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呪われた令嬢の婚約者探し  作者: 高木一
第二章 新たな出会い
10/52

03

「大丈夫かいフィーナ。おや、こちらの方々は?」

「わたくしを心配してわざわざ馬車をとめてくださったのよ」

「それはそれは。妹がお世話になりました。ぼくはトールヴァルド・シェルマンと言います。以後お見知りおきを」


 女性によく似た風貌の男性は、フィーナと呼ばれた女性の兄だった。恭しく頭を下げるトールヴァルドに、ソフィーもスカートを軽く持ちお辞儀をする。


「これはご丁寧に。わたくしは、ソフィー・ダールと申します。ホーン国の国立学園へ留学するためにマルデル王国からまいりました。こちらにいるのは侍女のカミラと侍従のフィンです」


 カミラとフィンがそれぞれ目礼する中、フィーナがしょんぼりと肩を落とした。


「わたくしったら駄目ですね。自己紹介を忘れていたなんて。わたくしの名は、ヨセフィーナ・シェルマンと申します。ご親切にしていただいたのにご挨拶が遅れてしまい申しわけありません」


 座ったままだが姿勢を正し低頭するフィーナにソフィーは慌てる。


「こちらもしなかったのですから、お互い様です。ところでホーン国ではあのような移動手段があるのですか?」


 ソフィーは場の空気を換えるため、トールヴァルドへ話しかけた。白妖精族の青年は、朗らかに微笑みながら首肯する。


「国内のみで使用されていますから、マルデル国からいらっしゃったばかりなら珍しいかもしれませんね」

「ホーン国内のみなのですか?」

「ええ。防犯上、ホーン国の結界内でないと作動できないようになっているのですよ。国内だからといってむやみやたらと使っていいものではないので」


 トールヴァルドがカミラの問いに肩を竦め、応えた。


「そうなのですか」


 簡単に使用していたように見えたが、ここへくるまでに色々と制約があったのだろうか。ソフィーが頭に疑問符を浮かべていると、フィーナがさらに詳しく語り出す。


「ええ。ここのような街はずれなら問題ないのですが、街中では決められた箇所でのみ使用が許されています」

「急に現れると相手側に驚かれてしまいますからね」

「なるほど」


 冗談めかして言うトールヴァルドにソフィーは得心した。フィーナが愛馬をなでながらついでとばかりに話を続ける。


「ですから街での移動はわたくしのように馬に乗ったり、馬車を使用したりしております」

「それでフィーナ、足はどうなんだい?」

「骨は折れていないそうよ。あちらの方が診てくださったの」


 トールヴァルドが心配そうな顔で、フィーナに近寄りしゃがみ込む。兄の心配をよそに彼女は平静と腫れはじめた足首を見せた。そして、会釈をしながらフィンへ顔を向ける。


「ありがとうございました」


 トールヴァルドが立ちあがりフィンへ頭を下げると、侍従は小さく首を横へ振る。


「いえ、たいしたことはしておりません。ただ僕は本業ではないので、あとできちんと医師に相談してください」

「はい、わかりました。それでは、ぼくたちはそろそろ失礼させていただきます」


 カミラとあまり変わらない体型に見えるが、やはり男性と女性とでは違うのだろう。フィーナを軽々と横に抱え込む。ソフィーが内心で驚いていると、素直にトールヴァルドの腕の中に収まっているフィーナが笑いかけてくる。


「あ、ソフィー様は学園にいらっしゃるのですよね? わたくしも兄も学園に通っているのでもしかしたらそちらでお会いできるかもしれませんね」

「まあ、そうなのですかヨセフィーナ様」

「どうか、わたくしのことはフィーナとお呼びくださいませ」

「よろしいのですか?」

「もちろんです。学園でお会いできることを楽しみにしております」

「わたくしもです、フィーナ様!」


 手を叩き喜んでいると、トールヴァルドが朗らかに微笑みながら口を開く。


「そろそろいいかな?」

「えぇ」

「ブラウいこうか。それでは失礼します」


 トールヴァルドの声に馬が素直に従う。よく躾けられている馬だ。ソフィーが感心している間に、兄妹たちはきたときと同様黄色い光に包まれていた。


「ありがとうございました」


 頭を下げる兄妹たちを光の中から視認すると、黄色い光が上空へ吸い込まれるように渦を創り出す。そのあとはあっという間のできごとだった。一瞬にして光が消えると、すでにそこに彼らの姿はなく、草の生えた地面が広がっているだけだった。


「私、白妖精族の方と普通のお話をしたのは初めてです」


 美しかったですね。夢見心地でこぼすカミラに、ソフィーも同意する。


「あの耳が可愛らしいわよね」


 特にフィーナは顔よりも耳の動きで気持ちを表現していたように思えた。


「はい。とても愛らしかったです」

「お嬢様、我々もそろそろ行きましょうか」


 カミラと盛りあがっていると、フィンが口を挟んできた。誰も見ていないとはいえ、はしゃぎすぎたかもしれない。ソフィーはニコリと笑いもしていない侍従の顔を見ながら、咳払いをして誤魔化す。


「そうね。学園まではあともう少しなのでしょう?」

「ええ。ユグドラシルが見えてきましたので」


 指を差す方へ目線をやる。光の柱が先ほどより大きくなっていた。その周囲には、縦に長い四角い建物が見える。あれが陣にもなっているという学園の塔なのだろうか。


(まだずいぶんと小さく見えるわね)


 ソフィーは遠くに見える白い建物を眺めながらフィンの手を取る。そして馬車へ乗り込んだ。


「学園に着く前にお知り合いができてよかったですね、お嬢さま」


 先ほどの光景をまた思い出しているのだろう。あとから入ってきたカミラがうっとりとした表情で話す。ソフィーはそれに頷きつつ、シェルマン兄妹のことを脳裏に浮かべた。


(フィーナ様たちが何を専攻なさっているか聞いておけばよかったわ)


 自分が通う闇の塔が、彼女たちが通う塔に近ければよいが。ソフィーがそんなことを考えていると、馬車は学園へ向かうため、再び走り出した。




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