177話 クラリッサの憂鬱 〜専属侍女視点
第8章の始まりです。
今年はあっという間に一年が過ぎた気がするなぁ〜・・・私も歳をとったのかしら。
トータルしたら40代も半ばよね…怖っ!
昨年から始まっていた帝国の侵略を我が国が見事阻止したと知ったモントローズの国民は、もう一斉にお祝いムード。その上、史上初の女性の叙爵という話題が国中をワイドショー状態にしたのよね・・・。
旦那様もアシュリー様も最初はとても喜んでいたけど、数日でうんざりしてたかな。
家に帰るとお誘いの手紙や訪問が耐えなくて、執事のトビーも呆れてた。
アシュリー様は、学園で愛好会の人達にキャーキャー言われてる程度の方がいいって、学園に長居するようになったり、帝国の皇帝に喝を入れに行くとか言って逃げて行ったり・・・。
学園が休みの日は髪を染めてコーク領へよく行ったから、日焼け対策が大変だったわ!
そんな非日常的な日常が、徐々に落ち着いて本当に平和な日常が始まった・・・とはいかないのがアシュリー様。
剣術大会では剣舞に参加。
魔術大会が終わるとすぐに長期休暇のグレンヴィル騎士見習い研修が始まった。
思った通り、今年の研修希望者は剣舞と同じように百人超えのすごい人数だった!
まぁ〜驚いたわね!
「騎士見習い研修」なのよ?皆さん何を勘違いしてるのかって思ったわ。
「お嬢様、剣舞と同じように自分で判断してもらう為に、希望者全員に研修を体験させたらどうでしょう」
「ふむ・・・一日体験か、それは良いかもしれない。早速終業日の翌日は体験会にしよう!」
「旦那様にもお話して了解を得なければなりませんよ」
「分かった、聞いて来る!」
もちろん旦那様も賛成されたので、見習い研修体験会がアシュリー様送迎の元で行われたんだけど・・・。
笑えたわ!
皆目が皿になってたのよ!
昨年参加した研修生達が多く参加していて、彼らと共に見学ではなく参加しようとする人も多くいたけど、その人達は一人残らず途中で脱落。最初から「まずは見学だけ」なんて言ってる生徒は最初の方のランニングや鉄棒を見ていただけで諦めていたんじゃないかな。
中には休み休みでも参加しようと頑張る生徒もいて、その人達は最終的に残る事になったみたい。
残る人の多くが平民だったというのは、アシュリー様の送迎が大きな要因だと思う。
旅費も要らず訓練が受けられるなら頑張るよねぇ…。アシュリー様も昨年から参加している平民の研修生達も喜んで励ましていた。
最終的な研修生の人数は昨年よりグッと多くて、40人くらいだったかな。訓練を体験しても残ると言った人達は根性があるんだと思うもの、アシュリー様も張り切って先導していた。
研修の途中で必ずアシュリー様の誕生日が来るんだけど、今年は『ドッジボール大会』で、思いっきりドッジボールで遊んだ後は、たこ焼きをいっぱい食べてとても満足そうだった。
シャルロット様は、昨年のうちに次の年も同じ日にたこ焼きを焼いて欲しいと、ちゃんとあのたこ焼き屋と約束を交わしていたというので流石だと思ったわ!
