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ゴブリンから始まる物語  作者: となりの戸愚呂
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66.軽くお説教


「んもう、聞いてるの?」


「はいはい、聞いてるよ。ってか近いから離れてお願いします」


 俺がそう言うと彼女は全く気にした様子もなく、寧ろ何が嬉しいのか分からないが両手を頬に添えて照れ始めた。


「あら、照れちゃって。可愛いわねぇ。本当は私と一緒にいるのが嬉しいくせに」


「いや嬉しくないし。さりげなく腕を組もうとしないで。マジで止めて」


 俺は心の底から嫌だったので彼女が腕を組もうとしてくるのを拒否するため、身体を捻り腕を出来るだけ彼女から遠ざけた。


「それくらい良いじゃないの。減るもんでもないじゃないし」


 彼女なりに可愛らしく頬を膨らませて抗議してくるが止めてほしい。正直に気持ち悪い。


「俺のSAN値が減るってか今も減り続けてるんだよ」


「サン·····?よくわからないけど、良いことなのかしらね」


 知らなくていいよ、怒りそうだし。つい本音が出てしまっただけだ。


「知らなくていいよ、うん」


 俺の態度がお気に召してないのか少し内股気味に両腕を合わせるように可愛らしいポーズで言ってきた。


「さっきから連れない態度ばっかりね。でも嫌いじゃないわ。ルゴウちゃんのい·け·づ」


「はぁ、早くコイツの彼氏現れてくれないかなぁ」


 俺は深い溜め息と共に心底その事を願うように口に出した。助けてカイ君、シュガーの相手を出来るのはお前だけだよ。オレ、モウ、ゲンカイ。



···········

·····················

····································



 時間を遡ること、俺がレイナと別れてから幾らも経たない位である。

 俺が街中をぶらぶらと歩いていると聞き覚えのある声が暗く狭い路地の方から聞こえた。


「おどれら、何しとんじゃあ!!」


「ひ、ひぃぃぃ。ば、化け物ー」


「こ、ここ、こっち来んなー!」


「誰がゴリエンティの亜種じゃあ!こんなに可愛い乙女はいないじゃろがぁ!」


「そ、そこまでは········ぐべっ」


「確かに似て········いや、嘘です。かかわ、かわ····ぐぼっ」


 き、聞き覚えあるよな。あんなにドスは効いてなかった様な気がするが········関わりたくはないし、朝の幸せな気分が一気に悪夢に変わりそうになるから離れよう。


 俺は嫌な予感がしたので来た道を反転して戻ろうとしたとき、声の聞こえた方から男が吹っ飛んできた。

 俺は咄嗟に避ける事に成功したが奥に居た奴がこちらに来てしまった。


「あら、ごめんなさいねぇ。乙女の敵に制裁を与えていたら······ってあなた、こないだのゴブリンの······ルゴウちゃんじゃない?」


「あ、あぁ、変わらず元気そうだな」


「もう元気よ、元気。今日もお肌の張りもツヤも絶好調よ」


 腕を組み、片手を頬に当て満面の笑顔でそう応えてくれたが筋肉が強調し過ぎじゃないかな?ってかその服装は何?下はダボったい白のズボンで腰の位置くらいに紐状のものがはみ出しているし、上のそれは布面積少なめのブラ·····いや大胸筋矯正サポーターかな。ハッキリ言おう。変態にしか見えない!関わりたくない。


 俺は何とかこの場を抜け出そうと考えるがシュガーが困った様に言ってきた。


「ルゴウちゃん、ちょっと良いかしら。お願いしたいことがあるんだけど」


「こ、断ーーー」


「今ねぇ、そこの路地で暴漢に襲われていた娘達を助けたんだけど、その娘達を家まで送りたいのよ。手伝ってくれないかしら?」


「う·······て、手伝うよ。でも俺で良いのか?ゴブリンだぞ」


「大丈夫よ、私が居るから問題ないわ」


 その根拠が何なのか分からないが、断りづらい事を言いやがって。付き合うしかないじゃないか。


 助かった2人の女性は俺を見ると一瞬ビクッと身体を震わせたが、隣の存在感がありすぎる奴のお陰で安心してもらえた。外傷も見当たらず服も少しはだけた程度で済まされていた為、マシな部類だろう。いや、もしかしたら事が始まる前にシュガーが来たかもしれない。どちらにしても運が良かったのだろう。


