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ゴブリンから始まる物語  作者: となりの戸愚呂
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83.孤児院に到着


 少し歩いた街の一角に行くと教会があった。寂れている感じでもない。庭になっている所では子供達が元気よく遊んでいてその傍らにはシスターの服を着た年配の女性と牧師さんがいる。気の良さそうな2人である。そこへ俺達の側にいた少女ーミナが笑顔で掛けよって行った。


「ただいま!ランドさん、イマリエさん!」


「お帰りなさい、ミナ。今日も元気いっぱいだね」


「うん!いつも元気だよ」


「そうだな。ミナはいつも元気だな·······してこの方達は何か用かな?」


 ミナの頭を撫でながら牧師さんが俺達に目を向けてきた。驚きなのが牧師さんは変身していない俺を見ても怪訝な表情をせずにしていた事である。すると俺の心を察したのか優しい目を向け言った。


「私の臆しない表情に驚いたのかい?」


「ええ、正直······もっと警戒なり軽蔑されると思ってました」


「ほほぅ、流暢に話せるし物腰もなかなか·····失敬、言葉が過ぎましたな。如何せん、貴方みたいな者と対話するのは初めてなので。申し訳ない」


 牧師さんは感嘆としながら溢すも自身を咎め頭を下げてきた。俺はいきなり頭を下げられた事に慌てて言った。


「い、いえいえ。驚かれるのも無理はないでしょう。俺はゴブリンなので······むしろこういった対応は初めてですので·····と、とりあえず頭を上げて下さい」


「そうでしたか。それではお互い様ですな。これも創造主様のお導きかもしれませんな。立ち話も何ですし中で話しましょうか。さ、そちらのお嬢さんも来てくださいな」


「お、おう······じゃあ、邪魔させてもらうかな」


「はい、ではあがらせてもらいます」


 牧師さんの誘いで俺達は教会の中へと入って行った。しかし、レイナがお嬢さんと呼ばれて照れていたのは新鮮だったな。たぶん今まで言われた事が無いからだろう。と考えていたらレイナから肘打ちが飛んできた。地味に痛い·····


 教会内の談話室に入り、牧師さんと対面するように椅子に座った。談話室はそんなに広くはなくこぢんまりとしている。特に着飾った装飾もなく、テーブルに椅子、本棚がある程度·····いや、何か年老いた年配の男性の絵画が有るくらいだ。暫くすると若い女性のシスターが紅茶を持ってきてシンプルな作りのカップに注いでいった。ああ、もちろんそのシスターは俺を視た瞬間に身体を強張らせたしお礼を言ったらぎこちない笑顔で会釈されたよ。

 目の前の紅茶を飲み一息つくと牧師さんは笑顔で言ってきた。


「自己紹介がまだでしたね。私はランド·アルバータと申します。皆からランドと呼ばれておりますのでその様にお呼びください。ここの神父をしていて身寄りの無い子供の保護、お世話をしております」


 牧師じゃなくて神父だったのね。正直に何が違うか分からないけど間違いない様に気をつけないとな。調べる術なんて前世と比べて人に聞く以外はほぼ皆無だろうしな。


「丁寧に有り難うございます。自分はルゴウと言い見ての通りゴブリンで最近、冒険者になりました。で隣にいるのは·····」


「同じく冒険者『紅の戦乙女』のレイナってんだ。宜しく」


 レイナと俺の言い方の違いが面白かったのかクスリっと笑ったランドさんは仕切り直す様に咳払いをして本題に入った。 


「して、話をお伺いしましょうか。お二方はこの教会に何をされにきたのですかな」


「ああ、ミナから聞いて少しばかり資金の援助をと考えまして。といっても微々たるモノだと思いますが」


「資金の援助·····?何故それを?」


 ランドさんは意外だったのか、頭に疑問符を浮かべているかの様に言った。俺は頷き言った。


「ミナが耳にしたそうです。最近資金繰りが厳しいってことを。これも何かの縁だと思ったので受け取って頂けますか?」


 ランドさんは神妙そうに考え込むとポツリと溢す様に言い状況を説明してくれた。


「ふむ·······ミナが聞いてしまったのか。確かに経営が厳しいですがまだ何とか······いえ、正直に云いますと子供達に満足に食事をさせてあげれない現状となっています。私達の食事の量を減らして食べさせていくのがやっとの事です」


