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3話 魔法を勉強してみよう

 ハロルドお兄様に魔法を使ってもらう度に思ったことがある。

 詠唱というのはすごく「厨二病」っぽい!



『我が身に宿りし火の力よ来たれ我が手に、光を呼び、影を払い、我が前に灯火を灯さん』


 ロウソク一本に火をつけるのには仰々しいと思ったのは内緒だ。



 大きな魔法も小さな魔法も詠唱はそんなに変わらない。お父様もトーマスお兄様の魔法でも変わらない。

 竈に水を零して火がつかないとメイド長に相談され、お父様自らが魔法を放った。



『我が身に宿りし火の力よ、来たれ我が手に、深淵の闇を照らす炎を宿し、古の知識を呼び覚ませ』



 お父様の野太い声で朗々と詠唱を唱えるとカッコよかったけど・・・竈に火をつけただけだ。



 うーん・・・



 これは自分でも魔法の勉強をしてみると良いのでは?

 ふとそんなことを思い立った。

 

 アシュリーは5歳。

 後夏の1日、夏生まれである。


 5歳で魔法書の類いが読めるのかという不安はあるのだが、乳母のエリーの対応で、普段から少々難しめの絵本も読んでいた模様。

 お父様が貸してくれたご先祖様の備忘録は、知らない言葉が多くて読むのに時間はかかるが、基本文字が分かれば読めない事はない。分からない単語は辞書を引けばよい。辞書さえあればある程度読めるので期待出来そうである。

 日本語と違って漢字に平仮名カタカナにローマ字や英語まで混じった造語などは無いはずで、同じ文字で読み方が違ったり意味が違ったりなんてことはないと思う。



 辞書も探さねばならないし、その辞書に書かれた内容も分からなければお手上げだけどね・・・。



 思い立ったが吉日。早速図書室へ行ってみた。


 分野事に分かれているといいんだけどな・・・先日お父様と行った図書室では、ほとんどお父様の話を聞いて終わってしまったので、どこにどんな本があるのかなど全く見ていない。

 魔法の本らしきものを小さな身体で探すのは一苦労だが、今まで魔法の指導などしてもらった記憶がないという事は、この歳で魔法の勉強をしても良いものか分からない。

 お父様達に知られたら怒られるかも知れないので、実はこっそり来ている私は、自力で探さねばならぬのだ。



 結構探した。


 なんと言っても身長が足りない!

 上の方の本を探すのは、いちいち大きな踏み台に乗って、移動してまた乗っての繰り返し。


 さすがに幼女の体力的にこれはキツイ!



 しかし、この寒い冬の最中に身体が温まる程(体感的に1時間以上)頑張った甲斐があり、魔法に関するだろう書架が奥の方に見つかった!

 奥から探せば良かったかも・・・。


 ふむふむ


 ふむふむ


 ふむふむ


 あ、こりゃいかん!

 読みふけってしまうと、そのうち探されてしまう。何とか読めそうなので、今日は1冊だけ持っていくことにする。初歩的な原理のようなものが書かれているのを見つけたので、これがいいだろう。


 辞書は、入口近くの最初の棚にあったのを見つけたので、それも持っていく。


 だが・・・重いっ!


 だが・・・楽しみだ!


 ふふふ・・・昼食後にどこかでこっそり読もう。



 5歳のアシュリーには、もう四六時中乳母が付き添うことはなく、行先さえ言えば屋敷内を好きに遊べる。

 目を付けておいたのは庭師のヨアブの家(小屋?)である。元々アシュリーとヨアブは仲が良いので、きっと快くアシュリーを置いてくれるだろう。まだ冬なので、ちょっと寒いが・・・。



 そうして、毎日1時間程度を魔法の勉強に費やし、魔法について理解を深めて行った。



 この世界に前世の様な精巧な時計は無いので、鐘の音でだいたいの時間を測る。

 鐘の音は1日に8回鳴るようだ。

 多分、朝の6時くらいが1回目で、2時間置きに8回。最後は夜の8時くらいだと思う。

 全くの私感覚の予想だけど。


 鐘の音1回分も姿を晦ますと2時間も経っていることになるので、だいたいの感覚で半分くらいにしている。

 少しずつしか勉強出来ないのは、長く居なくなると探されるからだ!何事も慎重にことを運ばねばならない。

 前世で、三兄の豹兄(ひょうにい)に教えられたのだが、ほとんどが親に内緒で悪さする時だった・・・。



 案の定、少し長くなったな…と思うと、エリーか、その子供達が探しているのに出会す。


「アシュリー様みっけ!」


 クラリッサに捕まった。

 エリーの娘で同じ年の同じ日に生まれた幼なじみというものである。(まだ幼いので、いずれ幼なじみになる予定)

