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109話 ちょっと遅れた王都帰還

第5章 最終話です。

「ヨーコちゃん、パンのおかわりは?」

「ください!」

「朝からいっぱい食べる良い子だね〜!」


「ペーター君もアーヤさんもいっぱい食べな!育ち盛りなんだから!」

「ありがとうございます」

「いただきます」



 コーク辺境伯家に来てからは、使用人と一緒の食堂で食事をしているので、毎度使用人達がとても良くしてくれる。



「皆さん」


 ヘクターが真剣な面持ちで私とクラリッサとレイトンを順番に見た。

 何だろう。


「今日で、コーク領に着いてから5日目になるのに気付いていますか?」


「「「・・・!!」」」


「今日はもう緑の日。光の日まで3日です」


「「「・・・!!」」」


「今週はもう学園には行けません。今夜までに出発しなければ、来週もお休みする事になります」


 もうそんなに経っていたのか!

 毎日充実していたから忘れていた。

 私は王都に帰らねばならないのだった・・・


 でもな・・・


「あと半年くらいダメかな?」

「駄目に決まっているでしょう!!」


 怒られてしまった。


 クラリッサも、真珠のアクセサリー作りに没頭してたし、レイトンも騎士団に入り浸ってたみたいだし・・・。3人共、言い訳も出来ない。

 立つ瀬がないとはこういう時に使うのだろう。



「保養施設のことは心配ではないのですか?」


 ハッ!

 そうだった!


「そうだ!早く帰らねば!」

「ヨーコさん、落ち着いて」


「ヨーコさんは、青年部隊の方々にきちんとお話して、アーヤも関係者の方々にきちんとご挨拶して、レイトンさんも騎士団の皆様にきちんとお話して、今日の午後に出発します」


「分かった!」

「分かったわ・・・」

「そうするよ。ごめんな…私までヨーコと同じようにのめり込んでて・・・」

「いえ、私もヨーコさんに引きずられてズルズル今日まで延ばしてしまいましたから同罪です」





 朝食を食べ終わり、ここ何日も通った広場へ行き、青年部隊の人達と最後の訓練をした。



「そうか・・・残念だな」

「もっと鍛えてほしかったな!」


「今のあなた達なら大丈夫だ」

「そうかな?」

「鍛錬を怠らなければ良い」

「継続は力なりだったよな」

「そうだ。鍛錬は自分を裏切らない」


「本当に嬢ちゃんとペーター君には世話になった!ありがとよ!」


「これ、帰りの馬車で食ってくれ」

「これも」

「これも持ってけ」


「ありがとう!」

「ありがとうございます」


 青年部隊の人達にたくさんのお土産をもらった。

 本当にいい人達だ!

(物を貰ったからではない)





「本当に帰ってしまうのだね・・・」

「はい。お世話になりました」

「いやいや、世話になったのはこちらだ。何から何まで本当にありがとう!」

「あの、魔力に反応する箱もとても助かります!」

「お役に立てたようで何よりです」


 サムソン様が言っているのは、真珠を仕舞っておく箱のことだ。

 前世の「指紋認証」を元に、魔力認証をする金庫のようなものを作ったのだ。

 ここに来る前にロバート先生に頼まれて作った魔道具にもヒントを得た。


 登録した人以外は開けられない。しかも、本体は地面と同化している錬金術で造られたものなので持ち運びも出来ない、なかなか優れものだと思う。



「またお会いできる日を楽しみにしています」

「はい!またいつか必ず来ます!」



 辺境伯邸を出発し、街を抜け、広い街道に出た所で風魔法を使って少し早く進む。



「そういえば、帰るの遅くなったから、皆心配してるだろうか・・・」

「多分・・・いや、絶対」

「ジェイムズ様など、探しに来てるかも知れませんよ」

「え!?まさか!」


 でも、ありえるかも・・・。

 これは一刻も早く帰らねばならない。



 でもなぁ、これ以上は早く進めないんだよなぁ。

 いっそ、空でも飛んで行ければ・・・。



 空を飛ぶ?



 今までそんな考えは無かったが、もしかして飛べるのではないか?

 地面を走らせるくらいなのだから、飛べてもおかしくないと思うのだが・・・私以外に3人も乗った馬車で試すのは少々気が引ける。


 飛べても途中で落ちたらえらいこっちゃ!


 もっと早く気が付いて、練習しておけば良かった・・・。飛行機が飛ぶのは何故かっていうのも上っ面をちょっとしか知らないので、成功する確率は五分五分だ。


 私が分かってないと出来ないのが魔法なのだ。




 青年部隊に貰ったお土産は、マンゴーみたいな果物に、美味しそうなパン、そして大きな白いウインナーはすでに焼いてある。


「見たことがない色のウインナーですね」

「焼いてあるからこのまま食べてみよう!」


 せっかくなので『チーン』で温めて食べてみたら、なんと味は竹輪かかまぼこといった練り製品の味だった!


 クラリッサと目を合わせ、お互いに驚きながらも少し懐かしい味に喜んだ。

 やっぱりまたコーク領に行かねば!




