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ゴブリンから始まる物語  作者: となりの戸愚呂
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107.再会後の一幕


「お見苦しいところを見せてごめんなさい。つい取り乱したりしてしまって········」


 母さんはみんなに頭を下げると慌てた様にレイナとレヴィアは言った。


「あ、頭を上げてくれ········じゃなくて下さい」


「そうですよ。何も謝る事はないですよ。折角出会えたのですし仕方のない事ですよ」


「ですけど········」


「母さん。レイナ達がこう言ってるんだから気にしないでくれ。それにみんなに母さんの事を紹介したいんだ」


「そう、ね。ごめんなさい。ちょっと待ってて貰っていいかしら?まだお仕事の途中なの」


「わかった。席について待ってるよ」


「じゃあ後でね」


 母さんはそう言い残し裏へと下がって行った。俺達は空いてる席へと座り母さんを待っているのだが········心の中の引っ掛かりが無くなり気が楽になった。母さんにとっては辛い記憶であり、平穏な日常を取り戻したら思い出したくない過去だろう、なら母さんの幸せの為にも会わない方が良いだろう、会えば拒絶されるのではないかと勝手に想っていた。だが違った。母さんは俺のことを········ゴブリンである俺のことを自分の子供として認識して再会に喜んでくれた。優しく、母親としての愛情で包み込むような抱擁だった。嬉しかった。愛おしかった。ずっと求めていた感情が満たされていった。俺は母さんの子供として居続けても良いんだと安心する事が出来た。いや、実感する事ができた。偶然の出会いだろうが連れてきた2人には感謝しかない。


「レイナ、レヴィア。ここに連れてきてくれてありがとう」


 俺は2人に向き合い頭を下げた。精一杯の感謝の意を込めて彼女達に伝えられるように。


「い、いいって。お、俺達も········まさかそうだったとは知らなかったから」


「え、ええ。本当に偶然でしたもの。お昼に来た時はお義母様はいらっしゃらなかったので········お礼を言われることはしてないですよ」


「それでも出会える切っ掛けを作ってくれたんだ。お礼は受け取ってくれ」


「まぁ········そう言うんならな」


「分かりました」


 しぶしぶといった様子で受け入れてくれたレイナとレヴィア。でも心なしか表情が固い。それに身なりを軽く整えたり座り方にも気を遣ったりそわそわとしている。対してミラはこの状況に何かを感じているのか何か居づらそう。


「どうしたんだ?2人共なんかそわそわして」


「いや········だってよ········」


「偶然とは言え、お母様に会うんですよ。私は2度目になりますけど緊張しない訳ないじゃないですか」


「あーそういうーーー」


「ニャ!?レヴィアって旦那さん居たのかニャ!?てことはこれはーーーー」


「ミラさん違いますからね。前の旦那は不慮の事故で死別してますし浮気ではないですよ」


「ニャー········その········ごめんなさいにゃ」


「良いですよ。私にとってはもう過ぎた事ですし。なんなら吹っ切って良かったと今は思ってます。········まぁ最初はこうなるとは露程も思っていませんでしたけどね」


「だなぁ。俺もルゴウとはこんな関係になるとは思ってなかったしな。俺なんか最初はゴブリンの癖に強ぇし久し振りに骨のある奴だとか思っていたのによ········ま、実際軽く闘ったら予想通り、いや予想以上に強ぇから気に入ったんだけどな」


「ということはレイナはルゴウの強さに惹かれて番になりたいって思ったのかにゃ。ゴブリンにゃのに?」


「········まぁ、それも無くはないが········俺にとってゴブリンとか関係なくコイツを好きになったんだよ。コイツって面倒見いいだろう?それにやたらと········その········なんだ。優しい········とか気ぃ遣ってきたりとか、俺と2人きりでも嫌がんねぇし、安心して寄り掛かれるって言うか········他の野郎共と比べたら下心出さねぇし········って言わせんじゃねぇよ!!小っ恥ずかしい!」


