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ゴブリンから始まる物語  作者: となりの戸愚呂
114/124

112.満たされていく心


 移り変わっていく視界の先にあったのは目を刺す様な光が待ち受けていた。俺はその眩しさに思わず目を強く閉じ、少し馴れた頃合いで徐々に目を開けると········何だこれは?ここはダンジョンなのか?にしては辺り一面にお花畑が広がり、空も心地良い風もある。なんなら太陽だってある。俺達は何処に飛ばされてきたんだ?そう疑問には思っているのだが敢えて言わせてもらおう。


「綺麗だ········」


「うん、本当に綺麗なお花畑だね········」


「こりゃすげぇな」


「にゃ~、お花の良い匂いにぽかぽかの陽射し········お昼寝には丁度いいのにゃ」


「気を緩めるな········とは言いたいが魔物はいなさそうだし大丈夫だろう。········しかし、本当に素晴らしい景色だ」


「ダンジョンにこんな場所があるなんて驚きよねぇ」


「珍しい花も沢山在りますし、何なんでしょうかこのダンジョン?」


「········取り敢えず進んでく?········あっちに建物っぽいのが見える」


 ユーリが指差した方向に目を向けると石造りの建物が観えた。建物といっても日除けの休憩所と言えば良いのか分からんが········まぁそういったヤツだ。


「建物ってことはここに誰かいるのか?」


「········ん、たぶん。········人の気配?はする」


 何故ユーリが疑問形になったのかは理解できる。こんな所にましてやダンジョンの中だ。人族ではないだろう。それにここまでの道中ショートカット出来そうな部屋なんて無かったからな。行き来も困難だろう。


「敵か味方か········分からないが行ってみる外ないか」


 俺達はひとまず建物らしき物に向かって歩き進めて行った。



···························

·····································

················································



 建物に近づくにつれ人影らしきモノが見え始める。時折口元に何かを運んではもとに戻し、地面に着かない足をバタバタさせている。そしてそれに飽きたのか物を退かしテーブルに突っ伏した。黒く長い髪、黒いドレスを着ている事から女性なのだろう。それに頭に生えているのは角か?となると魔族とかだろうか。ってかテーブルの上汚なっ!?本は不格好に積んだままだし食べかけのお菓子とか散乱してるしで酷い有り様だ。

 俺はこの光景に口元が引き攣っているとその女性は盛大な溜め息を吐いた。


「はぁ~········ああああ暇じゃ。暇過ぎる!!やることがないのも考えものじゃ。暇潰しにお菓子は作ってみたものの········独りだと味気無いし。殺風景だったから花も沢山植えてみたのは良かったのじゃが見飽きた。だからと言って本を読むにも量が少ないから読み返し続けた結果もう内容も覚えてしまった。ここから出ようにもあの蛇の相手は面倒臭いしのぅ。いや、勝てぬ訳じゃないんじゃぞ。ワシが本気を出せばイチコロじゃ。それに転移魔法を使えば戦闘なぞせんでもいいしの。そうじゃ。あれから幾日も経ってるから外も大分変わったんじゃなかろうか。平和であるのであれば物見遊山もええの。楽しみじゃな!!················この枷さえ無ければのぅ。はぁあぁー········お肉食べたい········」


 ずいぶん長く大きい独り言だった。これは関わって良い類の人なんだろうか?見た感じ害意ありそうでも無さそうだし。

 俺はローナ達に目を向けると同じ様な考えだったのか困り顔になりつつも頷きあった。取り敢えず声は掛けよう。


「あー、その········そこのお嬢さん?ちょっと良いかな?」


「あーとうとう人が恋しすぎて幻聴まで聴こえるようになってしもうたか」


「いや幻聴じゃないぞ。顔を上げて確認してくれないか」


「はぁ~、やだやだ。幻聴の癖に中々の良い声なのが憎い」


 女性は飽き飽きとした口調で顔を俺達とは別方向に向けた。


「褒めてくれるのは嬉しいけど········こっち向いてくれ」


「もう焦れったいにゃ。叩けば気づくはずにゃ」


「おっ、その方が手っ取り早いな。じゃ、いっちょーーー」


「待て待て!?レイナ落ち着け。ミラも変な事言うな!」


 俺は意気揚々と女性に向かうレイナとミラの腕を掴んで止める。「止めるな。気付かないほうが悪い」「そうにゃそうにゃ」と言いながら振り解こうとしてくるのに抵抗していると女性は腹を立てたのかテーブルを叩いた。


「あーもう!!何なのじゃ!!幻聴の癖に人数も増えてやかま·····し···········」


 勢いよく俺達の方へと顔を向けると女性は幻聴では無い事を認識したのか言葉を止めた。何回か目を瞬かせた後、目を擦り再度俺達見つめ直した。


「························幻覚では無い········のか?」


「幻覚ではないぞ。あんたに聴きたい事ーーーー」


「ぬ゙おぉぉぉぉぉ!!!」


「がっ!?」


 女性は俺が聞く前に変な奇声を上げ突進&抱き着きをしてきた。いきなりの事と凄まじい衝撃に俺は後ろに飛ばされる。ってか何故に俺にするんだよ!!レイナの方が近かったじゃねぇか!!女性の不意打ちと痛さで怒ろうとしたが········止めた。


