」


「他人の頭に語りかけるなど、どんな魔法を使えばいいのでしょうか」

「・・・そうだな。風魔法で多くの人や離れた人に声を届ける事は可能だ。そうすると、特定の人間に言葉を送ることは出来そうな気もするが・・・近くの人にも聞こえてしまうな」


「風魔法で声を送るのですか?」

「ああ、音なら何でも乗せる事ができる」


 ふむふむ


「他に何か・・・ああ、光魔法に、心を病んだ人に語りかける魔法があったな。私は詳しくは知らないが…ただ、あれは相手に触れていなければ出来なかったはずだ」


 ふむふむ

 全く分からん!


『分からんのか!』


『あれ?もしかして、私でも出来る?』


『ああ、お前なら出来るだろう。

 これほど離れていて、我と意識が繋げられるのは、我の力だけではあるまい』


『え?そうなのか!』


『そうなのだ!人が持つべきではない力の持ち主であるお前だからだ。そこの人間も同じだ』


『え!?ロバート先生も?』


『知っておるのではないか?今、この世に闇魔法が使える者はお前とその人間だけだ』

『確かに!力って闇魔法の事だったのか!』

『そうか・・・気付いてなかったか』


『闇魔法は要らない物を吸い取って掃除する魔法ではない?』

『掃除?まあ、それも出来ぬことはないが⋯。闇は影だ。そこに存在しない無限の(はざま)だ』


 存在しない間?

 無限?

 ブラックホールも存在しない間になる?

 前世で学んだ宇宙のブラックホールとは違うのか?


 そうか!

 異空間か!


『異空間というと分かるのか?』

『うん、少し分かる』

『少しか・・・まあ、仕方なかろう。

 無限の異空間をお前自身が操れるのだ。

 真っ直ぐ育てと言った意味が分かろう』

『今、分かった!今までは、魔力が多すぎるからだと思ってた!』

『そ、そうか・・・分かったのは今か』


『それで?異空間を操れると特定の人に話かける事が出来るというのは全く分からん』

『人の頭の中に思考の間を作ると思えばどうだ?分かるか?』

『うーん何となく』

『では、相手の思考も自分の思考も、お前が作った異空間へ引き込むというのはどうだ?』

『引き込めるのか!?』

『ああ、ブラックホールが分かるなら同じ事だと思えば良い。物を飲み込むも思考を飲み込むも同じだと』


 ふむふむ・・・

 なかなか難しい理論だ。


 やってみないと分からん。



「アシュリー!どうした?

 ずーっと明後日の方を向いて考え事か?

 お前は考えた事は、まず私に話せ!

 良からぬ事をする前にな!」



 ぼーっとしている様に見えたのか、ロバート先生が心配そうに話しかけてくるが・・・

 自分は全く信用がない様である。


 とりあえず頷いておく。

 まだ考え中なのだ。


 異空間を作ってそこに思考を引き込むって言われてもな・・・携帯電話の様に電波が繋がって話せるとかなら分かるが・・・


『けいたいでんわとは何だ?』


『私の前世では、遠く離れた人とでもその電話を使えば会話が出来たのだ。思考を繋ぐ訳じゃないけど、話すことや音は相手に伝わる道具だ』

『それは何故伝わるのだ?魔法か?』

『いや、前世は魔法のない世界だから』

『そうか、そのような世界があるのだな』

『そうなんだ!その代わり色んな技術が発達してるから、便利な世界だったよ』

『そうか』


『それで電話は・・・電磁波と言って、空中に飛び交ってる電気のエネルギーだったと思う。それを周波数の違いで・・・うーん、自分もよく理解してないから上手く説明出来ない・・・』

『でんじはもでんきも分からぬが、空中に飛んでるとは、それは目に見えぬものであろう?触ることも出来ぬのではないか?』

『ああ、何か見る方法もあるかもしれないが、普通は見えないし触れない』

『それと同じようには考えられぬか?』


 ふむ・・・

 思考を電波みたいに考えてみる。


 私が作った異空間自体を電話会社の基地みたいなものするといけそうな気がする。

 電話はお互いに繋がないといけないが、電話をかけて相手が出れば良いのだ。


 思考に無理やり電話をかければ出ざるを得ないだろう。


 ふむふむ・・・


『神獣。何か出来そうな気がしてきた!』

『ならば、そこの人間に試してみるが良い』


 ロバート先生にか。


 よし!



