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「オルソン、貴様! 裏切ったな」
「裏切る? 元々アルノルドたちはぼくを仲間だなんて思っていなかっただろう?」
鼻で笑うオルソンに、イーヴァルが舌打ちをする。
「くそっ! カリーナ、もう一度ダール嬢ごと拘束しろ!」
カリーナが再び幾重にも編みこまれた蔓草を生やした。しかしその蔓草はすぐにフィンの吐き出した炎によって燃え尽きる。
『貴様ら、お嬢様に害をなそうとして許されると思うなよ』
激昂するフィンの声にイーヴァルたちが吹き飛んだ。ソフィーは慌ててフィンの鼻面をペシリと叩く。
「フィン! 人に向けて火を噴いたら駄目でしょう!」
「ですが」
フィンが反論してきた。ソフィーはそれを遮り、畳みかける。
「それにあなたユグドラシルを燃やすなんて、植物だって生きているのよ! フィンがわたくしのことを思ってくれているのと同じように、いいえ。白妖精族の方々にはそれ以上の想いがあるものなのよ! わかっているの!」
『キュゥン…………』
フィンが急に耳を伏せ、仔狼のように小さく鳴いた。あまりの可愛さにソフィーは腰砕けそうになる。だがここでは許しては駄目だと、なんとか足に力を入れ踏みとどまる。それでも潤んだ瞳を見てしまうと叱ることができず、別の話題を口にした。
「そ、それで? あなた、なんでわたくしから逃げたの? 終わりって何?」
『…………お嬢様にフェンリルだとバレ、嫌われたと思ったので』
「だから去ろうとしたってわけ?」
フィンが巨体を伏せ、目の高さが同じなる。申しわけなさそうに眉を下げるフィンを見ているうちに、ソフィーは意地悪を言いたくなった。
「たしかに『祝福の儀』の結果を勝手に改ざんしたり、あの仔だってこともずっと隠していたものね。とっても腹が立ったし、悲しかったわ」
フィンが伏せの状態からさらに縮こまる素振りを見せた。ソフィーは愛おしさに、フィンの鼻面に抱きついた。
「だからってあなたのことを嫌いになるなんてないじゃない」
『お嬢様!』
フィンの尻尾が空気を切りながら激しく揺れ始めた。言葉を話したくせに、動きは仔狼のときとまるで変っていない。ソフィーは、全身で喜びを表現するフィンの反応に声を出して笑った。
「あ、あの! どうやって洞窟の封印を解いたんですか?」
「リッキー、急に割り込んだら駄目よ」
諌めるフィーナのあとをトールヴァルドが続く。
「でもぼくも知りたいな。だって神話に出てくる巨人族に会えるなんて早々ないよ」
「その質問の答えを知るためには、彼らをどうにかしないといけないようですよ」
オルソンが向けた視線の先には、髪と衣服が乱れた大人たちが立っていた。
「お前たち何をしている! そこにいるのはフェンリルだぞ!」
「危ないから離れなさい」
アルノルドとフレアが身体を支え合いながらリキャルドたちへ向かい、声を張った。オルソンが肩を竦め皮肉気に笑う。
「ずいぶんと立派な装いになったね」
「貴様は黙っていろ、オルソン!」
イーヴァルが顔を真っ赤にして怒鳴った。
「お父様、お母様これ以上フィンさんを傷つけるのはおやめください」
「フィーナ、何を言っているのかわかっているの?」
「お母様、フィーナの言う通りです。ダール嬢と一緒にいるフィンさんを見たら、彼が恐ろしいフェンリルだとは思えなくなりますよ」
「何をのん気なことを。お前たちはあいつらに騙されているんだぞ」
アルノルドがやりきれないと言わんばかりに頭を左右に振った。
「リッキー、あなたはわかっているのよね?」
「いい加減にしてくれ! どうして父さんたちは自分たちの意見ばかりを押しつけて俺たちの話を聞いてくれないんだ!」
リキャルドがアルノルドとフレアを睨みつける。だが、その表情はどこか悲しそうだった。フィーナが彼に寄り添うように隣に立つ。
「わたくしとリッキーとのことを考え直してくれたのは、自分たちが間違っていたって思ったからではないんですか?」
「リッキー、あなた……」
「……フィーナが私たちに反抗を」
フレアとイーヴァルが同時に呟いた。これまでのリキャルドとフィーナとは違うことにようやく気がついたみたいだ。




