98.ちょっとした贅沢
昨日は結局、俺以外に止める人はいなく皆で入浴することになってしまった。ローナ達は俺達の様子に三者三様の表情をしながら観ていたのがなんとも恥ずかしかった。と言うより凄く気まずかった。周りを見渡せばそれはもう男としては絶景なのだが········如何せん目の毒でもある。ローナ達はちゃんと手拭いで隠しすべき場所を隠しているのだが、レイナとリン、レヴィアは隠す気が無いのか素肌を晒していた。それに加えて俺の近くまで来ては背中を流しあったりした。もちろんいつものアレは抜きの純粋な洗い合いである。本当に目の前の誘惑で愚息が反応しないように気持ちが昂ぶらない様に鎮めるのが大変だったよ。
そんな事はさておきダンジョン攻略2日目となる。今日の探索もリンは同行している。同行出来ると判断された理由は俺とレイナの戦闘力だと危険な場面はそうそう訪れないだろうとの事だ。まぁ、そもそも通常の探索でも殆ど前衛でカタがついていたのでリンが同行しても問題は無いしな。
11階層は昨日の探索で終わっているからさくさくと進み、ボス部屋も俺とレイナが再び暴れ回り難なく次の階層へと入ることができた。
12階層からはコボルトが新たに配置されていた。先程から戦闘にはなっているが················ぶっちゃけこのメンツでは相手になっていない。幾ら動きがゴブリンより速かろうがローナ達には問題すらなってはいない。まあ、金級冒険者だからな。
各部屋を周っているが宝箱も前の階層と変わらない感じだ。ボス部屋の戦闘では今度は全員で挑みコボルトの亜種や上位種を加えた魔物を倒し次の階層へと進む。少し小休止を取ってから再開し攻略を続けていたのだが········ユーリが耐え切れなかったのか声を挙げた。
「········もう飽きた。帰りたい」
「ユーリ········気持ちは分からなくはないがこれも仕事だから我慢しろ」
「········そうは言っても単調過ぎる。········もう少しスリルがあっても良い」
スリルは要らんが単調なのは同意する。変わり映え無いもんなぁここ。ユーリの言い分に他の皆も苦笑いを浮かべながらも何も言わない。
「まあ不満があるのはしょうがないが気は緩めないでくれ」
「········むぅ」
ユーリは渋々といった様に肩を落とした。んー、このままじゃいかん気がする。俺も含めて何となくだが集中力が切れはじめているから気晴らしに何かした方が良いかもしれない。しかしダンジョン内だし手持ちだって········あ、そういやアレ持ってきているな。丁度休めそうな部屋に居るし出しても良いかもな。
「ローナ。一旦ここで休憩を取ってもいいか?」
「ん?それは構わないが········疲れたのか?」
「いや、俺も含めて皆の集中力が切れてきてるから気分転換でもしようかなと」
俺はそう言いながら魔法袋の中を漁り小瓶をいくつか取り出した。小瓶の中には以前作った砂糖煮········もといい木の実や果物のジャムだ。レイナはこれを見た瞬間に何であるかを察して嬉しそうな笑顔と弾むような声を挙げた。
「それを食うのか!よっし、休憩だ休憩!」
そそくさと背負っていた大剣を下ろし座りはじめたレイナに皆は困惑しつつ同じように手にしている武器を下ろし座っていった。あー、そういやリンとレヴィアには食べさせて無かったもんな。俺は床にジャムが入った小瓶を置き武器を下ろして魔法袋からパンとスプーンを取り出し配っていった。
「ルゴウ········もしかして········」
何となく皆も察してきたのだろう。段々と目が輝き、早くしろと言わんばかりの期待の眼差しを向けてくる。俺はローナの途切れた言葉に頷き返した。
「ああ、近場で採った木の実や果物で作った砂糖煮だ。疲れた時には甘い物が一番だろ?」
「し、しかし········良いのか?砂糖は結構高いだろうに········」
「別に問題無い。俺も甘い物が欲しかったから買ったしな。遠慮なく食べてくれ」
砂糖は銀貨20枚で痛い出費だったが、それに見合う価値があったからどうってことはない。あの時のレイナの美味しそうに食べていた顔は作った甲斐があったものだ。
「う、うむ········なら有り難く頂こう」
ローナは遠慮しているのか苺に似た果物のジャムをパンに少量だけ載せ薄く塗っていった。それを見兼ねたレイナが呆れた様子でローナからスプーンを奪いながら言った。
「そんなんじゃ味はしないだろ。こうやって、たっぷり載せるんだよ」
「ちょ、ちょっと!?レイナ!!」
レイナは小瓶からスプーンから溢れ落ちそうになるくらいジャムを掬い、ローナの静止に聞く耳を持たずパンに載せた。載せ終えた後、小瓶に戻すかと思っていたスプーンを口に入れ頬を綻ばせた。
「あー、甘酸っぱくて美味いなー」
「こら、レイナ。まだ使うんだからやめような。ほら洗うから貰うぞ。········ああ、ホントに気にしないでたっぷり掛けて貰っていいから。まだ砂糖も残ってるしまた作るから心配しないでくれ」
俺はレイナからスプーンを貰い水魔法で軽く洗っておいた。レヴィア達は俺の言葉とレイナの遠慮のない行動から顔を見合わせてからそれぞれジャムの入った小瓶を手に多めに塗っていく。だからといってレイナさん?色んなジャムを1つのパンに載せるのはどうかと思うぞ。
