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4.Catcher in Black

この小説にはパロディ、オマージュがあるので、参照元を検索エンジンに入力したURLを脚注としてつけておくことにしました。

例)タイトル https://www.ecosia.org/search?q=The+Catcher+in+the+Rye


たぶんURLを踏むと草が生えます。

検索エンジンについて https://www.ecosia.org/search?q=Ecosia+wiki


全13話構成だったと思います。

拙い文章ですがよろしくお願いします。


※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。加えて、このなかで語られた言葉はいかなる真実をもふくみません。

「事件だ!起きろ!ジェームズ!」


 治安維持管理者、ジェームズのコモンセンスにけたたましい叫び声が響いた。


「うん……。今何時だ……?」


 ジェームズは直ぐに起きることができず、また声に呼ばれる。


「何を寝ぼけているんだ!?ジェームズ!君の待ち望んだ怪事件が起きているっていうのに!」

「一体なんだ……?」

「ジェームズ!君は夢見ていただろう?早く起きろ!」


 ジェームズは寝起きで騒ぎたてる声の主に苛立ちながら眠り続けようとした。


「もう少し寝かせてくれ。」

「いや、ダメだ!うかうかしていると真実は失われる!事件が迷宮入りしてしまうぞ!」


 部屋のカーテンが全開になり、照明の輝度が最大なった。ガラクタや原子歴以前のアンティークの模造品であふれた部屋に光が満ち、ジェームズの白い肌が反射する。ジェームズは起きざるをえなかった。


「一体何なんだ!?レヴィ!?こんな朝っぱらから!?まだボケ始めた爺さんが起きるような時間だ!」


 ジェームズが起き上がり、時刻を確認すると16時になっていた。


「事件が起きたんだ!是非君に解決してもらいたい難事件が!」


 リヴァイアサンがジェームズのコモンセンスに叫ぶ。


「なぜ俺なんだ?ケビンやモンドに行かせればいいじゃないか!」

「ケビンとモンドにももう声をかけている!それに今回は特に君も捜査に参加するべきだと思ってね。」

「何で俺が参加しなきゃいけないんだ?」


 目をこすりながらジェームズは言った。


「ジェームズ!我が聡明なあるじよ!自分で言ったことじゃないか!ただアンドロイドを管理するだけじゃなく、謎に満ち溢れた事件に隠された真実を解き明かしたいと!」

「そんなこと言ったことないぞ!証拠を見せてみろ!証拠を!」

「昨年9月の私との会話、そう、あれは君の」

「わかったよ!俺が悪かった!それで一体何が起こっているって?」


 ジェームズは立ち上がりダイニングまで歩いた。


「実に奇妙な出来事が起きているんだ!SJ-K(※1)のWアカデミ(※2)で!」

「ああ、あの自由放任主義で有名な。エリカ!コーヒーを入れてくれ!」


 ジェームズはアンドロイドに声をかけた。


「おはよう。ジェームズ。甘味料とミルクフレーバーは必要?」


 黒髪の美人顔でにっこりと笑いながらジェームズの伴(※3)は問いかけた。


「いや、ブラックでいい。」


 リヴァイアサンは会話を続ける。


「まあ、巷には自由主義だという見方もある。事件はそこの医学部附属病院で起こっている!」


 エリカはカフェインの入ったコーヒーフレーバーの液体をマグカップに入れ、持ってきた。


「そうか。で、どんな事件なんだ。ありがとう、エリカ。」


 ジェームズはコーヒーフレーバーの液体を飲んだ。


「その病院内で殺人事件が起きた!」

「殺人事件か!何年ぶりだ。」


 ジェームズは驚きでコーヒーフレーバーの液体をこぼしそうになった。


「事態はそれだけじゃない。院内の時間が昨日の6時から12時までを繰り返してい(※4)んだ。」

「なんだそりゃ?」


 ジェームズは怪訝な顔をしてマグカップをテーブルの上においた。


「正確には院内のコモンセンスに接続されている全ての電脳が2月2日の6時から12時ごろに行った処理を延々繰り返してい(※5)という状況だ!それに加えて夢を見ているアンドロイドもいる。」

