18話 クラリッサの憂鬱 〜専属侍女視点
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ありがとうございます!
第2章の始まりです。
グレンヴィル辺境伯家で普通の見習いメイドだった私は、魔法学園入学の半年ほど前から、急遽アシュリー様の侍女に昇格した。
母親がアシュリーお嬢様の乳母で私はアシュリー様と同じ日に生まれた乳姉妹ということと、魔力が少しだけある私は、アシュリー様と同じ魔法学園へお供できるからというのが理由かと。
王都に来て・・・
モントローズ王国魔法学園の門を潜って・・・
私は前世の記憶を思い出した
ここが、この世界が乙女ゲームの世界だということを!
私が何度もプレイした、剣と魔法の国の乙女ゲーム 『マジカル★ミッション』の世界と同じだわ。
サブタイトルは『乙女の下克上』で、ヒロインは平民の光魔法使いの美少女・リアーナ。
そして、アシュリー・グレンヴィル辺境伯令嬢は、悪役令嬢。
攻略対象のどのルートでも破滅後の国外追放エンドしかない。
私はその侍女ってことか〜!!
前世の私はキャバ嬢だったはず。
もう何度も名前を変えたし、本当の名前もはっきり思い出せない。
確か、最後のお店では「あやか」だったと思う。
ゲームオタクで、YouT●beにゲーム実況もしていて、結構楽しい人生送ってたと思うんだ。
あの日・・・元彼に殺されて終わっちゃったんだろうけどね。
工場に挟まれた車一台分の狭い裏道を、ヤの付く職業の元彼の車に追われていた。
もう殺されると思った時、塀の上を走って来る少女が助けてくれようとしたんだけど・・・
私が重すぎて、結局二人とも轢かれて死んだんだ。
その瞬間まで思い出して身体が硬直する。
でも、今までは夢の世界のことだと思っていた前世の記憶が、はっきりと戻って来てスッキリしたわ。色々と腑に落ちる事がたくさんあるみたい。
それよりも・・・
アシュリー様も絶対転生者だわ!
同じ日に生まれたってことは、多分私を助けてくれたあの少女じゃないかな?
小さい頃はずっと一緒に遊んでいたのに、奥様が亡くなってからあんまり遊ばなくなって、何でかなって思ってたけど、
5歳で前世の記憶が蘇ったとしたら辻褄が合う。
確か、あの頃
「クララじゃないのね」って言った!
私の名前はクラリッサなのに変だな〜って思ってたから覚えてる!
お父さんが「セバスチャン」だから、「クララ」って名前が出て来たに決まってる。
そんなの分かるのは日本人だからだよねー。
もしかして、兄さんには「ペーターじゃないのね」とか言ってたりして・・・。
さっき「遺伝子」とも言った。
これは絶対、黒だと思う。
アシュリー様は記憶取り戻すの早かったんだなぁ。やっぱり奥様が死んだショックかな?すっごい泣いてたもんね・・・。
そういえば、アシュリー様のキャラってゲームと全く違うけど?
あまりに違うから私も思い出せなかった?
悪役令嬢アシュリーといえば・・・
「母親亡き後、家族に甘やかされて育ったアシュリー辺境伯令嬢は、我儘放題の性格の悪い少女」のはず。
旦那様達はアシュリー様を甘やかしたくて仕方ないみたいだけど、性格全然悪くないよね?物欲全然無いし、我儘も聞いたことがないよ?
「両親の能力を引き継いで魔力も豊富なことでチヤホヤされ、学園でも我が物顔でとりまきの貴族令嬢を連れ歩いている」はず。
あのアシュリー様では想像出来ないなぁ。貴族令嬢を引き連れてるより、厳つい騎士団引き連れてる方が現実的。もしくは、庭師のおじさんとか?
「ヒロインを虐めて、王子に婚約破棄される」
無さそうだなぁ。他人虐める暇があったら、騎士団に乗り込んで鍛錬してそう。まず、王子と婚約者になれるのかという問題もあるかと。
「魔物討伐演習では、とりまきを盾にして逃げる」
これは絶対ない!
喜んで魔物討伐しまくるところが目に浮かぶ。
「側妃と結託して第一王子暗殺を目論む」
側妃と結託がまずありえないな・・・上位の人とは関わり合いを避けそう。暗殺はできるかも知れないけど、やりそうもない。正々堂々戦うタイプだよね。
「反国王派と裏取引して、国王の命を狙う」
ナイナイ。裏取引とか絶対苦手そう。
まず、隠し事下手だよね・・・。隠れて鍛錬してたのも皆知ってたし。
「帝国を煽って戦争を起こそうとする」
これはどうだろう・・・戦うの好きそうだけど、戦争はさせない方向で戦いそうだね。
どのルートの悪役令嬢キャラにもなりそうもない。やっぱり、中身があの塀の上を走って来た少女だからかな?うん、多分そう。
塀の上を走ってただけでも普通じゃないと思うから、前世でもアシュリー様はアシュリー様だったんだ。
あれ?少女が普通じゃないからアシュリー様は普通じゃないのか。分かんなくなって来た。
このアシュリー様なら破滅回避も夢じゃなさそうね!私も半年侍女として過ごして、かなりアシュリー様を理解してるじゃない?これからしっかりアシュリー様のサポートして、王妃にでもなってもらおうかな〜!それは夢見すぎかな?
