家にて一時休息
世界が崩壊している中で、物資をかき集めてクラフトする作業は、これからの戦闘が楽しみになりますね。
俺は渡されたカバンを開ける。
中にはタオルが入っていた。
「それで何回か使えるんじゃない?あとカバンももっといた方がいいよ」
「は、はい」
いいのかな?
町中ゾンビだらけで、生き残るためにはなんでも、利用しなければ生き残れない。
分かってはいるのだが、人の物を勝手に使うのは気が咎める。
俺は罪悪感を感じながら、カバンを背負った。
そして山根さんと共に、小春公園へ向かった。
道中ゾンビが来ると、拾っておいた空き缶などを投げ、ゾンビの気を引いては背後から、ナイフを刺して一撃でとどめを刺す。
その後とどめを刺す刺したのち、ゾンビからナイフを回収し血を拭う。
だがそれが上手く行くのは、ゾンビが一体の時だけ、時折複数体の群れのゾンビが出れば、走って逃げるしかない。
そのせいで小春公園までなかなか辿り着くことが出来ない。
そうして移動を続けてから、気がつけばあたりは暗く夜になっていた。
「大分暗くなってきたね」
と山根さんが辺りを見渡し話しかけた。
「そうですね」
さてどうしよう。
懐中電灯なんて持っていない。
こんな状態で、移動を続けてしまったらかなり危険だ。
「近くの開いてる家に入りましょう」
「そうですね」
山根さんも同意して、警戒しながらすぐ近くの家の玄関を開けた。
「やった、開いてる」
山根さんは、嬉しそうに家の中に入ろうとする。
「待って!」
俺は慌てて山根さんを止める。
山根さんは俺の方を振り返った。
「もしかしたら中にゾンビがいるかも」
俺はそういい、山根さんの所へ急いで向かう。
「先に入ってみます」
「うん、お願い」
山根さんを背に家の中に入る。
他人の家の独特な匂い、コンクリートの床に、木造の玄関。
すぐ横には金魚鉢があり、中でぶくぶくと泡を立てている機械、そして二匹の金魚が泳いでいる。
俺は暗い玄関をあがり、警戒しながら中の部屋をひとつひとつ確認した。
「誰もいないな」
1階の部屋の確認を終え玄関に戻る。
「1階は誰もいませんでした」
そう言って玄関で待っていた、山根さんを部屋の中へ入れた。
「2階を見てきます」
「分かった」
「玄関の鍵閉めといてください」
俺はそう言って2階へ上がった。
2階は部屋はひとつ、中に入り電気をつけた。
入ると学習机やおもちゃ、ぬいぐるみが目に入る。
「子ども部屋か...」
そう言って周りを見渡し、念の為タンスなどを開けたが、誰もいないこの家は安全だと判断した。
俺は1階へ戻った。
「ゾンビはいませんでした」
そう言って、山根さんのいるリビングの椅子に座った。
「よかった」
山根さんは安堵し、そのままソファーに座った。
安全だとわかった瞬間俺のお腹がなった。
「お腹空いた...」
そういえば朝から何時間も食べていない。
安心感が芽生えると同時に、胃が空腹を訴えてきた。
俺は立ち上がり、キッチンへ向かう。
「何かあるかな」
多少罪悪感を感じつつ冷蔵庫を開けると、生肉や野菜が中に入っていた。
どれも調理しないと食べられないものばかりだ。
どうしよう、料理なんて出来ない。
俺は頭を抱えた。
「色々あるね」
俺の横で山根さんは冷蔵庫の中を見た。
「山根さんは料理できます?」
俺は聞いてみた。
「その言い方だと、桜くんは出来ないのかな?」
山根さんは、こちらを見ていやらしげに口角をあげた。
「...出来ないです」
「ふふっ、じゃあ作ってあげますか」
そう言って、山根さんはいくつかの材料手に料理を始めた。
しばらくの間待っていると、いい香りが漂ってきた。
「はい、ほうれん草の卵炒めとガリバタチキン」
山根さんが持ってきた皿には、美味しそうな料理が盛られていた。
「おお...」
俺は食い入るように見つめる。
「こっちがあなたの分」
そう言って皿を俺の前に出した。
「いいの?なんか俺の分多いけど」
見れば明らかに山根さんの方より多い。
「その分しっかり働いてもらうから」
「なるほど...」
俺は頷き手を合わせる。
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
まずはガリバタチキンを1口、ニンニク、醤油そしてバターの香りが口の中に広がる。
肉は鶏肉のこれはむね肉なのだろうか、歯ごたえがあるものの美味しい。
「本当はもも肉の方が美味しんだけど...」
残念そうに山根さんはつぶやく。
どうやらこの家にはなかったらしい。
「めちゃくちゃ美味いです」
俺はそう言って、ほうれん草の卵炒めを食べた。
醤油で味付けされており、これもまたとても美味しい。
(手料理を食べたなんていつ以来だろうか)
久々の料理に舌鼓を打ちつつふと思い馳せる。
一人暮らしの時は自炊に挑戦していたが、結局3日で諦めた。
ほとんどカップラーメンと、近所の半額になった弁当ばかりだった。
それにしても...
「ご飯が欲しくなるな」
俺は呟き立ち上がった。
なんか無いかな?
