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ゴブリンから始まる物語  作者: となりの戸愚呂
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96.それ早く教えて教えてよ!?


 翌朝は久し振りの平穏な始まりだった。平穏なっというよりはただここ最近の日課になってることをしてないだけなんだけど。もちろん昨夜もしていない。おやすみのキスをリンとレイナにこっそりしたくらいだ。ただ、リンとレイナと一緒に寝る際にユーリがジト目で俺達を観ていたり、何故かローナが風呂上がり後俺に対してだけ挙動不審だったり、終始マリアはニヤついてたりと·······非常に居たたまれなかった。


 軽く朝食をとり、それぞれの準備を終えた俺達はダンジョンへと向かい現在は1階層を進んでいる。事前の情報の擦り合わせの為に1、2階層のみの探索となっているのだが··········結論はやはり変わらず亜種系統が加わったりはしない。ただ数が増えるだけだった。ボス部屋に限っては亜種系統も1、2体増えるだけだった。


 2階層を探索し終えた後、一度入り口まで戻りこのあとの方針を決める事となった。


「探索を終えてだが情報通りだったな。5階層までなら他の冒険者も問題は無いだろう」


「そうですね。ただ、問題なのが5階層と10階層の階層主はどう足掻いても下級と中級の冒険者には荷が重いでしょうね」


「間違いないわ。昨日の話だとそれ以外でしたら中級の冒険者でも行けそうなのに······パーティーメンバーが増えれば増えるほどその魔物の数、もしくは亜種が出るのでは無理でしょうねぇ」


「··········たぶん罠部屋以外の罠が無い分そうなってる可能性がある。·········だから私はいらない子だからリンと一緒に帰る」


「待て待て。10階層以降はそうとも限らないだろう。リンはどうする?いや、どうしたいんだ?」


「僕は··········」


 続く言葉が出てこない。たぶんだが付いては行きたいが足手まといになるだろうと考えているのだろう。俺としても安全策でいくなら戻ってもらった方が良いのだが·······そんな僕も付いていきたいって顔をされると止めるのが憚られる。ならばと思い俺はリンに提案する事にした。


「リンも行きたいなら一緒に行こう」


「な!?おい、ルゴウ!」


 止めようと声を上げたレイナに首を横に振り、話を続けた。


「但し、ローナの指示に従う事と自分では無理だと思ったらすぐに言ってくれ。俺が守るからな」


「うん、分かった!僕も行きたい!」


 リンは嬉しそうな表情に対してレイナは俺に詰め寄り怒った表情で胸ぐらを掴んできた。


「待てよ。幾らなんでも危険だろう!お前はリンが死んでしまってもいいのか!」


「危険なのは重々承知の上だ。出来れば戻って欲しいとは思ってる。だがそれはレイナにだって言える事だ」


「俺は弱くはねぇぞ!」


「強い弱いは関係無い。2人とも死んで欲しくないからだ」


「っ!?··········俺は·····死なねぇよ」


「絶対じゃないだろう。10階層以降何が起こるか分からない。もしかしたら死ぬ可能性だってあるかもしれないじゃないか」


「··········」


「だからリンもそうだがレイナも俺が守る。確かにリスクは上がるがその分俺が何とか補う。丁度面白い事が出来る様になったからな」


 すっかり黙ってしまったレイナの頭を撫でながら笑い掛けた。まだ不満そうにむくれているが何も言い返してこないし俺の手を振り払おうともしない。本当にこういうとこ可愛いよな。


「··········何この茶番」


「まぁまぁ、いいじゃない。付き合いたてはこんなものよ。でも、時と場合は考えて欲しいわね」


 ················すまん。おっしゃる通りだわ。レイナを説得させようと考えてた事を言ってたんだが、自分でも正直恥ずかしい事を言ったなと思ってる。いや、本心だよ。本心なんだけどさ········言ってることが余りにもクサイよな。やっぱり2人連れて帰ろうかな。


 なんとも耐え難いユーリとマリアの視線にこの場から去りたい衝動を抑えつつ、リンもして欲しそうな顔で見ていたので同じように頭を撫でてあげた。リンの嬉しそうな表情に癒されそうになるがよりいっそう2人の視線がキツくなったのは云うまい。


「はいはい、話はまとまりましたよね。そこの3人も満足したでしょ?一旦離れましょうね」


 レヴィアは呆れながらも皆の意識を替える為、手を叩いた。はっと我に返ったレイナは恥ずかしくなったのか顔を赤らめ、リンも満足して離れていった。


 気を取り直して打ち合わせの続きをし、10階層へと転移した。転移した後、俺とレイナ以外は驚いてはいたがそれも直ぐに気持ちを切り替え探索を再開した。


 今のところ目立った罠もなく先頭にいるユーリも警戒はしているものの若干つまらなそうである。その代わりに戦闘は多い。先程もオークとハイオーク、ホブゴブリンよりも上位種が4、5体の構成で出会っている。流石に金級のパーティーの敵では無いので苦戦はない。むしろ後衛の出番がほぼ無い。ローナとレイナが前衛で頑張って俺とユーリがちょこちょこ支援するだけで終わってしまう。正直、余裕だ。慢心はいけないのだがそういった感情が芽生えはじめてくる。


