110.vs大白蛇
俺達が部屋に入りきると扉は勝手に閉まり、静寂と薄暗い空間が包み込んでくる。だがそう感じたのも束の間、俺達の近くにある柱から順に蒼い炎が松明に灯っていく。そして次第に奥で待ち受けていたヤツが姿を顕になっていく。躰は白くツルりとした鱗に覆われ、頭部付近には鋭利な棘が幾つもある。先程までは分からなかったが蒼白い光に照らされた為か顔を上げ、重たそうに瞼が開いていき金色の瞳が俺達を射貫いてくる。
「ひっ········!?」
リンが小さな悲鳴をあげた。無理もない。それ程の威圧感と存在感がそいつから発せられているのだから。
「1匹か········やれそうかレイナ、ルゴウ」
「ああ、何時でもいけるぜ!」
レイナは大剣を手にしながら淡く鮮やかになっていく深紅之羽衣を身に纏う。
「問題ない。レイナ、いつも通りでいくぞ!」
俺も刀を2本抜き、仙気と魔力をいつも以上に練り混ぜ身に纏い、貫通力を重視した螺旋状のロックシュートを創り出す。
「おう!!」
レイナが発した返事を合図に俺達は駆け出した。大蛇との距離は遠く牽制がてらロックシュートを撃とうとしたが、後方から1本の線が空を斬りながら通り過ぎていった。見なくても分かる。レヴィアが射った矢だ。矢は大蛇の顔に向かって進んで行くが避けられる。続けて2本目、3本目も通り過ぎて行く。顔にではないが当たりはした。しかし突き刺さる訳ではなく弾かれた。
「········ッチ」
レヴィアが舌打ちした様な気がする。ただ大蛇が避ける動作をしたお陰で俺とレイナからしたら充分である。攻撃の範囲内だ。
「オラっ!」
レイナが大きく跳び上がり大蛇の顔面をかち上げる様に斬り上げる。大蛇の動きを上回っていたのか避けきる事は出来ずレイナの大剣は顎を捉える事が出来た。ガンっと鈍い音が響く。かち上げには成功したのだが微かに斬れ微量の血が出ているに留まっている。
「カー、硬ぇなぁ!でも上等だぜ!」
レイナは深紅之羽衣を更に深く淡い色に変えながら空中で身体を捻り回転させ更に追撃する。硬いのならばと思い展開しているロックシュートに回転を加え始める。段々と甲高くなる風切り音と共に俺も斬り掛かる。
「········ッツ!?」
仙気と魔力を練り混ぜた斬撃なのに鱗の表面を傷つけるだけで刃が通らない。刀ならいけると思ったが過信しすぎたか。それとも仙気と魔力の出力を強めた方が良さそうか?いや、どっちもだろう。俺は刀を鞘に納めながら足下に仙気を集め、空気を踏みつけ天井の方へと跳び、身体を回転させもう一度空気を足場にする。そして大剣に手を掛けながら大蛇の方へと跳躍し、自分が出せる最高回転と速度、仙気と魔力を練り混ぜたロックシュートを僅かな時間差を付け一斉に放つ!!