「夢?」

「そうだ。夢だ。古典作品や意味のない夢を……。」

「奇妙な事件だ。だが、なぜ事件の発生を止められなかったんだ?レヴィ?」

「事件が発生する直前に付近のコモンセンスにバグが起き、通信障害が発生したんだ!」

「なるほど。そうか。」

「さあ、我が主人よ!まさに君の求めていた怪事件だ!早速ドールで出動するか?」


 リヴァイアサンがそう言うとリビングにあるソファをリクライニングさせた。


「ちなみにそれ以外ならどんな案件がある?」

「それ以外!それ以外ならとある少年に噛み付いたbio-Aを捕」

「くだらねえな!病院へ出動しよう!」


 ジェームズはリビングにあるソファに座る。それを見てエリカはジェームズに声をかける。


「ジェームズ、出動するのね。」

「ああ、そうだな、今日の事件は退屈しのぎにはなるかもしれない。」

「そうね。でも、気をつけてね。」

「心配無用さ。」


 リヴァイアサンが声をはさむ。


「おっと、出動の前に、昨日の夜のうちに進められた研究の成果、決定された施策、法律をダウンロードしておくか?」

「ああ、治安維持管理に関連する部分だけをダウンロードしてくれ!」

「昨夜、治安維持管理官に対する武器使用基準厳格化への期待が市民合意定数を超えた。これにより、治安維持管理官職務執行法第7(※6)に変更があった。コモンウェルスへの寄与度が基準値を下回った治安維持管理官が武器を使用した場合、その治安維持管理資格を剥奪され、バグズアイランドに強制連行されるのは知っているな!その基準値が300ポイント上昇した。詳細はメメックスにダウンロードしたデータを見てくれ!あと、コモンセンスにアップデートがあるからそれを今晩にもダウンロードするように。」

「わかった。」

「さて、接続するドールの所在地はメトロE03(※7)に近い川田(※8)の治安維持管理署だ。付近の情報を転送する。」

「オーケー、了解!」

「この捜査に加わることで得られるコモンセンスへの寄与度は推定103ポイントだ!ここのところずっとマイナスが累積しているからな!挽回しろよ!」

「うるせえ!余計なお世話だ!」


 ジェームズはそう吐き捨てて、瞼を閉じ脳波認証を行いモノスコードを唱えて、コモンセンスをドールに接続した。


 ジェームズが目を開けるとそこはドールを格納する狭いカプセルの中だった。念じて蓋を開けて外に出ると、格納庫には開いたカプセルがあり、誰かが既に出動しているようだった。


 ジェームズはロッカーのC-18番の扉に手をかけた。


「いや、こっちじゃないか。」


 そう呟き隣のロッカーを開き真っ黒なスーツを取り出しそれを着て、真っ黒なネクタイをきつく締め、銀色に光る拳(※9)を装備した。格納庫から事務室に出ると署内には青色の制服を着た当直の女性が1人いた。


「おはよう、ローレル。」

「こんにちは、ジェームズ。」


 アンドロイドは微笑みながら挨拶を返した。


「例の病院に行くのね。」

「ああ、そうだ。」

「もうケビンが行ってるわ。地図は必要?」

「いや、ひ」

「必要ないぞ!ローレル!私が送信しておいた!」


 リヴァイアサンが2人のコモンセンスに叫んだ。


「なら場所はわかるわね。すぐ近くよ。」

「ああ、わかってる。」


 ジェームズはそう言って治安維持管理署を出た。

 署から少し歩くとすぐにその建物が見えてきた。あたりには青い制服を着たアンドロイドが多数いた。その中で、真っ黒なスーツを着て、黒人の初老の男のドールが何かを話をしていた。ドールはジェームズに気づき、近寄ってきた。


