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呪われた令嬢の婚約者探し  作者: 高木一
第六章 急転直下の出来事
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01

   第六章 急転直下の出来事


 学園が休みの日。ソフィーはトールヴァルドに招待され、シェルマン家へ訪れた。


「ようこそ、ダール嬢」

「お言葉に甘えさせていただき、伺わせていたしました」

「フィンさんはどうしたんですか?」


 生成り色の七分袖のシャツに、少し灰色みを帯びた深い緑色のズボンを履いているトールヴァルドがきょとんとした顔で首をひねった。


「フィンはその、所用がありまして」


 フィンに口説かれてからというものの、ソフィーは彼の顔が見られない状況に陥ってしまった。フィンからの視線を感じ取るたびに恥ずかしくなり、ろくに話せなくなってしまったのだ。そのため、今日はカミラに付き添いを頼んだ。しかしそれをトールヴァルドへバカ正直に伝えることはできない。だからソフィーはあらかじめ考えていた言い訳を口にした。


「そうなのですか。残念ですけど用があるのならば仕方ありませんね。さあ、中へお入りください」


 トールヴァルドが手を差し出してきた。ソフィーは素直に手を重ねる。


(わたくし、トールヴァルド様に全然ドキドキしていないわ……)


 ソフィーが自身の変化に驚いていると、トールヴァルドが振り返る。


「あ、侍女さんはここで待っていてください。案内を寄越しますので」

「ありがとうございます」


 カミラが綺麗なお辞儀をした。ソフィーは彼女に見送られる形でその場をあとにする。


「いらっしゃい。ダール嬢」

「今日は、突然ごめんなさいね」


 通された場所は前回と同じ部屋だった。部屋へ入るなり、以前同様袖口が広く丈の長い濃い青緑色の生地に、ギザギザの葉が刺繍されている服と黒いズボンを履いたイーヴァルとカリーナに囲まれる。カリーナの方はイーヴァルと同じような色合いのワンピースのようだが、小さな小花が散りばめられていた。ソフィーは愛想のよすぎる二人に内心で驚きつつも、おくびに出さず蔓草が刺繍された黒地のスカートの裾をつまんだ。


「いえ、こちらこそ。ご招待いただき、ありがとうございます」

「お父様、お母様。立ち話もなんですから」

「フィーナ様。こんにちは」


 ソフィーはフィーナの登場に安堵し、頬を緩ませた。彼女の今日の服装はトールヴァルドに合わせているのか、生成り色のワンピース姿だった。しかし、刺繍のないトールヴァルドの服とは違い、フィーナの服にはリキャルドの瞳の色のような翠色の蔓が刺繍されている。


「いらっしゃいませ、ソフィー様。今日はリッキーのご両親もきてくださっているんですよ」


 フィーナへ促され花が描かれている床を進むと、メリーン家の三人が立って迎えてくれていた。彼らの服装もやはり緑系統にまとめられている。リキャルドの父、アルノルドはユグドラシルの樹皮のような灰色がかったズボン。そして緑色を濃くした翡翠色の長衣には枝についた状態の葉が描かれている。母であるフレアは夫のアルノルドの瞳によく似た翡翠色のワンピースを着ている。それにはふちを沿う形で白に近い黄色い小さな花が刺繍されていた。そしてリキャルドは白いシャツに、フィーナの瞳の色によく似た碧色のベスト、黒に近い茶色のズボンといった出立だ。


「ダール嬢こんにちは」

「この間はすまなかったね」

「今日は私たち家族もあなたにお礼を言いたくてカリーナに招いてもらったのよ」


 リキャルドを皮切りにアルノルドとフレアが口を開いた。ソフィーはフレアの言葉に納得する。


「皆様、座ってちょうだい。お茶にしましょう」


 カリーナの合図で腰をおろすと、トールヴァルドがティーワゴンを押して部屋へ入ってきた。応接室に入るなり見あたらなくなったと思っていたらお茶の用意をしにいっていたらしい。


「今日はぼくが贔屓にしている店で作ってもらったパンを用意しました」


 テーブルに置かれたのは、砂糖でコーティングされているホールケーキと、黒いケシの実がかかったデニッシュだった。とても美味しそうだが、どれも食べるのが難しいそうだ。だからだろうか。誰も手を出す素振りを見せない。


(これ、イーベンさんに作ってもらったのかしら?)


 ソフィーは先日出会った黒妖精族を頭に思い浮かべた。すると、フィーナの弾んだ声が聞こえてくる。


「おいしそうね、リッキー」


 フィーナが、隣に座っているリキャルドの腕にそっと触れた。


「そうだな。いただこうよ、父さん、母さん」


 リキャルドの声に、大人たちが動き出す。


「そ、そうね。私はケーキをいただこうかしら?」

「わかったわ。今、取り分けるわね」


 カリーナがケーキを切り分ける。ケーキは六つの塊がつながって丸くなっていたらしく、綺麗に六等分できた。女性陣にはケーキを、男性陣はデニッシュが配られる。ソフィーは見た目以上にずっしりとしたケーキを眺める振りをしながら、周りを観察した。


「おいしいわ。カスタードが甘すぎないでちょうどいいわね」

「そうか。こっちのデニッシュもサクサクとした歯触りがいいな」

「お口に合ってよかったわ」

「トールヴァルドに頼んで正解だったな」


 シェルマン夫妻とメリーン夫妻の会話はこの茶会を楽しんでいるように見える。しかし、ソフィーの目にはどこかぎくしゃくしているようにも映った。


(ほんの数日前まで仲違いしていた人たちなのだから、それも当然よね)


 だが、トールヴァルドは大人たちの雰囲気に気づいていないのか。とてもいい笑顔を向ける。


「皆さんにそう言ってもらえて嬉しいです。このパンを作った職人にも伝えておきますね」


 トールヴァルドは満足気にデニッシュを頬張った。


(イーベンさんの作ったものを褒められたのだから嬉しくもなるわよね)


 ソフィーも彼に倣いケーキを食べる。しっとりとしたバターの香りと滑らかなカスタードの甘さ、そしてラズベリーの程よい酸味が口いっぱいに広がった。


(美味しい)


 そのあとも弾むような話題はなかったが茶会は進んだ。沈黙が訪れるたびに大人たちが目線を交わし合い、次に話し出す権利を譲り合っていた。王国ですらこんな緊張する茶会は珍しい。ソフィーが最後の一口を食べきると、おもむろにイーヴァルが顔を向けてきた。



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