 そんな矢先に小部屋の中央にこれ見よがしに宝箱がポツンと1つ設置してある所に行き着いた。


「············どう考えてもあれは罠。········舐めてるの?」


 あー、うん。俺でも何となく察しは出来る。他の皆も呆れているし、ユーリは怒りのせいか震えはじめている。誰だよこんな見え透いた罠を考えた奴は········引っ掛かる人はよっぽどの馬鹿だぞ。ってそんなヤツはいないから怒ってもしょうがないんだけど。


「と、とりあえずあれはどうする?無視するか?」


 俺はローナにあの如何にもな宝箱に指を指して尋ねると、ふむと考えはじめた。


「そうだな。無視でも構わんがどういった罠かは確かめておきたい。ユーリ、どうだ?」


「·········判断つかないから触らないのがいい。·········まぁ誰かが犠牲になってくれればわかる。···········と言うわけでレイナ、出番」


「よっしゃ······って行くわけねぇだろうが!」


「··········チッ」


「舌打ちすんな!てめぇが行け!」


「··········私はいかない。·········レイナは頑丈だから問題無い」


 ············また喧嘩しだした。いやじゃれあってるだけか?

 ユーリとレイナの言い合いに頭を抑えたローナは深い溜め息を吐いた。


「私が悪かった。もう確認は無しで次に行くぞ」


「あ、待った。俺なら確認出来るぞ」


「ん?どうやってだ?」


「さっき言った面白いやつだ。まぁ見た方が早いかな」


 俺は仙気を隣の虚空へと形を整えながら放出し、そこに固定化していく。仙術は魔法と若干異なるがそれでも使っている感じは魔法と大差はない。要はイメージだ。イメージをしっかり持って自分が造り出したいモノを強くイメージする事。そしてそれを具現化出来るように固定する。んで、完成っと。


 俺は隣を見ると俺と変わりがない分身体がそこに立っていた。出来映えは問題無し。分身体に同じように動くよう念じればその通りに動く。昨日、試した段階では俺と同じ思考で個別動作も可能である。これならリスク無く宝箱を開けに行けるだろう。


 俺は満足し周りに目を向けると呆れや驚きで固まっていた。いや、レイナ。お前は驚くなよ。レイナが仙術で出来るって話していたんだからな。


「えー、まぁ俺の新しい技だからこれで問題はなーーー」


「おー!すっげぇな!マジで出来たのか」


「ル、ルゴウが2人·········す、すごい」


 レイナの食いぎみでの称賛にたじろいでしまう。あと2人とも近い。


「これは凄いですねぇ。まるで本人みたいに体温や触感があります。意思もありそうですね」


「···········同じ顔2人はキモい」


 ユーリとレヴィアは俺の分身体にペタペタと触ったりつついたりしている。レヴィア、それ分身体だけど変な所触るなよ。後、ユーリ。キモいは無いだろ。ほら、リンが睨んでるぞ。


「本当に凄いな。これでアレをどうにか判断できそうだ」


「本当はこういった事で使うんじゃなくて戦闘を想定してたんだけどな。とりあえずこの分身体に部屋の中に入ってもらって開けてもらおう。俺たちは離れて観ておこうか」


 と言うわけで何が起こるか分からないので部屋の前で待機して分身体を中へと進ませていった。分身体は特に何事も無く箱の前に到着し、箱に手を掛けようとした。その途端に宝箱が勝手に開き、中から無数の黒い手のような物体が現れ分身体を掴み分身体を中へとぶちこんだ。中で抵抗しているのか箱を叩く音、同時に骨や肉を磨り潰すような音、石臼を引くような音が雑ざり合ったとした様々な音が響いてくる。そんな人に恐怖を与えそうな音は程無くしてパタリと止んだ。本来であれば血が出ていたであろうが箱の鍵穴から、蓋の隙間からは仙気の粒子が零れ出ている。


 ······················グロい。一瞬の出来事だったがあれが人だったら途轍もなくグロい映像になってただろう。

 他の皆も引き気味に見つめては「うわぁ·····」と口に出している。というかリン?あれは分身体だから泣かないで欲しいんだけど。ほら、よしよし。本体はこっちに居ますよ。


 俺は近寄ってきたリンの頭を撫で慰めながらローナ達に聞く。


「なぁ、あれって魔物か?」


「あ、ああ。あれはミミックだ。見た通りにあれは危険なんだ。ただ、補食しているのを1から見たのは初めてだからこうまでエグいとは思ってなかった」


「えっ、じゃあ今までどうやって対処してきたの?一見分かりにくいと思うんだが」


「·········あんなに警戒も無く近付いて開けるのは初心者か馬鹿。··········普通ならこういった小石をまず投げて反応をみる」


 ユーリは手頃な小石をレイナに渡し投げるように言う。受け取ったレイナは振りかぶり宝箱へと投げる········が外した。ユーリが訝しげにレイナを視ると「わりぃわりぃ」と苦笑いをし、再度小石を拾って投げつける。今度はミミックに命中した。するとまた勝手に箱が開き無数の黒い手のような物体目の前を掴もうとするが空を切り、何もないと判断したのか黒い手は霧散し蓋が閉じた。