探して見よう。
「やめといた方がいいよ」
すると、山根さんは食べながら俺を止めた。
「なんで?」
「後悔するから」
「どういうこと?」
俺は尋ねるも山根さんは何も言わない。
少し悩んだが俺はキッチンへ向かうことにした。
まずは炊飯器を開けた、瞬間酸っぱい匂いが鼻につく。
「腐ってる...」
俺は鼻を塞ぎ炊飯器を閉じた。
何日もこの中にあったであろうご飯は、激臭を発する危険物質に変わっていた。
俺は他に、ご飯の代わりになりそうなものを考えた。
「食パンとか無いかな?」
早速探してみると、キッチンの上にある戸棚の中に、袋に入っている食パンを見つけた。
早速戸棚から取り出すも、白いはずの食パンが変色していた。
「カビてる...」
俺は諦め戸棚に戻した。
「ん?」
ふと、戸棚の中に綺麗にラッピングされている小箱が目に入った。
取り出してみると、1枚のメッセージカードが貼ってあった。
『Happybirthday
宮田 こころちゃん』
俺は何も言わずその小箱を元に戻す。
もしこんな事が起きなければ、この名前の書いてある子は貰えるはずだったもの。
だが、今となってはただの置物になっている。
この子は避難できたのだろうか。
ほんの数日まであった日常と、今現在の置かれている非日常の変貌に俺は気分を悪くした。
俺は表情暗くして戻ると、山根さんがやっぱりと言わんばかりの目で見た。
「見たんだ」
「はい...」
「だから言ったのに」
そう言って山根さんは手をあわせ、ごちそうさまと言いリビングから出た。
俺は無心で冷めてしまった料理を食べた。
次の日
お互い別々の部屋で眠り夜が明けた。
山根さんはキッチンで朝食の準備をしている。
俺は外に置いてあった竹箒の穂先を解体し、1本の竹に戻す作業をしていた。
「何しているの?」
山根さんが朝食の皿を持って俺に聞いた。
「新しい武器を作ってるんです」
俺はガムテープを取りだし答えた。
そしてキッチンにある包丁を、竹の先端にぐるぐる巻きつけた。
竹の槍の完成だ。
「できた」
俺はそう言い竹の槍を掲げた。
これで戦いが楽になる。
それから朝食を取るため、リビングのダイニングテーブルに座った。
「いただきます」
俺は手をあわせ早速朝食を食べた。
今日の朝食はスクランブルエッグと焼き鮭、そしてインスタントのコーンスープだ。
どれもうまい。
「それにしても、こんな世の中なのに電気が通ってるって不思議よね」
山根さんが、スクランブルエッグを食べながら話しかけてきた。
「どういうこと?」
「だっておかしいじゃない、町中ゾンビだらけなのに、どうしてまだ電気が使えるのかしら」
「ああ、そうか」
俺は彼女の疑問に納得した。
「何か知ってるの?」
「ああ、端的に言ってほかの県は無事だからだよ」
俺はコーンスープを啜り答えた。
「どういうこと?」
「このバイオテロは、俺たちの住むS県と他に3つの県に起きてるんだ」
「本当?」
「ああ、人口が多い所を狙ったんじゃないかって、ネットニュースでは言ってたよ」
「そうだったんだ」
山根さんは驚いた顔でこちらを見た。
「だからこの県から出れば安全なんだ」
「知らなかった」
そういえば...
「山根さんは俺に会うまで何をしてたんだ?」
すると山根さんの表情が暗くなる。
「ああ!ごめん、聞かない方が良かったね...」
俺は慌てて弁解した。
馬鹿か俺は!
デリカシーないにも程があるだろ!
「ずっと必死に逃げてきた...」
すると山根さんがぽつりと答えた。
「あの日、毒ガスが撒かれた日から、マンションの人達と屋上に避難してたの」
「マンション?」
「うん、お父さんとお母さんと一緒に暮らしてたの」
ここらのマンションは、どれも高級なとこばかりだ。
もしかして、山根さん結構お金持ち?
「でもすぐに食べ物がなくなって話しあいが始まったの」
「話し合い?」
「うん、誰が食料を調達に行くのかの話し合い」
なるほど、確かに誰が取りに行くのかはかなり重要だ。
この場合だと力のある若い人が行くべきだろう。
「それで私が選ばれたの」
「へ?どういうこと?」
俺は驚き山根さんをまじまじと見る。
体型はかなり細く華奢な印象だ
どう考えても重たい物を運べるとは俺は思えない。
「避難した人は私以外が、高齢者だったから」
そう言って山根さんは顔を俯けた。
そうか、そういう事か。
本来なら力のある若い男性が行くべきである。
だがガスが撒かれた時は昼間だった。
そんな時間にマンションにいるのは、高齢者の人が圧倒的に多いのだろう。
「なんで、山根さんはその時マンションにいたんだ?」
「たまたま体調が悪くて寝込んでたの」
なるほど、それはかなりの不運だ。
「お父さんもお母さんも、私に行かせないよう頼み込んだけどダメだった...」
「それで行かされたのか」
「うん、カバンとか色々持ってたけど、ゾンビに途中掴まれかけて落としちゃった」
山根さんは、俺の後ろのタンスに立て掛けてある鉄パイプを見た。
「結局残ったのはそれだけ」
なるほど、最初に合った時大事そうに、鉄パイプを抱きしめていたのか。
「でも、そろそろ御役御免ですけどね」
俺はそう言って、ソファーの下に転がってる竹の槍を掴んだ。
「次はこれで仕留めます」
俺は自信満々に竹の槍を掲げた。