20話 学園入学
本日3話目の投稿です。
モントローズ王国魔法学園の入学式。
何処の世界でも、こういった式での祝辞などは長ったらしいものなのか。学園の成立ちから始まった学園長の話はそろそろ終わってもいいのではないか?
ここに集まっているのが、1歳の時の洗礼式に魔力塊があると判定された子供達だという話は初耳で、各領で洗礼式には必ず魔術師団による判定が行われているのだとか。
疑問に思わなかったから知らなかったが、ひとつお利口になった。
ありがとう、もう後の話はいいよ・・・。
長い話の後は、今後の予定の説明。
年ごとに入学する人数は違うが、だいたい120人前後となるらしい。今年も大して変わらず114人だ。
114人が順番に名前を呼ばれ、学力試験会場へ行く。
順番待ちも長い。
全学年合わせると700人くらいか、かなり広い学園のようで、700人居ても余裕の作りになっている。
迷子になりそうである・・・。
でも試験会場はクラリッサと一緒みたいで安心だ!
問題の試験だが・・・本当に簡単だった。
良かった!良かった!
問題のほとんどは、読み書きと計算で、歴史と地理っぽいがほんの少し。
地理と言っても、自分の領地の正式名と領主の名前と特産を答えるだけ。
間違える方が難しいのでは?などと失礼な事を考えるほどだったが、よく考えると自分の中身はずっと年上だったのだ。
一応、微分積分や三角関数なども習った高校生までの学力は持っているはずなのだ。
(習っただけで半分も理解はしてないが)
Sクラスでなければ大恥だ!
結果は明日の朝貼り出されるので、確認してから所定の部屋に入るようにとの事。
はたして私はSクラスになりひと安心。
だが、ここからだ。
お父様に丸投げされた魔力問題が待ち構えているので、心してかからねばなるまい。
クラリッサはAクラスらしいので、魔力解放なども全く別の時間だろう。
一人で対応しなければならないが、相手は学園長か?誰になるのだろう。
「あー、私がこのSクラスを担当するドーク・マーリルだ。これから1年間よろしく」
担任は魔術師っぽくない中年男性。
魔法の学校だからって先生が魔術師とは限らないのかも知れない。
「国中から集まった中のクラスメイトだ。知らない者同士が多いだろう。
私も名簿の名前だけしか知らない者がほとんどからな。
今座っているのは入学手続き順の席順だ、このまま端から一人ずつ自己紹介をしてもらおうか」
この席順は手続きの早い者順だったのか。
日本の様に五十音順とかに並べ変えないのかな?
そういえば、前世の世界でも日本以外はほとんど苗字は後に付くのだが・・・外国の学校の出席番号はどうやって決められたのかな?
やっぱり苗字のアルファベット順か?それとも名前のアルファベット順か?
もしかして成績順とか!
以前、予備校に通っていた友達から聞いたことがあるぞ。成績の良い奴ほど前の方の席に座らせてもらえるのだとか・・・私なら一番前など御免こうむる!
などとほか事を考えていたら、クラスメイトの自己紹介を半分近く聴き逃してしまった!
まあ、これだけの人数の名前聞いても覚えられるわけではないが。
「私は・・・伯爵家嫡男・・・だ。」
ほうほう
嫡男関係ないだろ。
「私は・・・です。・・・商会の娘です。よろしくお願いします」
ほうほう
平民のSクラスとは、さすが商人の娘といったところか。
「私の名は・・・と申します。遠方のコーク領から参りました。王都は初めてですので皆様色々と教えてくださいませ」
ほうほう
丁寧なご令嬢だな。
コーク領といえばコーク辺境伯令嬢ということか。
同じ辺境に親近感が湧く!
挨拶のセリフも真似しよう。
「俺の名は・・・です。平民です。父さんが魔力持ちだから俺もちょびっと魔力があるらしくて魔法学校に来たん、です。将来この魔力を家族の為に役立てたいから頑張る、です!」
ほうほう!
家族の為にとは偉い!
父親の職業はなんだろうな?
名前は耳を素通りするが、子ども達の話し方はそれぞれの性格が出ていて面白いな。
「グレンヴィル嬢」
最初の方を聴き逃したのが残念だ。
あの、1番前に座っている坊主は性格悪そうだ。
「グレンヴィル嬢!」
何と言って自己紹介したのか気になる・・・
「アシュリー・グレンヴィル!」
ハッ!