「うぅ········本物じゃ········人の温もり、を、感じられる········」


 女性は俺を離さないよう現実であって欲しいと云わんばかりに力強く抱き締め、震えながら嗚咽を漏らし泣いている。これで怒れる奴はそうそういないだろう。しかし困った。どうしたもんかな。取り敢えず泣き止むまではこうさせておくか。俺は片手で女性を支えるように背に手を置き、子供をあやすかのように優しく頭を撫でた。女性は一瞬ぴくりとしたが身体を震わせた後、今度は大きな声を上げ泣き始めてしまった。



····························

······································

···············································


「すまんかった。久し振りに他人に触れ合える歓びのあまり取り乱してもうた」


 泣き止み気持ちが落ち着いた女性は俺から離れ、頭を下げた。


「あー、いや。俺は別に気にしてないからいいよ」


「そ、そうだよ!寂しかったんだもんね」


「しかしのう········?」


 女性は顔を上げ、なおも申し訳無さそうにしていたが表情が固まった。主に俺の顔を見て。そしてーーーー


「································ゴブ、リン?い、いやいやいや待って。待ってくれるかの。は、え?ワシに優しくしてたのはお主なのか?いやいやいや、ゴブリン如きがそんな気遣い出来る訳ないじゃろ。百歩譲って人とエルフと獣人はわかる。人情と言うものがあるから。勿論、ワシの様な魔族もそれくらい持ち合わせておる。ただゴブリンは魔物じゃぞ!?獣じゃ、獣!!狡猾さと性欲の塊じゃぞ!そんなゴブリンがーーーーって喋っとるし!?ワシの知る限りそんな個体余りいないのじゃが!?しかも普通に聴こえやすいってどう言うことじゃ!!そんなゴブリン見たこと聞いた事もーーーーー」


「長い長い長い長い。い、一旦落ち着こうな。ほら深呼吸して」


「すー、はー········って落ち着けるか!?無理があるじゃろ!!」


「貴女の疑問もわかる。私達だって最初は驚いたのだからな。取り敢えず貴女の事とかルゴウの説明もするから座って話し合おう」


「ああああー、うぅー········わかった。そうしようかの」


 見兼ねたローナが間をもってくれたお陰で女性は渋々といった様子で頷いてくれた。だが1名は納得していなかった様で女性の近くまで歩いて行きニッコリと微笑み言った。


「気が動転してたからしょうがないけど········ルゴウを如きとか悪く言わないでね」


「えっ、あっ、おおう。す、すまんかった」


 リンさん?目が笑ってないから怖いんですけど。その人も怖がってるから止めようね。


 日除けの休憩所(名称は知らん)に移動し、女性はいそいそとテーブルの上を片付けて後、虚空に裂け目みたいなのが現れ椅子を出していく。突然の出来事で俺達は目が点になってしまう。


「それは魔法なんですか?」


 レヴィアが気になったのか女性に聴くと、なんてことは無い様に作業をしながら答えた。


「ああ、魔法じゃぞ。収納魔法と言ってな出来ると便利じゃぞ。むしろコレを知らんのか?」


「初めて視ましたよ········」


「そうだな········そんな魔法は聞いたことも無い。それにレヴィアが知らないのであれば私達が知るはずがない」


「ローナ········それはどういう意味で言ってるんですか?」


「あっ、いや········魔術師としてって意味でだな。ほ、他に意味は無いぞ」


「本当ですか?」


 あー、うん。この2人は放っておこう。俺としてはこの話をもう少し詳しく聴きたいしな。


「その魔法と魔法袋って違いがあるのか?」


「まぁ大きな違いは無いぞ。袋を持ち歩くか否かじゃし。そもそもこの収納魔法を基に創られたようなもんじゃしな」


 女性は椅子を出し終え、自分の席に着き飲みかけの紅茶を啜った。表情からして冷めてしまったのだろう。眉間に皺が寄っている。


「お主等の話から察するに予想としてなのじゃが········この魔法は個人の魔力量に依存するからの。小さくては発動すら出来んし、そこそこの魔力持ちですらそんなに物は入らなん。だからワシの時代でも利便性を求め、研究と努力の末、誰でも扱える魔法袋が出来たのじゃ。この魔法の存在を知らんと言う事は時が経つにつれ忘れられていったんじゃないかの」


 なるほどな。確かに利便性が高い方が残り易いだろうし不要な知識は廃れていくからな。ただ、これとは関係無いが気になる部分が出てきたな。いや、ツッコませてくれ。


「大変失礼な事を聞くんだが········歳はいくつになるんだ?」


「はて········当時で92歳位じゃったからのう。それにワシが目覚めて150年位は経った気がするんじゃが········目覚める前まで何年の月日が経ってるから分からんのぅ。あ、そうじゃ。お主等、今年で魔降歴何年じゃ?収納魔法が廃れるって事は········エルフの寿命からして600年位経った頃合いかの」


