引きこもっていれば何とかなる、そう思ってた時期もありました。
人生初めて投稿します。
見切り発車の為もしかしたら続かないかも...
バイオテロといえばゲームや洋画でよく耳にする。
俺、桜陽介もよくその手の作品を、見たり遊んだり楽しんでいた。
でもまさか
本当に起きるとは...
大学受験に全て落ちた俺は、浪人生という名のただの引きこもりになっていた。
勉強する気も起きず、ただただ毎日一人暮らしのネトゲ三昧の生活を送っていた。
そんなある日、いつも通りネトゲをプレイしている中、住んでいるアパートの外で破裂音が聞こえてきた。
最初は近くの悪ガキが、爆竹で遊んでいるだけだと思っていたが、しばらくして悲鳴が聞こえてきた。
気になってカーテンを開けると、そこは阿鼻叫喚としていた。
緑色の煙に覆われ、外にいた人達が次々と咳き込み倒れていくではないか。
ただ事では無い様子に俺は急いでネットで調べた。
調べると、俺の住むS県全般に謎の煙が撒かれてたと報道していた。
バイオテロ
そうニュースキャスターは告げた。
「嘘だろ...」
俺は呟きその場に立ちつくした。
『S市にお住まいの方は、絶対に家から出ないようにお願いします。』
ニュースキャスターは繰り返し何度もその言葉を発した。
それから七日経った。
最初何日かは、悪い夢だと考え家に引きこもった。
幸いにも、カップラーメンを大量にストックしていた為食事には困らなかった。
水も出るし、電気もいつも通り使える。
俺は事態が収束するまで引きこもろうと決心した。
だが現実は非情だった。
いつまでたっても助けは来ない。
食料は今日の朝で食べきってしまった。
それなのに事態は収束するどころか、さらに悪化してしまった。
俺はカーテンを開け街の様子を見た。
そこには数日前と、変わり果てた街の人達がいた。
目は虚ろで生気がなく、ノロノロとした動きで周りを徘徊している。
いわゆる、ゾンビと言うやつになってしまったようだ。
ネットだと、生きている人間を襲い捕食する映像が流れていた。
「どうしよう...」
俺はつぶやき、部屋の中をぐるぐると歩き回る。
こうなってしまうとゲームなんかしていられない。
どうにかしないと、このまま餓死してしまう。
だが何度もネットで助けを求めても、誰からも連絡は来ない。
外に出るべきだろうか...
俺は窓を見た。
すると、外に緑色の服を着た人が見えた。
「自衛隊だ!」
俺は、叫び急いで玄関の扉を開け走り出した。
助かった!
俺は安堵と共に自衛隊員の元へ向かう。
見ると他にも生存者が1人いる。
「助けてください!」
俺は二人に向かって大声で叫んだ。
自衛隊員と、その横にいる女性が俺の方に振り返った。
女性は黒髪のポニーテールで、白色のパーカーを着ており暗い青系のジーンズを履いている。
そして両手には、1本の鉄パイプを抱きしめるように握っていた。
「君は、そうか良かった...」
自衛隊員は、俺を見るなり安堵の表情浮かべてた。
しかし女性の方は、その言葉を聞き顔を青ざめた。
「近くに隠れそうな場所はありますか?」
自衛隊員さんは俺に尋ねる。
「あ、俺の家ならすぐそこにありますけど」
「では一旦そちらへ向かいましょう、ここは危ないですから」
そう言って、自衛隊員さんは俺の後ろを見た。
「ううう、あぁ」
うめき声が聞こえ、振り返るとそこにはゾンビがいた。
「やば!」
ゾンビは両手を前に出して、1歩1歩ゆったりとした足取りでこちらに近づいて来る。
逃げないと!!
