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誰が為に春を恋う  作者: 香山なつみ
第五章 ベールの向こう側
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19 はなむけのかわりに 2

「そう、フタバといえばだけど。昨日の光の件はサラとリョウヤにちゃんと言っておいたから」


 セイジと手合わせした際の事故だとちゃんと広めてきたとミオが横から口を挟んだ。


「リョウヤはともかく、サラは納得いってない風だったからアオイのところへまた連絡が来るんじゃないかしら」

「サラなら話が分かるからなんとかするわ。……あ、サラっていうのはね、わたしと同い年の二の家(フタバ)の長女で、学院の教師をしているの」

「リョウヤは五の家(ゴジョウ)の一番下だな。年はお嬢のひとつ下だったか?」

「ええ」


 レティスの知らない人だろうからと補足してくれるのは純粋にありがたい。

 ピオーニにはこの他に二の家(フタバ)の本家があり、五家内の未婚組で言うと上から順にセイジ、アオイ、サラ姉弟、ミオ、リョウヤが住んでいるそうだ。


「その、リョウヤさんって人は一緒に住んでないんだな」


 素朴な疑問がぽろりと口をついて出る。

 一の家(イチヤ)の子であるミオが護衛されるためにセイジの屋敷に居候をしているのなら、五の家(ゴジョウ)の子であるリョウヤが居候していないのは何故だろう。


「あー……まぁ、色々あってな。お嬢の場合はイチヤが寮生活に許可を出さなかったってのも大きい。その点リョウヤのとこは存分に人に揉まれてこいってことで寮生活だ」

「ゴジョウだからね。顔を売って、人脈を作れってことなんでしょ」


 五家にはそれぞれ役割があり、ゴジョウは主に交易や金融面を担っているという。各地に散らばるギルドの統括もしていて、商いをする者は一度はゴジョウに面通しが必要になるとも言われていた。


 協力を惜しまないという言葉通り、セイジはぽんぽんとレティスの疑問に答え、手の内を開示してくれる。

 頼もしいことこの上ないが、その光景はミオには異質に映ったようだ。形の良い眉を寄せ、セイジをうろんな目で睨みつける。


「ねえセイジ、この子にやたら優しくしているけれど、なにを企んでいて?」

「お、さすがお嬢、気付いたか」

「気付いたか、じゃなくてよ。昨日のことといい、絶対におかしい。納得いく理由を聞かせてもらえるかしら。でないとお父様に報告します」

「理由を言うのはやぶさかではないが、イチヤへの報告は待ってほしいものだな」


 ぐいとグラスをあおり、セイジは控えていた使用人へなにやら目配せをした。

 使用人たちが席を立って部屋の外へ消えていくのを見届けてから、アオイはセイジに耳打ちをする。


「……ミオを巻き込むのは無謀じゃない?」

「そうでもないさ。お嬢はこう見えて信用に足るやつだよ」


 制止ともとれる問いかけにセイジはなんてことない風に答えた。


「俺と同じで、旧態依然とした五家のあり方に疑問を持ってるんじゃないか? だから魔導師になることで、それを崩せないか狙っている。……違うか?」

「……お父様への侮辱は許されなくてよ」


 否定しないことが答えのようなものだった。

 アオイをはじめその場にいた全員が信じられないものを見たような表情でミオを見つめる。


「ってわけだ。イチヤの牙城を崩すためにも、是非お嬢にはこちら側についてもらいたいもんだが……まぁ、邪魔してくれなければそれでいい」

「…………セイジあなた、まだ魔導師になることを諦めてなかったの?」

「まさか。『力』に固執するのはもうやめたよ」


 セイジは首を横に振り、改めて決断を口にする。


 ――レティスを魔導師として擁立し、五家を立て直す。


 迷いなく言い切るセイジとは対照的に、ミオの藍色の瞳には迷いが色濃く浮かんでいた。


「……この人の話を信じるということかしら?」


 どこか震える口調でミオは問いかける。


「気に食わない、という以外に作り話だと断じる材料がないこと、お嬢も分かってるだろ?」

「っ、……じゃあなに? セイジはあたしよりもこの子が魔導師にふさわしいと思ってるの?」

「ふさわしいかはさておき、なれる可能性は高いと思っている」

「――!」


 一瞬にしてミオの頬が紅潮する。

 目にも留まらぬ早さで立ち上がり、ミオは踵を返して部屋から出ていった。


 開け放たれた襖の奥からぱたぱたと逃げる足音が響く中、おそるおそる口を開いたのはアオイだった。


「……ちょっと言い過ぎたんじゃない?」

「はっきり言ってやるのも優しさだろ? 目先のことしか考えられないとどうなるか、少しは痛い目を見た方がお嬢のためになる」

「そうかもしれないけど……ミオ、イチヤに報告したりしないかしら」


 そうなると全力で阻止しに来ることが目に見えていて、予定が大いに崩れることになってしまいかねない。

 アオイの懸念はレティスも思うところで、ちらりとセイジへ視線を移す。


「なに、問題ない。陰口を叩くなんて真似はプライドが許さないだろう」

「……ミオの気の強さも織り込み済みってことね」

「そういうことだな」


 セイジは頷き、手ずから酒をグラスに注いだ。


「……追いかけなくていいんですか?」


 緊張が解けたのもつかの間、そうつぶやいたのはレティスだ。

 最後は逃げていったが、ミオの思惑とセイジの思惑には交わる点もある。共に進む道もあるんじゃないだろうか。

 なによりもセイジの言葉を受けたミオの表情がレティスの脳裏に焼き付いてしまった。


「ミオさん、怒るというより傷付いた顔してたから……」


 信じていた者に裏切られた――そんな風に見えてしまった。


「俺が行ったところで門前払いを食らうだけだな。代わりに誰か行ってくれると助かるが」


 セイジが視線を向ける相手は当然のようにハシバだ。

 一同の視線を一身に受けてハシバは口を真一文字に引き結んだかと思うと、ふうと息をついた。


「……レティス、行きますよ」

「!」


 箸を置いて立ち上がったハシバにレティスは戸惑った声を返す。


「ミツルさん、オレとってどういう……」

「どうもこうも、気にしている本人が行かなくてどうするんですか。イチヤ嬢は間違いなくこれからの五家の中心人物です。縁を結んでおいて損はないでしょう?」


 至極当然といった口調で諭されてはレティスは頷くしかない。


「飯はどうする? 置いとくか?」

「すぐ戻りますのでそれから食べます」

「了解。ミオの部屋は使用人に聞けばいい」


 セイジの声を背中に聞きながら、レティスはハシバに促されるままに応接室を後にした。







若干尻切れトンボ感はありますが、第六章はこれにて終幕です。

お付き合いいただきありがとうございましたm(_ _)m


第七章・・・の前に、9月中目安に序盤の改稿を行います。

といっても内容が変わるわけではなく、第一章と第二章を統合して章を詰めます。

序盤は2000字いくかいかないかだったのが最近は3000〜4000字が普通になってきていて、全体のバランスを取るためです。


新しい六章についてはまたまた少しお休みをいただきます。

目標は10月中復帰。頑張ります。


ブックマークに登録すると通知してもらえるらしいのでご活用ください。

待ってるよ〜でも早く書けよと尻を叩くでもいいのでページ下部のいいねや☆ポイントでの応援いただけたら嬉しいです!

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