40話 国王初謁見~キレたアシュリー
「そんなに落ち込むな。ここまで頑張った甲斐はあっただろ?」
ロバート先生の声が優しくなった。
「力に関しては使い方を考えなければならないが、その他にもお前の身体能力を上げる事も出来るんだ。
その跳躍力は何かに役立ちそうじゃないか?」
あまり使い道が無くなった身体強化魔法に落ち込んでいる私を慰めてくれるのだ。
「高いところに手が届く様になるぞ?」
確かに。
「走るのももっと速くなるのではないか?」
確かに!
「そうですね!試してみてもよろしいですか?」
「ああ・・・元気がでたか。とにかく少なめにな!」
「はい!」
少なめ少なめ…2倍以下で。
癒しの魔法も少なめでいいかな?
これは結構省エネで良いかも知れない。
よし!
『ファイト!イッパーツ!』
先程よりずっと薄い、ほぼ分からない程度に光を纏う。
では、早速走ってみよう!
「先生!走って来ます!」
「おう、気を付けろよ?速くなり過ぎて壁にぶつかったりするなよ?」
そうか、気を付けよう。
走り出すと身体が軽いのが分かる。
いつもと同じように走っているつもりが速い!
よし、飛んでみるか。
おおーー!
ジャンプ力も上がっている。
着地するバランスや制御する力も同じ様に上がっている様なので、全く支障はない。
闘技場の壁を走り回って
観覧席を飛び回って
先生の所へ戻る。
「素晴らしいです!」
「そうか。楽しそうで何よりだ・・・」
少し呆れられたか。
ロバート先生と話をしていると、何やら気配がする。こちらに向かっている様な・・・。
「先生。誰か来ます」
「そうか?」
先生は気付いていない?
私の勘違いか?
そう考えてしばらくすると、
「確かに誰か来るな・・・アシュリーの方が気配に気付くのが早かったという事か。身体強化によって、感覚も強化されたのだろう」
そうか、気配を察知する能力も上がったという事か。これはまた便利な使い道も分かったぞ!
「ははっ!嬉しそうだな」
「はい、役に立つ使い道が増えると嬉しいです!」
そうこうするうちに、誰かが闘技場へ入って来た。
「失礼します。カーネギー魔術師団長様とアシュリー・グレンヴィル様でいらっしゃいますね」
「ああ、そうだが?」
「学園長の従者をしておりますマサイアスと申します」
「知っている」
ロバート先生は知ってる人なんだ。
「学園長がお二人をお呼びですのでお迎えに上がりました」
「何の用だ?」
先生、すっごい訝しんでるな・・・。
「来ていただければ分かります」
「しょうがない。アシュリー、行くか」
「はい・・・」
学園長の従者に連れられて学園長室に行くと、扉の前に最近見た第一騎士団の制服を着た人が2人立っている。
嫌な予感がする・・・。
扉を開けられ中に入ると、学園長と見知った第一騎士団長と、よく肖像画で見る顔の人物が居た。
そう、この国の国王である!
何でだ!?
ロバート先生が慌てて跪くので、私も続く。
「ああ、畏まらずとも良い。顔を上げよ」
とりあえず、ロバート先生の真似をして顔だけ上げる。
「まだ授業の途中だと思うが、呼び出してすまなかった。陛下がお前達に話があると仰るのでな」
「すまぬな。非公式の場だ、そなた達も座ってくれぬか」
勧められるまま、王様の向かいのソファにロバート先生と並んで座る。
「アシュリー。そなたとはこうして会うのは初めてだな。ロバートと共にギルフォードを何度も救ってくれたこと、心から感謝する。褒美はどのような物でも用意しよう。何か欲しいものは無いか?」
「勿体なきお言葉、恐悦至極に存じます。しかし、当たり前の事をしたまで。褒美など無用でございます」
返事はこれでいいか?
チラッと横目でロバート先生を見ると、小さく頷いてくれるので良かった様だ…少しほっとする。
「そう謙遜するものではない。いや…ここまで礼が遅くなっのも訳があってな・・・」
王様が言い辛そうに口篭っている?
何だ?