「ジェームズ!遅いぞ!また遅刻か!」

「まあまあ、そうカッカするなよ、ケビン。」


 ジェームズはあたりを見回して言った。


「モンドは来ていないのか?レヴィが呼んだと聞いたが。」


 モンドという言葉を聞いてケビンは顔をしかめ、不快感を隠さずに言った。


「奴は移動に時間がかかる。それに、気に入った事件にしか顔を出さない。」

「今確認した!モンドは来ない!そしてジェームズ、君にメッセージだ!」


 リヴァイアサンが2人に叫ぶ。


「お前に最適化されたリヴァイアサンはうるさくてかなわん。」

「これくらいじゃないと気分がノらないんだよ。それで?どんなメッセージだ?」

「“難事件を解決するなんて浅はかな夢を見る前に、地道な努力をしていきなさい”とのことだ。」

「朝っぱらから説教臭いジジイだ!」


 ケビンは見かねて言う。


「ジェームズ、モンドの言うことにも一理あるぞ。お前は」

「わかったよ。ケビン。それより捜査はどこまで進んでいる?」


 病院から出入りするアンドロイドを見ながらジェームズは言った。


「今病院を封鎖して、現場検証を行なっているところだ。この病院は広い。コモンセンスから情報が取得できないとなると応援のアンドロイドがもう少し欲しい。」


 その言葉にリヴァイアサンが答える。


「それについては今本部から増員を派遣しているから少し待ってくれ!2人は事情聴取に参加してくれないか!?アンドロイドが君らの考えを聞きたがっている。治安維持法第26条2項の例外規定を適用する!事情聴取に同意の必要はない。」

