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1話 転生したら剣と魔法の世界だった

本日2話目の投稿です。

本編第1章の始まり。

 うーん・・・

 これはいわゆる天蓋付きベッドというものか・・・


 ふかふかの大きなベッドで目を覚まし、周囲を見渡すとベッドの天蓋が目に入った訳だが、どうにも理解できない。




 私の名前は羽生鷹虎はにゅうようこ、高校3年生。

 フリガナ無しの時には必ずと言って良いほど「たかとら」と呼ばれる。


 母さんの名前の鷹子たかこから一字貰った名前だが、それに虎をつけるとは女の子にどうなの?と思われるが・・・

 三人いる兄の名前も、大獅たいし虎徹こてつ豹也ひょうやと、それぞれ強そうだ。

 私の名前も負けずに強そうで満足している。



 小さい頃から喋り方が男の子みたいだとよく言われたが、家に女らしく喋る人間がいないのだから仕方ないというものだ。



 私の家は、曽祖父の代から続く剣道場で、今は母さんが館長だ。

 まだじーちゃんは元気だが、母さんに勝てなくなった時に代替わりしたらしい。

 じーちゃんは龍峰りゅうほうというかっこいい名前で見た目は厳格な剣士風だが、これが結構話の分かる爺で優しいのだ。

 絶対母さんの方が厳しい!


 父さんは元米国軍人で金髪碧眼。

 そんな男との結婚を許した時点でじーちゃんの心の広さと柔軟さが分かるというものだ。


 父さんの名前はゴッドフリー。

 何となく強そうである。



 そんな名前の事はいいのだけど、

 私の最後の記憶では、車に轢き殺されそうになっていた女の人を助けに入って・・・

 それで・・・



 そうだ!

 巻き込まれたんだ!



 ここは病院でも無さそうだし、この身体どう見ても私の体じゃ無さそうだ。

 チラチラと見える髪の毛は、白髪⋯じゃない銀色?ホワイトシルバーっていう髪色だと思われる。髪は母さんと同じ黒髪だった私とは違う。

 そして小さな手、小さな身体。



 ここは何処?


 私は誰?


(一度は言ってみたかったセリフ)


 頭の中がモヤモヤするので、一度落ち着いて整理しよう。



 私自身は助かった訳ではないのか?

 ふかふかベッドの上で胡座をかき、ゆっくりと記憶をたどる。



 すると自分の中に、このベッドを使う少女の記憶がある事に気付く。



 そうだ、「アシュリー」

 それが私の名前。



 そして、

 今、目覚める前、

 もっと言えば、

 このベッドに連れてこられる前、



 お母様が亡くなった・・・。



 自然と目に涙が溢れ出てきた。

 お母様という呼び方も、

 自分をとても愛してくれた、

 藍色の髪の美しい女性のことも、

 病で伏せっている儚げな姿も浮かんでくる。



 母さんじゃない。

 でも紛うことなき私の母親だ。



 優しかったお母様がもう居ないことがショックすぎる自分がいる!


 哀しい・・・。


 家族の死など経験がない。


 ばあちゃんは、私が物心つく前に亡くなったらしいので記憶にない。この想いにどう対処していいのか、できるのか分からない。



 この少女の想いは私の想いだ・・・。





 一時は混乱したけれど、これは輪廻転生というものなのかも知れない。

 お母様が亡くなったショックで、前世の記憶が蘇ったのだろうか。

 日本っぽくはないので外国だろう。前世の父さんが米国人だったから、転生も外国なのかな?


 それにしても、お金持ちっぽい。記憶に浮かぶ世界は、何だか中世っぽい?(中世の事をよく知っている訳じゃないけど)時代が戻る輪廻転生ってある?


 まだ、謎だ。



 とにかく、私自身は死んでこの少女の中に記憶だけ残っていると考えるのが妥当だろう。

 あの女の人も死んじゃったかな・・・助けられなくてごめん。


 父さん、母さん、じーちゃん、獅子兄(ししにい)虎兄(とらにい)豹兄(ひょうにい)、先逝く不幸をお許しください!

 親不孝、祖父不幸、兄不幸でごめんなさい!