「私から説明させていただきましょうか」
「そうだな、そうしてくれるか」
「アシュリー様にはギルフォード殿下の暗殺実行犯を捕らえてもらった功労者として、本来なら公の場で報奨を与えるのが当たり前なのですが、今の段階でそれは出来ないのです。大変面目ありません!」
いやいや、頭を下げられても困るのだが、律儀にもその後の経過を教えてくれた。
あの自爆した少年は『旦那様に頼まれた』と言っていたが、どうやら脅されていたらしい。それならば、その少年は是非ともお咎めなしであって欲しいと思う。
善処すると言ってくれたので期待しよう!
女神像についてはオンブロー伯爵が関わっていると掴めているが証拠はない。
実行犯その1は本当に何も知らない様子だったが、他の実行犯である吹き矢の男、ダメ女教師、魔術医師と助手の4人がオンブロー伯爵に頼まれたと言い出した。
吹き矢の男はアトール公爵次男の子飼いのはずだったのに、公爵家の方では1年前から行方不明だったと言われ調べたが、本当に行方不明になっていたとのこと。仕組まれた事だと分かっていても、公爵のご子息に対してそれだけでは手出し出来ないということだ。
確かに、証拠として差し出せる物が何も無いとすれば難しいか。
それにしても、実行犯が皆オンブロー伯爵の名をあからさまに出す事が不自然だよな?
アトール公爵はオンブロー伯爵を売ったか?最初からそのつもりだったか・・・私がそう思った通り、誰もが疑ったようだ。
女性教師や毒薬を処方しようとした医師達とオンブロー伯爵が実際接触した形跡は全くなく、それとなく伯爵に女教師のことについて探ってみたが、その存在すら全く知らなかったようだ。
医師達の方は、オンブロー伯爵が誰なのかすら知らなかったらしい。
なんてずさんな計画だ・・・詰めが甘すぎる!
「実行犯達に虚言の罪は重くなると脅しましたら、失敗したらオンブロー伯爵の名を出せば助かると指示されていたことを吐きました。誰の指示かは本人達も分かっていないようなのです」
「そうですか・・・」
やっぱり最初からそういうシナリオだったのだろう。オンブロー伯爵は嵌められた訳だ。
ならば、アトール公爵とやらはまた王子を狙ってくるか。それともまずは私にターゲットを変えるか?
「今回、反国王派と思われる貴族の者たちから面倒な要請が入った。それがアシュリーに関してのものなのだ」
「・・・!?」
私に?
何だろう、色々あり過ぎて分からん。
「今回の高等部編入についてだ!」
学園長・・・。
ほれみたことかと言わんばかりのドヤ顔は止めてくれ!
「前例のない初等部1年の少女が高等部へ編入するなどありえないと?」
「そうです。多分、貴女を初等部に戻し、ギルフォード殿下から離すのが目的ではないかと」
そうか、そういう手もあるのか。
アシュリー暗殺計画は、ヘクターの言うように無理があると判断しての苦肉の策といったところか。
「それで私に初等部へ戻れと仰るのでしょうか」
「いや。初等部へ戻る必要はない!このままギルフォードと共に高等部で学べばよいのだ!」
何か王様が力説してるが、ギルフォードと共にを強調されると嫌だなぁ…。
「そなたが高等部である事を認めざるを得ない状況になれば良い」
何か嫌な予感がしてきた・・・。
ロバート先生と一緒に呼ばれたのがそれを証明してる気がする。
「アシュリー。今年の『魔術大会』に出場し、その魔力を皆に知らしめてくれぬか」
やっぱり!
「今回の暗殺計画で唯一捕えられるとすれば、オンブロー伯爵しかおらぬのが現状。この状況で反国王派と思われる者達からアシュリーへの苦言というのが何を意味するのか・・・。裏で糸を引く者の思惑には乗りたくないのだよ」
裏で糸を引くのは公爵なのだろう。
「正直に言おう。ここまで引き延ばしたのも、儂はオンブロー家を捕らえたくはなかったからなのだが、そうも言ってられなくなって来た」
何か切羽詰まった何かがあるのだろうか。
公爵自身が国王に何か言ってきたとか?
「オンブロー家は側妃マグダレーンの実家だ。オンブロー家が第一王子暗殺の首謀者として捕らえられれば、無論オンブロー家は断絶。一家もろとも処刑であろう。マグダレーンとオースティンは離宮に幽閉となるだろうが、処刑されないだけでも良いとするしかない⋯」
何!?
一家もろとも!?
「関係者だけでなく、ですか?」
「ああ、もちろん王子暗殺となれば連坐は免れぬ」
「れんざ・・・」
便座じゃない
れんざ・・・分からない!