「何か理由が在るのですか?」


「ええ、まぁ·····他所の方にお話する事では無いのですが·······」


「構いません。お役に立てるので在れば協力しますので聞かせて下さい」


 言い淀むランドさんに俺は少しでも解決できるならと思い言うと、暫く考え込んだ後に位を決したのか話してくれた。


「········ではお話させて頂きます。最近勇者様が王都に現れたのはご存知でしょうか」


「いえ、知りません。レイナは知ってたか?」


「俺ゃ知らねぇぞ。初耳だな」


 勇者?そんな存在がこの世界に居るのか?レイナも知らない様だし·····ソイツは何者なんだ?

 俺達の反応に知らないのも無理は無いと思ったのか頷き、続きを説明してくれた。


「予め言わせて貰いますがこの件は勇者様からの問題ではありません。教会本部側の話になります。何でも勇者様方を全面的に支援していくとの事で各地の教会支部への援助を減額するとの事でして·····不足金は自分達で確保するよう通達が出ました。ここには若い者もいますがその金額を補えるような力も無くどうしていこうか悩んでいる所でして······かといってあの子達を見放す事も憚られますので途方にくれていました」


「なるほど······そうだったんですね」


 本部の指針として、か。これは俺では解決出来そうにないな。出来ても今後とも支援していく位が関の山だな。するとレイナが頭を掻きながら呆れた様子で言った。


「かー、何で勇者何か大事にしようとすんのかね。勇者よりも子供を大切にしないといけないのにな」


「そう通りでは在りますが······昨今、魔族との揉め事も増えてきましたのでそうも言ってられないのが現状なんですよ」


「魔族·····?なんでまた·····あー、あれか?魔王的な存在がこの世界を支配するぞー的な感じなのですか?」


 よく在りそうな話である。勇者がいるということは魔王が何かしようとするのを阻止する為と相場が決まっているだろう。ほら、ゲームとかそれ系統の話では定番であるしな。だがランドさんは首を横に振った。


「いいえ、そうではありません。魔王殿はどちらかと云えば温厚な方だと聞いてはいます。ですが、一部の過激派の連中が徒党を組んで暴れているとの事で現在は何でも魔王殿と協力して鎮圧を計ろうとしているとの事です」


 全く違った。·······勇者と魔王が結託って、どういう事だってばよ。普通なら対となす者同士だろう。協力するってあんまり聞いた事がないぞ。


「んじゃ、俺達がその魔族どもを倒しちまえばいいんだな」


 それで在れば多少なりとも解決の役に立つのではないかと思う。どれくらい強いか分からないけど。俺もレイナと同じ様な事を考えたがランドさんは肩をすくめながら言った。


「どうでしょうかね。魔族もそうですが人族側も同じ様な連中もいますので、それを鎮めない限りはって事になると考えておりますな」


「どちらか一方ではなくてどちらもなんですね······思った以上に根深そうですね」


「まぁ、個々として思想は誰しも違いますのでこうなる事も在るのですよ。たぶん、この支援の減額も慢性的なものでは無いとは思いますので大丈夫だとは考えておりますよ」


「そりゃ、楽観的過ぎないか?もし本部側がこの状態に味を占めたらどうすんだ?」


 確かにレイナの言っている事も間違いでは無いだろう。人間······いや、感情があり欲望も備わっている生物ならそう考えるのも不思議ではない。ランドさんもその考えも少なからずあったのか少し表情を曇らせて苦々しく言った。


「·······その時は私が抗議致しますよ。これでも顔は知れているので何とかします。今は耐える時だと思って我慢ですな」


「その我慢で子供達に苦労させるのはどうかと思うぞ」


「··········そう、ですな。いえ、その通りです。申し訳ありません。如何せん歳を取ると思考が凝り固まって駄目ですな」


「たく、しっかりしろよ」


「はっはっはー、若い者には勝てませんな。して事情はお話しましたので話を戻しますかな」


 レイナが呆れながら言うとランドさんは一本取られたといった様子で軽く笑った。


「だな。こう聞いてしまっては援助はしますよ。悪いんですが微々たるモノで申し訳ないですが此方です」


 俺は残りのお金である金貨1枚と銀貨10枚を渡した。ダンジョン産の装備品が割かし高値で売れたのが驚きである。まぁ、数が多かったってのもあるんだけどな。また、稼がないとな。