 先生の顔をジッと見つめる。


「お?何だ、どうした」


 黒の魔力を意識して、先生と私だけが繋がる空間を作ることをイメージする。

 そこは思考波の基地である。

 私はロバート先生の思考波を呼び出す・・・


 出来た!


『思考電話発信!』


 グァグァグァ

 グァグァグァ


「な、なんだ!なんだ!」


 しまった!

 前世の私の携帯着信音「アヒル」だ!


 グァグァグァ

 グァグァグァ


 ロバート先生がじっとりした目で私を見る


 グァグァグァ

 グァグァグァ


「何をした・・・」


 私は喋らず、自分の頭を指さす。


 グァグァグァ

 グァグァグァ


「頭?」


 グァグァグァ

 グァグァグァ


 先生は少し考え、大きく目を見開く。


 グァグァグァ

 グァグァグァ


『先生。ロバート先生』


『アシュリーか?』


 アヒルの着信音が止まった。

 この着信音は何とかしなくては・・・


『はい!先生と私の思考を繋いでみました!』

『本当に規格外だな・・・』

『先生も出来るみたいですよ?』

『何!?誰がそんな事を言った!』

『神獣です』

『神獣…だ、と?』

『はい。今までぼーっとしてたのは、神獣に色々教えてもらっていたからです』

『・・・・・・』


『いや、今更お前が何をしようと驚かん。そういう事だと新たな認識を増やすだけだ』

『新たな認識は増えましたか?』

『ああ、幾つもな!

 お前が神獣と離れていても話が出来る事、他人と思考を繋げる事ができる事、そして訳の分からん音が鳴る事がな!』


 ・・・・・・。


『申し訳ありません・・・。

 音は、私も意識して出した訳ではなくてですね・・・これは次からは出さない様にしたいかな・・・と』


『そうか⋯好きで出した訳ではないんだな』

『ええ、まあ』

『これは確かにやめた方がいい』

『はい、練習します!』


『それで、私にも出来るとは?』

『これは闇魔法なのです!』

『闇魔法だと…?』


『はい。神獣が、この世界で私と先生だけが闇魔法を使える人間だと言ってました。先生も神獣に会ったことがあるんですか?』

『ああ、何年か前に魔の森の魔物討伐に参加した時だ』


『神獣、すっごいかっこ良かったですよねー!

 大きくて、銀色に光った毛は長くてもっふもふで、しっぽももっふもふ!

 去っていく時の速さといったら光の様でした!

 次に会ったらしっぽももふもふさせてくれる約束なんです!』

『そ、そうか・・・良かったな・・・』


『ははっ!そこの人間よ。その娘には苦労させられておるようだな』

『は?・・・』

『あれ?神獣にも思考が繋がってる?』

『ああ、お前と繋がっておるからな、勝手に聞こえてくるわ』


 なんと!

 リモート会議が出来る電話とは!

 今度から先生とじゃんじゃん繋いで、分からん事は聞きまくったら良いのではないか?

 私では、分からん事も分からんしな・・・


『言っておくが、お前の思考はこの人間にも筒抜けだ』


 え!?

 ・・・・・・


 ロバート先生を見る。

 またジトっとした目で私を見ている。


『ほぅ・・・これは便利だな。アシュリー。「りもうと会議」とは?「でんわ」とは?』

『えーとですね・・・』

『思考の中では、なかなか大胆な言葉のようだな』


 やばい!

 あ、これも筒抜けかっ!


『はっはっはっ!娘よ。この人間には話してしまうが良い。きっとお前の力になってくれよう』

『う・・・そうですね』

『アシュリー。お前には何か人に言えない秘密があるんだな?それは、この国の害になるものか?』

『いえ!それは全く!これっぽっちもありません!』



 ならばと、私は前世の記憶がある事をロバート先生に打ち明けた。

 お母様が亡くなった5歳の時に目覚めた事。

 前世では18歳で、剣道という剣術を教える家の娘であったこと。

 前世は魔法もなく魔物もいない、歴史的には戦争時代もあったが、自分が生まれ育った国は今は概ね平和な世界であった事。

 魔法はないが、携帯電話のように色々な学問や化学が発達していて、とても便利な世の中であった事。


 詳しいことは神獣にも話していなかったので、二人(一人と一頭?)共とても興味津々で聞いてくれた。


 その間、私は思いっきり地を出していたので、ロバート先生にも私の本性がバレた。


『一概には信じられぬが、色々と納得できるのも事実だ。あの詠唱がその最たるもの・・・』

『えへへ〜!火炎魔法は、私の大好きな漫画の登場人物のパクリです!あ、風魔法にも氷魔法にも使いました!』

『まんがとやらもぱくりもなんの事か分からんが、違う世界の産物である事は良く分かった!』

『はっはっはっ!本当に面白い娘だ』


『・・・話を戻そう。思考が他人と繋げるのは分かった。しかし・・・・・・』


 沈黙が長い。

 何だ?何が問題だ?