 ウンウン考えているとノックが鳴る。


「お嬢様、お目覚めになられましたか?」


 優しげな男性の声が聞こえてきた。


 入ってきたのはすご〜く執事っぽい服装の外国人で、薄茶色の髪をした中年の男性。まだ、頭の整理が出来ていないけど、執事と言えば「セバスチャン」だろうと、つい口に出てしまった。


「セバスチャン・・・」


「はい」


 なんと返事が返ってくるではないか!と、思ったが、そうだよ、この人はセバスチャンだということを思い出した。


 執事=セバスチャンという等式が当てはまったのが嬉しくて満面の笑みを浮かべると、セバスチャンは困惑と安堵が混雑した表情で、少し涙ぐんでいた。


「お元気になられた様で⋯旦那様がとても心配していらっしゃいます。

 お元気なアシュリー様をご覧になればさぞや安心されることでしょう。すぐにこちらにお呼びしましょう。」




 その後、ドヤドヤとちょっと引くくらい大きな体躯のおじさんと青年が三人と綺麗な女性が入って来た。



「「「「アシュリー! 大丈夫かい!」」」」



 あ、お父様とお兄様たちだ…。



 自然と脳裏に浮かぶのは、父親と三人の兄。

 記憶の中の愛おしい家族に会い、再び私の瞳は洪水の様に涙を流してしまった。



 お母様が亡くなった時に散々泣いて、気を失ったアシュリーがまたワンワン泣き始めたので、お父様もお兄様もあたふたと一生懸命慰めてくれる。



「アシュリー、こちらにおいで」


 そうして優しくお父様が抱き上げてくれた。


 前世で18年生きてきたから、精神年齢的には一応成人なのだが、抱っこされるのは気持ちが良い。なんと言ってもお父様は今の私の倍以上に大きい。体積で計算したら5倍以上あると思われる。

 お父様の大きな腕に抱かれて安心したのだと思う。少し客観的に家族を見て思い出すことが出来た。



 お父様はこのグレンヴィル領の領主様だ。グレンヴィル辺境伯と皆が呼んでいた。

 名前はゴッドフリー。

 そうだ、前世の父さんと同じ名前だ!だからこの家に転生したのか?


 私と同じ髪色で、目はエメラルド色の瞳。私は確かアメジスト色の瞳で、お母様と一緒。


 お父様によく似た長兄は、トーマスお兄様。お父様より少し背は低いが、かなり大きい。私より結構年上だろう。結婚したばかりで15歳くらい上のはず?

 私は確か5歳だ。

 奥さんはティファニー様。オレンジ色の柔らかいふわふわした髪と鳶色の瞳。私のことを自分の子供のように可愛がってくれる、とても優しくて綺麗な人だ。

 次兄は私と同じシルバーの髪にアメジストの瞳のジェイムズお兄様。トーマスお兄様より少し細い細マッチョタイプかな?年齢は13歳上だから18歳。

 でも、やっぱりデカイ!お父様も上の二人のお兄様も2mくらいありそうだ。

 三兄はハロルドお兄様で、藍色の髪のエメラルドの瞳で、顔はお母様と私によく似ていて女顔かもしれない。上のお兄様達に比べて少し小さく華奢な印象だ。年齢は10歳違い。


 私だけ年が離れてるみたいで、独りだけちびっ子である。


 しかし何か、聞き覚えのある名前だな。

 ゴードンとかパーシーとかアニーとクララベルも何処かに居そうな・・・。


 ジェイムズお兄様とハロルドお兄様は、いつもなら学校の為に遠い王都にいるはずなのに、お母様の容態が悪くなったから慌てて帰って来た。



 皆とても私に優しくて、愛されてるのが分かる。

 前世の家族も私の事を大事にしてくれたけど、この家族も大事にしてくれている記憶しかない。


 今度こそ親不孝、兄不幸にならないように頑張って生きるよ!



 そんな風に決意を固めた私に、一番小さいハロルドお兄様が優しく言う。


「アシュリー、お目目が真っ赤で溶けそうだよ。お熱が出るといけないから癒してあげるね」



『我が身に宿りし光の力よ、来たれ我が手に、癒しの光を放ち、悲哀の涙を拭い、この憂いし者に安らぎをもたらさん』



 劇団の舞台セリフの様な言葉を発したその瞬間、ハロルドお兄様の手が金色に光り、フワッと何か優しい風の様なものを感じた。

 すると、ちょっと泣きすぎてヒリヒリしていた目元も、ズキズキしていた頭もスッキリした。


 な、なんとこれは魔法ではないか!