「にゃ~、惚気られたにゃ。でもにゃんでかにゃ。悔しいとは思えないにゃ」


「おい、当の本人もいるからな。ってか思っても言うなよ」


 本当にこの子は········まぁ、普通はこういった反応になるよな。分からんでもないから強くは言えん。レイナも照れるくらいなら余計な事を言うなよ。


「お待たせして········ってあら?その子はどうして顔を真っ赤にしてるの?」


 母さんは仕事着から私服に着替え俺達の席へと来た。特に華美でもなく落ち着いた········といっても普段街で見かける女性と同じ服装である。


「気にしないでいいよ。ところで母さん、仕事は大丈夫なの?」


「ええ、事情を話したら今日はあがっていいって言われたの。········まあ、驚かれはしたんだけどね」


「あー、うん。想像は出来るよ。俺ってこんなんだしね」


「私は気にしてないんだけどね。周りがどう思おうがあなたは私にとって大切な息子だもの。あの時は辛く泣きたい事だったけど········あなたが産まれてきてくれて本当に支えになったのは確かよ。だから自分に自信を持っていいのよ」


「ありがとう········母さん········」


「ところでこの人達を紹介してもらえるかしら?見た所2人は冒険者でもう1人は········どういった子なの?それにルゴウもこんなに大きくなって冒険者のタグまで付けて」


「えーっと何から話そうか········いや、取り敢えず紹介からかな」


 俺は母さんに3人の事を順に紹介していった。先ずはミラについてだ。グルヴィシア王国の姫で今請けている護衛対象である事を説明していく。母さんは関心したように、時折驚いた反応で相槌を打ってくれた。ミラもミラで姫と紹介された時は胸を張り「驚いたかにゃ。ミラはお姫様なのにゃ」と自慢げに言ったのはスルーしておいた。んで、2人についてとここには居ないリンについて紹介していくと········母さんはピタリと時が止まった様に目を点にし動かなくなった。もといいフリーズしている。


「ーーーあーっと········母さん?聞いてる?」


「········あっ!?え、ええ聞いてるわ。そ、そうなの········い、一応確認なんだけど········無理矢理とかではないんでしょう?」


 俺が声を掛けると母さんはハッと意識を戻し、疑ってるようではないけども········それでも信じられないような声音で聴いてきた。


「それは勿論していない。ちゃんと互いの気持ちを伝えあっての上での事だし········むしろ俺も正直そうなるとは想ってもいなかったんだ」


「そ、そうよねぇ。ルゴウはしっかりした優しい子だったものね················それにしても3人も好い人がいたのにも驚いているんだけど、レイナさんもレヴィアさんも本当に私の息子で大丈夫なの?ほら、私にとっては掛け替えのない息子なのだけど········見ての通りゴブリンじゃない?周りから何か言われるかもしれないじゃない」


 母さんはレイナとレヴィアの意思を探るように、そして何処か母さんも不安そうにしていた。まるで自分も言われていたか、自分の考えが間違っているのかを確かめる様な········そんな感じであった。

 レイナとレヴィアは母さんの言葉に互いに見合うと首を傾げた。


「ああ、俺としてはーじゃなくて········そのぉ········」


「そんなに堅くならなくていいわ。普段通りに話して大丈夫よ。レヴィアさんもね」


 レイナの頑張って丁寧な言葉を使おうとするが言葉が見つからない様子に母さんはくすりと笑った後、優しく声を掛けた。


「あ、じゃあ。俺としてはそこんところは気にしてない。周りが何と言おうが俺が選んだ男だからな。むしろルゴウより腕が立って男を磨いてから出直してこいってんだ」


「私もレイナとほぼ同じですね。違うとしたら種族としてはゴブリンですけどそこら辺の有象無象の男と比べたらトカゲとドラゴンの差ですね。それに········いえ、何でもないです。リンも私達とほぼ一緒の考えだと思いますよ」


