85.冗談だって思うよね
「こんなんなるまでほっとくなんぞ馬鹿かー!」
「い、いや······その、すまない····」
「謝って済む話ではないわ!ほれ見ろ。刃零れしとるじゃろ!折角の質の良い剣が台無しじゃわい。レイナもレイナじゃ。使わん時は整備に出せってあれほど言ったじゃろ」
「い、いやー。つい忘れててーーー」
「お前さんのついは面倒くさいだけじゃろが。ったく······」
そう言ってぶつくさと文句を言いながらここの店主のドワーフ(見た目)のおっさんが俺達の武器を真剣に視始めた。経緯を説明すると買い物次いでに武器のメンテナンスをして貰おうと話をしこの武器屋に来た訳だが·····最初はおっさんから訝しげな目で見られたがレイナの存在に気づき若干だが視線は和らいだ気がした。んで、おっさんにレイナが話し掛け武器のメンテナンスをするように伝え、実際に武器を見せたら冒頭の話になった訳だ。
「ふむ·······」
一通り見終えたおっさんが武器をテーブルに置くと深い溜め息と共に呆れながら言った。
「刃零れは有るが致命的なヒビは無さそうじゃな。これなら研ぐだけで十分じゃろ。レイナのコイツは相変わらず刃零れすらないな。だがちょいと負荷が多いせいか一見分からない様な歪みが出来はじめてるから少し直すぞ」
「わりぃな」
レイナは悪びれた様子を出さずニシシと笑いながら言うと爺さんはぶっきらぼうに応えた。
「別に構わんぞ。お前さんのは特注だからな。そこら辺の武器じゃこんなもんじゃ済まんからな」
「レイナの武器ってやっぱり特注なんだ」
「まぁなー。魔鉄とミスリル、ドラゴンの牙を合成させたヤツだからな。そんじょ其処らのヤツとは違うんだよ」
ふふんとドヤ顔をしながら自慢げに胸を張るレイナに爺さんは溜め息を吐いた。
「だから定期的に整備をせいって言っているんじゃよ。只でさえコイツは中々骨が折れる剣だっちゅうに·····まぁ、これくらいなら問題無いわい。整備料金なんだが······ふむ、全部で銀貨10枚じゃな」
「げっ、そんなにすんのかよ。もうちょい負けてくれても良いんじゃねぇか」
「これでも負けとるわ。お前さんのヤツが手間取るから高いんじゃわい。そこのあんたのは·····まぁそこそこ珍しいモンじゃが研ぐだけだから安いんじゃよ」
レイナの不満に少し怒った風に爺さんは言いつつ、俺の剣を再度手に持ち色々な角度から観察している。レイナは頭をガシガシと掻き、そして諦めた様子で俺に目を向け言った。
「はー、まぁ仕方ないか。ルゴウは残りいくら持ってるんだ?」
「もう、宿代位しか残ってないぞ」
それくらい残る様に調整して渡したからな。そもそもメンテナンスする予定無かったし。
「かー、そうだよなぁ」
レイナは肩を落とすと爺さんは呆れた様に溜め息を吐きながら剣を置いた。
「なんじゃ、文無しか」
「いや、まだ払える位は有るんだけどよ·····酒があんまり買えなくなるのがなぁ」
「そんなん我慢せい。どうせ飲みすぎて金が失くなったのじゃろうって」
「っく······でも半分当たりだがもう半分は違ぇよ」
レイナの反応を強がりと思ったのか爺さんは眉をピクッと動かした後、嘲笑うかの様に言った。
「ほう·····ま、お前さんの事だ。どうせ大した理由じゃ無いんじゃろうって」
「それはどうかな?何時もの俺の事情じゃねぇんだよなぁ」
どこから溢れる自信なのかしたり顔で口にすると爺さんはイラついたのか声を低くし言った。
「········くっだらない理由じゃったら負け分は無しじゃぞ」
「ふふん、じゃあ違ったらもう少し負けて貰おうじゃないか」
なんでそんなに強気なんだよ。素直にゴネないで払えるんなら払えばいいだろ。
「······まぁ、いいじゃろ。言ってみな」
「さぁ、ルゴウ。この爺さんに言ってやれ!」
爺さんに勢いよく指を指しながら自信満々にそう言うが·······なんで俺が?