 セバスチャンの娘でもあるのだが、「クララ」でないのが残念だ・・・。


 自慢じゃないけど、私は前世でも末っ子だったので、弟や妹は居なかった。ちびっ子と遊ぶのに外遊び以外で何をしたら良いのか分からんのだ。

 クラリッサは外遊びは好きではないようで、今は寒いから特に嫌なのだろう。仕方なく部屋で絵本を読むか、テーブルゲームの様なものをするかぐらいしかない。

 記憶を取り戻す以前の様におままごとのような遊びもしてみたが、私があまり喋らないので楽しくなかったようである。


 クラリッサよすまん・・・以前のように遊べなくて。



「アシュリー様、どこにいたのですか?」


 クラリッサの兄のヘクターに捕まる事もある。

 ヘクターも惜しい!もう少しで「ペーター」になるのに!


 ヘクターの場合は、少し難しい絵本を読み聞かせしてもらえるし、それが身振り手振り付きで面白いので、時々なら捕まっても良いと思う。




 そんな皆の隙をついて魔法の勉強を続けることひと月余り。最初に読み始めた魔法書以外に魔力そのものについて詳しく書かれていた書物は見当たらなかったので、初級魔法について書かれた魔法書も何冊か読んだ。

 これまでに分かったことは、子どもは12歳にならないと魔法は教えて貰えないということだ。


 基本的に貴族には魔力があり、平民も偶に魔力のある者が生まれるらしい。

 魔力の有無は、魔力の元になる(かたまり)をもって生まれるかどうかで決まる。魔力の塊を持って生まれた子供は、12歳になるとそれを体内に巡らせ、魔法として放つ術を教えて貰える。そういう学校があるらしい。


 今、ジェイムズお兄様やハロルドお兄様が通っているのもこの学校なのかもしれない。



 何故12歳なのかというのが問題で、どうも魔力塊(まりょくかい)を体内に巡らせるという行為は、かなりの精神力や集中力が必要で、且つ苦痛が伴うらしい。


 まあ、詠唱も長ったらしい。5歳児が全部間違えずに言える呪文ではない。

(これも厨二病っぽい)


 12歳になって魔力を解放する時も、必ず癒しの魔法が使える指導者が付き添うのだそうだ。例え成功しても心身共に疲労困憊となるのが普通らしい。

 小さな子どもの精神力や体力では魔力を溶かすことも苦痛に耐えることも出来ない。魔力を巡らせるどころか余計に固まらせてしまい、そうなった後の魔力塊は二度と巡らないのだ。

 その原因はまだはっきりとは分かっていないが、魂が魔力を拒絶してしまうことが原因なのではないかと思われている。


 そのまま放置すると死に至る病の原因になりかねないとか。取り出せる様なら良いのだろうが、簡単に取り出せる様な医療技術もなさそうなこの世界では、どちらにしろ死ぬんだろうな・・・怖い怖い。



 アシュリーは5歳。

 そりゃ魔法を教えて貰えないのは当たり前だ。



 しかしながら、私の中身は18歳。精神面では5歳分は足しても仕方ないとして、18歳なのは確定。それなら耐えられると思うのだ。苦痛に対しては免疫という程でもないが、それなりには強いと思う。



 前世の我が家は剣道の道場で、兄も私も結構しごかれたものだ。

 長兄の獅子兄(ししにい)は剣道三昧。私も幼い頃からずっと続けていた。

 父さんの遺伝子の強い次兄の虎兄(とらにい)は金髪に碧眼だったから、「道場に金髪は似合わない」と言って、途中から世界最強の格闘技と言われるムエタイに転向した。

 かく云う私も、虎兄のムエタイの試合を見てからは、剣道よりもめっきりムエタイ派。虎兄が世界大会で優勝した時はそのカッコ良さが誇らしく、凄く羨ましかった。


 あの虎兄の大会の日だったなぁ・・・

「私もチャンピオンを目指す」という人生の目標ができたのは。


 志半ばで死んじゃったみたいだが・・・。


 おっと、思考が逸れた。


 竹刀に打たれ、パンチやキックを受け、何十kmと走り、たくさん飛んだ(縄跳びとか屋根からとか色々)・・・そんな私が苦痛に弱いわけが無い!

 やってみようじゃないの。

 魔力塊を見事溶かしてみせよう!



 と、いうわけで…



 私は、いつもなら寝ている時間⋯乳母のエリーもやって来ないだろう夜中。魔力解放を実行することにした。

 その為に昼寝をいっぱいしておいたのだ!

