元婚約者の新しい恋人
「ジスラン様、ご気分はいかがですか?」
「ああ、リアーヌか…ありがとう。今日は大分いいよ」
アルレットと婚約破棄して一月以上が経った。
私はこの国の第三王子として生まれ、その中でも抜きん出て麗しく生まれついた。
光に当たると虹色に輝く銀の髪、晴れ渡った空の様だと褒められる瞳、芸術家ですら再現出来ないと言わしめた整った造形。
私は美の女神の寵愛を一身に受けたのだと称えられた。
そんな私だったが、唯一弱点があった。
それは、身体が弱くて呪いにかかりやすい体質だった。
医師や神官たちが言うには、身体が弱いのは呪いを防ぐ力が弱く、呪いに消耗させられているからだろうとの事だった。
まぁ、王家は立場上、妬みや嫉妬、恨みを買いやすい。
その上私は、この世の美を一身に受けているのだ。
私を羨み、呪いたいと思う者がいても仕方ないだろう。
そうは言っても、さすがに熱を出して寝込んでばかりいるのは苦しかった。
私が寝込めば、母上だけでなく多忙な父上ですら駆けつけてくれたから、その事に気分がよくなったものだ。
とは言え、それも度重なると不安だし辛い。
そんな私に与えられたのが、聖女の力を持つアルレットだった。
アルレットは伯爵家の長女で、輝く金の髪と若葉の様な瞳を持ち、造形は悪くはなかった。
ただ、真面目で地味で、正直一緒にいてもつまらないし、華もない。
美の女神に愛された私に釣り合う様な女ではなかった。
それでもアルレットのお陰で、婚約してからは寝込む事もなくなった。
それに関しては感謝しているが、それでも伯爵家では後ろ盾とするには不十分だし、出来れば私の美貌に釣り合う相手がいい。
そう思っていた時に出会ったのが、オランド侯爵家のリアーヌだった。
リアーヌは赤みがかった金の髪と、輝くようなオレンジ色の瞳を持つ美少女だ。
儚げな美貌は群を抜いて美しく、おずおずと見上げてくる様も可憐で、いつも強張った表情のアルレットとは雲泥の差だった。
「今日も力を込めたお茶をお持ちしましたわ」
「ああ、ありがとう。頂くよ」
そう言って手ずからお茶を淹れてくれるリアーヌは、実に献身的で愛らしかった。
彼女が淹れてくれるお茶は甘みがあり、飲んだ後は身体がすっきりする。
アルレット程の力はないから、会えない時間は茶葉に聖女の力を込めて、足りない分を補っているのだと言った。何ともいじらしい事だ。
しかし…
最近、以前に比べて調子がよくない事が増えた…と思う。
気に病むほどではないし、リアーヌが悲しむだろうから言いはしないが…
「ジスラン様。こちらを」
そう言ってリアーヌが出してきたのは、珍しい青虹玉だった。
青虹玉は女神の涙とも言われる宝石で、お守りとして重宝されているのだ。
「私の聖女の力を込めてあります。一緒にいられない間はこれがジスラン様をお守りしますわ」
「おお、そうか。ありがとう、リアーヌ」
そう、こんなにも健気で私を案じてくれる恋人がいるのだ。
何を不安に思う事があるだろう。
愛らしくいじらしい恋人を、私は優しく抱きしめた。