婚約者に選ばれた理由
ジスラン殿下の元を辞した私の足取りはとても軽やかでした。
だって、殿下の婚約者から解放されたのですから。
そう、私は最初っから、あの殿下の婚約者になった事が嫌で仕方なかったのです。
私が殿下の婚約者になっていたのは、単に私が聖女の力を持っていたから。
聖女の力とは、この国の女児に時折現れる稀有な力で、その力は平民や貴族に関係なく、若い娘に現れます。
大体10歳位からその力が現れて、その後は力がなくなる者もいれば、死ぬまで持ち続ける者まで様々。
聖女は治癒魔法や結界魔法、守護魔法などそれぞれ得意分野がありますが、それらに関係なく、もう一つ力があります。
それは、一生に一人だけ呪いから守る事が出来る、と言うものです。
そして殿下は、生まれた時からお身体が弱く、そのせいか呪われやすい体質でした。
王族はどうしても恨みや妬みを得やすい立場にいるのですが、殿下はそれらへの耐性が非常に弱かったのです。
もう、ないと言ってもいいくらいに。
その為、子供の頃から何度も寝込み、死にかけていました。
お分かりでしょうか。
私が殿下と婚約したのは、ただこの呪い対策のためだったのです。
ちょうど殿下と年が同じで、私の力が同年代の令嬢たちの中で一番強かった、それだけの理由でした。
でも、そのような事情をご存じなのにも関わらず、殿下はこの婚約を大変嫌がっていました。
自分の命がかかっているのだから我慢しようよ…と私は何度そう思ったでしょう…
でも、甘やかされて我儘全開の殿下には、そんな私の心の声は届きませんでした。
確かに、一般的に王子の結婚相手は、他国の王女か、国内なら公爵家か侯爵家から見繕うのが殆どです。
単なる伯爵家の娘が婚約者になれるはずはなく、私が婚約者に選ばれたのは異例中の異例でした。
それだけ私の力が強かったのだけれど。
でも、当の殿下にとっては、そんな事はどうでもよかったらしいです。
全く気が合わなかった私達ですが、この婚約を嫌がっているという点では意見が合っていましたね。
皮肉なものです。
実をいえば、私も殿下の婚約者になんかなりたくなかったのです。
王命だから拒否権がなく、仕方なかっただけ。
だって殿下は確かに見目麗しいのだけれど、全く私の好みじゃなかったのですから。
まず性格がダメでした。
殿下は第三王子で王位を継ぐ可能性は低かったし、病弱なのもあって、それはもう甘やかされて育ったのです。
その為、性格も我儘で忍耐力に乏しく、同じ年でありながら非常に子供っぽい。
しかもあのお顔のせいか、自他ともに認めるナルシストです。
お陰で私は最初から、容姿がダメだ、自分に釣り合わないと、散々馬鹿にされてきました。
それに私は、軟弱な男性よりも筋骨たくましい男性が好きなのです。
細マッチョなど論外、私は筋肉隆々なマッチョが大好き。
ええ、ハッキリ言いましょう。私の男性の基準は、ずばり筋肉なのです。