⑤ 世界を変えられる日本の合成燃料、廃アルミ再利用技術
筆者:
ここでは日本の希望ともいうべき技術についてみていきます。
質問者さんは合成燃料又は人口石油という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか?
質問者:
いえ、全く聞いたことはないですね。
筆者:
合成燃料は、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を合成して製造される燃料です。複数の炭化水素化合物の集合体で、 “人工的な原油”とも言われています。
23年3月28日にEUではこれまで、電気自動車の普及を脱炭素化に向けた中心戦略として掲げ、内燃機関を利用した自動車の販売を制限する方針でした。そんな中、「合成燃料」と呼ばれる燃料の利用を前提に、2035年以降もエンジン車の販売を許容する動きが出てきたのです。
また、ドイツのフォルクスワーゲン傘下の高級車ポルシェは2022年12月に世界で初めてチリで合成燃料の量産を始めています。
EUは引き続き、自動車の脱炭素化の答えが電気自動車移行であるとの原則を変えていませんが、脱炭素化への選択肢の1つに合成燃料が加わったことの自動車業界への影響は大きいとしています。
質問者:
世界的にも合成燃料が注目されつつあるのですね。
筆者:
日本でも経済産業省が23年5月に2040年としていた合成燃料の商用化目標時期を2030年代前半に前倒しする方針を決めています。
2035年の新車販売をEV100%とする政府目標と不整合となっていたことに加え、EUの合成燃料によるエンジン車容認の動きを受けた形になっています。
大阪市のホームページの 2023年1月10日 の記事では
『水と大気中のCO2等から生成する人工石油(合成燃料)を活用した実証実験を支援します』
というものがあります。そこから抜粋させていただきますと、
『特殊な光触媒を用いて、水と大気中のCO2からラジカル水(化学反応を起こしやすい活性化水)を作り、ラジカル水に大気中のCO2と種油(軽油、重油、灯油など)を反応させることで、種油と同じ組成である合成燃料を連続的に生成することができます。
合成燃料は、大気中のCO2を炭素源として生成されることから、化石燃料と違ってカーボンニュートラルな燃料として期待されます。
実証実験では、生成した合成燃料により発電機を稼働させ、電気自動車へ充電します。また、発電時の硫黄酸化物等の大気汚染物質の排出状況等を確認するとともに、発電能力の安定性を検証することで、今後、連続運転に対応できる機器の開発につなげます。』
とあります。
質問者:
人工石油の技術は突然湧いて出てきたものなのでしょうか?
筆者:
人工的に液体燃料を生み出す化学反応であるFT法(フィッシャー・トロプシュ法)は、100年前には発明されていました。また、メタノールを経由してガソリンを生み出すMTG(Methanol To Gasoline)法も、約50年前に開発されています。
これまではコストなどが理由で作られなかったのですが、
しかし先ほど紹介した記事の大阪のベンチャー企業の製品を使えばコストは、レンタル料や電気代を含めても10~14円/ℓ程度のようです。
ところが、レンタル料だけで年間600万円(月50万円)は個人での導入はまだ先になりそうです。運送会社とかタクシー会社や工場など電気や燃料消費量が多い会社で使えば採算が合いそうな感じまでにはなっています。
質問者:
へぇ……お値段的に家庭用はまだ遠そうですけどもう実証レベルまで来てるだなんて凄いですね。
筆者:
さらにこの水素についてですが、廃アルミからも作ることができる技術も日本の企業においてできているようです。
読売新聞23年6月20日の
『廃アルミで水素 湯沸かしに活用 高岡の企業開発 CO2ゼロでエコ温浴』
という記事によりますと、
『ごみとなったアルミから水素を作り出して湯を沸かす仕組みを、高岡市の企業が完成させた。旅館や温浴施設などの浴場は、重油などを燃やして湯を沸かしているのが一般的だが、この仕組みなら二酸化炭素を排出せずに湯を沸かせる。開発した企業は「環境に優しい温浴を広めたい」と意気込んでいる。
開発したのは装置製造販売業の「アルハイテック」。この仕組みは、ごみとなったアルミ缶やアルミスクラップにアルカリ性の反応液を加え、化学反応で水素を製造する装置に水素ボイラーを結合させたもの。製造した水素がそのままボイラーの燃料となり、湯を沸かすことができる。水素を輸送する必要がなく、その分の二酸化炭素も生み出さない。8キロ・グラムの廃アルミで1時間に9立方メートルの水素を製造でき、30度のぬるま湯100リットルを1分間で45度まで上げられるという。
開発した仕組みにはさらに、水素の製造過程で水酸化アルミニウムを生成できるという利点もある。この物質は難燃剤として、住宅の天井や壁紙に使われている。アルハイテックは北陸ミサワホームと連携し、水酸化アルミニウムの販売先を開拓し、供給網を構築することを目指す。
この仕組みを5月24日にお披露目したアルハイテックの水木伸明社長は「どこにでもあるアルミ資源が、化石燃料を使わずに湯を温められるエネルギーになる」と説明。「国内には7万4000あまりの温浴施設がある。重油などから転換してもらい、脱炭素社会作りに貢献してきたい」と話している。』
とあります。先ほどの合成燃料は水素から作られていますから、うまいこと連携をすれば廃アルミのゴミから電気が作れてしまうのです。
質問者:
これができれば資源の発掘が仮にうまくいかなくても大丈夫ではありませんか?
ゴミから発電ができるだなんて衝撃的です……。
筆者:
そうですね。水素も十分に管理をする必要がある物質ですが、原子力ほど発電時や廃棄の面でリスクがある発電ではありませんからね。上手くいけば世界のエネルギーの構図すらも変えるだけの力にもなっていくと思います。
水素エンジンは日本の先端技術だと前の項目で紹介した通り、水素についての前向きな項目は非常に多いです。
日本はその先端技術を走っていると言って良いでしょう。
ただ、このように日本の明るい未来を描けたところに水を差すようで大変恐縮なんですが、
次の項目ではこれらの技術が“露と消えてしまう”可能性について考えてみたいと思います。
僕が気になるのは国内外からこういった「圧倒的に有用な技術」だからこそ「消えてしまうリスク」があるのです。
質問者:
えっ……そんなことがあるだなんて信じられないのですが……。
筆者:
将来的にはどうなるか全く予想は付きませんが「歴史は繰り返される」ので過去何があったか見ていきたいと思います。