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201話 横暴の始まり

「あ〜気持ちいい〜♪」



 男子寮から戻っても、イヴォンネはまだ風呂で独りはしゃいでいた・・・

 良かった!間に合った!



 クラリッサに言われた通り、ヘアケア用品やスキンケア用品をイヴォンネと共有し、朝晩一緒にやってくれるよう頼んだ。


「ヨーコってさ・・・思った以上にお嬢様よね」


 ギクッ!


「こんなにいい化粧水とか、髪油とか、子供に使ってる家なんて貴族くらいだもん」


 ギクギクッ!


「頼んだらすぐにお風呂用意しちゃうしさぁ・・・お風呂って金貨50枚くらいはするんじゃない?」


 えっ!

 そんなにするものなのか!?


「末端貴族より大商人の方がお金は持ってるって言うし、よっぽど裕福なお家なのねぇ」


 うっ!そうか・・・

 やっぱり、私はグレンヴィル家で贅沢が身に付いてしまっていたようだ。化粧品も高価な物なのだな。私は使わなくても全く構わんのだが・・・でも、これを止めたらクラリッサが怒りそうだ。


 と、とにかく!

 これはお父様に謝らねばならない!

 このバスタブ分は稼いで返そう!

 今度、庭の野菜でも売りに行こうか・・・でも、金貨50枚ってどれだけ野菜売ったら稼げるのだろうか。


 金貨50枚って50万円くらいだろうか・・・確か、前世でキャベツが1個300円くらいだったと思うのだ。でも、母さんが「昔は100円で買えたのに」とか言ってなかったか?

 そうすると、この世界のキャベツは・・・


 アカン!

 私にはこの世界の基本的な金銭感覚もないようだ。

 商人の娘だから算術が出来るという設定と食い違ってしまう・・・ボロを出さないように気を付けねば!




 その後、私が寝るまでの時間を勉強の時間にして、イヴォンネが分からない所を徹底的に復習した。

 夕方の鍛錬が出来ないのがとても辛いが、一人抜け出すのは不可能なので仕方ない。その分、朝の鍛錬メニューを増やそう!




 翌朝の鍛錬はいつもより1時間早く起きた。

 私が寝てしまえばクロベェも寝てしまうので、寝る前に『3時に起きよう!』とクロベェと一緒に気合いを入れて寝たら、きっかり3時に洗面所に連れていかれたのだ。



 やはり、気合いは大事だ。





 算術と語学の授業というのは、だいたい毎日ある。

 簡単な説明を敢えて難しく説明するという、ある意味高度な技だと思われる授業下手な算術教師と、眠りを誘う語学の授業の後は専門の座学だった。


 本日、デライアさんは多忙の為、私は姿を眩ませる必要がある。午後には専門の実技となると、私には2時間プラスお昼休憩の時間が出来るのだ!



 ・・・と、いうことで、グレンヴィルへやって来た。



「おや?アシュリーじゃないか、どうしたんだその姿は!」


 トーマスお兄様に驚かれた。

 そういえば、グレンヴィルの人達は今私が何をしているか知らないからな。


「ただ今、初等部へ平民として侵入し、貴族による不当行為の実態を調査しております!」

「はははははっ!また面白いことをしているんだな!父上はご存知なのか?」

「はい、お父様の許可も学園長の許可ももらわないと出来ないことですので!」

「それはそうだな。今日はどうした?」


「・・・少々訓練が足りなくてですね…ちょっと時間があったので…」

「そういう事か・・・ププッ!好きにしていいぞ。食事は?」


 今、笑ったよね!


「食べたいです!でも、騎士の皆と一緒に食べたいのです」

「分かった、騎士館の料理長に言っておく」

「ありがとうございます!」




「アシュリーお嬢様!?」

「そのお姿はどうしたのですか!?」


 騎士団の訓練所に行くと皆に驚かれたが、事情を話すとすぐに訓練に混ぜてくれた。



 久しぶりにグレンヴィルの騎士達と訓練が出来て嬉しいっ!



 お昼までみっちり訓練した後は、昼食の為に騎士と一緒に移動した。


「アシュリー様もご自分で決めた事に、たった二日で根を上げていてはいけませんよ」

「はい・・・」


 セオドアが半分笑いながら言ってくる。


「朝の訓練はされているのでしょう?」

「はい・・・今朝は1時間増やしました」

「それでも我慢出来ないとは、仕方ないですね」


「このところずっと、井戸ポンプの設置とか、色々あって、いつもより鍛錬の時間が少なくて・・・」

「そうでしたね、失礼しました」

「今日は、他に用事もあったのです!」

「他に何か?」

「騎士団で魔法学園の寮にいた人がいたら話を聞きたいです!」

「それなら結構いると思いますよ、私もそうですし」


 そうか!

