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12話 初めての魔物討伐

 毎日騎士の訓練に参加するうちに、剣の他にも色々と教えてもらった。


 お父様との体術の訓練が一番楽しいのだが、忙しいお父様にはそんなに頻繁には相手して貰えない。

 それでも、グレンヴィルには体術の出来る騎士も多く、時々相手してくれる。

 柔術やレスリングの様な体術が得意な騎士もいるので、色々な事を教えてもらえるのだ!


 剣術の訓練は一人でもするが、騎士団と一緒の時が多い。剣術や体術以外は騎士団未満の見習いと合同の時が多く、セバスチャンの息子のヘクターも居る。

 お父様やトーマスお兄様はいつも訓練に参加する訳ではなく、一通り皆の様子を見たりするだけの時もあれば、長い時間特訓をしてくれたり、見習いの方でも教えてくれたりする時もある。

 ヘクターはもう2年近くも前から訓練に参加しているのだそうだ。あまり上達しているとは思えないが・・・(ちょっと失礼?)


 武器の方では短剣の扱い方や、投げ方。

 これは、魔物狩りに必要だからと、誰もが訓練するのだ。槍や弓矢の部隊もある。

 私はチビなので、槍を振り回すより短剣の投擲(とうてき)が良いだろうと、重点的に訓練することになった。


 ・・・と、いうことは?

 私もいつか魔物狩りに連れて行ってもらえると?

 それは楽しみだ!

 やる気百万倍である。


 ヘクターは、短剣での戦闘は得意そうだ。私より上手いかもしれない・・・

 むむむっ!負けてはいられない。




 1年が経つ頃には、騎士団の何人かに模擬戦で勝てる様になり、

 投擲では(まと)に99%以上当たる様になった。

 100%ではないところが大変私らしい!

(自慢にならない)



「アシュリー。来週、儂は魔の森へ狩りに行かねばならない」


 このグレンヴィル領では年に一度、とても大掛かりな魔物狩りをするのだ。

 魔物が増えすぎないよう、

 町や村を襲わないよう、

 森の魔物たちを戒めるかのように狩りをする。


 それは魔の森が広大な為、何週間もかけて準備し、数百にも及ぶ部隊がそれぞれの拠点から同日一斉に狩りを始める。

 かなり大規模な狩りだ。グレンヴィル領でなければできないらしい。


「まだお前を同行させる訳にはいかない」


 やっぱりまだ駄目なのか・・・。


「だが、1日目と2日目だけ同行を許そう」

「え?お父様、よろしいのですか!?」


「ああ、1日目と2日目だけだ。それ以上森の奥へは行かせられない。2日目の昼には屋敷に向かうよう共の者を手配する」

「はい!十分ですわ。お父様、ありがとう!」

「遊びではないのだ。心して挑むように」

「はい!」



 グレンヴィル領は王都より広く、このモントローズ王国で一番広い。その領地を5つの区域に分け、それぞれの地域を治める人を置いている。その地域の中でもそれぞれの小地区で管理する人がいる。

 地方自治体みたいなものか?この辺りは前世に通じるものがあると思う。


 他の領のことは知らないが・・・。


 今年の魔物狩りもそれぞれの区域から選りすぐりの猛者が集まっているらしい。毎年のことなので、騎士団や兵士だけでなく、この魔物狩りに参加したいと集まってくる人も多い。他の領地でも、是非参加させて欲しいと言ってくる所もあるそうだ。


 みんなそんなに魔物が狩りたいのか?


 まあいい。

 私は皆に迷惑をかけず、自分の安全をしっかり確保しながら、魔物狩りを経験させてもらえればそれでいい。気を引き締めよう。


 そういえば、ヘクターはどうするのだろうか。

 多分行くよな。

 それで私と一緒に帰らされるのだろうな。

 早く大きくなりたいな・・・。



 魔物狩り当日は、早朝から馬と馬車で移動をし、部隊がそれぞれの森の拠点に着いたら馬も馬車も降りて歩きだ。魔物対策の為の兵士が常駐する森の詰め所に馬車と馬を置き、直ぐに森に入る。