甲高く鳴り響きながら射出されたロックシュートは大蛇に吸い込まれる様に········ッツ!?なんだあの魔法陣は!?1発目は魔法陣に当たると砕け、続く2発目、3発目でヒビが入り、4発目で魔法陣が砕け5,6発目だけ硬い鱗を突き破り深く刺さる。貫通には至らなかったが十分だ。俺は更に仙気と魔力を強化し突き破った鱗に目掛け大剣を叩きつける。肉を斬る感触と鱗の硬い感触が手に伝わってくる。刃も通り断ち切る事が出来た。ちとキツイが仕留めるにはこれしか無いのならやるしかない。着地後すぐに斬り掛かろうとすると眼前が白で覆われていた。咄嗟に大剣を前に出しガードをーーー
「ぐっ!?」
「ルゴウ!?」
あまりの衝撃に声が零れた。身体は浮き上がり後方に勢いよく弾き飛ばされる。飛ばされる中、なんとか態勢を立て直し大剣を地面に突き刺し勢いを殺していく。バキリと嫌な音を発てたと同時に止まる事ができた。················くっそ痛ぇ。両手の感覚が曖昧になる程だったぞ。仙気と魔力を纏ってこの威力かよ。無かったら死んでるんじゃねぇか。内心で毒づきながら震える手で魔法袋から回復ポーションを出そうとした。
「我が魔力を糧とし 彼の者を癒やし 再び起き上がる力を与え給え エクスヒーリング」
温かく心地よい光に包まれ両手の感覚と痛みが引いていく。マリアの詠唱する声も聞こえたから回復魔法を使ってくれたんだろう。ありがたい。
俺は半分に折れてしまった大剣を投げ捨て刀を2本抜く。レイナは横目で俺の安否を確認したのか一瞬だけホッとし、直ぐに大蛇に斬り掛かっている。
「獣槍術 壱ノ型 虎牙旋風、ニャぁ!」
「我が魔力を糧とし 彼の者に立ちはだかる者を討ち果たす力を授けよ ストライカー」
「ツヴァイショット!」
いつの間にか大蛇に接近しミラも参戦し、俺が大蛇に負わせた傷口に向かって十文字槍を振るい傷口を拡げていく。レヴィアも最初に放った矢とは比べ物にならない威力の矢で、あの硬い鱗を貫通させ次々と矢を大蛇に突き立てていっている。リンの魔法のお陰なのか?どんな効力があるか分からんけどバフで良いんだよな、たぶん。········ってかレヴィアさん、若干怒ってない?眉間に皺寄ってて恐いんだけど。
レイナ達の攻撃に抵抗して尻尾や咬みつきを行うが当たらずどんどんと傷が増えていく。このまま俺も戻れば倒せるーーーそう意気込んだ時、大蛇は大きく鳴いた。すると人よりも大きな緑と黄色の魔方陣が出現した後、突風でレイナとミラを吹き飛ばした。レイナとミラは着地は無事にできた様に視えたが気のせいか足が地面に埋もれている。
「ちっ、小細工しやがって」
「にゃ!?足が嵌ってしまったにゃ!お、重いにゃ~」
「········マズい。ルゴウ、早くレイナ達の援護にーーー」
「わかってる!!」
ローナが言い切る前に俺は焦りと悪寒のせいか声を荒げながら限界まで仙気と魔力を引き出しレイナ達の下へ駆け出した。レイナもミラも闘気の量を増やし抜け出そうとしてるが遅い。大蛇はもうレイナ達の近くまで接近し咬みつこうにいる。このままじゃ間に合わない。
「········残念。········レイナ、ミラ、貸しイチ」
いつの間にかユーリが大蛇の頭の上へと移動していて、袋から液体を取り出し大蛇の目に浴びせ掛けた。すると大蛇はその液体が目に入り咬み付こうとする動作を止めてのた打ち回る。
「助かったぜユーリ。よっ、と」
泥沼から脱出したレイナは泥濘んでいない地面に着地し駆け出す。ミラは········手こずっているようだ。
「········ご褒美は期待しておく」
「················えっ」
大蛇がのた打ち回る前に脱出したユーリはすれ違い際に言い残しローナ達の下へ向かっていった。ご褒美って何?期待されても困るんだけど。と、取り敢えず切り替えよう。
俺は未だに暴れている大蛇に接近し、自分の持てる限界の仙気と魔力を2本の刀に乗せクロス斬りをした。刃は硬い鱗を通り抜け、肉や骨を安易に斬り裂けた。イケる。俺は刃が通った事により勝機を見い出せ、連撃を開始する。右、左、斜め、返し········様々な角度で斬りつけながら大蛇の頭部へと迫っていく。大蛇も大分血を流しているせいか暴れていた力も弱くなってきている。後少しだ。もう少し頑張れば倒せる。
「お返しだ!龍爪豪炎剣!!」
今までに視たことの無い輝きと色を放つ深紅之羽衣を纏ったレイナが大剣に豪火を宿しながら大蛇に振るった。避ける事も出来ず大蛇は斬り裂かれ、更に斬り裂かれた傷口から炎が噴き出し身を焦がしていく。大蛇は大分弱っていた事もあるせいか、暴れる事も無く拡がっていく炎に焼かれながら力尽きていった。