アシュリー様は、研修中も時々帝国へ行って皇帝がサボってないか確認に行ったり、研修生をコーク領へ連れて行って青年部隊と訓練させたり・・・毎日充実しまくってた。
コーク領では、また予告もなくいきなり行って怒られてたけどね。
しかも、ディーデリヒ様とハインリヒ様も全く何も聞かされていないままだったから、久しぶりの再会は驚くのを通り越していた感じだった。
「え!?ハインリヒ兄上!?うそ!!」
「嘘ではありませんよ?」
「もしかして、ディーデリヒか?・・」
「どーして!?どーしてそんなむさ苦しくなっちゃったの!!」
「おいっ!」
「あんなに可愛いかった兄上がこんなおっさんに・・・」
「おいっ!失礼だなっ!」
「ムハンマドは髭を剃れば良いのです」
「そうだね!兄上、髭を剃ろうよ!」
「・・・嫌だ」
「え?なんで」
「・・・・・・」
何か理由があるみたい。
「お嬢様、人の嫌がる事を強要するのは良くありませんよ」
「はーい・・・」
兄さんが窘めてくれたけど、ディーデリヒ様は諦められないっぽい。ふふっ…よっぽど昔は綺麗可愛い感じだったのかなぁ?見てみたい気もするけど。
ディーデリヒ様とハインリヒ様が訓練しながらお互いが互角の実力だと分かったみたいで驚いてた。アシュリー様はもちろん分かってたから二人で訓練させたんだと思うけど・・・。
「兄上は、農民になっても強いんだね!すごいよ!」
「まぁ、母さんにしごかれたからな・・・。アシュリー様に教えてもらった鍛錬で身体能力が上がったのも大きいか」
「そうなんだ・・・そういえば、ラムラ様って強かったよね。先生程じゃないけど」
それを聞いたアシュリー様の目が・・・。
「ムハンマドのお母様はお強いのですかっ!」
「あ、あぁ、まあまあ強い。アシュリー程じゃないけどな」
「是非、いっせ・・・」
「お嬢様!」
また兄さんに止められた。
平民として目立たないように生活してるのに、アシュリー様が余計なことしちゃいけないわよね。
その日は諦めて大人しく帰って行ったので良かったわ。
そんなこんなで、あっという間に夏の長期休暇も終わっちゃった。
新学期が始まれば、あっという間に秋の魔物討伐演習。
討伐演習の事は私はよく分からないけど・・・兄さんの話では、アシュリー様と同じ組になりたいという生徒が多かったらしく、組を決めるまでに学園側は大荒れだったって。
何故か、生徒の親から「是非アシュリー様と同じ組に」という賄賂(?)が後を絶たなかったとか・・・。
何でそんなにアシュリー様が魔物討伐演習で人気なのかと不思議に思って本人に聞いてみたら、
「え?どうしてでしょう・・・分かりません。私といれば安全だからでしょうか」
そうかなぁ?それだけじゃないと思うなぁ・・・。
結局、その時は分からず、後からカーネギー伯爵様が教えてくれた。
「君達はアシュリーに毒されてるから分からないんだよ。普通なら学園の演習では討伐出来ないような魔物を、自分で連れて来て討伐させてくれるのなんてアシュリーだけだからな!魔物討伐の経験を積みたい生徒は、この機会を逃したくないだろう」
・・・という事だった。
アシュリー様、昨年はそんな事してたんだ。
「確かに、お嬢様にとっては普通の行動でしたので気が付きませんでした・・・」
兄さんは思いっきりアシュリー様に毒されてた!
結局、アシュリー様と兄さんはどこの組にも属さず、演習中は各組を回って指導するという指導者側に回ることになって落ち着いた。
アシュリー様は期待を裏切ることなく、多くの組にちょっと大物の魔物を提供して喜ばれていたって。アシュリー様本人も魔物を何体も生け捕りにするのを楽しんだみたいでウインウイン。
これは来年の魔物討伐演習もそうなるかも。
本当にあっという間の一年だった。
今はもう冬季休暇。
あと半月もしないうちに3学年に進級しての新学期が始まるなんて・・・。
そして、明日はハロルド様の婚約式。
久しぶりにアシュリー様を着飾る事が出来るのよっ!!
ハロルド様の婚約者になるご令嬢は、グレンヴィル1区を護るテンプル伯爵のご長女、カロライナ様。
カロライナ様は昨年の魔術大会で1位というグレンヴィルの優秀な魔術師。ハロルド様と二人並べばまさに優秀な魔術師夫婦となるのだわっ!