帝国の王子攻略でもいいかも。
アシュリー様、むっちゃ可愛いからきっとモテるよ♪
怪力だけど・・・。
むっちゃ強いけど・・・。
不安はいっぱいだけど、少し楽しみになって来たかも♪とにかくアシュリー様が、道を踏み外さない様に目を光らせておかなきゃ!
問題は同級生としてヒロインも入学してくるはずだから、接触する時は気を付けなきゃいけないし・・・高等部に進学したら、攻略対象との接触にも気を付けなきゃね。
この前世の記憶は使用人としても結構役に立つと思うのよね。
アシュリー様、オシャレとか全く興味ないし、ほっておくと怪我だらけになるし、髪も肌も荒れ放題になるわ!アシュリー様の美しさを維持させるのは私の使命なんだと思うのよ。
前世でお水だった私は人間観察も得意だと思う。このテクニックで、できる侍女を目指してがんばろっと!
王都のグレンヴィル家のお屋敷に着いたので、早速アシュリー様のお部屋を整えに行った。
アシュリー様は、グレンヴィル家次男のジェイムズ様のあつ~い歓迎を受けているから先に行かせてもらう。
こちらのお屋敷にも、もう何着かの新しいドレスが用意されているみたい。ホント羨ましいわ〜!
本人喜んでないけどね。
ジャージの上下とかあげたらすごい喜ぶんじゃないかな・・・。
N●KEシューズとか。
スニーカーは私も欲しい!
でも学園の制服を着たアシュリー様は可愛かったな〜♪
ゲームをしてた頃は、悪役令嬢なんて全く意識外だったけど、今なら推せる!
ヒロインよりずっと可愛いんじゃない?
あのホワイトシルバーの艶やかな髪
(ツヤを保っているのは私の努力の賜物だけど)
透き通る様な美しい肌
(怪我をさせない様に最善の注意をさせている)
アメジストの様に輝く紫の瞳に、マッチが何本も乗りそうな長いまつ毛
小ぶりでスっと高い鼻
プルんと美味しそうなチェリーの様な唇
まだ12歳だというのにこれほど美しいのだから、もっと成長したらどれほど美しくなるのかな〜♪
この世界にカメラがないのが残念だわ!このアシュリー様の成長記録が残せないないなんて!
とにかく、そんな可愛くも美しいアシュリー様が制服を着た姿が可愛すぎて悶え死ぬ・・・。
ゲームの世界だからかな?
貴族の人達の服装からすると、この制服ってかなり異色なデザインになると思うんだけど。
デザイナーズブランドを制服にしている様な私立の高校の制服を、もう少しだけドレッシーにした様な、それでいて襟は大きくてすっごい可愛いのだ!
異世界人の私にはとても嬉しいデザインで、アシュリー様にとってもよく似合っているから余計に嬉しい!
本人ジャージの方が好きそうだけどね。
ジャージも似合いそうなのが憎いわっ!
お部屋も整えたし、アシュリー様のお世話に行きましょうか。
兄さんとも色々打ち合わせしたいし。
「あれ?兄さん」
「ああ、クラリッサ。久しぶりだな!
やっぱりお前も随分成長したな・・・」
「まあね、2年ぶりだもの
兄さんだって、随分と逞しくなったじゃない!」
「いや・・・まだまだだ・・・」
「そう? ところでアシュリー様はどちらに?」
「ああ、庭だ。
ジェイムズ様と一緒に鍛錬に行かれた」
「まあ!着いていきなり。
よほど我慢してらしたのね・・・」
「ジェイムズ様もずっと我慢してたからな。
領地では旦那様やトーマス様はいつもお嬢様と訓練してただろ?
こっちでのジェイムズ様は、ずっとやきもきして待ってたのさ!」
「じゃあ、私達も行かなきゃね」
「ああ」
その後、アシュリー様とジェイムズ様の剣の打ち合いを目にした兄さんは、アシュリー様の強さに魂抜かれたみたい。
まあ、その辺の兵士よりずっと強そうよね。
あ、ジェイムズ様、勝てるかしら?
兄さんが固まってる間に、こちらのお屋敷の執事・トビーと、学園への送迎についてなど色々打ち合わせをした。
学園の事は兄さんに聞こうと思ってたのに、何時までもアシュリー様達を凝視したまま動かないから聞けなかったわ!
トビーが何でも知っていたから助かったけど・・・。
これからアシュリー様の専属従者になるのに大丈夫かしら?
まあ、振り回されるのは目に見えてるけどね。
ふふっ♪
それもまた楽しみね〜!
それにしても・・・
いつまで鍛錬続けるつもりかしら!
もう日も暮れるというのに、ほっといたらいつまでもやってそうよね。兄さんはあてにならないから私が止めないとダメか。
「アシュリー様!もうすぐご夕食です!
お身体を清めてお着替えなさる時間がありませんよ!」
砂埃にまみれたアシュリー様をピカピカに磨き、ツヤツヤに仕立て、脛に見つけた打ち身にお手製の湿布を貼り、ドレスを着せる。
うん。
完璧だわ!
可愛く仕上がったアシュリー様と共に食堂へ行き、この王都のお屋敷の人達に挨拶をした。
アシュリー様には少し驚かれたみたいだけど、私は前世の記憶を思い出して変わったのよ。
私は、アシュリー様を絶対破滅させたりしないから!