「大丈夫です。落ち着いてください」
自衛隊員さんが,俺を宥めるように声をかけた。
「足取りは遅いので、早歩きで撒くことができます。」
「は、はい」
俺は近づいて来るゾンビに、ジリジリと後ろ歩きで距離を取る。
「お家まで、案内して貰えますか?」
「こっちです!」
自衛隊員さんと女性を連れ、俺の家まで駆け足で戻る。
「お名前を聞いてもいいですか?」
家に戻ると、自衛隊員さんが俺に尋ねてきた。
「あ、俺桜陽介って言います」
玄関の鍵を掛けながら俺は名前を名乗った。
「では桜くん、聞いてください」
「え?あ、はい」
「小春公園は知ってますか?」
「はい」
小春公園といえば、俺の家から数キロ離れた所にある。
公園とはいっても、近くには公民館と体育館がありテニスコートもある、そこそこ大きな公園だ。
「そこが今、1番近い避難場所に、なっています」
「避難場所...」
やった、以外と近くにあったなんて...!
俺はその言葉に、嬉しさが込み上げてくる。
すると、自衛隊員は女性の方を向いた。
「山根さん」
「嫌!!」
山根さんと呼ばれた女性は大声叫んだ。
俺は目を点にし女性の方を見る。
「落ち着いて、聞いてください」
「本当に嫌なんです!」
山根さんは何度も首を振る。
なんだ、何の話だ?
まさか俺と一緒に行くことがそんなに嫌なのか?
もしかして男性恐怖症とか?
だが今は、緊急事態なのだから我慢して貰いたい。
俺は少しカチンときて、なにか一言言ってやろうと口を開いた直後
「桜くんと、二人で、向かってください」
「え?」
俺は、言おうとした言葉と違う言葉が出た。
二人は俺の方を向いた。
「なんで...?どういうことですか?」
俺は自衛隊員に向かって問い詰めた。
「桜くん、聞いてください、私は、もう感染しているんです」
「へ...?か、感染している?」
そういうと自衛隊員は、自分の右腕を俺に見せつけた。
「うわ...」
深緑色の袖から、赤黒い色をした液体が染み出ていた。
「噛まれてもう、一時間は、経っています...」
「それってまずいんじゃ...」
ゾンビに噛まれてしまうと感染してしまう。
ネットで得た情報だと、半日でゾンビに変わってしまうって書いてあった。
すると目の前で、自衛隊員さんが膝を崩した。
「大丈夫ですか!」
俺は、自衛隊員さんに近づき顔色を見る。
顔からは、大量の脂汗が滝のように流れていた。
「実は、もう意識も、朦朧として...」
苦しそうに自衛隊員はつぶやく。
「なので、お二人だけで、お願いします」
「無理です!立ってください!」
山根さんと呼ばれた女性が、必死に自衛隊員の肩を揺さぶる。
だが自衛隊員さんは動こうとしない。
いや、違う
よく見ると体が震えている、それに歯を食いしばり噛まれた腕を押さえている。
耐えているんだ。
意識を失わないように。
俺はこの人の、深刻な状況にようやく気づいた。
それと同時にこの人の凄さにも。
どれほど辛いものだっただろうか。
自分が感染してしまった恐怖。
自我が保てなくなっていく恐怖は。
それでも、山根さんと歩いた。
助けるために。
避難場所へ、一緒に山根さんと共に向かった。
たとえたどり着いても、自分が助からないと知った上で。
だから最初、俺の顔を見た時に安堵の表情を浮かべたのか。
こんな立派な人がいたなんて。
国のために働き、国民を守るため働いた。
今も本当は、辛いだろうに苦しみ耐えている。
俺なら絶対に耐えられない。
俺なんかこの人の足元にも及ばない。
俺は今までの自分の考えの甘さに後悔した。
「分かりました」
俺は静かにそう答えた。
自衛隊員さんは、俺の方を向き表情を和らげた。
「これを...」
自衛隊員さんは、持っていたサバイバルナイフを俺に渡した。
「銃はもう打ち切ってしまったので,これしか無いのですが...」
「十分です」
俺は自衛隊員さんに頭を下げた。
「それと、これもお願いできませんか?」
そう言って自衛隊員さんは、銀色のキーホルダーみたいなものを俺に渡した。
「これは?」
「ドッグタグというものです」
「これがあの...」
名前だけなら聞いたことがある。
映画とかでよく耳にする。
自分の個人情報などが書かれたペンダントだ。
俺はそのドッグタグをまじまじと眺める。
よく分からない番号や、アルファベットが書いてある。
その中で辛うじて、俺でも読める文字があった。
Ryuzi Maeda
「前田 リュウジ...さん」
「はい、りゅうじは、西郷隆盛の隆に、二郎の二です」
前田隆二
憶えた。
もう二度と忘れないよう記憶に刻んだ。
「山根さん、行きましょう」
俺は、前田隆二さんの肩を掴んでいる、山根さんの腕を取った。
「やめて!」
だが、すぐに手を振りほどかれる。
「それ以外に方法は無いんです」
俺は言い切った。
「でも!でも...」
「お願い、します」
前田さんが苦しそうに、山根さんに頭を下げた。
「...」
山根さんは何も言わなくなった。
俺は、山根さんの手を取り家の外へ出た。
2階のアパートから、下を覗き込み周りを見渡す。
ゾンビの数は三体。
まだ気づかれてない。
俺は渡されたナイフを見た。
倒せるだろうか?
