21話 魔術師団長と辺境伯令嬢
クラスの人達の魔力解放はもう終わっただろうか。
私は未だクラスに戻ることも出来ず、目の前の黒いマントを着た少し強面のおじ様と、学園内にある闘技場という所に来ている。
年は30代半ばといったところだろうか・・・ブラウン系の癖の強い髪は、豹兄がしていた髪型に似ていてちょっとボサボサな感じ。この水色の瞳をしたマントのおじ様はカーネギー伯爵といい、現在の王宮魔術師団長とのこと。
私の為にわざわざ呼び出されたのだ。
ほんと申し訳ない!
本人放置で、学園長とドーク先生があれこれやってるなあと思ったら、学園長が誰かを呼んで「至急この手紙を王宮に・・・」と聞こえた時はちょっとビビった!
すぐに王宮魔術師団への手紙だと分かったが。
その後も本人放置で、学園長達は今後の授業をどうするかを話し合っていたので、私はその間に瞑想する事にした。
おかげで頭はスッキリした。
私の感覚の数十分程でこの伯爵が来た訳だが、初めて見た時はこれまたちょっとビビった。
パッと見ただけでは「ダースベ●ダー」か「バ●トマン」だったからだ!
仮面は着けてなかったから、すぐに我に返って挨拶出来たのは良かった・・・うん。
学園長が魔術師団長にこれまでの経緯を説明し、足りない所や団長からの質問に私が答えた後、なんとも簡単にこの人は言った。
「アシュリー・グレンヴィルのこれからの魔法指導は全て私が受け持とう」
魔術師団って暇なのだろうか?
「グレンヴィル嬢、ここならちょっとやそっとでは災害にはならん。遠慮なく魔法を使ってくれ」
「よろしいのですか?使った事がない属性でも?」
「そうだったな、経験のない属性の方が多いのだったな。使った事がない魔法の属性は?」
「火と地と風と闇です」
「では、火魔法を経験してみるか!
的を用意させたから、あの的に向かって魔法を放つようにしてみろ。
範囲を広げると災害級とやらになっても困るからな!はははっ!」
今、ちょっとバカにしたよな!
「はい。炎を出せばよろしいでしょうか」
「おう、できそうか?」
「分かりませんが、やってみます!」
炎といえばアレだよアレ!
言質は取ったので、遠慮なくやらせてもらおう。
魔心臓をモミモミ・・・
魔力の流れを両手に集中し、某格闘漫画の登場人物である「炎のシ●レン」の戦いシーンを頭にイメージ。
的は敵。
そして詠唱
『五●炎情拳!』
ゴーーーーーーーー!!
おー!出た出た!
すごい勢いの炎が円を描いて的を切り裂いてるよ!
漫画の技名言っただけなのに、
この世界にも通用するのか。
何でだ?
まあいいか。
やってみたかった事が出来て満足して振り返ると、魔術師団長はパカーンと大口を開いたままだった。
「魔術師団長様?」
「あぁ、すまん。大した破壊力だ。的が全部無くなったぞ」
「申し訳ありません・・・」
遠慮なくやりすぎたか?
「少し待て。新しい的を用意させる」
闘技場のどこかに黒子でもいるのだろうか
ササッと新しい的が用意された。
「他に使ってない属性はなんだったかな?」
「風と地と闇です」
「では風魔法を・・・いや、しばし待て」
『我が身に宿りし万物の力よ、我が前に立ちはだかるものを押し止め、不可侵の結界を創り上げよ!』
詠唱は、やっぱ厨二・・・ゲフンゲフン
待てと言って何をするのかと思えば、自分にバリアの様なものを張っていた。
「障壁だ。飛ばされては敵わんからな」
確かに。
これで遠慮はいらんという事か。
風といえば「風のヒ●ーイ」だが技名がない。
アニメ版でいこう。
魔心臓をモミモミ・・・
今回は手だけでなく腕も含めて風を操るよう魔力を集中する。
的は敵。
そして詠唱
『●車風裂拳!』
おぉー!一瞬だったな。
サクッと切れた。
音もほとんどしなかったよ!
何だかあっという間過ぎてちょっと物足りないかも知れない。
他に何かないだろうか・・・
折角、魔術師団長が自ら障壁を作っているくらいなので、もっと大掛かりな風魔法を期待しているのではないか?
また大口開けたままだけど。
よし、大好き漫画の技名バージョンは止めてオーソドックスに竜巻でも起こしてみよう。
的は・・・
無くなったので、ちょうど良い。
竜巻の中心は自分。
その周囲1m位に作ろう。
自分が飛んでいかない様にイメージしないとな、少し難しいな・・・。
身体全体に魔力を流し、詠唱は英語にしよう。
『トルネード!』
ゴーーーーー!
おーおー回ってる回ってる
ゴーーーーー!
でも、竜巻の向こう側が全く見えない。
ゴーーーーー!
それに、これいつ消えるのかな?
ゴーーーーー!
ゴーーーーー!
ゴーーーーー!
・・・・・・。
消えないんだが
もしかして不味い?