「いや、レイナが言うんじゃないのかよ」
「えー、説明がめんどくさい」
俺がそう突っ込むと先程までの勢いは何処にいったのか本当に面倒くさそうに言いやがった。
「どこがだよ!?孤児院に寄付したってだけだろ!?」
「あー、それで済む話しか。てっきり1から話すと思ってたからな」
ポンと納得したのか手を叩くレイナに俺は肩を落とした。
「そこまで説明せんでも良いだろう」
「ほう、あのレイナが寄付じゃと······明日は槍でも降るのか」
「あのは余計だ!·····つっても実際に寄付したのはルゴウなんだけどよ」
「なんじゃ、そっちのゴブリンがしたのか。期待はずれじゃの」
爺さんはテーブルに頬杖をしながら目を細め呆れた表情をしていた。
「う、うるせぇな。良いじゃねぇか別に」
「良くないわい。ゴブリンが寄付すること事態は驚くことじゃが、お前さんじゃなければ納得出来るか。これは負け分は無しじゃの」
「なんでだよ!?ルゴウのお金は俺の金でもあるんだし良いだろ!」
「お前さんはテイマーじゃないじゃろ·····だったらお前さんの金じゃなくテイマーのお金じゃろが」
するとレイナは胸を張り、それはもう堂々と勝ち誇った様子で言った。
「ふっふっふー、残念だったな。ルゴウに主人は居ねぇんだよ。寧ろ俺が認めた男であり旦那になる男でもあるからな!」
「·························はぁ?」
レイナの唐突の言葉に耳を疑い、信じられなかったのかそう聞き返してきた。
「················あ····」
あ、じゃねぇよ。思いっきり自爆した事に気が付いて顔を真っ赤にするんじゃねぇよ。言われた俺も恥ずかしいわ。
俺はあまりの恥ずかしさに片手を額に当てると爺さんは俺とレイナを交互に指を指しながら言った。
「まさかとは思うが、お前さんそのゴブリンに懸想しとるのか?」
「懸想と言うかなんと言うか······まぁ、そのなんだ。そういった仲だ」
羞恥のためか黙ってしまったレイナの代わりに俺は後頭部を掻きながら応えると一瞬の間が空いたが爺さんは笑い出した。
「がーはっはっはー。ゴブリンとそういった仲って、ひー、冗談じゃろ。幾らなんでも男っ気無いからってそれは幾らなんでも·······」
バンバンとテーブルを叩きながら笑いつつチラッと俺達の様子を見た爺さんがピタリと止まった。
「え······マジなのか········?」
「えっと·········はい。マジです」
「おいおい······正気か!?·····幾らなんでも趣味が悪すぎじゃぞ?」
驚きと呆れが入り雑じった様な声を爺さんが出すとレイナは声を大きくし反論した。
「い、良いじゃねぇか!!俺が誰を好きになろうとも!」
爺さんは一理あると思ったのか少し怯むがそれでもと思い探る様な声音で尋ねた。
「だってよぉ····ゴブリンといやぁ群れたりするもんだろ?曲がりなりにもお前さん別嬪さんなんだからよ······そういうんが好きなんか?」
「ち、ちげぇよ!?何言ってんだよ!そんな趣味はねぇし····それにコイツは群れなんか作ってないぞ」
レイナは顔を赤くしながら否定するが爺さんは尚も疑っているので俺はそれを晴らす為に頷いた。
「本当だ。俺は群れてないし無理やりは好ましく思ってない」
「············はぁ、まぁ良いんじゃがよ。これ以上は突っ込まんよ。········ほれ、負けとくから暫くどっか行っとれ。整備しちゃる」
漸く納得した爺さんが深いため息と共にそう告げたので俺達はそのまま武器を預け残りの買い物を済ませるため店を後にした。
····················
···························
·································
色々と買い物を済ませたら日も段々と暮れてきたので先程の武器屋に戻ってきた。爺さんは作業を終えてのんびりとお茶を啜っている所である。
「よー、出来てるか?」
「出来とるよ、ほれ確認せい」
爺さんは湯飲みを邪魔にならない場所へ置くと、テーブルに俺達の武器を置いていった。俺とレイナはそれぞれの武器を手に出来を確認していく。ファルシオンとロングソードの刃零れが無くなったし、大剣も問題無さそうだ。
俺は確認を済ませ腰と背中にそれぞれ剣を納めるとレイナから銀貨を貰い終えた爺さんがふむと俺を視てきた。
