思いがけない申し出
お父様の執務室に入ってきたのは、ラシュー公爵家のご当主であり、お父様の上司で第一騎士団の団長をされているオーギュスト様でした。
艶のある黒髪と輝く金の瞳、そして何よりも素晴らしい筋肉をお持ちの美丈夫です。
私の中では、今のところナンバーワンの筋肉の持ち主と言っても過言ではありません。
今、世間では細マッチョが持て囃されていますが、私はムキムキマッチョ派なのです。
ああ、その素晴らしい肉体美に相応しい、低くて張りのあるお声も素敵です。
…ではなくて…今、とても意外な事を言われたような…?
「あの…オーギュスト様…」
「どうかしたか、アルレット嬢?」
「今ほど、何か…仰いませんでしたか?」
「ああ、婚約者を探しているのだろう?だったら私ではダメだろうか?」
さ、さっきのお言葉は聞き間違いではなかったようです。
さすがのお父様も、驚きに固まっていらっしゃるところをみると、間違いないようです。
「ジスラン殿下との婚約を解消されたのでしょう?」
「え、ええ、まだ確定ではありませんが…」
「でしたら是非、私と婚約して頂けませんか?」
「か、閣下…何を…」
さすがのお父様も固まっていらっしゃいます。
それもそうでしょう。しがない伯爵家の娘が公爵家の当主になどと。
しかも我が家は騎士一筋の、出世欲もない脳筋一族なのです。
「ああ、ディオン殿、急で申し訳ない。だが、私も込み入った事情があってな…」
それからオーギュスト様は、私に求婚した理由をお話になりました。
今年25歳になられるオーギュスト様ですが、まだ結婚どころか婚約者もいらっしゃいません。
それは昨年まで隣国との小競り合いのせいで、暫く王都を離れていた事もありますが…
やはり一番はその外見です。
筋肉隆々としたお姿に、殆どの令嬢が恐ろしいと拒否してしまうのです。
まぁ、確かにオーギュスト様は筋肉以外に目つきも鋭いですし、背も高くて威圧感も半端ないです。
表情を変えられる事も少ないし、饒舌とも言い難いですわ。
そんなオーギュスト様を心配し、また由緒あるラシュー公爵家を絶やすのは忍びないと、陛下が縁談を勧められたそうです。
でも、オーギュスト様は怯える令嬢を気の毒だと思われて、相手の反応を見てお断りしているのだとか。
それが度重なったため、今度は陛下が業を煮やして、一ヶ月以内に婚約者を決めなければ、強制的に陛下の選んだ令嬢と結婚させると仰ったそうです。
「…それで…私ですか…」
「ああ。アルレット嬢は私を怖がる事もなく、普通に接してくれる。それに、小さい頃から知っているから性格が好ましい事もわかっている。ジスラン様の婚約者を降りられたのなら…」
こ、これは夢を見ているのでしょうか。あのオーギュスト様が、私の理想の筋肉の持ち主が、私を婚約者に…
という事は…もしかして、筋肉見放題…?
私は胸の高鳴りを抑える事が出来ませんでした。