「アシュリーには分からないかも知れぬが、大きな罪を犯した一族は、皆処刑されると法で決まっているのだ」
学園長が説明してくれるが、全く分からん!
「妻や子もですか?計画に関わっていなくても、ですか?」
「ああ、罪にもよるが今回は孫もだろうな。この学園にもオンブロー伯爵の長男の息子が居る」
何だそれ。
私と年の変わらぬ子供までもが、じじぃの罪の為に殺されると?
そういうのが当たり前の世界なのか?
「何故、です、か?」
「・・・悪しき者の子供も悪しき教えを受けているだろう。また、遺族による反感は次の暗殺計画を生む。遺恨を残さぬようにするのが先の国の為である」
何だと?
「国王はオンブロー伯爵の子に会ったことはありますか?」
「アシュリー?」
ロバート先生が止めようとするが、止められない!
「あります、か?」
「・・・いや、無い」
「ならば、何故悪しき教えを受けたと分かるのですか?」
「・・・それは当然であろう?」
「そうでしょうか?
では、良き者の子は良き教えを受けたと言い切れるのでしょうか。
では、オンブロー伯爵の父親は悪しき者だったのでしょうか!」
だんだん口調が強くなるが、もう憤りが止まらない!
「いや・・・先代のオンブロー伯爵も夫人も良い者達だった・・・」
「では何故、今のオンブロー伯爵は悪しき者に?」
「いや、それは・・・」
「アシュリー!不敬だ!慎みなさい!!」
学園長が怒鳴るが、睨み返す。
「私の父は素晴らしい辺境伯です!
しかし、私は問題ばかり起こす不肖の娘!
不敬で罰せられるなら仕方ありません!投獄でもむち打ちでも逆さ吊りでも受けましょう!」
「いや、そこまでは・・・」
「遺恨などそこら中に残っておりましょう!
それを判断する努力もなく、疑わしき者だからと、前途ある子ども達まで全て処刑することで国の安寧を求めるなど、それほどモントローズ王国は弱い国なのですか!?
我がグレンヴィルが命をかけて護って来たモントローズはそれほどやわな国なのですか!?」
怒りで頭が沸騰しそうだ。
「しかも今回の暗殺計画はオンブロー伯爵は嵌められた模様!本当の黒幕を捕らえることも出来ぬというのに、無関係の子どもを処刑する事に何の意味があるのですか!!」
熱い汗が目玉からも出てきたわ!
「アシュリー・・・落ち着きなさい」
ロバート先生に手を握られて、自分が固く拳を握っていたことが分かった。
先生は私の手を開いて、爪の跡に血が滲んでいるのを見て眉を顰める。
おかげで少し落ち着いてきた。
「出ましょう・・・」
「何だ?」
「その『魔術大会』とやらに出ると申し上げたのです。そして、私の力を見せ付けて差し上げましょう!」
「いや、見せ付ける訳では・・・ただ、十分な魔法が使えると・・・」
「いえ!そんな生温いものでは意味がありません。二度と王子殿下を殺めようなとど思いもしないように。国王の、この国の、グレンヴィルの力を見せ付けてやりましょう!さすれば、今回の暗殺計画など全て無かったことにしても良いでしょう!」
私の強引極まりない言い様に驚くが、王様はすぐに表情を繕い答える。
「・・・そなたにそれができるのか?」
「お任せください、この私に。グレンヴィルの名にかけて!」
「・・・・・・任せよう」
「ありがたき幸せ」
ソファから立ち上がり、国王の横に跪く。
私は女性だが、騎士の最高の敬意を表す礼をする。
顔を上げ、にっこり微笑み、ちょっくら言質を取っておきたいことを思いついたので確認する。
「魔術大会には私の全身全霊をかけ、素晴らしい舞台にしてみせましょう。
つきましては…その際の魔法は私と魔術師団長にお任せ頂けますでしょうか」
「アシュリー・・・私も巻き込むつもりか」
「もちろんでございます。
私だけでは危険な事もありましょう。先生は云わば抑止力だと思って頂いても良いかと」
「まぁ、そうだろうな・・・」
さあ!王様どうする?
「好きなようにするが良い」
よし!言質は取った!!
好きにやらせてもらうよ。
「国王!良いのですか!?」
学園長、あんたは黙ってなさい!
「ああ、面白そうではないか。
儂にもそなたの魔法を見せ付けてくれ」
「御意に」