「安心して、彼は大丈夫よ」


「ほ、本当に······大丈夫です····か?」


「えぇ、私の知り合いですもの」


 シュガーが彼女達を安心させようとウィンクをするが疑いの目を俺に向けてくる。まぁそれがゴブリンに対しての普通の反応だよな。

 少しでも警戒心を解くため俺からも彼女達に声をかけることにした。


「えっと······君達、大丈夫か?歩いて帰れるか?」


「え、あぁ、はい大丈夫です」


「シュガーさんに助けてもらったので····なんとか」


「なら良かった」


「お姉さん的には、貴女達がまた変なのに襲われたらと思うと心配だから家まで送りたいのだけどどうかしら?」


 シュガーの提案に2人は顔を見合わせて首を横に振った。


「いえ、大丈夫です。このあと寄らなくちゃいけない場所がありますので」


「そう?なら気をつけて帰るのよ。変な男達の捕まっちゃ駄目よ」


「はい、ありがとうございます」


 そう言うと彼女達は頭を下げて大通りの方に向かっていった。

 暗がりに残された俺とシュガーは大通りに出ていったのを確認した後、奥の道の方に目を向けた。


「ごめんなさいねぇ、送る必要は無かったのだけど違う用事が出来ちゃったみたいね」


「俺は大丈夫だが······意外と数が多いな」


 奥の方からぞろぞろと頬を張らした男を筆頭に20人ほどガラの悪そうな男どもが手に木材やら剣、ナイフを持ち此方に向かって来た。

 俺は腰に着けてるフォルシオンに手を掛け、そいつらを見据えた。隣のシュガーは軽く筋肉をストレッチさせ、先程の表情とはうって変わって眼を鋭くし見据えていた。

 先頭にいた男が俺達に指を差し、苛立った声をあげた。


「くっそ、さっきはよくもやりやがったな!せかっく捕まえた上玉を逃がしやがって、覚悟しやがれ!この変態ども!やっちまえ!!」


「おう!!」


「えっ!?お、俺も変態なの!?関係ないよね、コイツと一緒にしないで欲しいんだけど!」


「ちょっと、酷いじゃない。私も変態じゃないわよ!」


 さっきの奴の掛け声と共に一斉に俺達に襲い掛かってきた。俺はフォルシオンを抜き、刃を返して襲いきた奴らを斬り払った。別に死にはしないだろうが痛い事には代わらないから我慢してほしい。


 シュガーは素手で殴り飛ばしたり、投げ技を駆使して戦っている。動きに無駄が一切無い。同時に攻撃されても瞬時に闘気を部分的に纏いナイフや剣を防いでいる。そして防いだ後は素早く殴り飛ばしたり蹴りを入れている。


「ちょっと、私のお肌を傷つけ様としないでよ。そういった子はお仕置きよ」


 いや、傷つけるって言っても刃が通って無いんじゃないかな?痕すらついてないよ。あいつらも斬りつけた時に金属音と共に弾かれ驚いてはブッ飛ばされてとなっている。俺だって音が鳴ったとき横目で確認してしまったし。


「な、なんなんだよ。こいつらは·····強すぎる」


 段々と仲間の数が減っていくに連れて先程の男がたじろぎながらボソリと溢した。俺からしてみればあのダンジョンで遭遇したモンスターハウスに比べれば遥かに楽である。一人一人もスケルトンより強い気がするが敵ではない。それにシュガーの殲滅スピードが早いのもあるしな。


「ち、チキショー、食らいやがれ!」


 頬を張らした男は減っていく仲間が増えていくに連れて焦り始め、ヤケクソ気味に手に持つナイフで俺に突撃してくる。が、そこにシュガーが仲間を投げてきたのに対応しきれず巻き込まれて気絶していた。


「ふぅ、終わったわね」


「あぁ、そうだな。お疲れさま」


 俺はフォルシオンを鞘に仕舞い、シュガーは汚れを落とすかの様に手を叩いた。それにしても素手で武器持ちの相手にしかもそんな軽装備で闘えるなんて度胸が凄いとしか言いようがない。