「えっと·····何か?」
「ふむ·······改めてみるとお前さんの装備がチグハグでな気になっとったんじゃ。たぶんお前さん二刀流じゃろ?その腰の2本はどっちかで揃えた方が良いと思うんじゃが······拘りでもあるのか?」
「いや、別に無いが·····ダンジョンで拾った物で戦ってたからこんな装備なんだ。拘りは特に無いな」
「ならどっちかで揃えた方が良いぞ。その組み合わせは問題無さそうじゃが、武器を替えた時に変な組み合わせになったら変な癖が付きそうじゃぞ」
確かにそうかもしれないな。でもなー、これはこれで便利な所もあるし········んー、今度同じ様な剣で良さそうなのが手に入ったら持ち替えるのを検討しておくか。
「ま、手遅れかもしれんがな。また顔出しに来い。何時でも整備してやるぞ。ただしっかり稼いでからくるんじゃぞ」
「了解。ありがとうな」
「また来るぜー」
俺達はそういって店を出た。そういや、あの爺さんの名前聞きそびれたな······ま、次の機会にでも聞いておくか。
「しっかし、この後どうすっかなぁ······宿にもう一泊も良いが明日はダンジョンに潜りたいしな·······ルゴウどうする?」
「明日って······まぁ身体動かしたいのは分かるが一泊してからでも良いと思うぞ。朝から動けば昼には行けるだろう」
「んー、確かに·····いやでもなぁ。風呂にも入りたいしな········深酒もしたいし······でも、ダンジョンにも入りたいしな········どうしよ」
腕を組んで悩んでいるところ悪いがそれ全部自分がやりたい事だろ。しかも今日明日じゃなくても出来るものばかりだし。どうしよって聞かれても俺が困るんだが。
「んー、んー·······あ、そうか」
悩んだ末、何かを閃いたのか手をポンと叩くと俺の前に回り込んで言ってきた。
「俺の天才的頭脳が良いこと思いついたぞ!」
「その発言から絶対良いことではないと思うのだが」
絶対にしょうもない事だろう。この自信満々の様子でまともだった事なんて見たことないぞ。
「ふっふっふー。違うんだなぁ。言うよりやった方が早いだろ。先ずは武器を魔法袋に仕舞ってくれ。俺も仕舞うから」
「ああ、分かった」
とりあえず、しょうがないと想いつつ武器を仕舞っていく。レイナも武器と身に付けていた防具も仕舞い軽装になった。
「いや、何でそこまで脱いでるんだよ」
「まぁまぁ、良いから良いから。ルゴウも防具仕舞ってくれ」
「まぁ、いいが····何をする気なんだよ」
俺は言われるがまま軽装になるとレイナは俺の背後に回り込んんでいた。俺はこの奇っ怪な行動の意味が分からず首を捻っていると「とう!」という掛け声と共に背中に重いながらも柔らかい感触が伝わってきた。いきなりの事でバランスを崩しかけたが立て直し、レイナの全体重が乗っかってきているのでずり落ちないようにしっかり支えながら聞いた。
「で、これは何?何で俺はレイナをおぶっているんだ?」
「ルゴウの住みかに帰るんだったら走った方が早いだろ。それに仙術を極めるんだったら俺をおぶって走った方が神通力の鍛練になるかなって考えついた訳なんだよ」
やっぱりしょうもない考えだった。仙術の鍛練にはならないと思うぞ。まぁ、長時間纏うから限界とか把握するには良いんだけど······でもなんて言うか俺だけ疲れるってのが不公平な気がする。
「走るんならレイナも走れば良いじゃねぇか」
「んー、俺はいいや。深紅之羽衣しか使えないし戦闘以外だとお前に付いていく程の速さは出せないしな。それに·······」
そう言うと抱き着いていた腕の力を少し強めより身体を密着させながらボソッと言った。
「·····それに、よ。こうすればルゴウにくっついていられるし、さ。ちょっと甘えたいなーなんて思ったり····な」
顔は見れないが多分言っていて照れてるのが分かる。そんな事言われたら流石にね、頷くしかないよね。うん。
「わかった。これくらい何時でもいいぞ。なんたって旦那さんになるんだからな」
「ちょ!?やめろバカ!蒸し返すなよ·······むぅ、さっさと帰ろうぜ」
「はいよ、街から出たら走るから気をつけろよ」
「わーってるって·······ーーー」
そこからは門を潜るまで今日の出来事を振り返ったり、ちょっとした前世での話をしながら住みかに向け帰るのであった。
善行 9/108