「了解だ!」


 治安維持管理官によるアンドロイド4-15-0102_29-5(※10)への事情聴取


「電気羊が491匹……電気羊が492匹……電気羊が493匹」

「おい、29-5号!俺の話が分かるか!」

「電気羊が494匹……電気羊が495匹……電気羊が496匹」

「こいつに事情聴取する意味があるのか?」

「メモリーキャッチャーを使ってみろ。念のためだ。」

「うええ…頭の中が電気羊でいっぱいだ。」


 治安維持管理官によるモノスコード978-4-04-136_605-9(※11)、李 平氏への事情聴取


「李さん!李さん!こち」

「うわああ!まただ!堀ユリ子!」

「……なるほど、ジェームズ。確かにリヴァイア」

「出してくれ!私をここから出してくれ!」

「のとおりだ。院内の全ての」

「もういい!お前の人造子宮はもう見たくない!」

「繰り返しているようだな。」

「見りゃわか」

「誰か!助けてくれ!誰か!」

「メモリキャッチャーを」

「手が止められない!」

「完了だ。」

「レヴィ!こいつのコモンセンスをリモートで強制的に」

「身体が動かない!」

「バグでできない!?なんてこった!」

「開発者とアンドロイドをこの男のアパートに」

「ああああ!」

「ニュートラライズしてリビジョンを行おう。」


 モノスコード978-4-15-010_229-6(※12)、リチャード・ダウラン(※13)氏の記憶


「君の周りにはグローバリストはいないのかい?」

「僕は、ずっと1人で夢を造り続けてきたので。」


 ダウランド氏は処置室で黒髪の丸い大きな目をした大人しそうな色白の青年と談笑していた。青年はパーカーにジーンズを履いている。


「まあ、この地下での実生活に意味はないし、何を信じて生きていくかは自由だ。この社会では他者の自由を侵害しない限り、全てが許されている。」

「はい。」

「たとえ真実がどうであれ……どこの誰が何を信じていようと、リヴァイアサンは常にコモンウェルスにとって、この世界にとって、最善の手を打ち、都市を回していく。」


 ダウランドは後ろに振り返りアンドロイドを呼ぶ。


「ミーム!ドライバーとドリームキャッチャーを持ってきてくれ。」

「わかったわ。リチャード。」


 間仕切りの向こうからアンドロイドの声がした。


「そういえば、先生もモデル:ミームのアンドロイドを所有しているんですね。デフォルトネームのままだ。」


 青年は何かを期待したような目で話しかけた。


「ああ。私の妻だ。ちょうど君の年の頃に購入してね。まだまだ話したいことはあるが、先に処置をしよう。寝台に仰向けになって。」


 青年は黒いブーツを脱いで寝台に横になった。


「これから君の人工皮膚をはがし、頭を開いて直接コモンセンスとメメックスを見て処置を行います。」

「はい。」


 アンドロイドが真っ黒の髪をなびかせ、工具箱とドリームキャッチャーを持ってきた。


「ここにおいて置くわよ。」


 ミームはドリームキャッチャーと工具箱を机にそっと置いて間仕切りの向こうへ戻った。


「ありがとう。で、そのためにドリームキャッチャーでいったん君の痛覚をオフにして眠ってもらいます。」

「わかりました。」

「そうだね……。その間に何か見たい夢はあるかな?」

「夢を見れるんですか。」

「そう。どんな夢でも。」

「じゃあ、この夢を見れますか?」


 青年はドリームキャッチャーを手渡した。


「この夢だね。データを移すからちょっと待ってて。」

 両手にドリームキャッチャーを持ってダウランドは言った。

「これでよし。」


 ドリームキャッチャーを机に置くとダウランドは青年の顔を覗き込んだ。


「では、カシタ君。よい夢を。」


 ダウランドはそう言うとドリームキャッチャーを青年の顔の前にかざした。そして、赤い

閃光が部屋の中に満ちた。


「さてと、処置開始だ。」


 ダウランドが工具箱からはんだごてとドライバーを取り出した時だった。窓ガラスが割れる音が響いた。振り返ると、学生帽を被り、真っ赤な鼻の長い怒りの表情の面をつけ、詰襟の制服を着た男が立っていた。男は古びたマントを翻して手に持っていた斧を振りかざした。黒い影がダウランドの視界の上方に映ったかと思うと鈍い音がなり、視界がどす黒い赤色で埋まった。それから、間仕切りの向こうで閃光が走り、何かがドサリとおちる音がした。ズルズルと引きずる音がする中、赤い視界に男が高らかに笑う。


「ハハハ!お前はどんな夢を見たんだ?」


 ジェームズがメモリーから現在に戻るとそこは処置室でダウランドの死体が転がっていた。


「なるほど、どうやらこの赤い仮面野郎がダウランドを殺したようだな。」

「レヴィ、他のコモンセンスに残されている映像にこの男は映っていないのか?」

「ケビン、それが奇妙なことに、院内のどのコモンセンスにもこの男の姿は映っていない。凶器の斧も行方知れずだ。」

「厄介な。骨が折れる仕事になりそうだ……。」


 ケビンは窓の外を確認しながら不機嫌な顔でこぼす。


「そうか?ケビン、ワクワクしないか!こんな奇妙な事件、人生で二度とないぞ!」

ジェームズは満面の笑みで死体を覗いている。

「不謹慎だぞ!ジェームズ!」


 青い制服を着たアンドロイドがダウランドの死体を運び出した。


「おっとすまない。そんなことよりレヴィ!このカシタとかいう青年はどこにいったんだ?」

「現在確認中だ。しかし、その青年の着ていた服は見つかっている。赤色のパーカーと紺色の真新しいジーンズが。10階、李氏の部屋のロッカーの中に血まみれの状態で発見された。そして、中にあったはずの李氏の私服、白いシャツと水色のジーンズ、緑色のコートが消えてなくなっている。」

「なるほど。そりゃあもう死んじまってるかもしれねえな。」

「ジェームズ!」

 ケビンはジェームズを睨みつけた。


「わかってるよ。そうだな、じゃあ、バタフライを確認するか?」

 リヴァイアサンが会話に割り込む。

「ちょっと待ってくれ、2人とも。病院の診療記録に奇妙な点を発見した。」

「何があった?」

 ジェームズが尋ねた。

「今日、この樫田という青年は病院に来院した記録がない。」

「何?」

「この青年は7年前に行方不明になってつい最近、死亡宣告されている。代わりに同じ時間に診療記録があるのは、昏一朗という男だ。」


 ジェームズがリヴァイアサンに尋ねる。


「昏一朗の生身の体は院内にあるのか?」

「位置が確認できない。院内のどの治安維持アンドロイドも確認していないから、病院を抜け出していると見ていいだろう。直接コモンセンスにコンタクトを試みているが通信できない。」


 ケビンはレヴィに確認する。


「レヴィ、その男の行動記録はどうなっている?」

「……昨日の晩からコモンセンスとメメックスが不調だったという会話をして、簡易診断を行った。……そうだな。今日この病院に来る前に父親と会い、口論になって別れている。その直後コモンセンスにバグをきたして通信が途切れて行方不明。それっきりだ。最後の会話は私が病院への行き方を指示している。通信が切れたところから市街地のコモンセンスを確認すると、確かにタクシーで病院に向かっているようだ。」