 2人の言葉から嘘偽りではないのだと感じとった母さんは先程までの不安な様子が取り払われ、涙ぐみながらもホっと息を零した。


「そう········改めてありがとうございます。これからも私の子を出来れば末永く支えてやって下さい。ルゴウも好い人が多いのだから彼女たちを支えてあげなさいね」


「勿論その積もりだよ。自分には勿体無いくらいの人達だからこの出会いと想いを大切にして支えていくよ」


「おう、俺の見込んだ男だし面倒は見ていくつもりだ。変な事しようとしてたらケツを引っ叩いて戻してやるよ」


「どちらかと言うと面倒をみられるのはレイナでしょうに········お義母様、レイナはこうですがしっかり支え合っていきますので安心して下さい」


「ちょ!?レヴィア、俺が出来ないとでもーーー」


「現状そうでしょう?ルゴウも大変だったんじゃないですか?」


「あーまぁ········そこまでではなかったぞ。楽しかったしな」


「ほらな。ルゴウもそう言ってーーー」


「ニャー!!もう話すのはご飯を頼んでからにするニャ!!もうミラはお腹ペコペコニャ!」


 もう我慢の限界だと云わんばかりにテーブルを叩き今まで黙っていたミラが声をあげた。あーうん。ごめん。途中から忘れてた。そういやまだ頼んでなかったもんな。


「そうしましょうか。まだまだお話を聴きたいしご飯を食べながらゆっくり話しましょ」


「そうだね。俺も母さんに沢山話したり聴きたい事もあるしね」


「つーことはだ。やっぱりお酒は有ったほうがいいよな」


「そうですね。時間の限り楽しく飲まないといけないですしね。あ、お義母様はお酒は飲まれるでしょうか?」


「ええ、そこそこには········ルゴウも飲めるようになったの?」


「身体の成長と共にね」


「そうなの········やっぱり人とは違うものなのね。こんなに大きくなって········あの頃は小さかったのが懐かしく思うわ」


 しみじみと言う母さんに俺は頷き返しながらも少し寂しい気持ちになった。もし人として生まれれば今とは違った生活もあったかもしれない。母さんと助け合いながら生活している日々があったかもしれないと········ただ、今の生活に不満は無い。リンやレイナ、レヴィアに出会え、他にも友人や良くしていくれる人達にも出会うことが出来た。だから今芽生えた気持ちはこんな満たされた出会いからの欲求の一つに過ぎない。まぁ欲張りってやつかな。それにーーー


「おー、魚料理に肉料理········色々あるにゃ。何がいいかにゃー」


「俺は唐揚げだな。後は腸詰めに串肉系」


「全部お肉じゃないですか。なら私はシーラの塩焼きとサラダ、揚げ芋で」


「にゃ~、じゃあミラはレイナとレヴィアが言ったヤツ全部ニャ!!········野菜は要らないにゃ」


「好き嫌いは駄目です。野菜はしっかり摂らないと病気になりやすいですよ」


「ママと一緒の事を言わないで欲しいにゃ。ならレイナも一緒に食べるにゃ」


「ん?別に構わねぇぞ」


「やったにゃー。半分こするにゃ」


「········まぁよしとしますか」


 こんな素敵な出会いはそうそう無いだろう。だからこの雑念は不要だ。振り払ってしまおう。

 俺と母さんも注文を済ませ、手元にエールや料理が届き始めていく。料理は出揃っていないが飲み物が行き渡ったのでレイナがジョッキを持ちながら言った。


「よっし。全員ジョッキを持ってくれ。いいな。じゃあミラの歓迎会とルゴウの再会を祝ってー乾杯!!」


「「「「乾杯にゃ」」」」


 レイナの音頭と共に皆でジョッキをぶつけ合いエールを飲んでいく。それを合図に短くて楽しいひと時が流れていった。


善行 9/108

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