初めてのバックスタブ
最初ろくに武器もない中、あいつはステルスキルで、奥にいるやつは、近づく前にハンドガンで対処して...と言った感じで考えながら、プレイするのが最高にすきです。
俺は、山根さんと共に小道へ駆け込んだ。
あの大通りを移動するのは、危険すぎると判断したからだ。
ここまで大通りにいたゾンビから逃げるため、囲まれないよう大分走り回った。
俺は、かなり息が荒れ喉が乾いてきた。
山根さんは大丈夫だろうか。
周りを、警戒しながら山根さんに話しかけた。
「山根さん、疲れてないですか?」
「...菜乃花」
すると山根さんがぽつりと呟いていた。
「へ?」
「私の名前、山根菜乃花って言う。」
そう言われて、俺は彼女に自己紹介をしてないことに気がついた。
「あ、えと俺は」
「桜陽介さんですよね」
「は、はい」
彼女は俺の顔をまじまじと眺める。
「な、なにか...?」
「本当に助かるって思ってます?」
「それは...」
俺は言葉に詰まる。
正直分からない。
でも
「助けるって決めたんです」
「正気ですか?」
「はい」
俺は答えた。
「何がなんでも俺は、貴女を助けます」
山根菜乃花さんを助ける。
それが、あの人の成し遂げようとしていた使命だった。
そして俺は、その使命を引き継ぐと決めた。
「変な人」
山根さんはキッパリと言い放った。
「そんな...」
結構勇気を持って言ったのに。
「でも、よろしくお願いします」
「はい、頑張ります!」
俺は声をはり山根さんと小道を進んだ。
さて、まずは状況確認だ。
今の目標の避難場所となっている小春公園へ向かうこと
ここから、大体数キロメートルの場所だが、細かい道のりは分からない。
たしか最後に行ったのは、中学生の時だった気がする。屋台が出て、なにかのお祭りをしていた時立ち寄った記憶がある。
と頭の中で道のりを、思い出そうとしてた途端
「桜くん...!」
山根さんが指を指した。
「ぅぅぅ...」
見ると小道の先からゾンビが、俺たちに向かって近づいて来る。
「くそ...!」
俺は鉄パイプを構えてゾンビに対峙した。
この道は車1台しか通れないほど狭い、そのためゾンビの横を通ることは出来ないと判断したからだ。
近づいて来るゾンビ、その腕に鉄パイプを振り下ろす。
掴まれないよう右腕、左腕と順番に腕を折る。
そして足の脛を狙い転ばす。
そして頭に何度も鉄パイプを振り下ろす、合計7回振り下ろしてようやく静かになった。
「行きましょう」
俺は、荒くなった息を整え山根さんに声をかける。
「うん」
山根さんは、倒れたゾンビを警戒しつつ、俺の側まで近付いてきた。
と、その時
「ぅぅ...」
またもゾンビの唸り声がする。
俺は急いであたりを見渡す。
「どこだ...?」
周りを見るも、ゾンビの姿はない。
細いアスファルトの道路に、家の塀が並ぶ小道、そして停車している車。
「まさか」
俺は目の前の1台の車に注目した。
そしてしゃがんで車の下を覗き込んだ。
瞬間
ゾンビと目が合った。
「うわあああ!」
俺は急いで立ち上がり鉄パイプを両手で握りしめる。
ゾンビは車から這い出てきた。
立ち上がる前に仕留めなきゃ!
俺はゾンビに近づいて、鉄パイプで頭を殴る。
と殴られたゾンビは俺の左足を掴んだ。
「やめろ!」
俺は急いで足を引く。
ずるりと靴が脱げたが怪我は負ってない。
「危ないとこだった...」
俺は一安心し、立ち上がろうとしているゾンビに、再度鉄パイプを振る。
合計10回で大人しくなった。
「終わった...」
俺は息も絶え絶えに呟いた。
「大丈夫?」
山根さんが心配そうに声をかけた。
「だい、じょうぶ」
そう返したが山根さんの表情は優れない。
心配してくれてるのだろうか。
俺は顔から流れた汗を拭った。
そして、荒くなっていた息をゆっくり整える。
ここまで体力がなかったとは...
自身の体力の無さを痛感した。
ここまでゾンビから逃げたり、倒したりとここまでずっと体を動かし続けた。
「こんなに動いたのは久々だ...」
俺は小声で呟き靴を履く。
正直に言って自分の体力に限界が来ていた。
山根さんを助けるといった手前、弱音を吐く訳には行かない。
しかしどうにかしないと
ゲームなら、体力が上がるようなスキルポイントなどあるのだろうが現実にはない。
となると戦い方を変えなければ...