本当は、昨年カロライナ様が卒業されたから今年の夏には婚約式を行う予定だったけど、帝国の侵略計画の所為で準備が間に合わなかったから冬まで延期したという。
ハロルド様はおっとりしていらっしゃるから、「慌てる事でもないからね」と言ってらしたけど、カロライナ様はずっと待っていらしたと思うのよ!
ハロルド様のご婚約はとっても喜ばしい事なんだけど、ご婚約の後はこのお屋敷からはいなくなってしまうらしいのよね。さっき、ハロルド様ご自身のお屋敷を持たれるって聞いたばかりなんだけど・・・それを聞いてからのアシュリー様は元気がない。
二人きりの時に聞いてみたら、
「トーマスお兄様は結婚してもここに、我が家にいる。ジェイムズお兄様は王都の我が家にいる。でもハロルドお兄様は・・・私の知らない家に行く。前世でも今世でも今までに経験が無かった事だから、何となく変な気がする」
「そうね・・・男の人が自立して家庭を持つというのは、前世でも同じだったと思うけど、アシュリーは家族が別居するという経験が無かったのね」
「そうだよな・・・普通の事だよな」
「ハロルド様がアシュリーのお兄さんって事は変わらないし、ハロルド様はグレンヴィルの魔術師団なんだから、ほとんど毎日ここに居るわよ」
「・・・うん」
「一度ハロルド様のお屋敷に連れて行ってもらうといいわ。一度も行った事がないんでしょ?」
「そういえば・・・どこかも知らない」
「案外、すごく近いかもしれないわよ」
「そうだといいな!聞いてくる!」
思った事は即実行のアシュリー様がハロルド様の新居はどこかと聞きに行ったら、このお屋敷の敷地内だった!
このお屋敷、塀が見えないくらい広いからなぁ~・・・全く気が付かなかったわ!
アシュリー様も大喜びなので良かった。
「元気になったところで、明日はしっかり着飾りましょうね!」
「クラリッサ、主役はカロライナ様だ・・・」
「大丈夫です、カロライナ様の衣装はチェック済み。それ以上にならず、アシュリー様の美しさをしっかりお披露目出来る仕様にします!」
「・・・任せる」
当日の午後になると出席者の方々が次々と到着。
今年は全国的に雪も少なかったみたいだから、道中何事もなく普段と変わらずに来れたようで良かった。
カロライナ様の衣装は白と淡い暖色系でまとめられているから、アシュリー様は寒色系でまとめてみました♪
幼さが少し抜けて美しくなって来たアシュリー様には、青と金がとても良く似合うということが夏の剣舞の衣装でよく分かった!グラデーションを効かせたドレスに派手になりすぎない金の刺繍がとても美しい!
そして何より、その美しいドレスに負けないアシュリー様の美しさよっ!!
美しく着飾ったアシュリー様が到着された方々に笑顔でご挨拶すると、皆さんの顔がへにょーってほころぶのが最高!!
あれはアシュリー様の最大の武器ね…剣術や魔法より威力があるかもしれないわ。
出席予定の方々が全て到着したところでアシュリー様はお役目終了。
ホールの方では華々しく登場したハロルド様とカロライナ様がたくさんの拍手に迎えられ、来賓の皆様に挨拶を始めた。
ここからは大人の時間。
アシュリー様や私達は引っ込む時間。
でもねぇ、こんなに可愛く着飾ったアシュリー様をもっとたくさんの人にも見せたいのよね・・・。
「アシュリー様、このドレス姿を他の人にも見せに行きませんか?」
「他の人?」
「アシュリー様は他に見せたい人はいませんか?」
「他に見せたい・・・」
ここでギルフォード様の名前が出たらどんなにいいか・・・でも、多分出ないと思う。
「お祖父様!ウォルポール公爵ご夫妻とロッティ先生はいらしていますが、教皇であるお祖父様はあそこから何日も離れられないのです!」
「では、まずウォルポールへ行きましょうか。兄さんも呼んできますね」
「はい!」
ウォルポールの教会へアシュリー様と飛んで行くと、教皇はそれはそれは喜んでいらした。
もっとたくさんの人に綺麗なアシュリー様を見せびらかしたいんだけど、これだけ喜んでもらえたらもういいかな~って思う。
「アシュリー、こんなに可愛い姿は婚約者にも見せてあげるといいよ」
「ギルフォード様に?何故ですか?」
「それはもちろん喜ぶからだよ」
「そうなのですか?」
「あぁ、それにクラリッサも喜びそうだ」
「クラリッサもですか?クラリッサ、私が王宮に行ったら嬉しいのですか?」
「はい!」
教皇はなんてイイことを言ってくれるの!