「ルゴウちゃんにとって、これくらいどうってことはなかったんじゃない?」


「どうしてそう思ったんだ?」


 俺がそう言うとシュガーは突然自分の胸を抱き締めるように熱を帯びた様な目を向け言った。


「だって、昨日のレイナちゃんとの試合観たわよー。あの時の貴方、凄く良かったものぉ。お姉さん久しぶりに滾っちゃって、その日カイ君と凄かったんだからぁ。カイ君も触発されたのかもうーーーー」


「いや、後半の情報は要らないから。知らんよお前らの情事なんて」


 ホントに要らないし想像もしたくない。俺はノーマルだその目を今すぐ止めろ。

 俺が引いた目をいることに残念そうな顔をし、溜め息を吐かれた。


「はぁ、残念ねぇ。そっちの話もしたかったのだけど今度にするわ。でも、滾ったのは本当よ」


「俺はそっちの趣味はないんだ」


「違うわよ、レイナちゃんとの試合よ。レイナちゃんのあれ『深紅之羽衣』なんだけど、冒険者ギルド内であそこまで引き出したのは知ってる中でも貴方ぐらいよ。私も闘った事はあるけど随分前だったし、あれよりは薄かったけど今は少しは上達したしいい線イケるんじゃないかしら。それにしてもあの闘いは美しかったわぁ」


 途中からうっとりとした表情で言っていて正直気持ち悪いが感心されたのは嬉しい······がちょっと待て、シュガーってそんなに強いの?後、これは確認しないと。


「えっと、参考までに聞くけどシュガーってそん時も素手だったのか?」


 いや、まさかね。流石に装備は·······


 俺の疑問の意味が分かっていないのか、キョトンとした表情で言った。


「そうだけど、昔も今も変わらずこの格好で基本は無手よ」


「いやいや、レイナの剣をどう防ぐのさ!」


 俺のツッコミに対してさして問題が何処にあるのかと言わんばかりに動作を交えながら言った。


「基本はこうやって瞬間的に闘気を使って防いだり、バシッと両手か片手で止めたり。後は避けるわね。流石に本気のレイナちゃんの攻撃は受け止めきれなくて、受け流したり避けたりしてたけど·······ってどうしたのかしら?」