「こ、こんなに·······良いのですかな?」


「俺の住みかにしている所の近くにダンジョンが在りますので、そこの装備を売却したお金ですよ。結構使ってしまったので少ないと思いますが·····」


 ランドさんは金貨が出るとは思っていなかったのか驚いた声を上げた。枚数では少なく感じるかもしれないが普通の生活を送るなら銀貨40枚位で足りる·····らしいしな。人も多いし暫くはこれで補えるだろう。そんな事を思いながら言うとランドさんは首を横に振った。


「いえいえ、十分ですよ。慎ましく生活していれば2月位は持ちそうです。有難い限りです」


「出来れば子供達にお腹いっぱい食べさせてやりたいのでこれからも支援させて下さいませんか?」


「そんな·····良いのですかな?そちらにも生活があるのではないのではないか?」


「そうですが····正直、俺はそんなにお金には困らないとは思うんです。ゴブリンですし。必要な物を買う以外は余分なんですよ。だから気にしないで下さい」


 俺がそう言うと納得してくれたのかランドさんは頷いてくれた。


「·······善き御人なのですね。分かりました。お受け取り致します。今後とも宜しくお願い致します」


「人では無いんですけどね」


 頬を人差し指で掻きながら言うとランドさんは不思議そうな顔で俺を視た。


「はて、果たしてそうなのでしょうかな?」


「え······どういう事だ······あ、いえ、どういう意味ですか?」


 ランドさんの言葉に驚いた俺は掻いていた指がピタリと止まり聞き返す事しか出来なかった。ランドさんは再度微笑みながら言った。


「言葉使いを気にしなくて佳いですよ。楽な話し方で十分です」


「ああ、それは有難い·····がどうしてそう思ったんだ?俺は人族ではないぞ」


「まぁ、こればっかりは歳の功ってヤツですよ。今まで色々な人を観てきましたので貴方みたいな御仁は初めてでは無いのですよ。神から試練を与えられ、また祝福された者はね」


「··········」


 確かに試練と言えば試練だ。人間に為るための·······だが、それを人に話した事も無い。ましてや初対面のランドさんは絶対に知るはずが無い。なのにこの人は今までの経験でそう結論を出してきた。だから俺は黙る事しか出来なかった。俺の心境を知ってか知らずかランドさんは続けて言った。


「私にはどの様な内容までかは解りかねますが、今後とも乗り越えていくことを願っておりますよ。相談事があれば何時でも来てください。お役に立てるかもしれませんしね」


「·······ああ、その時は宜しくお願いします」


 流石にどの様なモノかまでは把握は出来ていない様だがそれでもこの人は凄い人だと感じた。それとともに恐くも感じるが何かあった際頼っても良い気がするのが不思議である。俺は何ともいえない感情のまま返事をすると、ランドさんは隣のレイナを見ながら笑い話の様に軽い口調で言った。


「はっはっはー、そちらのお嬢さん。今の話は気になさらずな。年寄りの世迷い言と流してもらって構いませんよ」


「お、おう·····んー」


 声を掛けられるまでポカンとして状況を飲み込めていないレイナであったが、空返事をすると何か考えるように唸っていた。


「さて、重たい話と小話もここら辺で·····どうですかな?子供達と遊んでいきますかな?それとも何か面白い話でもしましょうかな」


「そう······だな。いや、今日はこの辺で失礼するよ。買い物も途中だしな。行こうかレイナ」


「·······ん、ああ。そうするか」


 俺がそう断りレイナに促すと考え事を中断して頷き席をたった。ランドさんも続くように席を立ち言った。


「そうですか········改めまして本日は助かりました。今後ともお二方に主のご加護が在らんことを願っております」


 ランドさんは深々と頭を下げ礼を言い、入り口まで見送ってもらった。少しは役に立てて良かったのだが·······今は何となく先程から微妙な反応しかしないレイナが気掛かりである。


善行 9/108

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