お茶会のお誘い
オーギュ様が討伐に出られた後も、私は手が空いている時はオーギュ様のために祈りを捧げていました。
遠く離れているので聖女の力は届く訳はないのですが、何もしていないと心配で仕方なかったのです。お祈りをしていると不思議と心が落ち着くので、私はオーギュ様のご無事をひたすら祈っていました。
「王家からのご使者?」
オーギュ様の出立から2週間ほどして、我が家に王家からの使者が来られました。王家からの使者など、ジスラン殿下との婚約を解消してからは来る事もなかったのですが…私は何だか嫌な予感がしました。
お父様も意外だったようで、困惑した表情をされています。
婚約は陛下の執り成しで穏便に解消されているので、これ以上王家と連絡を取り合う事はないのですが…
「これは…」
家長であるお父様がまず、王家からの書状をご覧になりました。
中身は殿下からのお茶会のお誘いでした。
婚約中ですらお茶のお誘いなど一度もなかったのに…一体どういう事でしょう。
何だか益々嫌な予感がしました。
「娘は既に婚約を解消し、今はラシュー公爵様の婚約者です。さすがにこのお誘いは…」
「その点はご心配なく。今回は他のご令嬢にも声をかけております」
「…しかし…」
他のご令嬢にも声をかけて…ですか…いったい何のためでしょう…
リアーヌ様と婚約すると聞いているので、今更他のご令嬢と親交を深める必要はないと思うのですが…
「王宮の庭のばらが見頃だという事で、お茶会は庭で行われます」
ご使者はそう仰いますが、何だかうすら寒い気がするのは気のせいでしょうか…
それでも、我が家のような一介の伯爵家に拒否する力などありません。お父様は渋々ながらも出席するとお答えするしか出来ませんでした。
お茶会は一週間後ですと言って、ご使者は帰っていかれました。
「あのジスラン殿下がお茶会とは…」
「ええ…婚約者だった頃ですら、お茶を頂く機会などありませんでしたのに…」
ご使者が帰られてからは、私とお父様の間には重苦しい空気が漂いました。
私もお父様も、ただのお茶会のお誘いとは思えなかったからです。
「…やはり、あの噂は本当なのだろうか…」
「噂、ですか?」
「…ああ…私も噂でしか知らないのだが…殿下の体調が、あまりおよろしくないらしい…」
「まぁ…」
以前、マリエルが殿下の体調がよくないらしいとの噂を教えてくれましたが…
真面目過ぎるせいで噂に疎いお父様のお耳にも入ってきているという事は、かなり信憑性がありそうです。
実際、リアーヌ様の力で大丈夫なのかしら?とは思っていましたが…
でも、リアーヌ様にも聖女の力はありますし、あのプライドばかり高くて私を馬鹿にしていた殿下が、今更婚約解消した私に声をかけるとも思えません。
でも…じゃあそれ以外の用事で?と思うと、全く見当もつきませんが…
「さすがに断る事は出来ないが…すまない、レット。どうか気を付けて」
「はい、お父様」
オーギュ様がいらっしゃったら相談も出来たのでしょうが…ご不在の今、こんな事でお心を煩わせるのも申し訳ないです。
仕方なく私は、殿下のお誘いを受ける事になりました。