「·············」


 あー、頭が痛い。ってかコイツヤバい奴だわ。むしろマジで化け物だろ。レイナのしかも闘気を纏っている状態の斬撃を素手で対抗するって普通出来ないだろ。


 俺が途中から右手を額に当て項垂れいると、変なこと言ったかしらと言わんばかりにシュガーは頬に手を当て首を傾げた。


 とりあえずこれだけは言っておこう。


「あんた、化け物だろ。普通は刃物を受け止めたくはないだろ。しかも素手で」


「まぁ、化け物だなんて失礼しちゃうわね。私の肌を傷つけるなんてそうそう出来ないわ。それによく言うじゃない、女は度胸だってね」


「いや、その前にあんたは男ーーーー」


「ルゴウちゃん、乙女よ。乙女。間違えないでちょうだい」


「アッ····ハイ。漢女ね、うん。」


「わかればいいわ」


 怖かったー。一瞬目が鋭くなって背筋にヒヤッときたな。この話題は止めておこう。

 それに要件も終わったことだし俺はコイツと別れる事にするかな。何時までも視界に入れたくないし。


「さて、俺はそろそろ行くかな。じゃあこれで」


 俺がそう言って歩きだそうとするとシュガーも歩き出した。······うん、来た道戻るからまだ一緒だよな。出たら別れるだろう。


「ちょっとちょっとぉ待ってよー。まだ話は終わっちゃいないわよ」


 いやー、ここからどうしようかなぁ。アリスの所でも行こうかな。明日には帰るから最後に物も買いたいし、遊んであげたいな。


「って、聞いてるの?私気になってるんだけど実際レイナちゃんとはどう言った関係なの?」


 あ、レイナのお見上げどうしようかなぁ?やっぱり酒か?いや、食い物か·····甘いものでも良いかなぁ。


「無視するなんて酷いじゃないの。そんなに連れない態度だとモテないわよ」


 シュガーが俺の肩を掴んでこれ以上無視されないように、そして逃げない様にしてきた。


「痛いから離してくれないか、もう要件は終わっただろ?解散で良いじゃないか」


 見た目通り力強いな!肩痛いってホントに。俺はもうコイツとは関わりたくないんだ。唯でさえSAN値がガリガリ削れていくのに付き合ってられないんじゃ。


「別に良いじゃない、少しぐらい付き合って貰っても。あ、もしかしてこれからレイナちゃんとデートなのかしら?」


「違う、レイナとはそう言った関係じゃないし、そもそも普通はゴブリンと恋仲なんて言われるのは嫌だろ」


 俺の言葉にキョトンとしてやれやれっといった風に俺を諭すかのように言ってきた。


「ルゴウちゃん、それはあくまで普通のゴブリンならって話よ。むしろ通常のゴブリンじゃ意志疎通なんか出来ないもの。その点ルゴウちゃんってぶっちゃけ人間くさい所があるし、何より種族を越えても解る人には良い男なのよ。そんなに自分を卑下にしないの」


「い、いや、だからと言ってーーーー」


「だからじゃないの、自信を持ちなさい。ルゴウちゃんの魅力を知ってる人に、いえ、女の子に失礼よ。だったら素直に向き合っても良いんじゃないかしら」


 確かにそう言われれば失礼かもしれないが、でももし俺が原因で悲しませる様な事になったらやるせないじゃないか。

 俺が何とも言えない、ただ納得はしていない表情に対して腕を組み、頬杖をついて溜め息混じりでシュガーは言った。


「納得して無さそうだけど、ルゴウちゃん。女の子はそんなにヤワじゃないの。好きな男の子の為に頑張れちゃうのよ。逆に男の子もそうでしょ。だったら応えてあげないのは一番駄目よ」


「そう言うもの·····か?」


 シュガーの言ってる事は分からなくもない。むしろ女の気持ちも理解しているからこその説得力があるのを感じた。


「ええ、そう言うものよ。だから自信を持って良いわよ。ただ勘違いで傷つけちゃ駄目よ。そんなのはさっきのお馬鹿さん達と同じだからね」


 シュガーは微笑みながら優しく俺を勇気づけるかのように言った。確かにゴブリンであるからと線を引いている節はある。相手にとっては失礼だったかもしれないから反省しなくてはならないな。


「シュガー、ありがとう。考え方改めてみるよ」


 俺はシュガーに向き直り、素直に礼を言った。シュガーは何でもないかのように変わらず笑顔で浮かべている。


「良いのよ、これくらい。貴方は私の友人ですもの。後、シュガーちゃんって呼んで欲しいわ」


「それは考えさせてくれ」


「もう、照れ屋さん」


「あとシュガー、一つ言いたいんだが····」


「何かしら?」


 俺は先程からずっと思っていることを言うことにした。


「俺とレイナは別に恋仲とかじゃないからな。一応友人であり飲み友だから勘違いするなよ。後近いから離れろ」


「え、そういう関係じゃ無かったの?てっきりお互いに好き同士ででも····て感じじゃなかったのかしら。いやーん、お姉さんの早とちりじゃない。恥ずかしいわー」


 あー、くねくねするな気持ち悪い。良いこと言っているから気にしないようにしてたけど、やっぱり目の前でこんな動きされると気持ち悪い。それとめげずに近いてくんな。


「はぁ、レイナとは今のところ何も無いって」


「今のところってことは今後あるのかしら?レイナちゃん可愛いところあるからねぇ」


「可愛いというか残念というか·····まぁ嫌いでは無いのは確かだ」


「いやーん、いいわぁ。凄くいいわぁ。種族を越えた愛に発展しそうでもうお姉さん昂っちゃう」


「だから暴走するな、くねくねするな気持ち悪い!」


 くっそ、何処かでコイツ撒けないか。もう少し相手してあげようなんて思うんじゃなかった。いや、そうだ。カイ君が居れば解放される筈だ。何処に居るんだカイ君。助けてカイ君。だから引っつこうとするくな!


善行 6/108


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