 掌を合わせニコニコと俺達を見てくるが反応が返せない。むしろ俺達は互いに顔を見合わせて確認し合っている。ってか俺はこの世界の暦なんて知らんから彼女達に丸投げなんだけどね。 

 俺達の反応に女性は顔を引き攣らせながら明るい声を出した。


「あー、そ、そうじゃ。自己紹介せねばな。ワシの名前を聞けば流石に分かるじゃろう。ワシの名前はバニラ・ルマンディル・イーデルシア。魔王であったものじゃ」


「「「「「「「「········································」」」」」」」」


「何でじゃ!?何で誰もワシの名前を知らんのじゃ!これでも有名だったんじゃぞ!!あんなにド派手に暴れとったんじゃ!何かに残っていてもおかしくなかろうって」


 イーデルシアさんは俺達の変わらない様子にテーブルをガンっと叩き泣き崩れてしまった。フォローしようにも何もフォロー出来んしな·······それに暴れてたって事は悪い魔王だったって事なんだろう。まぁこの姿を見たら全く想像出来んな。しかも背格好はリンと同じくらいで童顔だから悪戯をしていたくらいのイメージしか思い浮かばない。

 イーデルシアさんに何て声を掛けようか悩んでいるとレヴィアが「あっ」と声を上げた。


「魔降歴っていうのは分かりませんが、うろ覚えですが昔読んだ本にバニラ・ルマンディル・イーデルシアといった名前がありましたね」


「本当か!?どんな内容であった!!」


 イーデルシアさんはガバっと音を立てる様に顔を上げると期待を篭めた目でレヴィアを見つめている。ただレヴィアは申し訳無さそうにしながら言った。


「本人?を目の前にして言うのもなんですが········今から1000年位前に当時の人族や獣人族、エルフ族等に宣戦布告し侵略しようとしていたのですが異世界の勇者アキラに滅ぼされたって話でしたね」


「そうじゃそうじゃ、勇者アキラ。懐かしいのう。奴に結晶封印されたんじゃ。しかもこの力を制限させる枷付きでな························って1000年!?そんなに長い間封印されておったんか!?通りで廃れる訳よな!ワシのこと知らんでもおかしくないはずじゃわ!というか滅ぼされとらんわ!!この通り生きておるぞ!」


 不服だと云わんばかりに怒った表情を見せるが全くもって怖くない。むしろ可愛らしいなとも思う。本当に魔王だったんだろうか?


「········一つ質問してもいいか」


「ぜーはー········なんじゃ、改まって」


 ローナの真剣な雰囲気に気がついたのか、イーデルシアさんは眉根を寄せた。


「もし本当に大昔に封印されていた魔王と仮定して、貴女は今後どうするつもりだ」


「どうもこうも決まっておろう。のんびり楽しく過ごす事じゃ。先の話が本当ならば1000年も経ってるのであろう?観るべきところとか美味しい食べ物とか増えてるはずじゃ。それに今は魔王では無いしな。おお、そうじゃ。魔王で無いのであれば自由に恋してみたいのう。暇潰しに読んでた物語にそういったモノがあったしの」


「········それは本心で言ってるのか?」


「当たり前じゃ。········まぁ目覚めた頃はもう一度魔王として君臨し支配しようといった考えはあったぞ。じゃがな。何しろ150年位ここで独りで過ごしていたのじゃ。誰に逢うわけでも無く、ワシを慕って付いてきた部下も居ない。それに力も以前より比べたら相当落ちておる。そんな現実を突きつけられたら次第にそういった野心よりもしたい事を考えるようになったんじゃ」


「········じゃあ力が戻ったら?········その枷を外せると言ったら?」


「変わらんの。むしろ物見遊山とかに便利じゃからあれば嬉しい限りじゃ」


 ローナとユーリの質問にカラカラと笑って話すイーデルシアさんからは、心の底からそう考えているんだと言う事が伝わってくる。150年········人の心を変えるには充分過ぎる期間であると共に今、人と会話できる事の嬉しさにさっきから涙ぐんでいるのが見ていて心が痛い程だ。だから俺は················


「な、何をしとるんじゃ!?」


 俺は彼女の側に立ち、優しく頭を撫でてあげた。俺の突然の行動にイーデルシアさんは驚き、頭を動かし俺の手から逃れようとするがそうはさせない。


「改心して偉いなって思っただけだ」


「わ、ワシは子供では無いんじゃぞ!?立派な大人の淑女じゃ!」


「はいはい。ここを出たら美味しいものでも食いに行こうな」


「ワシの話を聞け!ゴブリンの変わり者が!!さ、さっさと、止めんか」


 そうは言いつつも嬉しそうな声と一緒に涙を流してるんだから止めることは出来ないんだよな。それにほら。皆も今のやり取りで納得してるっぽいし。リンやレヴィアだってイーデルシアさんに優しくしたくてウズウズしてるしさ。これ位は問題無いだろ?


善行 14/108


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