頭の中で戦い方を、シュミレーションしてみるも、正直勝てるビジョンが浮かばない。
ゲームならボタン押すだけで、かっこよく相手を仕留めるのだろう。
だが俺にそんなに技術はない。
ならば方法はひとつ。
「山根さん行きましょう」
俺は道に徘徊しているゾンビから、大きく距離を取りながら駆け足で移動する。
逃走
それしか方法はない。
山根さんは何も言わず、俺の手を引かれるままに駆け出してくれた。
だがその表情は暗い。
(不安だよな)
自衛隊員の前田隆二さんに比べ、俺のような引きこもりの頼りない奴と、一緒に行動するなんて、不安でたまらないのだろう。
気持ちは分かる。
俺は何も言わずに移動を続けた。
しばらく歩くと大きな通りに着いた。
「嘘だろ...」
俺は息を飲んだ。
四車線に密集して並ぶ大量の車たち。
どこからか、鳴り続ける車のブザーの音。
立ち込める強烈な臭気。
そして大量の死体が散乱していた。
散乱した死体には、ゾンビたちが群がっている。
それだけじゃない、見渡せばそこら中にゾンビがいる。
まるでこの世の地獄のようだ。
「ああ、もう死ぬんだ...」
山根さんがぽつりと呟いた。
そして持っていた鉄パイプを落とした。
そして崩れ手を顔に覆った。
泣いている。
「山根さん...立ってください」
「嫌...だってもう...」
山根さんは嗚咽混じりの声で返す。
俺だって、同じ気持ちだ。
でも生きなければ。
山根さんと一緒に。
俺はポケットに手を入れ、ドッグタグを強く握った。
「あぁぁ」
「ひっ!」
気がつくと、ゾンビがすぐ近くまで近づいていた。
山根さんは、その場から動こうとしない。
恐怖で硬直してしまったようだ。
「危ない!」
俺は落ちている鉄パイプを手に取る。
そして近づいてきた、一体のゾンビに思いっきり鉄パイプを振る。
鈍い音と共にゾンビの右腕が折れた。
だがその様子に何もうろたえず、ゾンビは折れていな左腕を前に出した。
「痛感が無いのか」
俺はゆっくり腕を大きくあげ、鉄パイプを両手で振り下ろす。
振り下ろされた鉄パイプは、見事に頭に命中した。
そこで後ろ歩きで俺は距離を取る。
「うううぅ、ぁああ」
ゾンビは頭から血を流しながら、それでも俺に向かって来る。
「まじかよ!」
ゾンビのタフネスさに驚かされる。
「それなら!」
俺は今度は鉄パイプを横に振った。
狙いは右足の脛。
見事に当たりゾンビは倒れた。
「トドメだ!」
俺は大きく腕を持ち上げ、何度も鉄パイプを頭に振り下ろす。
数回殴り続けると、ゾンビは糸が切れたように動かなくなった。
やったのか...?
確かめるべく、鉄パイプで何度も触り確認するも動かない。
「死んじゃった...」
振り返ると山根さんが、立ち上がり呟いていた。
「山根さん...俺は引きこもりだし弱いけど」
俺は山根さんの目を見た。
今もその目は不安げに揺れている。
「でも、君を助けたいんだ」
あの人がそうしたように、俺も彼女を助けたい。