私の気持ちまで汲んでくださるなんて!!
「では王宮に行きましょう!お祖父様、また来ます!」
「ああ、またおいで」
あっという間に王宮へ飛んで行くアシュリー様。
止める間もありゃしない・・・。
「ギルフォード様!」
「「「アシュリー!?」」」
ギルフォード殿下はこれからお食事だった・・・。
それでも構わず突撃するところがアシュリー様。
本当にやりたい放題ね・・・それを許してしまう王族の方々に感謝しかないわ!
「お食事中に失礼しました!!」
「ああ…アシュリー!いいのよ!そんな可愛いドレスで来てくれたなんて嬉しいわ!」
「アシュリー!とっても可愛いわ!!」
「「アシュリーお姉様!お綺麗です!!」」
一番喜んでいるのはクラウディア様みたい。直ぐにアシュリー様の席をギルフォード殿下の横に用意させたかと思うと、お付の侍女に急いで何とかの魔道具を持って来いって命令してた。多分ハンディムービーみたいなやつの事よね。
その手際の良さに国王陛下もギルフォード殿下もボーッと見てるだけだった。
「さあさあアシュリー、座ってちょうだい」
「ありがとうございます!」
「アシュリー、今日はハロルドの婚約式ではなかったか?」
「はい、式は無事に始まりました。私はもう用無しですので、せっかくクラリッサが綺麗に飾ってくれたこの姿を、式に来れなかったウォルポールの祖父に見せに行ったのです」
「ほう、それは教皇も喜んだことであろう」
「はい!とても喜んでくださいました!それで、ギルフォード様にもお見せすると喜ばれると祖父に聞きましたので急ぎ参りましたが・・・またお食事中に飛び込んで来てしまい本当に申し訳ありません・・・」
「まぁ、アシュリーが食事中に飛び込んで来るのには慣れておる、気にするでない」
慣れてたんだ・・・。
前に何度もやってるって事!?
「ふふっ…わざわざギルフォードの為に来てくれて嬉しいわ!ねぇ、ギルフォード」
「・・・あ、あぁ、ありがとうアシュリー」
「気の利かない男ね!『綺麗だよ』ぐらい言いなさいよっ!」
「もちろん!とても綺麗だ!」
「ありがとうございます!」
この王族は本当に面白いわ♪
兄さんも笑いたいのを必死で我慢してる感じ?
しばらく歓談されていらしたけど、国王陛下が少し真面目な顔になった。何か嫌な予感がする・・・。
「アシュリー、そなたは帝国の第二皇子であるハインリヒ皇子を知っておるのか?」
「はい、ハインリヒ様はコーク領で青年部隊の隊長をされていらっしゃいます」
「あーそのハインリヒ皇子だがな・・・来年、モントローズの魔法学園へ編入してくる事になった」
え!?
第二皇子が?
来年からは私と同じ学年のリアーナも高等部に進学するから気を付けなくちゃって思ってたのに、帝国皇子が増えるってこと!?
もう、どういう展開なのよっ!
全く先が読めないわ・・・。




