重ね掛けは呪いの力
「そんな…バカな…」
聖女の力を二人から同時に受けられないと知って、ジスラン殿下は驚きのあまり固まってしまわれましたが…私も驚きに声も出ません。
この事は私が婚約者になった時から嫌というほどお話ししていますし、平民だって知っている常識中の常識です。
それこそ、トイレに行ったら手を洗いなさい…と言うレベルで。
この人、本当に大丈夫なのかしら…
相手が王族とは言え、頭の中身が心配になってきます。
それとも…これも呪いの影響なのでしょうか…
「重ね掛けすれば、呪いが悪い方に作用する可能性もございます。殿下はオランド侯爵のご令嬢のお力を受けていらっしゃるので、私が力を使う事は危険です」
「…」
リアーヌ様はバツが悪いといった表情になられました。
でも、いくら殿下が世間知らずのボンクラとは言え、聖女の力をお持ちのリアーヌ様はご存じだった筈ですが…どうなっているのでしょう…
「聖女の力の重ね掛けは、一歩間違えれば呪いになります。私は婚約を解消した際、陛下から、今後一切殿下に力を使わないようにときつく命じられました」
そう、これも紛れもない事実です。誓いの署名だってしましたから。
「な、何を言っているの…?」
ずっと話を聞いているだけだったリアーヌ様が、青ざめながらそうお尋ねになりました。
「何を…とは?」
何かおかしい事を言ったでしょうか?
聖女の力の重ね掛けは呪いの力。
世にある呪いも、聖女が関係しているだろうというのは周知の事実です。
「聖女の力が呪いなんて…」
「重ね掛けした場合、そうなる可能性があるという話です。リアーヌ様もお力をお持ちなら、神殿の講義をお受けの筈。ご存じでは?」
うん、もうこの二人、ヤバいんじゃない?と思った私は間違っていないでしょう。
リアーヌ様も聖女の力があったなら、10歳の検査の後、神殿で講義を受けられたはず。
この講義は聖女になる、ならないに関係なく、力があった者には義務付けられています。
また、力があっても聖女の力を勝手に使う事は重罪です。
これらは常識中の常識の筈ですが…
「今の殿下に私が力を使えば、殿下のお命に関わりますし、陛下からも禁止されております。お話が以上でしたら、これで失礼いたします」
話がこれだけなら、これ以上の長居は不要です。
私はオーギュ様の婚約者ですし、いくらリアーヌ様も一緒とは言え、殿下とお会いするのは外聞もよろしくないでしょう。
「ま、まて!」
部屋を辞そうとした私に、殿下が慌てて声をかけてきました。
何でしょうか…やっぱり嫌な予感がします…
「聖女の力が使えないなら…私のために青虹玉を作れ!」