消す方法など皆目分からん。
魔術師団長、消してくれないかな・・・。
さっきと逆になる様に風を起こしてみようか。
爆発とか起きないよな?
まあ試してみる価値はあるだろう。
しっかりイメージして。
よし!
『トルネード逆回転』
おーおーもしかして竜巻が二重になってないか?
あ、でもお互いに消し合ってる様だ。
緩んできたな。
ほー・・・
やばかった!
魔術師団長は?
怒ってるかな?
何処だ?
いない?
「ここだ!」
観客席から魔術師団長の声がした。
そうか、竜巻は少し大きく作りすぎたから離れて見ていてくれたのだな。
「今、行きます!」
魔術師団長の所まで走って行った。
高い壁があったが、そのまま走って登って行った。
最後は手を使って登ってしまった・・・やはり鍛錬が出来なかった日が長かったのがいけなかった。
「今の魔法は?」
魔術師団長の声が少し震えているが、何かあったのだろうか。
「風を使って竜巻を作りました」
「いや、あれも凄かったが・・・いま、壁を走って登らなかったか?」
「はい、走ってまいりました。でもこれは魔法ではありません」
「そうか・・・まあ良い。今はこれ以上の情報は欲しくない」
「次はなんだっかな?」
「後は地と闇です」
「そうか、地か。私はこのままここで見させてもらうよ。的は必要か?」
「そうですね・・・的という目標があった方がイメージはしやすいようです」
「分かった用意させよう」
また黒子さん達が的を準備してくれるようなので、その間に地の魔法を考える。
地か・・・思いつかない。
地面の下から何か出てくるのがいいか
土で何か作るのがいいか
地に対してのイメージが貧困すぎる。
戦闘系ばかり披露したので、次は芸術系で精巧な土人形でも作ってみたらどうだろう。
それとも北海道の雪まつりの様な大きな建造物にするか・・・。
でも折角用意してくれた的は使えなくなるな。
ならば、いっそ土人形に的を攻撃させたらどうだろう。強そうな土人形で。
そうか!お父様を作ろう!
よし、魔心臓モミモミ・・・
強そうなお父様をしっかりイメージ。
大きな剣も必要だ。
的は敵。
地面に両手を付き魔力を流す。
そして詠唱
『お父様助けて〜!』
すると、お父様そっくりな土人形(実物×1.5)が、的目掛けて大剣を振る!
土で作った剣のはずだが、的はバキバキだよ。
面白いな。
お兄様バージョンも作ろうかな。
ああ、でも的がもう無い。
土人形お父様が私の元へ戻って来て・・・
私を抱き上げる。
何でだ?
詠唱に「助けて」と入れたからか?
まあいいや。このまま魔術師団長の所へ連れて行ってもらおう。この精巧なお父様自慢がしたい。
おや、魔術師団長が観覧席から慌てて降りてくるではないか?そんなに土人形お父様に興味があるのか。造った甲斐がある!
「魔術師団長いかがですか?」
「それはもしかしてグレンヴィル辺境伯か?」
「はい!私の自慢のお父様です!」
「そうか・・・よく出来ている。ゴーレムの強ささえも同じか・・・本当に規格外だな」
これは褒められたのか?
まあ、いいか。
土人形お父様は、私をそっと降ろし
サーッと消えていった。
「後は闇魔法だけですが、お願いがあります」
「・・・なんだ?」
「私、水魔法は二度使いましたが、氷魔法は使った事がございません。試してみてもよろしいでしょうか」
「ああ、そんなことか・・・。構わない。的を用意しよう」
やった!
さっき、漫画の技使って思いついたのだ。氷の魔法で的を攻撃してみたいと。
氷の技というと『リ●ウガ』が思い浮かぶが、弱そうなので別漫画の『ホロホ●』にする。あのアイヌ語で繰り出される氷の技は使ってみたいのだ!
アイヌ語覚えてないけど・・・。
魔力を腕から下に集め、それらしくスノーボードも作ってみることにした。
コロボックルはいないが、O・Sって言ってみたいのだ!
『オ●バー・ソウル!
剣のつらら!』
ザシュッザシュッザシュッ!
ザシュッザシュッザシュッ!
私の手に握られているスノーボードもどきから、何本もの氷の剣が発射され、的は原型を留めることなく打ち砕かれた。
ふぅ〜⋯満足だ。
これで魔法に思い残すことはない!
あ、身体強化魔法だけは知りたいかな?
魔術師団長を振り返ると、何だか考え事をしている様である。
声を掛けるのは少々はばかられるのだが、私は腹が減ったのだ。随分前にお昼の鐘は鳴ったと思うので、今頃は皆昼食を食べ終わっている頃ではないだろうか。
「・・・あの、魔術師団長様」
「ああ、すまん。考え事をしていた。どうかしたか?」
やはり考え事をしていた様だ。
「そろそろ・・・お昼のお食事をいたしませんか?」
「はっ…そうだな、すっかり時間も過ぎてしまった様だ。すまなかったな、よし!食事にしよう」
「はい!」
お昼は、クラリッサの所へ行って・・・と思っていたら、魔術師団長に捕まった。
まあ、いいけど。
ご飯食べさせてくれるなら。