「……その後病院からどこにいったかわかるか?」

「その時間帯の病院の周囲500mのコモンセンスはバグで記録が残っていないようだ。少し待ってくれ。その時間帯の周囲1km圏内から昏の姿を探し出す……。」


 さらに、ジェームズがリヴァイアサンに尋ねる。


「レヴィ、そいつは一体どんな野郎なんだ?」

「……昏一朗は性格が内向的で大人しいが、人当たりはいい人物だ。交友関係は少なく、民主主義に微かな憧れを抱いている。」

「民衆主義って何だ?」

 ジェームズが疑問を投げかける。

「俺も知らん!黙って聞くんだ。」

 ケビンが注意する。

「ただし何かに、特に夢に関することに熱中すると周りが見えなくなったりする。クリエイターとして生計を立てていて、それ以外に管理者としては働いていない。」


 ケビンがそれを聞いて言った。


「なるほど。民衆主義とやらはともかく、昏は夢遊病を罹患している可能性があるな。」

「聞いた感じ陰気な野郎だ!」

 リヴァイアサンが続ける。

「最後に確認した昏の義体コードはANSB-279_1番、男性型のもので、それ以外に義体やドールは保有していないはずだ。義体の特徴は目は三白眼だが大人しそうな顔つきで、肌の色は黄色人種系、髪の毛はやや長めの黒髪で前髪が目元までかかっている。年齢は23歳、身長が174.8cm、体重は56.3kg、細身の男だ。今日はねずみ色のパーカーとブルーのダメージジーンズ履いている。」

「よし、その映像データを転送しておいてくれ。」

「わかった。」

「他に何か情報は?」

「他に……そうだな犯罪履歴はなく、生活態度にも特に問題はない。積極的に動かないからコモンウェルスへの寄与度が大きく貯まることはないが、減少することも少ないから、細かなポイントが貯まっている。」

「なるほど。そいつのアパートの中は見れるか?」

「アパート……CY-D地(※14)、民呆(※15)のD503号アパート、BK201号室には……誰もいない……いや、これは!コモンセンスの電脳が改ざんされている!室内の映像は6時からループしている(※16)!」

「しかし、部屋の中の状態はわからない訳か。レヴィ!周囲のデータはどうなっている?D503号付近の道路の記録だ。」

「今確認している……。緑色のコートを着た男がアパートに入った記録がある。加えて、病院の方から民群楽(※17)へ向かう昏を発見した!帰宅したのだろう。」

「部屋のコモンセンスは改ざんしても、周囲の記録は改ざんできなかったのか!マヌケな野郎だ!」

「なるほど…昏は何か知っているだろう。少なくとも、アパートのコモンセンスの改ざんを行なっている。昏一朗のアパートに向かおう。レヴィ、令状を発行してくれ。」


 ケビンはリヴァイアサンに要請した。


「OK、発行した。今送」

「いや待て!その必要はない。既に罪を犯しているというなら、感づかれれば逃亡されるぞ!レヴィ、先にインセクトを送れ!」


 それを聞いてケビンは険しい表情で言った。


「ジェームズ。まだ昏が殺したと完全に決まった訳じゃない。お前の取る手はいつも暴力的過ぎる。この前もお前は使用可能なドールのランクを下げられただろう?」

「そうだぞ、ジェームズ!その手は推奨されない!もしここでベネフィシャルインセクトを送ると君らのコモンウェルスへの寄与度が12.2ポイント減点される!ただでさえ君はマイナスが累積しているのに!」

 ジェームズはその声に反論する。

「そんなもんどうだっていい。コモンウェルスよりも、真実を明らかにする方がよっぽど重要だ!」


 それを聞いてケビンが舌打ちをした。


「チッ、仕方ないな。お前の借金は大丈夫なんだろうな?」

「ああ。余裕だ。何ならアイアンギアを要請してやろうか?」

「軽口は程々にしておけ。レヴィ、ベネフィシャルインセクトを昏一朗のアパートに送れ。カーペンター・ビーとホーネットで部屋を包囲して、コックローチとセンチピードを侵入させろ。」