 真っ暗な部屋で独りというのが少々気味が悪いが我慢である。



 まずは魔力塊の位置を意識して探してみよう。

 そこから溶かす様に身体に巡らせるのだが、この行為自体にかなりの集中力と精神力が必要となる。

 普通は助言したり魔力を導いて手伝ってくれる大人が一緒に行うものらしいが、この世界の人達よりも体のつくりには詳しいと思うので、イメージは細かくできるのでは?

 前世では日常的に瞑想したり、精神集中する機会も多々あった自分には手伝いなど要らないと思う。


 魔力塊は思った通り心臓の辺りにありそうだ。これは固まったら取り出せないよな?


 よし、頑張ろう。


 この塊がドロっと溶けるイメージ?

 うーん、ドロっとしたものが身体を巡るのは嫌だな。血液はサラサラじゃないと成人病になるんだよ。

 サラサラの液体になるイメージで溶かしていこう!



 魔力は溶けて


 サラサラの状態で流れて


 私の身体を巡る


 血液の様に


 頭のてっぺんから足の先まで


 毛細血管の隅々まで行き渡る様に


 私の身体を満たしていく



 精神を集中させイメージすると、魔力塊が反応しているのが分かる。

 完璧だ。


 よし、今だ!


『我が身に宿りし大いなる光の(みなもと) 光は命 神の息吹 全てのものを癒すもの

 我が身に宿りし大いなる闇の源 闇は影 無限の(はざま) 全てのものを無に帰すもの

 我が身に宿りし大いなる火の源 火は熱 ()の息吹 全てのものを熱するもの

 我が身に宿りし大いなる水の源 水は(せい) 天の恵 全ての命を育むもの

 我が身に宿りし大いなる大地の源 大地は(せい) 神の(とこ) 全てのものが生まれしもの

 我が身に宿りし大いなる風の源 風は流れ 空の道 全てのものが運ばれしもの

 我が身に宿りし大いなる緑の源 緑は(ほう) 大地の友 全てのものが潤うもの


 今こそ目覚め 我が(たましい)の望みを叶え この身を満たさん 』


 言い切った!


 何やらジワジワと感じるが集中を切らさない。



 おわーーーーっ!

 きたーーーーっ!


 こ、これは・・・


 苦痛と言えば苦痛だが、痛みだけではないな・・・例えるなら、ウナギが血管を広げながら体中をはい回っているような痛みと不快感。その動きに合わせて襲う圧迫感の様な恐怖感。


 自分で何を考えているのかも分からん。



 ゔゔゔゔゔぐぁ・・・



 苦しいとは思いたくない!

 ウナギの蒲焼は上手い!ウナギは大好きだ!



 懸命に良い事を考えて拒絶しないようにしたが、思考はズレていたかもしれない。





 懸命にウナギを受け入れ、もうどれくらい時間が経っただろう。



 すごく長いように感じる。




 頭と手足が痺れてきた・・・




 インフルエンザで高熱を出しているのに、何kmもゴールのない道を全力疾走しているかのような息苦しさや苦痛、そして疲労感が続く・・・


 幼児には耐えられないのも納得。


 苦痛で死ねるかも。



 でも、これはあれだ、

 苦しくて苦しくて、

 それでも走り続けた後に来る


 ランナーズハイ!


 もう苦しさは感じない

 ゴールはいつかはやって来る

 気分は絶好調だ!




 そんなハイな気分になって、ふと何かを感じた。


 そろそろ来る・・・


 もうすぐ来る!


 ゴールは来る!


 すると、自分の身体がホワンと温かくなったかと思うと苦痛は去り、同時に強烈な光に包まれた。


 多分私は今、虹色に光り輝いていると思う。部屋が暗いから余計に光輝いて見える。

 しばらくすると輝きは収まったが、すごい眩しかった・・・。

 ホーッと息を吐き、自分の身体を確認してみる。

 意識すると身体に魔力が巡っているのが分かる。これが魔力かどうかは初めての試みなので不明であるが、まず間違いないだろう。


 何だろう。


 身体はすごく疲れているはずなんだが・・・身体の内側からから何かが湧き上がる。

『力が漲る』というのはこういう感覚なのではと思う。



 ふふふ


 ふふふふふふふ・・・


 やった!

 魔法の第一歩の難関を自力で突破した!


 余りの嬉しさに誰かに言いたくなったが、絶対黙っていようと心に決める。絶対怒られる。いや、あの甘いお父様やお兄様たちなら褒めてくれるかな?

 いやいや、もう少し魔法を使えるようになるまでは内緒にしておいたほうが賢明だ。




 しかし・・・。


 真夜中なのに、力が漲って全く眠れなかったのは少々誤算であった。




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