現状一体のゾンビを仕留めるのに、10回は鉄パイプを振らないと行けない。
体力のない自分では、連戦はかなりきついという事がわかった。
「行きましょう」
俺は山根さんに告げ移動を再開する。
「本当に大丈夫ですか?」
心配そうに山根さんは俺を見る。
「このままだと結構ヤバいです」
「え...?」
「思ってたより俺、体力が無いみたいなんです」
「ですよね、かなり息も上がってるみたいだし」
「正直かなりしんどいです」
俺は歩きながら正直に答えた。
「ぁぁぁ」
またもゾンビの声が聞こえてきた。
「でも、次は方法を変えます」
そう言って、目の前からやってくるゾンビを見据えた。
頭を捻れ俺。
他に武器となるものは、サバイバルナイフのみ。
俺はサバイバルナイフを取り出した。
自衛隊で、使われるものだから刃先はかなり鋭い。
だが、正面で戦うにはリーチが無さすぎる。
「となると...」
俺は素早く周りを見渡した。
「山根さんこっちです!」
「う、うん」
山根さんの腕を取って、左の曲がり角まで走る。
そしてすぐ近くにある電柱に隠れる。
「よし、ここで待ってて」
「分かったけど、どうするの?」
「これで仕留める」
そう言ってサバイバルナイフを見せる。
「本当に?」
「はい」
俺は、返事を返し素早く曲がり角まで走った。
曲がり角でそっと覗くと、ゾンビはゆっくりと近づいて来る。
俺は、近くに落ちていた空き缶を拾った。
「やってみるか」
そう言って空き缶を投げた。
空き缶はゾンビのすぐ後ろに落ちた。
カランと軽快な音が鳴る。
するとゾンビは後ろを振り返った。
「いまだ...!」
俺は声を押し殺し、ゾンビに近づく。
目測距離3メートル。
まだ気づかれていない。
さらに近づく
サバイバルナイフを構える。
距離2メートルを切った。
「あああ...」
ゾンビはそのまま立ち尽くしている。
まだ気づかれていないはず...!
そして目の前
足音を立てず忍び寄る。
俺はバクバクとうるさい心臓を必死に押え、さらに近づく。
(振り返るな...!)
ゾンビは何も言わず立っている。
ゆっくりとナイフを持った腕を上げる。
狙いはゾンビの首元
そして
「ふっ」
刺した。
ザクっと手に感触が伝わる。
それと同時に、暖かい何かに指に這ってきた。
それは血だった。
吹き出たゾンビの。
と、ゾンビが動き出した。
「!」
俺は急いでナイフから手を離し走り出す。
距離を取り鉄パイプを構える。
ゾンビはナイフが刺されたまま、首から血を流しこちらへ向かってくる。
だがすぐに倒れた。
俺はしばらく観察していたが、ゾンビはピクリとも動かない。
「やった...」
俺は呟いた。
上手くいった!
ゲームでよくある背後から致命傷を与える技。
バックスタブ
「本当に成功するとは」
見よう見まねの攻撃だが上手くいった。
あとはナイフを回収するだけ。
「終わった...?」
見ると山根さんが、俺の所へ駆け寄って来る。
「なんとか、上手くいきました」
俺はそう言って親指を立てる。
と
「へ!?血が!!」
山根さんが俺手を見て血相を変える。
「...あ」
俺は血まみれの手を見る。
しまった手に血が着いてるんだった。
バックスタブが、上手く決まった時の高揚感で忘れていた。
「だ、大丈夫です!返り血なんで!」
俺は慌てて説明する。
とにかく急いで洗わないと
ゾンビに噛まれると、感染するとは聞いていた。
だが血に触れた場合はどうなんだろう。
感染するのだろうか?
このまま放置する訳にもいかず、俺は手を洗う方法を考える。
どうしよう、ハンカチなんて持ってないし、水場なんて誰かの家に入らないとできないぞ。
「はい」
すると山根さんが、ポケットからハンカチを取りだした。
「あ、ありがとうございます」
俺は、お礼を言ってハンカチを取る。
手を拭いその後返そうとするも、「いらない」と言われた。
まあ、血の着いたハンカチなんて返されても困るよな
「さて」
俺は横たわっているゾンビに近づいた。
そしてハンカチで包むように、刺さっているナイフを取り出す。
見ると持ち手まで血で汚れていた。
「うーん」
困ったな。
バックスタブなら、体力を消費せず仕留められるが、ナイフが血だらけになってしまう。
俺は刃の血をハンカチで拭った。
「本当にナイフで仕留めたんだ」
山根さんが俺のナイフ見ながら話しかけてきた。
「はい、音に反応させて後ろから刺しました」
「血だらけになっちゃたね」
「そうですね」
ナイフの持ち手に、ハンカチを巻きながら答える。
「これなら次は大丈夫かな」
「次?」
「はい、これで次同じように仕留めたら、ハンカチを取るんです」
こうすれば血で汚れても、ハンカチを取るだけで持ち手に血がつかない。
「じゃあ、その次は?」
「えっと、どうしよう...」
うっかりしていた。
俺はポケットを漁るが、次に巻く布なんてない
自分の服装は白いTシャツとジーンズのみ、さすがにTシャツを脱ぐわけにもいかない。
俺が悩んでいると、山根さんは車の元へ向かった。
何となくその行動を見ていると、山根さんは車の中に様子を見ているようだ。
「あ、ラッキー」
そして躊躇いなく車を開ける。
「ちょっと!山根さん!?」
俺は慌てて山根さんの元へ向かう。
「なに?」
山根さんは、車の中で物色しながら俺に聞き返した。
「車上荒らしじゃないですか!」
「だから何?」
「なにって...」
山根さんは、車の中から出て俺にカバンを渡した。
「そんなこと気にしてる場合じゃないでしょ」
(ええー...)
俺は渡されたカバンを持ちながらジト目で山根さんを見た。