「……わかった。周囲のインセクトと加えてアンドロイドとシェパードを一体ずつ送る。君たちも現地に向かってくれ。ドールはオートパイロットで帰還させる。」

「了解!コモンセンスを切り替える。」


 ジェームズはそう叫び、目を閉じた。次に目を開くとアンティークの偽物だらけの部屋の映像が視界に映った。リビングの椅子に座っていたエリカがジェームズに話しかける。


「ジェームズ、見ていたわ。これから被疑者のアパートに行くのね。」

「そうだ。面白くなってきた!」

「あまり過激な捜査はしないようにね。」

「ああ。レヴィ、俺を飛ばせ!」


 ソファに座りながらジェームズが叫んだ。


「オーケー、ジェームズ!次の接続先は民呆町の治安維持管理署だ!周辺のデータを送信する!」


 リヴァイアサンの声を聞くとジェームズは目を閉じ、脳波認証を行いコモンセンスを接続した。コモンセンスの接続が完了するとカプセルの蓋の裏側が見えた。ジェームズはすぐに蓋を開けて、黒いスーツを着て格納庫から事務室へ飛び出した。


「あら、ジェームズ、今度は早いのね。ケビンはまだよ。」


 当直のアンドロイド、ローレルがジェームズに声をかける。


「トロい野郎だ!そりゃそうか、奴ももうジジイだからな!」

「誰がジジイだって?」

 ジェームズの背後に立ったケビンがジェームズを睨みつけた。

「周辺のデータは確認したのか?」

「勿論だ!D503アパートは駅の近くの公園の向かい、地胎尊(※18)のあるアパートだ。」

「よし、ニュートラライザーは持ったな?」

「ああ。」


 ジェームズは腰にかけた銀色の銃を確認した。


「では出動だ。」


 ケビンとジェームズは署から出た。2人は風化が進んだ夢を売る店がいくつも立ち並ぶ町を歩いた。


「いつ来てもカビ臭い街だな。ここは。」

「今や珍しい訪問型の夢見街だからな。」

「売る方も買う方も、ここには夢見る重度の阿呆しかいない。」


 2人がメトロの線路にさしあたったあたりで、リヴァイアサンがコモンセンスに語りかけた。


「ジェームズ、ケビン。インセクトを向かわせたが室内には誰もいないようだ。アンドロイドは待機させている。」

「なるほど。どうする?ケビン?」


 2人がメトロの踏切を超えて道を進むとジェームズの目には大量のクマバチとスズメバチが飛んでいるアパー(※19)が見え始めた。青い制服を着たアンドロイドが1人と機械の身体でできた犬がそれを見張っていた。アンドロイドが2人に気づき近づいて来る。


「4-88896-21_4-6号で(※20)。インセクトに反応はありません。」


 それを聞いてケビンが言った。


「レヴィ。昏一朗のコモンセンスは繋がらないんだな?」

「ああ。繋がらない。」


 ケビンが少し考えて言った。


「……念のため目視で部屋の中を確認しよう。」


 リヴァイアサンが答えた。


「わかった。アンドロイドを付ける。三人で確認してくれ。」

「了解。」


 3人は騒がしい羽音がする中でその古いコンクリートの建物に入っていった。


「ボロ臭いアパートだな。シケたところに住んでやがる。」

 階段をのぼりながらジェームズがこぼした。

「余計な口をきくな。」


 3人が2階の廊下に立つとその床には無数のゴキブリとムカデがうごめき、扉の前はハチの群れが飛んでいた。3人が歩くと虫たちは通り道をあけた。


「いつ見ても凄まじい光景だな。俺は絶対にバグズにはなりたくねえ。」

「自分でやっておいて何を言っているんだ。お前は。」 


 3人がBK201号室の近くに来ると中から小さく声が聞こえる。

「部屋に人がいるのか?」

 ケビンが声をひそめていった。すると、リヴァイアサンが囁く。

「そんはずはないが……。ニュートラライザーを準備しておいてくれ。レベルは2、ブルースクリーン・テイザーだ。ケビン、無線透視で中の様子を探ってくれ。」


 ケビンは壁の向こうを透視した。モノクロの映像がケビンの視覚に映る。部屋の中は蠢くゴキブリとムカデの身体で埋め尽くされている。その中心にあるソファには星のエンブレムのついた帽子と古びたマント、そして長鼻の仮面と斧が掛けられていた。奥の部屋には人間とbio-Aが動いている姿が見えた。