「この辺りは人里が近いから、魔物はあまり近寄っては来んが、気は抜くなよ。

 これから繁殖期に入る魔物も多い。通常では考えられぬ状況も起こりうると心せよ!」


「はい!お父様!」

「はい!旦那様!」


 ヘクターと私はお父様の部隊だ。

 今年はトーマスお兄様はお留守番。


「アシュリーの初陣に同行出来ないなんて!」


 などと落ち込んでいたが、仕方がない事。お父様とお兄様が一緒に何かあったら大変だ。また、街を護る人員も必要なのだ。


「アシュリーは私がちゃんと護るからね!」


 ハロルドお兄様が一緒の部隊なのは、私が居るからだろう。



 半刻ほど歩くと、小型の魔物が見られる様になった。

 一見ウサギに見える薄茶の魔物は茶兎(ブラウンラビット)(そのまんまだな)と呼ばれ、繁殖力が非常に強く、見付けたら狩るのが基本との事。

 もっと小さいネズミの魔物や蛇も出てきた。


「しばらく騎士達の狩りを見て学ぶと良い。小型で動きの早いものは、見付けた瞬間が勝負だ。

 最適な攻撃を如何に早く仕掛けるか、その判断ができるようになれば良い」


「はい!」


 しばらく皆の仕事ぶりを観察していたが、だんだんムズムズして来た。

 狩るべき魔物は分かった。


「お父様!私も行きます!」


 地面を蹴り、幹の太そうな大木に駆け登り、気配を探る。見付けられなかったら、次の木の枝へ飛び移り、探る・・・。


 見つけた!

 角兎(ホーンラビット)が3匹。


 この角のある奴は結構凶暴らしい。

 投擲用のナイフを首目掛けて投げる。


 先ずは1匹。


 驚いて逃げる1匹にも投げ、

 別の方向に逃げる1匹を幹を使って追い、先回りして短剣で仕留める。


 どうだ?

 ちゃんと出来たか?

 ナイフを回収しながら、ちゃんと仕留められたか確認する。


 よし!


 満足して振り返れば、ヘクターが驚いた顔で立っていた。

 一緒に後を追ってきてくれただろうハロルドお兄様は特に驚いていない。


「お嬢様は、狩りは初めてですよね・・・」


 こくこく頷くと、はぁ〜と大きな溜息をついた。

 お主も頑張るのだ!



 真昼になり、休憩と食事だ。

 お昼は携帯食を食べるのだが、私は特別扱いの様で弁当持参だ。

 乳母のエリーが携帯食は許さなかったらしい。



 午後、また奥に進んで行くと魔物も大きくなっていくが、そこまで凶暴そうな奴はいない。

 犬っぽい魔物、鹿のような魔物など、出会った魔物の半分ほど狩っていく。狩る度に角等の使えそうなものを採取し、残りは燃やすか土に埋めるそうだ。



 しばらく進むと、何か恐ろしい気配がした。


「お父様!」


 思わずお父様を呼んでしまった。


「アシュリー気配が分かるのか?これは多分ワイルドボアだ!

 2頭いる!二手に別れろ、油断するな!!」

「アシュリーとヘクターは僕の傍に!」


 ハロルドお兄様「僕」になってる。

 それだけ焦ってるのか。



『我が身に宿りし大地の力、来たれ我が手に、我が意思となり、魔物の蠢動(しゅんどう)を封じる手を顕現(けんげん)せよ!』


 お兄様の詠唱が終わると同時に地面から何十本も手が出て来て、あの大きな猪を足止めした。

 すかさず騎士が斬り掛かるが、かなり硬そうだ・・・。


 傷付けるだけがやっとの様な状況から一転、一人の騎士が魔力を帯びた剣を振り下ろした。


 魔法剣かっ!


 大きな猪は首をちょん切られ絶命。

 もう一頭はお父様が首ちょんぱ!


 お父様、魔法使ってないよね?強いなあ!


「この辺りでは見掛けないはずのワイルドボアが出たのだ、この後も気を抜くな!」


 お父様の喝が入り、その後は少し緊張しながら進んだ。



 また何か恐ろしい気配がする。


灰狼(アッシュルフ)だ・・・多いぞ!」

「20・・・いや、30か!?」

「アシュリー!木に登れ!ヘクターもだ!」

「はい!」


 私も戦いたいが、我儘は言わない。

 部隊の連携を崩してはいけない。

 指示に従うのみだ!


「ヘクター!行きますよ!」


 オロオロするヘクターを無理やり引っ張って木に登る。

 間もなく狼の魔物の群れがお父様達に向かって走って来るのが見えた。

 お兄様が先程と同じ魔法を放ち、半分以上が足止めを食らっている。その間に次々と騎士達が屠っていく!



 すごい!

 早い!

 魔物討伐部隊は精鋭ばかりだ!!



 全ての灰狼(アッシュルフ)が討伐され、ほっと息を吐く。

 誰か怪我はしていないだろうか。心配しながら降りていくと、皆が笑顔だった。

 ちょっとした擦り傷をしている者もいるが、ほぼ皆無傷だ。これだけの魔物と戦ったのに、すごいな!


「まだ序の口だよ、アシュリー」


 心配そうに皆の怪我を確認する私に、お父様が笑いながら言う。


「ここから先はこんなものじゃない。

 だから、お前達は連れて行けないのだよ」


 神妙に頷く私の頭を優しく撫で、指示に従った素早い行動を褒めてくれた。


 後始末などしていると、そろそろ野営の準備に入らなければならない時間となった様だ。


 野営だよ、野営!

 やってみたかったのだ!