 驚きながらもお礼は忘れてはいけない。


「ハロルドお兄様ありがとう!」


 私がちょっと笑顔になると、皆も安心したように笑ってくれた。


 そうか、そういえば、何度も魔法を見た記憶もあるようだ。



 色々思い出してきた。

 この世界は、地球上に存在する世界ではなく、魔法の存在する別の世界だ!

 お父様やお兄様は大きな剣を持って魔物狩りにも行っている。


 私が転生したのは「剣と魔法の世界」なのだ。




 落ち着いて周囲を見回すと、ここは見慣れた私の寝室。可愛い壁紙などはないが、明るい雰囲気になっていると思う。


 夜は真っ暗で怖いという記憶があるが・・・。電気が無い世界だから仕方がない。


 壁には今日の日付が彫られた万年カレンダーもどきが掛けてある。

 前世で見た事がある、キューブ型の数字を置き換えて使う卓上万年カレンダーに似た、数字や曜日の部分を板にした壁掛けバージョンである。


 今日は「中冬」の「11日」で「火の日」。

 お母様が亡くなったのは「10日」で「闇の日」だ。


「闇の日」がお母様を連れて行ったと、そう思ったのだ・・・


 ()()()は外も真っ暗だった。

 今はもう次の日になったのか。



「お父様。お母様のところ・・・行きたい、です」


「そうだな。朝の挨拶に行こうか」



 いつもの様にベッドで眠るお母様は、お化粧をされているのだろう。夕べより顔色がよく、唇もほんのり赤く色付いていて、いまにでも目を開けて私の名前を呼んでくれそうだ・・・。


 また涙が出てくる!

 我慢出来んから流してしまおう。

 また目が痛くなったら、ハロルドお兄様に治してもらえばよい。


 今だけ。


 今だけ、お母様との思い出に浸らせてくれ。




 涙も枯れそうになった頃。

 既に外は暗くなりかけていた。



 今は冬だが、それでも冷えた所にお母様を連れて行かねばならないらしい。日本の葬儀屋の様に、ドライアイスは用意出来ないからな、仕方ない。


 皆でお母様を地下の冷えた部屋に連れて行き、綺麗な布が敷かれた棺桶に寝かせる。


 ここは、亡くなった人を安置する部屋だろう。

 真っ暗にならないよう、祭壇の様な所にロウソクが何本も立てられ、誰が用意してくれたのか、沢山の白い花も飾られている。


 これならお母様も怖くないかな・・・。



 こんな時でも、気が付けばお腹が減っているようだ。勧められるまで気が付かなかったが。


 軽く食事を摂り、腫れた目をハロルドお兄様に癒してもらい、部屋に戻った。


「アシュリー。お休み。眠れなかったら何時でも私の部屋へおいでね」


「はい・・・」


 ハロルドお兄様がやさしく私を寝かせてくれた。

 まだ眠れそうもないので、もしかしたら、行かせてもらうかも・・・。



 少し、この世界の事を考えてみる。


 この世界でも1年に春夏秋冬があり、それが月の呼び名になっている様だ。

「初春」から始まって「中春」「後春」と春を表す月が3ヶ月。それが夏、秋、冬と同じ様に名付けられている。


 でも、気候が日本と違うので、今が日本の何月に当たるのかは分からんな・・・。

 前世で1年は冬の1月から始まるが、ここは春からだ…多分。

 まだ、ハッキリとは分からんな・・・。アシュリーの記憶では、そこまで判断出来ない。


 曜日に当たるのが「〜の日」と呼ばれるものだろう。

 皆がお休みするのは「光の日」だというのは知っている。アシュリーはお父様やお兄様達がお休みになるのを楽しみにしているからだ。


 曜日は多分7日。日本と同じだな。

 光、闇、火、水、緑、風、地の7曜だと思う。日本と似ているといえば似てるかなぁ・・・。

 あと、ひと月が何日なのかは分からない。

 アシュリーが知らない事は私もまだ知らないのだ!





 明日はまたお母様に会いに行こう。

 この世界の葬式というものは経験がない。あと何日でお別れになるのか分からないが、もうすぐなのは分かっている。



 本当にさよならなのだ・・・。







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― 新着の感想 ―
前世家族の名前がかっこよくね?思わずw( ̄△ ̄;)wおおうっ!ってなったよ 何処の戦国武将かよってしかも前世と今世の父ちゃんの名前がゴットフリーって何処の神殺しの方ですか?ってなったよ(笑)
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