「人間が1人とbio-Aが1匹、奥の部屋にいる。仮面や斧もある。」

「なんだと?」

 ケビンはそのまま聴覚を強化し、コンクリートの壁に耳を当てる。

「水が流れる音がするな。」

「どうなっているんだ?レヴィ?」

「わからない。昏はなんらかの手段でコモンセンスを改ざんできるのかもしれない。ジェームズ、突入したらすぐに昏を無力化するんだ。」


 ケビンが耳を壁から離した。


「気をつけろよ。ジェームズ。」

「了解。おい、4-6号。突入するぞ。」

「了解です。」


 アンドロイドがニュートラライザーを構えて返事をした。


「3…」


 ケビンの視界に奥の部屋からbio-Aが走ってくるのが見えた。


「bio-Aが近」

「2.」

「づいてッ」

 ジェームズがカウントを終える前に扉が開いた。


「ご機嫌よう。何の用かな?」


 足元から声が聞こえたと思うとそこには真っ黒の体毛でピンと三角に立った耳、丸い目で短い足のびしょ濡れになった小型bio-Aがいた。


「bio-Aが喋った!?」


 2人は面食らってたじろいだ。すぐに奥の部屋からぼろぼろの詰襟の学生服を着て、銀色の棒状の装置、ドリームキャッチャ(※21)を持った三白眼の男が現れ叫んだ。


「二ル!さがれ!」

「昏一朗!」


 ジェームズがそう声を発し、引き金を引こうとしたその時、視界が真っ赤な閃光で埋まり目がくらんだ。


「事件だ!起きろ!ジェームズ!」


 治安維持管理者、ジェームズのコモンセンスにけたたましい叫び声が響い(※22)



脚注:

※1 https://www.ecosia.org/search?q=The+Ward+of+Shinjuku

※2 https://www.ecosia.org/search?q=%E6%97%A9%E7%A8%B2%E7%94%B0%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%83%87%E3%83%9F%E3%83%BC

※3 https://www.ecosia.org/search?q=Aoi+Erica

※4 https://www.ecosia.org/search?q=%E6%81%8B%E3%81%AF%E3%83%87%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BB%E3%83%96

※5 https://www.ecosia.org/search?q=%E6%81%8B%E3%81%AF%E3%83%87%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BB%E3%83%96

※6 https://www.ecosia.org/search?q=%E8%AD%A6%E5%AF%9F%E5%AE%98%E8%81%B7%E5%8B%99%E5%9F%B7%E8%A1%8C%E6%B3%95%E7%AC%AC7%E6%9D%A1

※7 https://www.ecosia.org/search?q=Wakamatsu-Kawada+Station

※8 https://www.ecosia.org/search?q=%E6%96%B0%E5%AE%BF%E5%8C%BA%E6%B2%B3%E7%94%B0%E7%94%BA

※9 https://www.ecosia.org/search?q=%E3%83%8E%E3%82%A4%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88%E3%80%80%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF

※10 https://www.ecosia.org/search?q=出版書誌データベース

※11 https://www.ecosia.org/search?q=出版書誌データベース

※12 https://www.ecosia.org/search?q=出版書誌データベース

※13 https://www.ecosia.org/search?q=Philip+K+Dick

※14 https://www.ecosia.org/search?q=The+Ward+of+Chiyoda

※15 https://www.ecosia.org/search?q=Kanda+Jimbocho

※16 https://www.ecosia.org/search?q=%E6%81%8B%E3%81%AF%E3%83%87%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BB%E3%83%96

※17 https://www.ecosia.org/search?q=%E7%A5%9E%E6%A5%BD%E5%9D%82%E4%B8%8A

※18 https://www.ecosia.org/search?q=Jizo+Bosatsu

※19 https://www.ecosia.org/search?q=%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E9%83%BD%E5%8D%83%E4%BB%A3%E7%94%B0%E5%8C%BA%E7%A5%9E%E7%94%B0%E7%A5%9E%E4%BF%9D%E7%94%BA%EF%BC%92%E4%B8%81%E7%9B%AE%EF%BC%91%EF%BC%90%E2%88%92%EF%BC%91%EF%BC%90

※20 https://www.ecosia.org/search?q=出版書誌データベース

※21 https://www.ecosia.org/search?q=%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%B6%E3%83%BC

※22 https://www.ecosia.org/search?q=%E6%81%8B%E3%81%AF%E3%83%87%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BB%E3%83%96

※タイトル https://www.ecosia.org/search?q=Men+in+Black

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。加えて、このなかで語られた言葉はいかなる真実をもふくみません。

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