 手伝っても良いだろうか。

 ヘクターだって手伝っているのだ、聞いてみよう。


「私も・・・お手伝い、良いでしょうか?」

「アシュリーお嬢様。ありがとうございます。準備は我々がしますので、どうぞ休んでお待ちください!」


 やっぱりダメか・・・。


「ははっ!皆、アシュリーはやりたいんだよ。何かやらせてあげて」


 ハロルドお兄様、ナイスアシスト!

 何度も頷いて見せると、皆は苦笑しながら仲間に入れてくれた。


「何を、しますか?」

「狩った魔物を捌く者と、火を熾す者に別れて作業します。水場で水の確保をする者もいますが、アシュリーお嬢様は、火熾しをお願いします。火は二箇所作ります」


「分かりました!」


 ここは木からちゃんと離れたところなので、火を熾しても大丈夫そうだ。私が直ぐに地面を掘り出したら、ヘクターも手伝ってくれた。他の皆は大口開けて見ている。


 君たち働けよ?

 かまどは二つ作るんだろ?


「お嬢様、次は?」

「もう少し掘ったら、枯れ木や落ち葉を拾って来ます」

「はい、では一緒に行きましょう」


 日当たりの良さそうな所に落ちている枯れ枝を、太いものと細いものどちらも拾っていく。太い枝を先程掘った地面の四隅のうち三ヶ所に組んで、細い枝を敷き詰める。その後、枯れ葉や枯れ草のよく燃えそうな物を拾ってまた戻る。


「お父様、火を付けてください」


 ニコニコしながら、私達を見ていたお父様に火の魔法をお願いする。

 ここで原始的な火熾しなどはしない。

 出来るけどね。


「よしよし、今付けてやる」


『我が身に宿りし火の力よ、来たれ我が手に、深淵の闇を照らす炎を宿し、古の知識を呼び覚ませ』


 燃えやすい枯れ草に火がボッと付いた所で、すかさず細い枝を次々投入し、どんどん枝を太くしていく。火が安定した頃にお肉がやって来た。既に串に刺してあるので焼くだけだ。


 待ち遠しい・・・。

 野営で食べるものは美味しく感じるのだ。

 しかし、調味は必要だと思われる。

 故に私は塩と胡椒を持参した!


 (おもむろ)ろにポケットから塩と胡椒を出し、肉にふりかける私をお父様が笑っている。


「わっはっは!準備がよいな。アシュリーは余程野営が楽しみだったのだな!」

「はい!」


 上手い具合に肉が焼けて来て香ばしい匂いがヨダレを誘う。


「お父様、もういただいて、良いですか?」

「どれ、おお、焼けているようだ。食べなさい」

「皆様も・・・どうぞ」


 早速、お父様とお兄様に1本ずつ渡し、私とヘクターも食べ始める。


 うん、美味い!

 これは、茶兎(ブラウンラビット)か、角兎(ホーンラビット)か?



「お嬢様は、野営の準備も出来るのですね・・・」


 ヘクターは何の疑いもなく私の作業を手伝っていたのに、今頃何言ってるのかな?


「俺は・・・お嬢様が進んで何かをする時は、きっと出来る自信があるのだと分かっています。

 ただ、なんで野営の準備なんて出来るんだろうって不思議なだけです!」


 不審げに首を傾げていたら言い訳してきた。


「ヨアブのおかげ・・・」


 とりあえず、ヨアブの所為にしておこう!


「そうか・・・ヨアブ爺さんとお嬢様は仲が良いですもんね」


 何やらいじけたような発言だが、ヘクターもヨアブ爺さんと好きに遊べば良い。

 爺さんはいつでもウエルカムだ!



 それにしても、皆よく食べる。

 次々と肉が焼かれていくよ!

 まあ、いっぱい狩ったから、まだまだありそうだ。


 騎士達は交代で番をしながら食事をし、栗のような木の実やサクランボのような果実を採って来てくれたり、枯れ木の追加を拾って来たり、ゆっくり休んでいる者は誰も居ない。


 いつ、何が起こるか分からないからな・・・。

 何も考えず野営を楽しんでいるのは私だけか。

 すまぬ!


 しかし、この果実は美味い!

 肉ばかりだと飽きてしまう口の中がサッパリしてすごく良い!また肉も食べられそうだ。




 そんなこんなで、夜も更けていく・・・。





ブックマークをしてくださった方

評価をしてくださった方

ありがとうございます!

すご〜く嬉しいです!!


なろうは読む方ばかりで、投稿するのは慣れていなかったせいで、ブックマークや評価の見方を今日初めて気が付きました(阿呆ですみません・・・)。


本当に本当に嬉しいです!

励みになりました。ありがとうございますm(*_ _)m

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― 新着の感想 ―
>投稿するのは慣れていなかったせいで、ブックマークや評価の見方を今日初めて気が付きました やだ、伊志野先生ったら。凄いのにところどころおっちょこちょいな、アシュリーさまの様に可愛らしいお方……
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