呼ばれた?
「君の番だ・・・」
しまった・・・
席の一番端だったから、
列が次に進んだのに気が付かなかった!
「失礼いたしました。
北の辺境より参りました、アシュリー・グレンヴィルと申します。
私も王都には初めて参りましたので、色々と教えてください。
どうぞよろしくお願いいたします」
机と椅子が邪魔でやり難いが、カーテシーっぽい省略礼をしておく。
はぁ〜参ったな!
自己紹介聞いてなかったのバレたな。
こんな事クラリッサに知れたら怒られる・・・
うん、黙っておこう。
クラスが別れて良かったかも。
私の順番は最後の方なので、自己紹介ももう終わる様だ。
「これで全員の自己紹介が終わったな。
このSクラスは全員で28人となる。
学園長がお話されたように、この魔法学園は魔力のある者全てが通うことが義務付けられた施設だ。皆が平等に学ぶ事を許された場所でもある。
よって、身分の差はこの学園の中では無いものと思ってくれ!
重要だからもう一度言うぞ。
ここでは、貴族も平民もない。皆が平等であると心するように!」
ほうほう。
良い学校だな!
「今年は非常に優秀な生徒が多く、このクラスには学力試験の結果、200満点中190点以下の者はいない」
それは問題が簡単過ぎたってことではないだろうか。
「満点も一人いる。
アシュリー・グレンヴィル、君だ」
「え?・・・」
なんと!
ど、どうしろと?
「今年の問題には誰にも解けないだろうという算術問題が2問もあったが、それも正解だった。素晴らしい!」
そんなのあったっけ?
とにかく、何か応えなければ・・・
「・・・お褒めいただきありがとうございます」
一番端だったので椅子の脇に立ち、ピンと背筋を伸ばしてカーテシーをする。
制服だから様にはならないが・・・
なるべくこれ以上目立ちたくはないのだから、名指ししないで欲しかった!
クラスメイトも拍手などやめてくれ!
絶対、全員に名前覚えられた・・・
「では、お待ちかねの魔力解放に入る。
皆緊張してるか?
大丈夫だ!
生徒一人につき補助の魔術師と魔術医師が必ず付く。
心を落ち着けて挑むように。
あと、アシュリーは私と一緒に来なさい」
お?
早速呼び出しだ。
「はーい、それでは魔力解放の説明をしますねー」
ザワザワする中、魔術師団らしき人達が部屋に入って来たのと入れ替わりに、私とドーク先生は部屋を出た。
もしかして、私一人を呼び出すのに違和感が無い様に満点発表したのか?
それだったら許してしんぜよう。
「これから学園長室へ行く。前代未聞の生徒だから対応は本人に会ってからと思ってな。
まぁ緊張するな」
「はい・・・」
緊張するなと言われて緊張が解ける人間は、最初から緊張してないと思う。
「失礼します。
学園長、アシュリー・グレンヴィルを連れて参りました」
ノックもしないで入ったよこの人。
「やあ、こんにちは」
「はじめまして、学園長様。
アシュリー・グレンヴィルと申します。
この度はご迷惑おかけいたします」
「ああ、堅苦しい挨拶は要らないよ。
私はこの学園の学園長をしているチャールズ・クラレンスだ。
父上からは、君は魔力解放が既に終わっていると聞いているが、間違いないかね?」
「はい、間違いありません」
「そうか・・・魔法も使えるというのは?」
「はい。以前、光魔法と緑魔法を1回ずつと水魔法を2回使ったことがあります」
「・・・そうか。
以前という事は、今は使っていないのかね?」
「はい」
「何か理由があるのかい?」
「それは・・・」
「話せない様なこと?」
「違います。ただ少々規格外と申しますか・・・魔力を加減しても威力が大きすぎると申しますか・・・災害が起きても大変ですので、簡単には使えないのです」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ああー!黙らないでー!