「··········ね」


「ね。じゃねぇよ!ミミックなら最初っから投げればいい話じゃねぇか。何で言ってくれないかな!?」 


「········いや、まさかルゴウなら先にそれくらいやると思ってたから·········ひょっとしてルゴウも馬鹿?」


「知識が無かっただけだ!」


「まぁまぁ、落ち着いて。いいじゃない今知ることができて·········まぁお姉さんもそうは思ったけど」


 く、くそぉ。ユーリもマリアもニヤニヤと······レヴィア、隠そうとしてるけど笑ってるのバレてるからな。

 とりあえず気を取り直してミミックを始末しよう。木製だし火魔法でいいか。一応ローナ達に確認すると魔石位しか回収出来ないから燃やしても構わないそうだ。貴重品類は入っていないらしい。俺にとっては嬉しいが冒険者にとってはハズレにも程があるらしい。


 始末し終え魔石を回収し、探索を続ける。ミミックの件があってから探索中リンがしばらく俺から離れなかった。何故かそれに便乗したレヴィアも俺の腕をとり離れてくれなかった。勘弁してくれ。リンは分からんでもないがレヴィアは絶対に悪ノリだろ。ほら、周りの目線がやたら痛い。レイナも若干怒ってそうなんだけど·········はぁ。満足してもらうか戦闘になるまで我慢しよう。



·················

························

·····························


 その後の探索は順調だった。5、6回は宝箱がある部屋に行き着き、ミミックが1回遭遇したくらいで、他は罠付きもしく罠無しだった。収穫物も回復薬、短剣、アクセサリー等の貴金属類を手に入れることが出来た。ただ、毒ガストラップの宝箱のなかにキュアポーションがあったのは性格悪いと思う。罠解を除出来なければプラマイゼロだし個数も1個、金貨と銀貨が入った小袋だった。回復役がいなければ喧嘩になるだろ。本当に性格悪い。


 ようやく次の階層に繋がる広間に到着した俺達は中へ入るか帰るかで揉めている。と言うのもレイナが不完全燃焼ぎみで帰るのを反対している。他の皆は探索に時間が結構掛かってしまったので一度帰って明日にでも続きを探索したいとの事だ。俺はというとレイナ派なんだよな。いや、正確には次の階層に行かないでここを攻略したいだけなんだけどな。ほら、気になるじゃないか。明日来るにしても宝箱の中身は再度ドロップ出来るしお得な気がするんだよ。······前にもそう言ったような······まぁいいか。


「はぁ、分かった。ならここの魔物を倒してから戻るとするか」


「よっしゃ!流石ローナ。分かってるじゃねぇか」


「········はぁ、帰れると思ったのに」


「ユーリちゃんもうひと踏ん張りよ」


「さて、行くとするか。リンは無理せずーーー」


「あ、いや。俺とルゴウだけで行くからそこで待っててくれよ」


「「「「「「············え」」」」」」


 さも当然の様にレイナが言うと俺も含め皆きょとんとしてしまった。俺の気の抜けた様子にレイナは何で呆けているのか理解出来ていないらしい。


「いや、俺とルゴウは戦い足りないから付き合う必要はないぞ。リンもローナ達と一緒に待っててくれ」


「え、あ、うん?」


「さーってと、つうわけで行くぞ」


「お、おう」


「ちょ、ちょっと待て」


 俺はレイナに腕を引っ張られながら広間へと行こうとしたらローナが慌てて止めた。


「なんだよ。あ、別に大丈夫だぞ。俺とルゴウの相性はバッチリだからこれくらい屁でもねぇからな」


「い、いやいや。幾らなんでも危険だろ」


「そ、そうですよレイナ。ここは連携した方がいいですよ」


 ローナとレヴィア、それに続くように皆反対するがレイナは頑なに譲らなかった。それならと思ったのか今度は俺に止める様に言ってくる。だが、俺は首を横に振った。何故ならーーー


「その方がレイナも満足して文句も言わずに帰れるだろう?」


 俺のその一言に皆は黙って納得したようだ。わかってらっしゃる。


「それにローナ達とこうして探索するまでも2人でやってきたから問題無い。·······だからリン、大丈夫だから待っててくれるな」


「うん·······わかった。僕も強ければサポート出来たんだけど」


「気持ちだけで十分だ。これから少しずつ強くなればいいから」


 不安そうに俺の手を握ってきたので軽く握り返し、優しく声を掛けてあげる。表情からして少し不安は解けた感じかな。俺はそっとリンから手を離した後、軽く頭を撫でレイナに向き合った。


「よし、じゃあレイナ行くか」


「おうよ。張り切って行こうぜ」


 ローナ達を残し、俺とレイナは広間へと歩みを進めていった。


「·············自然とイチャつくなバカップルども」


 ユーリ、ごめん。その気は無かったんだよ。だからその怒りを込めた視線は止めて。


善行 9/108


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