お父様への報告
「婚約破棄、だと?」
ジスラン殿下の元を辞した私は、その足で王宮に隣接する騎士団の建物に向かいました。ここには私の父がいるからです。
私の父は第一騎士団に所属していて、副団長を務めています。
まぁ、伯爵家なので出世としてはここが限界ですが、父は出世にはあまり興味がないので、その事は気にしていません。
「ええ」
「だが、殿下との婚約は殿下の…」
「そうなのですけれど…何でもオランド侯爵家のリアーヌ様が代わりになられるとか。あの方も聖女の力があるとの事ですし、よろしいのではないでしょうか?」
「うむ…確かに」
お父様もこの婚約にはいい顔をなさらなかったので、異存はないようです。
それもそうでしょう。
殿下は見栄えはいいけど中身はひ弱ですし、代々騎士の家系の我が家では心証はよくありませんから。
「しかし、破棄などと…この場合は解消でいいだろうに…」
「そうなのですが…私としてはどっちでもいいですわ。殿下から離れられたのなら」
そう、婚約を取り消す場合は、解消と破棄の二つの方法があります。
解消は両者の合意の上で穏便に取り消すのですが、破棄は片方に問題があった場合に行うものです。
この場合、解消の方が妥当です。
まぁ、殿下の不貞と言う意味では、破棄で合っているのですが…
でも、婚約がなくなるのであれば、私はもうどっちでもいいです。
聖女の力を持っていれば、多分、相手に困る事もありませんし。
あと、気になるのは婚約を命じられた陛下ですわね。
勝手に破棄したけれど、大丈夫なのかしら?
でも、殿下の後ろ盾になるなら、伯爵家よりも侯爵家の方がいいのは確かだし、問題ないでしょう。
「でも…お父様」
「どうした?」
一つだけ、心配な事があったので、それだけはお父様には知らせておきたかったのです。
「リアーヌ様との婚約はいいのですけれど…リアーヌ様は婚約者を選ぶ選定会では、大した力はなかったと思いますの。もしリアーヌ様に私と同じくらいの力があれば、リアーヌ様が選ばれたと思うのですよね」
「そうだな…確かに」
「だから、リアーヌ様では無理だとなった場合、また私と再婚約…とならないかが心配なのです」
「な…!それは…でも、そうだな。確かにレットの言う通りだ」
お父様が考え込んでしまわれましたが、この可能性がないとは言い切れません。
いくら殿下がリアーヌ様を望まれても、命に係わるとなればそうとも言っていられないでしょう。
でも、私はもう殿下の婚約者にはなりたくないのです。
「そうだな。では…正式に婚約破棄になったら、すぐに次の相手を探そうか…」
「では、私などどうだろうか?」