「········っくこんなに載せて········ええい、ルゴウ頂くぞ!」
ローナは申し訳無さと勿体ないといった表情を浮かべていたが、目の前のジャムが多めに盛られたパンに食べたいという欲求から唾を飲み込んだ後に齧りついた。パンを口に含んだ瞬間に目が輝き、もっと味わう為に咀嚼していく。レヴィア達も同じ様な反応で美味しそうに頬張っていく。
「甘くて美味しいね!」
「ええ、果実の甘さと砂糖の甘さ合わさってとても美味しいですね」
「私のは木苺かしら。甘酸っぱくて美味しいわぁ」
「········林檎も美味い。········ルゴウ良くやった褒めて遣わそう」
「何様だよ」
俺は皆の満足そうな顔に頬を綻ばせ、お気に入りのライの実で作ったジャムをパンに載せ食べていく。はぁ、糖分が疲れた身体に染み渡る気がするな。ライの実の酸味も良い仕事してる。これに蜂蜜が加わればもっと良くなりそうだ。
「しかし、ダンジョン内でこんな物を食べれるなんて贅沢だな」
ふと我に返ったのかローナがそう漏らすとレイナが苦笑しながら言った。
「だな。普通なら干し肉や焼き締めた硬いパンで我慢するしからな。それに砂糖なんて俺達冒険者にゃ無駄な出費だし、そもそもこんなの作れねぇしな」
「私は作れますよ。ただ普通の生活なら買うにしても勇気は要りますから中々手は出せませんでしたが」
「私もレヴィアと同じね。レイナだけじゃない。料理作れないのは」
「「「「················」」」」
マリアのその言葉にローナ達は何を言ってんだコイツと言いたげな目で見つめている。そんな目線に一切気づいた様子は無い。以前レイナから聞いてたがマジな話なんだな。料理させないでおこう。
そう心の中で決めていると隣にいたリンが顔を寄せ小声で聞いてきた。
「ね、ねぇ。何でローナさん達はあんな顔しているの?」
「あー、マリアって料理が出来ないらしいんだ。それはもう絶望的に」
「へ、へー········そうなんだ。でも食べれなくは無いんでしょ?」
「レイナ曰く、料理と呼べる物でも食える物とかとは次元が違うらしい」
「あ、あはは········そう、なんだ········」
そう言うとリンは乾いた笑いと共に頬を引き攣らせていた。あの見た目と雰囲気で料理が壊滅的って冗談に思えてしまうが4人の反応から事実だとリンも納得したのだろう。
甘い物を摂り気力も十分回復した俺達は探索を再開した。余談ではあるが、パンが無くなっても皆して小瓶からのジャムを掬っては口に入れ美味しそうに食べていたので気付けばジャムが全て無くなっていた。········そんなに糖分摂っても大丈夫か?病気になるんじゃないか?ってか摘むにしても甘ったるいだろうに········まぁ、いざとなれば魔法で何とかなるのかな、知らんけど。
探索を再開してからは自分が想っていた以上に捗っていた。糖分を摂取する前と比べて探索スピードや戦闘スピードが早くなった気がする。それに皆の動きも良くなっている。そのお陰か次の階層へと続くボス部屋も難なく突破する事が出来た。甘い物って偉大かもしれん。暇な時にでも常備用を作っておこう。そんな事はさておき11階層でも手に入れた鍵を回収し13階層へと進んで行く。ここの階層も変わり映えはしないんだろうなと想っていたが少しばかり········いや、だいぶ毛色が違った。ここに来てユーリのフラグ回収かよ。
「こりゃ········なんと言うか········」
「ああ、これは酷いな········」
「まるで朽ち果てた遺跡の様ですね········ユーリが変な事を言うからこんな事に········」
「········私のせいじゃない」
「ルゴウ········これって僕はついて行っても大丈夫かな?」
「あー、うん。どうだろうか········」
そう、目の前には先程までと打って変わって薄暗く、所々の石壁がひび割れたり崩れ落ちたり、足場も凸凹としていてかなり悪そうだ。薄暗いと言っても一定の間隔には篝火が設置され、燃料となる木材は無いが魔法か何らかの力が働いているのか火が灯り揺らめいている。視界には困らないもののそれでも前の階層と比べるとそんな印象を受けてしまう。これは明らかに此処から先は難所になりそうな気配がするが········取り敢えず作戦会議は必要だろう。
善行 9/108
〜一方、忘れられた男〜
「ちょ、ちょっとこれ以上は駄目ですって!帰りますよ!!」
「離せ!!あのゴブリンでも突破出来たんなら俺等だって出来るだろうが!!」
「無茶言わないでくれよ。よく見てみろよ!ミノタウロス3体は幾らなんでも俺達では相手にならねぇよ」
「しかもどう見たって1体は亜種だろうが。上の階層を周り続ければそこそこの金になるんだから欲張んなよ」
「アイツに出来て俺達が出来ないでどうするんだ!これじゃレイナさんに振り向いて貰えないじゃないか!!」
「いや、対抗意識持つなよ。あのレイナさんとまともに打ち合える時点で化け物だろ。ってかガストの私情に俺達を巻き込むな」
「レイナさんを化け物呼ばわりすんじゃねぇ!!」
「うわっこの人面倒くさっ!良いから帰ってギルマスに報告行くぞ~」
「ちょ、っま!?は、離せ首が········首が絞まってる」
「喧しい!だったら大人しく歩いて帰るぞ」
「っく········チクショー········」