『それだ!』


 ・・・?


『お前のその筒抜けな思考だ!』


 ・・・!!


『お前のその斜め上の思考が相手にも伝わるんだ、問題ない訳がないだろう?』


 た、確かに・・・

 でもなあ、止めようと思っても止められないしなぁ〜


『そうだろう』


 これは、いちいち話さなくていいから、便利だな。


『阿呆!』

『ハッ!申し訳ありません!』


『はっはっはっ!ならば人間、お前がやれば良いであろう』

『私が?』

『そうだ。お前にも出来るはずだ』

『私が・・・』


 そうだ!そうだ!

 先生がやれば良い!


『アシュリー・・・お前は・・・』


 おっと!

 睨まれた・・・


『そうだな、私が頑張るしかないか・・・繋ぐ相手はオンブロー伯爵だな?』

『はい!』

『やっぱりか・・・』


『神獣を氷か炎で作って、オンブロー伯爵に思考を繋げて、頭ん中で威嚇してやろうかと』

『そうか・・・そんな事だろうと思ったよ』

『やっぱりツーカーですね!』

『何だよ、そのつーかーっていうのは』

『ツーと言えばカーです!』

『全く分からん!』

『私も実は出処を知りません』


『はぁ・・・神獣よ、私にも出来ると言うなら教えてもらえるか?この規格外の阿呆の説明で分かるとは思えん』

『一理ある。我が教えよう!』


 なんですと?

 まあ、教える手間が省けるからいいか。


『・・・・・・』

『・・・・・・』


 何故か睨まれた。


 そうして、しばらく神獣とロバート先生がやり取りをしていたのだが・・・

 ふと思う。


 神獣と繋がっていても神獣の思考は私の方に漏れてこない。

 これは不思議だ!

 何かコツがあるのだろうか?


『我は人間と話す時だけ人間の言葉をわざわざ使っておるだけだからな』


 なんと!

 神獣は人間の言葉以外で思考するということか!

 奥が深い・・・。


『お前ほど無駄なことも考えておらん』


 グサッ・・・無駄じゃないよっ!



 お前とか、その娘とか、この人間とか、

 やっぱり名前呼んで欲しいよな。

 分かり辛い!

 そうすると、神獣も名前あった方が絶対いいよなっ!


 名前か・・・「ケンシロウ」がいいな。

 神獣も私の先生みたいなものになったから、「ケンシロウ様」だな!言葉使いも直さねば!


『その名は止めてくれ!』


 え?


『だから筒抜けだと言っておるだろう』


 そうか!

「ケンシロウ様」ではダメ、ですか?


『言葉使いを良くするのは褒めてやるが、その名は嫌な予感がする・・・』


「ケンシロウ様」は私の大好きな漫画の主人公で、すっごい強い、です!


『そんな事だろうと思ったわ!』


『神獣には名はないのか?』


 それ、前に私も聞いた。


『名は人間が勝手に呼ぶものであって、我は我、我に名はない』

『なら、私が勝手に呼ぶ名前を付けても良いので・・・』


『・・・「ケンシロウ」以外にしろ!』


 えー?


『今まで私は「森の王」、「森の神」、「フェンリル王」と言うのは聞いた。「神獣」か「神獣様」が一番多いかな?』


 フェンリル?


『フェンリルというのは、神話に語られる神獣だ。この神獣の姿からして、きっと本物だろう。そのフェンリルという神獣も人が考えた呼称という事か』

『そうだな。そう呼ぶ者もいた』


 フェンリルってカッコ良くないか?


『フェンリルというのは、種族の名と同じだと思うぞ?例えば魔物の中の「べア」とか「ウルフ」とか「兎」とかな・・・』


 なんと!

 先生にそんな失礼な名は付けられん!


『いつの間に神獣まで先生になったんだか・・・』

『はっはっはっ!どうやら、つい先程からのようだな』


『アシュリーの変な思考の所為で話が逸れたわ!もう、勝手に考えてろ!』



 そう言って、ロバート先生と神獣は「思考を繋ぐ教室」を再開した。


『うん、そうする!』




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