俺は刀を納め、仙気と魔力を霧散させるとその場に崩れ落ちるように座り込んだ。
「し········しんど········」
仙気と魔力がほぼほぼ枯渇寸前なのだろう。頭も痛ければ身体も気怠い。後少し遅ければぶっ倒れていたかもしれないな。
「お疲れさん。いやぁ最後の連撃良かったぜ」
俺は魔力回復ポーションと回復ポーションを飲んでる所でレイナが意気揚々と戻ってきた。足取りも軽いし疲れてないんか。
「あんがとさん。レイナもお疲れ。大丈夫か?」
「これくらいどうってことないぜ」
レイナの差し伸べられた手に掴まりながら尋ねると疲れを微塵も感じさせない笑顔で応えてきた。深紅之羽衣マジでチートだわ········
俺がレイナの能力にほとほと呆れていると後衛組も到着した。
「お疲れさんにゃ。ルゴウ凄かったにゃ。今度ミラと1戦手合わせしようにゃ」
「別に構わないが········1回だけだからな。何度もしないぞ」
「わかってるニャ!ムフフ〜楽しみにゃ」
鼻歌混じりに上機嫌になってるミラにやれやれと思っているとリンが心配そう顔で言ってきた。
「ルゴウ大丈夫?ルゴウが攻撃された時、僕ヒヤッとしたんだから」
「これぐらいじゃ死なないから安心しろ。だからローナも気にするな」
「ああ········だがすまない。危うくお前をーーー」
「気にするなって言ってるだろう。こうして生きてるんだから問題無い。以上、終わり」
俺はローナの謝罪を無理矢理終わらせるがどうも納得してない様子だがそれ以上は何も言ってこなかった。よし、じゃあ皆も揃った事だしお待ちかねのドロップ品をーーーと思った矢先に力強い衝撃が襲ってきた。何事だと思ったが長い髪と顔に当たる耳の感触で何が起こったか把握出来た。
「········本当に········心配········したんですからね。········また私の元から················」
抱き締めてきたレヴィアの背に手を回し抱き返した。レヴィアはそれに安心したのか嬉しく思ったのか次第に身体を震わした後、泣き始めてしまった。俺はどうしたものかと思い軽く背を叩きながら言った。
「悪かったよ。でも大丈夫だから········その········なんだ泣きやんでくれ」
「はい········でも、もう少しこのまま········」
「了解」
気が済むまでやらしておこう。過去に何があったか軽くは聞いてるから離すのも悪いからな。力も強くなってるのも仕方ないか。
「ズルいなぁ。僕もして欲しいんだけど」
「俺は········別に?後でも良いかな。················ちょと羨ましいけど········」
「はいはい。ちゃんと2人にもするから。レイナも強がらなくていいよ」
「べ、別にそんなんじゃねぇし!?俺は後で良いんだよ、後で!その方が夜に········って何でもねぇ」
レイナは途中で言うのを止め、顔を赤くしそっぽを向いた。恥ずかしいなら余計な事を言わなければいいのに········皆も察してかニヤニヤしだしてるじゃん。
俺は内心で呆れながらも夜は存分に甘やかしてやろうと心に誓っていると視界の端でユーリが自分にも指を差し、自分にもと訴える目線を送ってくる。ナゼニ?ホワイ?まぁいいけどさ。減るもんでもないし········取り敢えず頷いておこうか。俺の目線と頷きに気づいたのか嬉しそうに拳を握っていた。そんなに嬉しいものなのか?ってかこの世界では仲のいい友人は抱きしめ合うのが普通なのか?································考えるのを止めよう。というか中断した方がいいな。それどころじゃないしな。
「あ、あの~レヴィア?もう少し力を緩めてくれない?」
「········イヤです。何処か行ってしまいそうですし」
「いや、行かないよ。だから········ね」
「················まだ、もう少しこうしたいんです」
だからと言って一層力を込めなくていいんじゃないかな!?痛いんだけど!く、苦しい········微妙に首に回している手が絞まっていて息がし辛いし········い、意識が················
俺は必死にレヴィアの背中をタップして気づかせようとしたが········願いは叶わず力は強まっていく。意識が途絶えそうになる瞬間に慌てたリンがレヴィアを止めていたのが最後だった。
善行 14/108




