02
「ものは言いようね。カミラが言うと、わたくしがとても美しい女性のように聞こえるわ」
たしかに肌の血色はよいだろう。しかしそれは家に籠っていることが苦手で、頻繁に散策と称して出かけているからだ。一応日焼け対策はしているのだが、どうしたって少しは焼けてしまう。それに他の令嬢に比べ、筋肉がつきやすいのか油断しているとドレスが窮屈になるほど太くなってしまうのだ。その辺りを彼女はどうも理解していないらしい。
「私の目にはお嬢さまが美少女に映っておりますから問題ありません。旦那さま譲りのパッチリとした水色の瞳。奥さま譲りのハニーブロンドの髪の毛。すべて私の憧れです」
「どうせなら色だけではなくて、まっすぐな髪質もお母様に似たかったわ。このクネクネしてしまうところはお父様に似てしまったみたいなのよね」
ソフィーは後ろで垂らしている髪の毛を指先で巻きながら、息をついた。しかしカミラはこちらの不満を真っ向から否定してくる。
「そこがよいのではありませんか。緩く波打つ髪が自然に作られているのですよ。私の剛毛なこげ茶色の髪と取り換えられるものなら取り換えて頂きたいくらいです」
「ふふふ。わたくしはカミラのおさげ髪を解いた姿を見てみたいわ。いつもその白い帽子の中に隠れてしまっているから本当に剛毛なのかどうか知りたいと思っているのよ」
「まあ! お戯れを」
「ふざけたわけじゃないのよ。でも、まあいいわ。それよりそのケープも持っていくの?」
ソフィーはベッドの上にある寒い季節に羽織る厚手のケープを指差した。
「はい。これ以外にも冬用の物を多めに詰める予定でございます。かの国は我が国の東隣りに位置するとはいえ、夏の短さは我が国と同じ。お嬢さまが風邪を召されては大変ですからね」
「そんな心配は無用よ。ユグドラシルに守られている白妖精族の国は常に春のような陽気らしいわ。だから多めに持っていくのなら、春から夏にかけての服の方がいいんじゃないかしら?」
ソフィーが留学するホーン国は、大陸の中央で護られている世界樹ユグドラシルを囲うように建国された国だ。周囲に六つの塔が建ち、その塔が結界陣の役目をしている。そのため、ホーン国はいつも常春のような気候なのだという。
(すべては女神様から授けられたユグドラシルを枯らさないため、か……)
元々調査や研究などが性に合っていたのだろう。ホーン国では様々な研究が盛んになり、その派生で学園が設立された。今では有識者の招致はもちろんのこと、意欲的に学ぼうとする人の受け入れもしており、立派な学園都市国家となっている。
(だからわたくしの留学も簡単にできるのよね。まあ、その分留学後の制約が色々大変みたいだけれど……)
何しろ大陸で使われている魔道具のほとんどが国立学園で発明されたものだ。その種類は生活道具から軍事的に使えそうな代物まで多種多様にある。
魔道具の他にも魔術や呪術、占術など研究できるものならすべて網羅していると言っても過言ではない。それゆえ、自国へ開発したものを持ち帰る際や、学園で得た知識を使う際には学園の許可が必要となっている。
(まあ、悪用されたら大変だから仕方ないわよね)
ソフィーは見るともなしに先ほどカミラが点けたオレンジ色に発光している灯りを眺めた。
この灯りももちろんホーン国で発明されたものだ。少ない魔力しか持たない人族でも簡単に発動できる。詳しくはわからないが、ガラスを溶かし成形する際に、魔力を通しやすい物質を一緒に練り込んでいるらしい。
(本当にすごい学園よね。でもそんな場所にわたくしのような者が留学なんてしてよいのかしら?)
表向きは、『祝福の儀』で贈られた言葉についての研究のための留学ということになっている。もちろんそれは建前であって本当に研究したいわけではない。ソフィーは明日からのことを考えて少しだけ憂鬱になり、ため息をついた。それをカミラは叱責と捉えたようだ。深々と頭を下げてくる。
「勉強不足でした。申しわけありません」
肩を落としうな垂れる侍女に、ソフィーは慌てた。
「突然のことなのだから仕方ないわよ。でもすごいわよね。あの国では雪が降らないのよ」
カミラを元気づけようと明るめの声を出し、話題を変えた。彼女は一瞬目を丸くしたあと、嬉しそうに微笑する。
「さすがは大陸一の知識を持つホーン国でいらっしゃいますね」
「ええ。でもそういう国だからこそ、お父様たちはわたくしに贈られた言葉を信じているようなのよね」
楽しい話にするつもりが、先刻話題にのぼった『祝福の儀』へ戻ってしまった。このまま話を続けるべきか、それとも他の話をするべきか。ソフィーが内心で思いあぐねていると、カミラが考え込むように顎先へ手をあて呟く。
「それは仕方がないことなのでは?」
「どうして?」
占い事態に強制力はないはずだ。そもそも占いで告げられる言葉が実現するかなど、受け取り手側によって決まるものだとソフィーは思っている。
占いが持つ本来の力は、勇気が出ないときのあと押しであったり、迷っているときに見える光のようなもののはずだ。
それなのに両親を始め、周囲の人間たちは起こるかもわからない未来を信じてしまっている。ソフィーにはそれが理解できなかった。だから当然のように受け入れているカミラへ問い返した。すると彼女は下向きになっていた顔をあげ、まっすぐに見つめてくる。
「女神様の眷属と云われている白妖精族の方々は人族よりも長命で、強大な魔力を持っていらっしゃると聞きます。そのような方々から贈られたお言葉ですもの。きっと、私たちのような魔力の少ない人族にはわからぬ力が宿っているのではないでしょうか」
普段だったらこちらを気遣って言葉を選んでいただろう。カミラは淡々と自身の見解を話した。