 グレンヴィルの騎士で魔力のある人はほぼ寮生なんだ。


 食事をしながら、自分達が寮生だった頃の話を皆から聞くことができた。



「すみません、当時は貴族の息子でしたから平民の状況には詳しくないのですが・・・自分は訓練ばかりしていて、風呂も最後の方に入ってました。洗濯もその時ついでにしましたね」


 ふむ、貴族でも平民より後に入っていたということか。


「貴族は洗濯なんて洗濯屋に任せてたんじゃないかな?押し付けられた事なんてないですよ」


 そう言う彼は巨漢の騎士である。

 貴族も彼には押し付けようとは思わないのではないだろうか。


「談話室なんて入ったことないですね。そんな時間があったら訓練します」


 これは参考にならない。


「食事の時間は誰よりも早く行ってました!早く食べて訓練に行きたいですから。訓練終わった頃にもう一度食堂行くと、おばさんが残り物くれたりするんで・・・」


 そ、そうか・・・。



 貴族からも平民からも意見を聞けたが・・・一貫して騎士達の生活は「訓練」が中心のようで、これが参考になるのかどうか疑問である。


 横暴な態度をとられた事や、平民だと蔑まれる事はなかったか、そういう場面を見た事はないかと聞いてみると、一部の貴族にはあったようだ。



「でも、食堂の並び順や風呂の順番にそんな決まりはありませんでした。高位貴族はだいたい部屋に風呂を持っていたみたいだし、順番は月毎に変わっていったよな?」

「ああ、俺の時もそうだった」



「あっ!あれからじゃないか?」

「あれって?」

「ブレィディ様が入学して来て、食堂で同じように平民が食べてるのが嫌だとか抜かしたらしくてさ!」

「ああ、そんな噂聞いたな」

「私はその頃にはもう学園にいなかったから知らんな」


 ブレィディって確かアトール公爵の次男だよな。

 あ、違った先代のアトール公爵だ、今はもう爵位を譲ったからな。そして、次男は平民だ。



「1年間、初等部の平民はブレィディ様がいる食堂には入れなかったらしいんです」

「何で1年間なのですか?」

「翌年にはナタリア様が入学されたからですよ」


 納得である!


「でも、ブレィディ様が高等部に上がって翌年ナタリア様が上がって来るまで、高等部の食堂で同じことが起こったんだ」

「そん時は俺もう居なかったわー!そんな事あったのか!」


「俺もその1年間しか知らない。でもナタリア様が進学してくれば続くわけないし。その次の年にはギルフォード様も初等部に入学して来ただろう?学園の食堂でもう同じ事は起こらなかったと思う。俺は寮生じゃなかったから寮の事は分からないけど・・・同じような事が起こってても不思議じゃないと思う。ブレィディ様にはいっぱい取り巻きいたからさ、そいつらが寮生だったらやってそう」


 ふむ。

 これは有力な情報だ。


 裏を取る必要があるな。

 ヘクターかエドゥアルド様か・・・どちらに頼もうか。


 よし、ヘクターに言って、エドゥアルド様にも協力してもらうよう頼めば良い!



 早速ヘクターを呼んで話をすると、すぐ側にエドゥアルド様もいたので、どうせならと、そこにいる全員と思考を繋いで話をした。



『姉上にその話は聞いたことがある。姉上は当時すごい剣幕で怒っていたからよく覚えている』

『それが寮の方へ伝わっていたというのは全く知りませんでしたね』

『高位貴族は寮にいませんから、寮の情報はなかなか入って来ないのでしょう』


『当時の事を知っていそうな人物を探します。アシュリー様のおかげで、年齢が特定できて助かりました』

『お願いします!』


『アシュリー、クラスメイトに聞いたぞ。私は呼ばれればいつでも行くからな』

『申し訳ありません、つい名前を出してしまいました!』

『いや、全然構わない。むしろもっと使ってくれてもいい』


 それはどうかと・・・。


『ははっ!他のクラスメイトももっとやってくれって言っていた』


 あ、やっぱり?


『それは、その時の状況によります』


『こうやって誰かが今の状況を変えてくれるのを待っていたのでしょう。全ての貴族が今の状況を喜んで受け入れている訳ではないでしょうからね、ただその勇気がなかったのです。アシュリー様が先陣を切れば自ずと付いてくる貴族も多くいると思います』


『そうだと嬉しいです』



 明日、同じ頃に連絡をくれれば、それまでに調べられた事を報告してくれるそうだ。

 王子達とのリモート会議を終え、午後の訓練に少し参加して、意気揚々と学園へ戻ったのだが・・・。




「ヨーコさん!お昼は何処に行っていたの!?すごい探したのよ!」


 え?


「一緒にお昼食べようと思ったのに、いなかったから・・・」


 そうか!

 何も言ってなかったからな。


「すまん!悪かった!」

「もう、どこかの貴族に目を付けられて連れて行かれたのかと思ったんだから!」


「それは絶対ないから安心してくれ」


 簡単に捕まるわけがないからである。

 捕まってもクロベェで帰って来れる。


「そお?まぁ無事ならいいわ。今日はもう帰れるの?」

「ああ、一緒に帰ろう。また皆で勉強会をしようか」

「うん!今日は別の子も来たいって」


 談話室に入り切るなら何人でも良いぞ!