 行きと同じように、夜中は『ウィンドランナー』で超高速馬車にし、日中は人の有無に合わせて速度を調整。私が寝ている間は普通の馬車の速度で進んだ結果、コーク領を出発した2日後の深夜に王都に着いた。



「行きより少し早いくらいの時間で帰って来れましたね」

「帰りは盗賊は2回だけでしたし」

「2回というのを2回()()というのもおかしいと思うけど…」

「でも、魔物に襲われてる人を助けたり、馬車が溝に落ちて動けない人も助けたし・・・」

「具合の悪い人も助けてました」

「馬の具合の悪い馬車もね」


「「「・・・・・・」」」



 もう少しで我が家だが、何だろう・・・

 馭者をしているので後ろが見れないが、ひどく視線を感じる。




 我が家に着くと、真夜中だというのに皆が出迎えてくれた。



「アシュリー!!」

「お兄様!ただいま帰りました!」

「心配したんだよ!!」

「遅くなってしまって申し訳ありません」


 ジェイムズお兄様はまた半泣きだ。

 すごく心配をかけてしまったようだ。


「本当に心配したんだから・・・」


 ローズマリー様にも抱き込まれている。

 私、ちょっと汚れてると思うのだが…。



「さぁさぁ、もう遅い時間ですのでお話は明日にして、お帰りになった皆様はまず湯浴みでもされてゆっくりお休みください」


 トビーの言葉に、お兄様もローズマリー様もすごすごと私から離れて、お休みの挨拶をして別れた。



 クラリッサもゆっくりさせてやりたかったので、私の湯浴みはソレルに頼んだ。



「アシュリーお嬢様の湯浴みをするのは久しぶりでございますね。髪を元のお色に戻しますので、ゆっくりお湯に浸かっていてください」

「お願いね」


「黒髪のアシュリーお嬢様もとてもお綺麗でよろしいのですけど、やはりアシュリーお嬢様はこの白銀の輝く髪がお似合いです」


 この世界の髪染めはそんなに時間はかからないそうで、染めた色を落とすのも同じく早いらしい。

 専用の石鹸みたいなもので洗うだけだ。

 髪の芯まで染まっている訳ではないのかもしれない。これは前世であっても重宝されたのではないだろうか。



「はい、おしまいです」

「ありがとう!」


「染めたので、少し髪が傷んでいるかもしれません。魔法をかけた方がよろしいかと」

「そうなのですか?それはクラリッサが残念がりますね・・・」

「ご自分ではなくクラリッサですか・・・」


「では、元気にさせておきます」


 あんまり元気になりすぎて眠れないと困るので、魔力はほんの少しだけ、髪の毛だけが元気になるような魔法にすればいいかな・・・。

 何かのCMで聞いたキャッチコピーが良さそうだ。



『ぷるんとまとまるツヤ髪へ』



 プルン!


 何かアメーバみたいなものに包まれた気がしたが、一瞬で消えた。



「あらあら、まあまあ!とても綺麗になりましたよ!ツヤツヤです!」


 良い出来のようだ。

 次から使おう!



「では、ゆっくりお休みください」

「お休みなさい」





 寝たのが深夜でも、目が覚めてしまうのが体内時計というものなのである。

 いつもの鍛錬の時間には目が覚めたので、いつものように鍛錬に行った。


 流石にクラリッサは起きられなかったようだが、寝られるなら休んで欲しいものである。いつも私より寝てないのだからな!

 私はコソコソと勝手に着替えて出て来たのだ。



 秋になったので、この時間はまだ暗い。



 暗いのならちょうど良い。

 帰りの馬車でずっと考えていたことを確かめに行こうと思う。


 確か、デヴィッド君の話では、王宮から近いということなので、我が家からも近いはずだ。

 身体強化をかけ、王宮の方へ向かう。

 暗いといっても走っていたら人目につかないわけではないだろうから、屋根を跳んで行った。


「この辺りのはずだが・・・」


 あっ!

 多分アレだ。

 確か、あのヘンテコな紋章だったと思う。


 門に掲げられた紋章でアタリをつけて、その屋敷の屋根に跳んだ。



「ここにいれば多分・・・」




「おやおや、夜襲ですか?」


 やっぱり!


「いや、その気がないのは分かっているはずだ。貴方に会いに来た」


「・・・それはそれは」


「あの時の言葉の意味が分からなくて、分からないことは本人に聞くのが一番だと思った」

「聞きしに勝る豪胆なお嬢様だ」


「あの言葉の意味を教えてくれ」

「深い意味など・・・」


 やっぱり答えてはくれないか。


「では、一つだけ答えてくれ」


「・・・・・・」


「貴方はディーデリヒ君の敵か?」


「・・・・・・」


 答えなかったが、首を横に振った。


「分かった」


 そうだ、もうひとつ。


「あの時の返事をしてなかった」

「返事ですか?」

「ディーデリヒ様をよろしく頼むと言っていた」

「ああ・・・」


「任せておけ!彼はグレンヴィルの騎士になる!」


「は?」


「ディーデリヒ君は騎士になりたいそうだ。その夢を叶えてやるのだろう?私はそれを邪魔する者を蹴散らす約束もした!」


「は…ははっ!流石ですね。・・・私の目に狂いは無かった」


「・・・なんだ?」


「豪胆なお嬢様にひとつ忠告いたしましょう。グレンヴィルの魔物討伐の日にはお気を付けなさい」


「え?」



 それだけ言って、またあの爺さんはスーッと居なくなった。もう出てきてはくれないだろう。


 疑問を解消する為に来たのに、また新たな疑問が残った。

 でも、何故かスッキリしている。


 彼はデヴィッド君の敵ではない。





 魔物討伐の日。

 なにがあるのだろう。







次からは、第6章 侵略を阻止せよ!になります。

引き続きお付き合いいただけると嬉しいです!

よろしくお願いしますm(_ _)m

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