「あの・・・実際にお見せしましょうか?」
学園長とドーク先生と一緒に中庭へ出て、まずは緑魔法を使った。
花が咲かなくなった老木を元気にさせたら、桃の花の様な濃いピンクの美しい花が満開に咲き、やっぱり大きくなった。
まぁ老木だったから今回は1.5倍くらいで止まったけど。
二人とも目ん玉真ん丸だった。
次は水魔法。
池ならびしょ濡れにならないだろうと、同じ中庭にある池に向かい水魔法を放ったら、水が溢れてしまい大慌てで逃げた。
最後に光魔法。
中庭を掃除していたおばさんの手に光魔法を使ってツルツルにしたら、涙を流して感謝された。
三人とも無言のまま学園長室に戻ると、学園長とドーク先生は同時に捲し立てる。
「どういうことですか!」
「魔力量が多すぎます!」
「あれで加減してるのですか!?」
「あの詠唱は何ですか!?」
どういう事かと問われても
「分かりません」
としか答えようがない。
魔力量も自分では分からないし、加減もしているので、どうしてああなるのか分からない。
詠唱についてだけ説明できるが。
それから、お父様達との家族会議で話した事を先生達にも説明した。
「お父様やお兄様達が検証もしてくれました。それでもそれ以上の事は分かりませんでした。
この学園の『優秀な』先生方のお力で、私が魔法を『普通に』使える様にしていただきたいのです。
よろしくお願いいたします」
色々言われる前に『お願い』をゴリ押ししておいた。これできっと上手く指導してくれるだろう。
「そうですか、ハロルド君でも原因が分からなかったのですか」
「学園長、先に魔力を測定して属性も確認した方が良いのでは?」
「確かに。忘れるところでした。すぐに用意しましょう!」
目の前にはデブった水晶の様な無色透明の結晶体が置かれた。
中心に大きな結晶が立ち、それより少し小さい結晶が周りを囲んでいる。真上から見ると花みたいだ。これに触れれば属性や魔力量が分かるらしいが・・・属性は色で判別するとして、魔力量はどうやって分かるのか。
まあ、やってみれば分かるだろう。
魔法を使う時の様に、魔心臓(胸にある魔力の大元に命名してみたヤツ)をモミモミ揉んで・・・それから冷たい結晶に手を当てる。
何か周囲の結晶に全部色が付いたな。
赤、青、緑、白、黄色か?オレンジ色に近いな。これは金色だろう。この二色は似てるが金色は輝きが違う。黒は真っ黒・・・
そういえばどれくらい触っていればいいか聞いていなかった。
「もう離してもよろし・・・」
バキーーン!!
結晶体が爆発(?)した。
割れたとかヒビが入ったというレベルではなく砕け散っている!
「「あ・・・・・・・・・っ!」」
もしかして、
これは不味い?
学園長とドーク先生の視線が痛い。
やっぱり高価なものだっただろうか。
お父様に弁償してもらおう。
「あの、申し訳ありません。弁償は・・・」
「完全なる全属性だ・・・」
「はい?」
「全属性だと言ったのだ」
「はい、7色ありました」
「そうだ!7色だ!」
「はい、それがどうかいたしましたか?」
学園長が酷く興奮している。
「何を言ってるんだグレンヴィル嬢!完全なる全属性など私は見たことが無い!いや、過去には全属性持ちの人間も存在したことは知っているが、私が生きている間には居ない。それほど稀少なことなのだよ!」
「アシュリーは知らないのだろう、「闇」属性だけでも非常に珍しいんだ。私が知る中では、魔術師団の中に唯一の闇属性魔術師がいるだけだ。現在の魔術師団長がそれだ」
「学園の教師ではアシュリーの属性を全て指導することは出来ませんね。どうしましょうか」
「彼に臨時講師として一定期間来てもらう様にするしかないでしょう」
なんと、それほど貴重だったとは。
あまり役に立ちそうにもないからどうでもいいと思っていたが、そういう訳にもいかない雰囲気だ。
二人とも興奮していて、結晶体が粉々なのを忘れてる様だが良いのだろうか?
忘れてくれれば嬉しいが。
何か、本人の私はそっちのけで興奮してるな〜。
正直、面倒くさい。
それよりも、私の魔力のコントロール方法を教えて欲しいのだが・・・。そして身体強化を教えてくれればそれで良い。
二人でヤイヤイと話し合っている間ボーッとしていても仕方ないので、ソファーから少し腰を浮かせて空気椅子をしてみた。
鍛錬の時間がなかなか取れないので、こういった時間は無駄にしない。片足ずつ上げたいが、雰囲気的に出来そうにないのが残念だ。
それにしても、いつ終わるのか・・・。