 ミーアとコリンと一緒に帰り、ミーア達が準備をしているうちに寮監へアンケートのお願いに行った。


「貴族の方達だけで良いのですね」

「はい!」

「面白そうね、任せてくださいな」


 集まったものは、ローラに渡してもらうように頼んでおいた。

 やっぱり寮監は良い人だ!



 ミーア達の部屋へ行くと、昨日と同じメンバーが待っていたので、連れ立って談話室へ向かったのだが、談話室の手前で知らない人達に止められた。


 多分貴族だと思うが・・・。


「ちょっと、そんなに大勢で談話室に入らないでよ!」

「何故だ?談話室は広い。これだけの人数が入っても十分な余裕がある」

「目障りだからよ!」

「誰にだ?」

「私達によ!」


「ならば悪いが3階の談話室へ行ってくれ、我々はここで約束があるのだ」

「何ですって!私に遠慮をしろと言うの!?」

「いや、遠慮しろとは言っていない。解決案を述べたまでだ」


「なら、お前達が3階へ行きなさいよ!」


 ふむ・・・。

 まぁ、別にいいか。


「そうか、分かった。では今この部屋に居るだろうコナー様に伝言を頼む」

「えっ!?」

「コナー様と勉強会をする約束をしているのだ。3階へ移動するように言ってくれ。ああ、移動する理由もちゃんと伝えてもらえるとありがたい」


「な、な、なんですって!」


「伝言が無理なら、今少し時間をくれれば、自分で言ってくるが?」


「・・・ふ、ふん!もういいわっ!」


 貴族らしき女生徒達は怒りもあらわに去って行ったとさ。



 邪魔者が居なくなったので、中に入るとニコニコ笑っているコナー様が待っていた。


「聞こえたよ」


 どうやら今のやり取りを聞いていたようだ。


「仲介に入ろうかと思ったけど、全然大丈夫だったみたいだね。あんな事言うなんて変な子もいたものだ」


 え?

 変な子?

 ここにはその変な子がいっぱいいるぞ?


 周囲をぐるっと見ると、数人いた貴族達が全員目を逸らした。


 そうか…コナー様はこの状況を全く知らないのだ。どれだけ周囲に無頓着なのか…。もしかして、コナー様は最近寮生になったとか?


「コナー様はいつからこの寮にいるのだ?」

「この後春からだよ」


 やっぱり!


「今、家の修理をしているんだ。住めないわけではないけど、勉強するにはうるさいから寮に入れてもらったんだ。学園にいると勉強もしやすいからね」


 そうか…だから誰よりも早くここにいるんだ。


「こうして君みたいな天才に会えるなんて、寮に入って本当に良かったよ!」

「天才ではない。天才というのは勉強しなくても出来るような人間のことを言う。私は努力無しには出来ない凡人だ」

「そ、そうか…失礼な言い方だったかな、謝るよ」

「いや、悪気がないのは分かっている。謝る必要はない」


 そんな私の返答に余計に笑顔になったコナー様は、いそいそと今日の質問を始めた。


 初等部組も後から男子生徒が加わり、ノートを開いて勉強会の開始である。



 人数が多いこともあり、昨日より遅くまで勉強会は続き、もう夕食の時間になったのでお開きにした。


「今日もありがとう!どうも今年の算術の教師の授業は分かり辛くてね・・・今とても難しい所に入ったのに、これまでの所で躓いてしまっていて困っていたんだ。私は立場的にもクラスの皆を先導しなければならないから本当に助かるよ!明日も是非頼みたい」


「多分、この初等部の生徒達も同じ教師だ」

「そうなのか?ワーグマン先生だけど、同じかい?」

「「「はい!」」」

「そうか・・・分からないのは私達の学年だけではないんだね。ちょっと安心したよ」

「明日も頑張ろう」




 男子寮の人達とは分かれ、勉強道具を部屋に片付けたらすぐに食堂へ行った。

 いっぱい勉強したから腹が減ったのだ。


 しかし、コナー様と勉強すると、来年の予習になって良い!



 昨日より混んでいたが、昨日と同じよう貴族を気にすることなくすぐに並ぶと、私を見つけた平民達は、こぞって並び始めた。


 私が居なくても並んでくれるようになって欲しいものである。



 すると、本日も餌食となるべく阿呆な貴族が割り込みに来た。何の断りもなく私達の前に並ぼうとしたのである。


「列の最後尾はあっちだ」

「なんだと?」

「私達が並んでいるのが見えないのかと思って教えてやった。列の一番後ろはあそこだ」


 最後尾を指差してやると、ワナワナと聞こえそうな雰囲気で怒鳴った。


「うるさい!お前ら平民だろう、貴族に順番を譲るのが常識だ!そんな事も知らないのか?」

「そんな常識はこの学園にはない。そんな事も知らないのか?」

「グッ・・・」


「知っているはずだ。この学園に身分の差はないということを。今自分がしている事が如何に横暴であるかを」


「・・・・・・クソッ!」


 今日の阿呆貴族は、私をひと睨みして食堂を出て行ってしまった。一人だったからかもしれないが、昨日の阿呆貴族より引き際が早かった。


 そして、今の様子を目ん玉をまん丸にして見ていた生徒が入口に突っ立っている。


 コナー様だ。







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